税務調査の日が決まり、帳簿や通帳をどこまで用意すればよいか迷っていませんか。結論は、通知された税目と対象期間を確認し、申告書・帳簿・取引の裏付け資料をつなげて確認できる状態にすることです。
この記事は「税務調査の連載|税務署から連絡が来てから、調査が終わるまで」の第15回です。
調査官の閲覧順を予想するより、必要な資料を探し出せる準備が役立ちます。法人の社長・経理担当者と個人事業主に向けて、そろえる資料、保存期間、電子データの準備、不足がある場合の対応を整理します。制度の説明は2026年10月時点のものです。
調査官が最初に見る書類は決まっている?
「最初は通帳」「次は領収書」という順番を前提にする必要はありません。国税庁の調査手続に関する事務運営指針では、原則として調査対象となる税目・期間・帳簿書類などを事前通知し、申告内容を確認するために必要な資料の提示・提出を求める手続とされています。この記事では、会社側が準備する順序として説明します。
まず、事前通知を受けた際のメモを開きます。税目は法人税や所得税、消費税、源泉所得税などのどれか。対象はどの事業年度・年分・期間か。どの資料を準備するよう伝えられたかを、立ち会う税理士と共有します。税目によって確認する期間が異なる場合もあるため、年度だけを一括してメモするより、税目と期間を組み合わせて整理すると分かりやすくなります。
依頼内容が「帳簿一式」などで具体的でなければ、準備する資料の範囲やデータの扱いを担当者に確認します。通知後の連絡や日程調整は、税務調査の事前通知が来たらどうする?対応手順と準備のポイントを税理士が解説で扱っています。
会社側の準備では、提出済みの申告書と決算書を起点にすると整理しやすくなります。どの数字を、どの帳簿や明細で説明するかを確認してから、契約書や通帳などを集めていきます。
帳簿・契約書・通帳を取引ごとにつなぐ
帳簿は取引を記録したもの、証拠書類はその内容を裏付けるものです。総勘定元帳とは、売上や預金、経費などの勘定科目ごとに取引をまとめた帳簿です。仕訳帳は、取引の会計処理を日付順に記録した帳簿を指します。
次の表は、資料ごとの役割を比べた準備用の目安です。全社共通の提出書類一覧ではありません。事業内容と実際の依頼事項に合わせて使ってください。
| 資料の区分 | そろえるものの例 | 準備時に確かめること |
|---|---|---|
| 申告・決算 | 申告書控え、決算書、申告時の計算明細 | 提出した版と帳簿・明細との対応 |
| 会計帳簿 | 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金・買掛金の明細 | 取引日、相手先、内容から裏付け資料を探せるか |
| 売上・仕入・経費 | 請求書、領収書、納品書、注文書 | 何の取引か、帳簿のどこに記録したか |
| 契約関係 | 売買・業務委託・賃貸借・借入の契約書、変更合意書 | 取引内容、金額の決め方、契約の変更経緯 |
| 預金・決済 | 通帳、入出金明細、カード・決済サービスの明細 | 帳簿残高との対応、入金・支払先の内訳 |
| 在庫・設備 | 棚卸表、固定資産台帳、購入時の資料 | 数量や金額の計算根拠、購入・処分の記録 |
| 給与・源泉徴収 | 給与台帳、源泉徴収簿、支払明細、納付の記録 | 調査対象期間の支給・支払内容と申告・納付の対応 |
通帳だけでは取引内容の説明が足りないことがあります。合計額が振り込まれているなら、どの請求分なのかを明細でたどります。契約金額と請求額が違うなら、追加発注や変更合意、値引きなどの記録を確認します。見た目だけ数字を合わせず、違いが生じた理由を整理しましょう。
次は説明のための架空の例です。ある法人では、業務委託料の支払記録は見つかりましたが、通帳の摘要には振込先名しかありませんでした。そこで契約書、請求書、作業報告を並べ、依頼した業務と実際の作業内容を説明できるよう準備しました。これは資料のつなげ方の例であり、経費として認められるかの結論を示すものではありません。
資料は、年度別に分けたうえで月別・取引先別など、普段の管理方法に沿って整理します。帳簿の伝票番号とファイル名、紙の保管場所を一覧で結べると、探す手間を減らせます。全資料を新しく製本し直すことより、元の資料を残して所在を示すことを優先してください。
何年分そろえるかと保存期間は分けて考える
当日の準備は、通知された対象期間の資料を中心に進めます。一方、保存期間は、法律上どれだけ資料を残す必要があるかという別の話です。「今回求められた分だけ残せばよい」とは考えないでください。
法人と個人事業主では保存のルールが異なります
国税庁の法人税の保存期間の説明では、帳簿書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から、原則7年間の保存が必要です。青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた場合や、青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた場合は10年間です。ただし、2018年4月1日前に開始した事業年度は9年間となります。
個人事業主の青色申告では、帳簿書類は原則7年間ですが、請求書や見積書など、書類によっては5年間とされています。白色申告では、収入金額や必要経費を記載する法定帳簿は7年間、それ以外の任意帳簿や請求書・領収書などは5年間です。
