「経理の経験に英語を掛け合わせれば、市場価値が上がるのではないか」——そう考える方は増えています。会計のグローバル化が進むなか、英語を使う経理(英文経理)の求人は一定の広がりを見せており、希少性の高いキャリアとして注目されています。一方で、「どのくらいの英語力が必要なのか」「何から始めればよいのか」が見えにくいのも事実です。
目安のひとつとして、国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が2026年7月15日に発表した2025年TOEIC Tests 世界の国・地域別平均スコアによると、日本のTOEIC L&R平均スコアは564点(リスニング313点、リーディング251点)でした。まずはこの数字を現在地の物差しにして、英文経理で求められる水準との距離を測るところから始めると、やるべきことが具体的になります。
この記事では、経理で英語を活かす英文経理・グローバル経理の仕事内容、求められる英語力の目安、役立つ資格、年収の考え方を、会計実務の視点で整理します。英語を武器にしたキャリアの積み方まで具体的に解説しますので、これからの方向性を考える材料にしてください。
英語を使う経理(英文経理)とはどんな仕事か
英文経理とは、英語を使って行う経理業務全般を指します。外資系企業や、海外子会社を持つ日系のグローバル企業、海外取引のある商社・メーカーなどで必要とされます。仕事内容は通常の経理と共通する部分も多いですが、英語が関わる点に特徴があります。
| 業務の種類 | 具体的な内容 | 英語の関わり方 |
|---|---|---|
| 日次・月次の会計処理 | 仕訳、外貨建て取引の換算、残高照合 | 勘定科目や証憑が英語のことがある |
| レポーティング | 海外本社・親会社への月次報告資料の作成 | 英文での資料作成と数値の説明 |
| 海外子会社との連携 | 決算数値の回収、差異の確認、締めの調整 | 英文メール、オンライン会議 |
| 連結決算 | 子会社データの取り込み、内部取引の消去 | 会計基準の違いを踏まえた確認 |
| 会計基準への対応 | IFRS(=国際財務報告基準)やUS GAAPに沿った処理 | 基準書・監査資料が英語 |
| 監査対応 | 海外監査法人とのやり取り、資料提出 | 英語での質疑応答 |
経理の専門性に英語が加わることで、担える業務の幅が広がります。経理に求められるスキルの全体像は、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag(ジョブタグ)」でも体系的に整理されています。
経理職に必要なスキルを段階的に把握したい場合は、経理に必要なスキル一覧もあわせて参考にしてください。
英文経理に必要な英語力はTOEIC何点か
英文経理で求められる英語力は、ポジションや企業によって幅があります。一般的な傾向として、業務でどこまで英語を使うかによって、必要なレベルが変わると考えるとよいでしょう。
| 英語の関わり方 | 求められる英語力の傾向 |
|---|---|
| 英文メール・資料の読み書きが中心 | 読み書き中心のビジネス英語 |
| 海外子会社との連絡・報告 | 読み書きに加え、やり取りができるレベル |
| 会議・交渉・マネジメント | 会話を含むビジネスレベル以上 |
企業が期待するスコアの目安
具体的な点数の手がかりになるのが、IIBCが公表している調査データです。IIBCのデータでみるTOEIC Testsによると、「英語活用実態調査【企業・団体/ビジネスパーソン】2022」では、採用時にTOEICスコアを要件・参考にしている、または今後要件・参考とする可能性があると答えた企業は73.6%でした。同じ調査で、社員に期待するスコアの平均は技術部門560点、営業部門580点、海外部門705点とされています。
英文経理は、海外拠点や海外本社とのやり取りを担う点で海外部門に近い性質を持つ業務です。この調査は職種別ではなく部門別の集計であり、経理職に限った数値ではありませんが、日本の平均564点との差を考えると、英語で日常的にやり取りするポジションでは700点前後がひとつの目安になると読み取れます。求人票で「TOEIC○○点以上」と示される水準も、担当業務が読み書き中心か、会議や交渉を伴うかで大きく変わります。
スコアより「業務でどう使うか」
一方で、スコアそのものよりも「実際の業務で英語をどう使えるか」が重視される場面も多くあります。英文経理で使う英語は、会計・税務の専門用語が中心で、扱う文書の型もある程度決まっています。範囲が限定されているぶん、総合的な英語力が高くなくても、会計英語に絞って準備すれば実務に入りやすいという特徴があります。
