「経理は残業が多いのか」「決算期はどれくらい忙しいのか」——経理への転職や、より働きやすい職場への転職を考える方が気になるテーマです。残業の多さは企業や時期によって差が大きく、一律に「多い・少ない」とは言いにくいのが実情です。
この記事では、2026年3月に公表された最新の公的統計から経理の残業時間の実数を確認したうえで、平均値だけでは見えない繁忙期の負荷、残業を左右する要因、そして残業を抑えやすい職場の見極め方を、会計実務の視点から解説します。
統計で見る経理の残業時間は月8時間
厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、職種の小分類として「会計事務従事者」(経理・会計の事務に従事する人)の労働時間が集計されています。
最新の令和7年(2025年)調査(2026年3月24日公表、企業規模10人以上、産業計、男女計)では、会計事務従事者の労働時間は次のとおりです。
| 項目 | 令和7年調査の数値 |
|---|---|
| 所定内実労働時間数 | 月159時間 |
| 超過実労働時間数(残業) | 月8時間 |
| 男性の超過実労働時間数 | 月10時間 |
| 女性の超過実労働時間数 | 月7時間 |
他の職種と並べると、経理の位置づけがはっきりします。同じ調査の職種大分類別で見た超過実労働時間数は、輸送・機械運転従事者が月26時間、生産工程従事者が月15時間、運搬・清掃・包装等従事者が月13時間、建設・採掘従事者が月12時間です。事務従事者全体では月10時間で、そのなかでも会計事務従事者の月8時間は少なめの部類に入ります。
つまり、統計上の平均値だけを見れば「経理は残業が特別に多い職種」とはいえません。詳細な職種別データは、政府統計ポータルe-Stat の賃金構造基本統計調査で確認できます。
ただし、この数値は「6月分」の実態である点に注意
重要な前提があります。賃金構造基本統計調査の労働時間は、令和7年6月分として実際に労働した時間を集計したものです。年間を平均した数値ではありません。
3月決算の企業であれば、6月は年次決算の山を越えた後の時期にあたります。したがって、月8時間という数値は「繁忙期を含めた年間平均」ではなく、決算期以外の月の実態に近いと考えるのが妥当です。経理の残業を判断するときは、この平均値を「閑散期の目安」として捉え、繁忙期の負荷は別途確認する必要があります。
経理の残業は「時期による」のが本質
経理の残業を考えるうえで重要なのは、年間を通して一定ではなく、時期によって大きく変動するという点です。
決算期に業務が集中する
経理は、月次決算(毎月の業績を締める作業)、四半期決算、年次決算といった締めの時期に業務が集中します。特に年次決算の時期は、通常業務に加えて決算作業が重なるため、残業が増える傾向があります。上場企業では、連結決算や開示資料の作成、監査法人対応も加わり、繁忙期の負荷が高まりやすくなります。
年代別に見ると30代前半がピーク
会計事務従事者の超過実労働時間数を年齢階級別に見ると、20〜24歳が月7時間、25〜29歳が月10時間、30〜34歳が月11時間と上がり、35〜39歳で月10時間、40代で月8時間、50代前半以降は月7時間と下がっていきます。
実務の中心を担いながら、まだ業務の分担や後進への引き継ぎが進んでいない20代後半から30代前半に、負荷が集中しやすい構造がうかがえます。逆にいえば、担当範囲を広げつつ業務を標準化・分担できる段階に進むほど、時間あたりの負荷は下がっていく傾向があります。
経理の残業を左右する要因
同じ経理でも、残業の多さは職場の条件によって変わります。求人を選ぶ際の目安として整理します。
| 残業が増えやすい要因 | 残業を抑えやすい要因 |
|---|---|
| 上場・連結決算・開示がある | 非上場で業務範囲が限定的 |
| 紙・手作業が多くアナログ | クラウド会計・自動化が進む |
| 少人数で属人化している | 人員体制が整い分担されている |
| 決算スケジュールがタイト | 早期化・標準化が進んでいる |
企業規模による差は統計にも表れている
企業規模の影響は、実数でも確認できます。令和7年調査の会計事務従事者を企業規模別に見た超過実労働時間数は、次のとおりです。
| 企業規模 | 超過実労働時間数(月) |
|---|---|
| 10〜99人 | 5時間 |
| 100〜999人 | 9時間 |
| 1,000人以上 | 10時間 |
規模が大きいほど残業時間が長くなる傾向が読み取れます。大手・上場企業では開示や連結の業務が加わり、対応すべき手続きが増えることが背景にあると考えられます。
一方で、規模が小さい企業は残業が少ない代わりに、少人数で幅広い業務を担うぶん、繁忙期に特定の人へ負荷が集中しやすいという別の側面もあります。平均が短いことと、自分が配属されるポジションの負荷が軽いことは同じではありません。
なお、企業規模が大きいほど年収水準も高い傾向があり、残業時間と年収はある程度連動します(経理の年収は平均512万円|年代・規模別の相場と上げ方)。働き方と年収のどちらを優先するかは、あらかじめ整理しておくと求人選びがぶれません。
電子化・クラウド会計の進み具合
クラウド会計やペーパーレス化が進み、業務の自動化・標準化が進んでいる企業では、繁忙期でも残業を抑えやすい傾向があります。逆に、紙や手作業が多い企業では、同じ業務量でも時間がかかりやすくなります。
人員体制・属人化
少人数で業務が属人化している職場では、一人あたりの負荷が高まりやすくなります。人員体制が整い、業務が分担・標準化されている職場は、残業を抑えやすい環境といえます。