これらは2026年10月時点の法人税・所得税の保存期間の概要です。消費税などでは別の保存要件もあります。個人の所得税上は5年間の書類でも、それだけで廃棄の可否を決めず、適用される税目や保存方法を確認します。
対象期間より前の資料が必要になることもあります
国税庁のFAQは、調査対象年度の減価償却費を確認するために、資産を取得した年度の帳簿書類を求める例を示しています。減価償却とは、設備などの取得費を一定の方法で各年の費用に配分する手続です。古い設備や継続中の契約については、対象期間外でも、取得時の資料や契約の原本の所在を確認しておくと対応しやすくなります。
消費税の仕入税額控除にも注意が必要です。これは、売上に係る消費税額から、仕入れなどに係る消費税額を差し引く仕組みです。国税庁の説明では、原則として帳簿と請求書等の保存が必要で、一定の取引には特例があります。通帳の支払記録だけで保存要件を満たすと判断せず、申告時に用いた資料を確認してください。
電子データは画面表示と提出方法を確かめる
会計ソフトやクラウドに資料があっても、当日に開けるかを事前に試します。対象年度の切替え、取引の検索、画面表示、印刷、ファイル出力を担当者が操作できるか確認しましょう。以前使っていたソフトや退職者の端末にしかない資料も、所在と閲覧方法を整理します。
電子取引とは、請求書などに記載される取引情報を電子的にやり取りすることです。国税庁の電子取引に関する一問一答によると、2024年1月以後の電子取引では、メール添付の請求書などは、紙に印刷するだけで済ませず、電子データ自体を保存する必要があります。印刷物を調査用に用意しても、保存対象のデータを削除しないでください。
国税庁のFAQでは、電子データの「提示」は画面で内容を見せる方法とされています。「提出」には、内容を確認できる印刷物の受渡し、記録媒体へのコピー、オンラインでの送信などがあります。保存義務と調査時の受渡し方法を混同せず、担当者に求められている方法を確認します。
データの提出に備え、対象期間とファイルの内容を確認できる担当者を決めます。送信先や受渡し方法は担当者との連絡で確かめ、提出したファイル名・対象期間・提出日を記録しておくと、追加依頼との対応を整理しやすくなります。
当日までのチェックリストと不足資料への対応
準備の最後は、資料を持っているかだけでなく、その場で取り出せるかを点検します。次の項目を社内と税理士で共有してください。
- □ 通知された税目・対象期間・依頼資料を整理した。
- □ 提出済みの申告書と、その根拠となった決算書・帳簿をそろえた。
- □ 契約書・請求書・入出金記録を取引ごとにたどれる。
- □ 通帳の繰越し前後や、途中で解約した事業用口座の資料の所在を確認した。
- □ 紙資料の保管場所と、電子データの検索・出力方法を確認した。
- □ 倉庫・店舗・税理士側にある資料の保管先と準備担当者を決めた。
- □ 不足資料と確認中の事項を一覧にし、対応状況を共有した。
- □ 調査当日に資料を探す担当者と、追加依頼を記録する担当者を決めた。
見つからない資料を、見つかったように扱わない
不足があれば、「資料名・対象期間・保管先・探した範囲・入手の見込み」を記録します。通帳や請求書を紛失した場合は、金融機関や取引先から取引履歴・写しなどを入手できるか確認します。入手が間に合わない資料は、事情と準備状況を税理士・調査担当者に伝えて対応を調整します。
後から整理した説明メモには、作成日、作成者、参照した元資料を書きます。当時の契約書や帳簿のように見せる作り直しは避け、元の記録と区別してください。誤りを見つけた場合も、元データを残して内容を整理し、訂正や申告上の対応を税理士と検討します。
事実関係を覚えていなければ、推測で埋めずに確認事項として残します。調査当日の受け答えは、税務調査の質問にどう答える?よくある質問と適切な応答方法で詳しく説明しています。
まとめ
税務調査の準備では、通知された税目と対象期間を起点に、申告書・帳簿・裏付け資料のつながりを確認します。契約書や通帳は、取引内容を説明できる資料と組み合わせて整理しましょう。保存期間と当日に用意する範囲を区別し、電子データは閲覧・出力まで試しておきます。不足や不明点は一覧にし、元の記録を残したうえで対応を進めることが大切です。
よくある質問
Q. 法人の調査で、社長個人の通帳も求められますか?
事業との関連性が疑われる場合には、代表者個人の通帳の提示・提出を求めることも、質問検査の範囲に含まれると国税庁は説明しています。個人名義だから対象外とは判断せず、求められた趣旨と確認対象を担当者に確かめ、税理士と対応を整理してください。
Q. 領収書が見つからないとき、通帳だけ用意すればよいですか?
通帳は支払の記録になりますが、それだけで取引内容や税務上の要件を説明できるとは限りません。請求書、契約書、注文履歴なども探し、何が不足しているかを整理します。消費税の仕入税額控除は原則として帳簿と請求書等の保存が必要なため、通帳だけで判断しないようにしましょう。
Q. 帳簿を税理士に預けている場合は、どう準備しますか?
まず、対象期間の帳簿や申告書が紙・データのどちらで保管されているかを確認します。そのうえで、当日用意するもの、会社側で集める契約書や通帳、電子データを表示・出力する担当者を分担します。資料名と保管先の一覧を共有すると、追加の依頼にも対応しやすくなります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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