実務でよく使う語彙は、accounts receivable(売掛金)、accrual(未払・見越計上)、reconciliation(照合)、trial balance(試算表)、consolidation(連結)といった範囲に集中します。まずはこうした頻出語を押さえ、英文の月次報告フォーマットを読める状態をつくることが、スコアを50点上げるより実務では効くこともあります。必要な英語力は応募先ごとに確認するようにしましょう。
英文経理で評価される資格とスキル
英語に加えて、会計の専門性を客観的に示す資格があると、英文経理での市場価値は高まりやすくなります。
| 資格・スキル | 示せること | 英文経理での位置づけ |
|---|---|---|
| 日商簿記2級・1級 | 会計処理の基礎から原価計算・連結まで | 会計の土台。英語より先に固めたい |
| USCPA(米国公認会計士) | 英文会計・米国会計基準の体系的な知識 | 「会計×英語」を最も明確に示せる |
| TOEIC L&R | 読み書き中心の英語力の目安 | 書類選考の足切りに使われることがある |
| 実務での英語使用経験 | 英文レポート作成、海外子会社との折衝 | 選考で最も重視されやすい |
代表的な資格がUSCPA(米国公認会計士)です。英文会計・国際会計の知識を体系的に証明でき、グローバル経理や経営管理を志向する方に向いています。試験は2024年1月からCPA Evolutionと呼ばれる新制度に移行し、必修のコア3科目に加えて選択科目1科目を受験する構成になりました(AICPA & CIMA の CPA Evolution 公式ページ)。受験要件や出願先の州ごとの条件は変更されることがあるため、検討する際は必ず主催団体の公式情報で最新の内容を確認してください。
日商簿記による会計の土台に英語とUSCPAを組み合わせると、「会計 × 英語」という希少性のある組み合わせをつくれます。なお、国際会計検定(BATIC)は2022年度をもって終了しており、新規取得はできません。英語系の会計資格を検討する場合は、USCPAなど現在も取得可能なものを軸に考えるとよいでしょう。
資格選びの全体像は、経理の転職に役立つ資格おすすめ7選で比較しています。自分が目指すキャリアに合わせて、英語系の資格をどう位置づけるかを整理しておきましょう。
英語を使う経理の年収はどう考えるか
年収の出発点として、厚生労働省の賃金構造基本統計調査の令和7年(2025年)調査(2026年3月公表)では、経理を含む「会計事務従事者」のきまって支給する現金給与額は月額34万2,500円、年間賞与その他特別給与額は101万2,400円でした。単純計算すると年収の目安は約512万円です。これは職種全体の平均であり、英語を使うかどうかで分けた統計ではありません。
英語と会計の両方を求められるポジションは、一般的な経理より年収レンジが上がる傾向があるとされます。ただし、公的統計で「英文経理の平均年収」として確認できる数値はなく、企業規模・担当範囲・役割によって幅が大きいため、一律の金額は示せません。「英語ができれば必ず年収が上がる」とは限らず、英語をどの業務でどう活かせるかが評価につながります。
現実的な見方としては、英語そのものが直接年収を押し上げるというより、英語ができることで連結決算・海外子会社管理・本社報告といった担当範囲の広いポジションに就きやすくなり、その結果として年収レンジが変わる、という順序で捉えると納得しやすいはずです。経理の年収の考え方は、経理の年収の相場と上げ方で詳しく解説しています。
英語を武器にするキャリアの積み方
「会計 × 英語」は希少性が高く、市場価値につながりやすい組み合わせとされています。一方で、いきなり高い英語力が求められるポジションを狙うと、ミスマッチになることもあります。段階を踏んで進めるのが現実的です。
ステップ1:会計の土台を固める
英語より先に、月次決算を一人で締められる状態を目指します。英文経理の求人でも、まず求められるのは会計の実務力です。簿記2級レベルの知識と、決算の一巡を回した経験があると、英語を学ぶ段階に進みやすくなります。
ステップ2:英語を使う業務に社内で手を挙げる
いまの職場に海外子会社や海外取引があるなら、英文の請求書処理、海外送金、子会社データの回収といった業務に関わる機会を探します。「英語を使う実務経験」は職務経歴書に書ける具体的な材料になり、転職市場での評価が変わります。
ステップ3:日系グローバル企業を経て選択肢を広げる
いきなり外資系を狙うより、まず日系のグローバル企業で英語を使う業務の経験を積み、その後に外資系や海外本社直下のポジションへ広げる道があります。日系企業は日本語でのやり取りが残るぶん、英語の実務に慣れる場として現実的です。