残業を抑えやすい職場の見極め方
残業の少ない職場を選ぶには、求人票と面接での確認が欠かせません。
求人票では、みなし残業の有無や時間、平均残業時間の記載を確認します。ただし、統計の平均値と同じで、求人票の平均だけでは繁忙期の実態は分かりません。面接では次の3点を具体的に聞くと、実態がつかみやすくなります。
- 決算期(年次・四半期)の残業は月あたりどのくらいか、閑散期との差はどの程度か
- 決算スケジュールは何営業日で組まれているか、早期化に取り組んでいるか
- 会計システムやペーパーレス化の状況、経理部門の人数と業務分担
働き方の希望が強い場合は、在宅可の求人とあわせて検討するのも一つの方法です(経理は在宅・リモートで働ける?求人の探し方と向いている企業)。求人票だけでは分かりにくい実態は、経理に特化した転職エージェントに相談し、職場の体制を踏まえて紹介してもらう方法もあります。
残業を減らすために自分でできる工夫
職場の環境だけでなく、自分の働き方の工夫で残業を抑えられる部分もあります。
ひとつは、業務の標準化です。属人化しがちな作業を手順化し、チェックリストやテンプレートを整えておくと、繁忙期でも効率的に進められます。ふたつ目は、ツールの活用です。Excelの関数やクラウド会計の機能を使いこなすと、集計や照合にかかる時間を短縮できます。みっつ目は、決算スケジュールの前倒しです。月中にできる準備を前倒しし、締めの時期に作業が集中しすぎないようにすると、残業の波をならせます。
こうした効率化の経験は、残業を減らすだけでなく、転職市場での評価にもつながります。「決算を10営業日から7営業日に早期化した」「経費精算をペーパーレス化した」といった改善は、職務経歴書でアピールできる実績になります。つまり、残業を減らす工夫そのものが、自分の市場価値を高める取り組みにもなるということです。
残業と上手につきあうキャリアの考え方
残業を抑えることは大切ですが、キャリア全体で考える視点も役立ちます。決算や経営管理など担当範囲を広げると、繁忙期の負荷はあっても市場価値が高まり、結果として働き方の選択肢が広がることもあります。働き方とキャリアのバランスをどう取るかは経理のキャリアパス完全ガイドや、市場の動向を扱った経理の転職市場はいま?需要が高い経理人材の特徴もあわせて考えるとよいでしょう。
まとめ
経理の残業は、統計上の平均で見れば決して多い職種ではありません。ただし「時期による」「企業による」差が大きいのが実態です。次のポイントを意識して職場を見極めましょう。
- 会計事務従事者の超過実労働時間数は月8時間(令和7年調査)。事務従事者全体の月10時間より少ない
- ただしこの数値は6月分の集計であり、決算期の繁忙を含んだ年間平均ではない
- 企業規模が大きいほど残業は長く、10〜99人で月5時間、1,000人以上で月10時間
- 年代別では30代前半(月11時間)が負荷のピークになりやすい
- 面接では「繁忙期の残業」「決算日数」「電子化と人員体制」の3点を具体的に確認する
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よくある質問
Q. 経理は残業が多い職種ですか?
A. 統計上の平均で見ると多くはありません。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、会計事務従事者の超過実労働時間数は月8時間で、事務従事者全体(月10時間)より短い水準です。ただしこれは6月分の集計であり、年次決算などの繁忙期にはこれより長くなるのが一般的です。応募先ごとに繁忙期の実態を確認することが大切です。
Q. 記事の残業時間はどの調査に基づいていますか?
A. 厚生労働省の令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査(2026年3月24日公表)の職種小分類「会計事務従事者」、企業規模10人以上・産業計のデータです。同調査の「超過実労働時間数」は、令和7年6月分として実際に労働した所定外の時間を集計したものです。詳細はe-Statの公表データでご確認ください。
Q. 残業の少ない経理の職場を見分けるには?
A. 求人票でみなし残業や平均残業時間を確認しつつ、面接で「繁忙期の残業」「決算スケジュールの営業日数」「ペーパーレス化の状況と人員体制」を質問するのが有効です。クラウド会計や自動化が進み、人員体制が整っている職場は、残業を抑えやすい傾向があります。
Q. 経理の繁忙期はいつですか?
A. 月次決算がある月末・月初に加え、四半期決算や年次決算の時期が繁忙期になりやすい傾向があります。決算月は企業によって異なりますが、3月決算の企業ではその前後が忙しくなることが多いです。上場企業では開示資料の作成や監査対応も加わり、負荷が高まりやすくなります。
Q. 残業の少ない経理に転職すると、年収は下がりますか?
A. 必ずしも下がるわけではありませんが、統計上は企業規模が大きいほど残業も年収も高い傾向があります。業務の標準化や自動化が進んだ職場では、残業が少なくても相応の年収が得られるケースもあります。担当範囲や役職によって年収は変わるため、働き方と年収のどちらを優先するか、希望を整理して求人を選ぶことが大切です。
この記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗、およびキャリアアドバイザーの鳥羽友利絵が監修しています。
最終更新日: 2026年7月28日