英語を使う実務経験を少しずつ積み重ねることが、キャリアの選択肢を広げます。キャリア全体の道筋は経理のキャリアパスで整理しています。
英文経理を目指すときの注意点
ひとつ目は、英語力だけで応募先を選ばないことです。英語を使う頻度が高くても、担当が伝票処理に限定されていれば、会計の専門性は伸びにくくなります。求人票では「英語をどの業務で使うか」まで確認しましょう。
ふたつ目は、スコアの有効期限です。TOEICの公式認定証に有効期限はありませんが、企業側が「直近2年以内のスコア」を求めることがあります。転職を意識し始めたら、受験時期も逆算しておくと安心です。
みっつ目は、志望動機での伝え方です。「英語を活かしたい」だけでは、応募先を選んだ理由になりません。海外子会社の管理体制や連結決算の範囲など、応募先固有の事情と結びつけて語ることが評価につながります。書き方は経理の転職の志望動機で解説しています。
まとめ
経理で英語を活かすには、会計の専門性に英語を掛け合わせ、実務経験を積み重ねることが核心です。次のポイントを押さえましょう。
- 英文経理は外資系・グローバル企業で必要とされ、連結や国際会計基準への対応などで英語が関わる
- 日本のTOEIC L&R平均は564点(2025年)。海外部門で期待されるスコアの平均は705点(2022年の調査)
- 求められる英語力はポジションで幅がある。スコアより実務での使い方が重視される場面も多い
- USCPAなどの資格で「会計 × 英語」の希少性を高められる(BATICは新規取得不可)
- 会計事務従事者の平均年収の目安は約512万円。英語で年収が上がるかは担当範囲次第
- 会計の土台 → 社内で英語業務 → 日系グローバル企業と段階的に広げる道が現実的
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よくある質問
Q. 英文経理にはTOEIC何点くらい必要ですか?
A. ポジションによって幅があります。英文メールや資料の読み書きが中心の業務なら読み書きのビジネス英語、海外子会社との連絡や会議が伴う業務なら会話を含むビジネスレベル以上が求められる傾向です。IIBCの調査(2022年)では海外部門の社員に期待するスコアの平均は705点とされており、日本の平均564点(2025年)との差が目安になります。ただし経理職に限った統計ではないため、応募先ごとに求人票で確認することが大切です。
Q. 経理で英語を活かすにはどんな資格が役立ちますか?
A. USCPA(米国公認会計士)が代表的で、英文会計・米国会計基準の知識を体系的に証明できます。試験は2024年1月から必修のコア3科目+選択1科目という構成に変わりました。受験要件は出願先の州によって異なり変更もあるため、主催団体の公式情報で最新の内容を確認してください。なお国際会計検定(BATIC)は2022年度で終了しており、新規取得はできません。
Q. 英語ができれば経理の年収は上がりますか?
A. 英語と会計の両方を求められるポジションは、一般的な経理より年収レンジが上がる傾向があります。ただし「英文経理の平均年収」として公的統計で確認できる数値はなく、企業規模・担当範囲・役割によって幅が大きいため、必ず上がるとは限りません。英語ができることで連結決算や海外子会社管理など担当範囲の広いポジションに就きやすくなり、結果として年収が変わると考えるほうが実態に近いといえます。
Q. 英語に自信がなくても英文経理を目指せますか?
A. 目指せます。最初から高い英語力が求められるポジションばかりではなく、英文メールや資料の読み書きから関わる業務もあります。英文経理で使う英語は会計・税務の専門用語が中心で範囲が限られるため、頻出語彙と報告フォーマットに絞って準備すると実務に入りやすくなります。まずは日系のグローバル企業などで英語を使う業務の経験を少しずつ積むのが現実的です。
Q. 英語の勉強と簿記の勉強はどちらを先に進めるべきですか?
A. 経理としての土台を固める意味では、簿記を先に進めるほうが転職市場では評価されやすい傾向があります。英文経理の求人でも、まず問われるのは決算をどこまで担当できるかという会計の実務力だからです。簿記2級レベルの知識と決算の一巡を経験したうえで英語を上乗せすると、「会計ができて英語も使える人材」として希少性が高まります。
この記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗、およびキャリアアドバイザーの鳥羽友利絵が監修しています。
最終更新日: 2026年8月28日