副業が順調に進み、会社員としての給与以外にまとまった利益が出始めると、法人化を検討する方が増えてきます。一方で、本業がある中で会社を作ることに不安を感じる方もいるでしょう。
結論からお伝えすると、副業での会社設立は、リスクを正しく管理し、適切なタイミングで行うことで、将来の事業成長を支える大きな武器になります。
本記事では、副業で会社を作るための条件や判断基準、具体的な手続きまでを分かりやすく解説していきます。
副業で会社は設立できる
結論として、会社員が副業として自分の会社を設立することは、法律上まったく問題ありません。日本には職業選択の自由があるため、会社勤めをしながら社長(代表取締役)になることを制限する法律はないのです。
勤務先が副業禁止の場合
法律上の問題はなくても、所属している会社の就業規則には注意が必要です。多くの民間企業では、厚生労働省のモデル就業規則を参考に「副業には事前の届出や許可が必要」と定めているケースが一般的です。
もし規則で副業が完全に禁止されている場合、設立がバレた際に職務専念義務違反として処分を受ける恐れも否定できません。そのようなトラブルを避けるためにも、まずはご自身の会社の最新ルールを確認して、全面禁止なのか、それとも条件付きで認められるのかを事前に把握しましょう。
副業で会社設立すると勤務先にバレる?
会社を設立したことが勤務先に伝わる経路は、主に住民税と社会保険の2つです。
まず住民税についてですが、通常、会社員の住民税は給与から天引きされる特別徴収という仕組みになっています。そして、自分の会社から役員報酬を受け取ると、本業と副業の所得が合算されて税額が計算され、その決定通知が本業の会社へと届きます。
このとき、経理担当者が「給与額に対して住民税が不自然に高い」と気づくことで、副業の存在を察知されるケースが多いのです。
さらに確実な発覚経路となるのが社会保険でしょう。役員報酬を支払う場合、自分の会社でも社会保険への加入が必要になり、本業と副業の両方で保険料を按分する手続きが発生します。このとき、日本年金機構から本業の会社へ「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」が届くため、事務的に発覚を防ぐことは難しくなると考えてください。
どうしても知られたくないのであれば、役員報酬をゼロにする、あるいは家族を代表にするなどの調整が必要です。ただし、これらは節税メリットにも影響を及ぼすため、専門家と相談しながら慎重に検討しましょう。
会社設立をすべきか判断するための基準
「自分のビジネスは、もう会社にするべき段階なのだろうか?」という悩みは、多くの副業経営者が通る道です。設立のタイミングを決める要因は、単にお金の損得だけではありません。所得の目安や税制上のメリット、さらには対外的な信頼性といった多角的な視点から判断することが大切です。
ここでは、検討の軸となる3つのポイントを整理して解説します。
法人化を検討する所得の目安
具体的な解説に入る前に、まずは判断の根拠となる所得税と法人税の税率表をチェックしてみましょう。
所得税の速算表
出典:No.2260 所得税の税率|国税庁
普通法人の税率
出典:No.5759 法人税の税率|国税庁
まず税率だけを見た場合、個人の所得税率が20%になる所得330万円あたりが、法人税率(約15%〜)との逆転が始まる最初のサインです。国税庁の所得税速算表を見ると、330万円を超えた段階で税率の階段が一気に上がることが分かります。
ただし、法人には赤字でもかかる均等割(約7万円)や税理士への報酬など、年間数十万円の維持コストが欠かせません。こうした諸経費を差し引いても明確に「おトクだ」と言い切れるのは、実務上は所得が600万円を超えたあたりからでしょう。
なお、不動産投資などの資産運用の場合は、さらに高い所得(900万円超)が目安になるのが一般的です。ご自身の時給、つまり事務作業にかかる手間も含めて、トータルで手残りが増えるかどうかを事前にシミュレーションしておくことが重要です。
売上が1,000万円に達する前のタイミング
売上高が1,000万円に近づいている場合も、判断材料のひとつです。
個人事業主は前々年の売上が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じますが、その前に法人化することで、免税期間を最大2年間免除できる可能性があります。
ただし、設立1期目の上半期の売上高が1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になるケースがある点には注意が必要です(給与等の支払金額が1000万円を超えるか否かによる判定も可能です)。資本金1,000万円未満で設立することはもちろん、初期の売上推移も考慮してタイミングを計るのが理想的です。
なお、インボイス制度に登録する場合は売上に関わらず消費税の課税事業者となるため、取引先との契約状況を鑑みて判断しましょう。
社会的信用が必要になった時
取引先との関係性から設立を決めるケースも少なくありません。「個人とは契約できない」という方針の大手企業と新しく取引を始めたい場合などは、法人の形を整えることがビジネスを広げるための必須条件となるでしょう。
また、将来的に銀行からプロパー融資(信用保証協会を通さない融資)を受けたい、あるいは事務所の賃貸契約をスムーズに進めたいといったシーンでも、法人のステータスが有利に働きます。数字上の損得だけでなく、事業をスケールさせるためのインフラとして会社を作るという視点も大切です。
会社設立によって節税ができる
会社を設立すると、個人事業主では利用できないさまざまな節税の恩恵を受けられます。税率の違いから経費の幅まで、法人の仕組みを賢く使うことで、手元に残る資金は大きく変わります。
ここでは、具体的な節税の仕組みについて詳しく見ていきましょう。
役員報酬による給与所得控除の活用
個人事業主の場合、利益のすべてが事業所得や不動産所得等として課税されます。しかし、法人化して自分に給料を払うと、その所得に対して給与所得控除を適用できるようになります。
これは、実際に経費として使っていなくても、年収に応じて一定額を所得から差し引いて計算してくれる制度です。会社の利益計算で経費(役員報酬)を計上しつつ、個人側でも給与所得控除を受けられるため、所得を分散させることでトータルの税負担を劇的に下げられるのです。
個人所得税よりも低い法人税率の適用
前述の通り、個人の所得税は最大45%まで上がる累進課税です。一方で法人税は、中小法人の場合、利益が800万円以下であれば15%という低い税率が適用されます。
地方税などを合わせても、個人の高い税率より負担を抑えられるケースが少なくありません。利益をあえて個人の給与として出し切らず、会社に内部留保として残しておくことで、より効率的に資産を積み上げられるでしょう。
経費として計上できる範囲が広がる
個人事業主では認められない支出も、法人であれば会社の経費として認められるものが増えます。
なかでも代表的なのが借り上げ社宅の活用です。会社が賃貸マンションを契約し、役員であるあなたに貸し出す形をとることで、家賃の大部分を会社の経費にしつつ、個人の自己負担を抑えられるようになります。
また、出張時の日当を支給する仕組みも、非常に有効な節税策です。あらかじめ出張旅費規程を作成しておけば、実費とは別に数千円程度の日当を支払うことができ、これは会社側では経費に、受け取る個人側では非課税の所得として扱われます。
さらに、経営者自身の生命保険料についても、一定の条件下で損金算入(経費化)が可能です。
赤字を最長10年間繰り越して将来の利益と相殺できる
副業を立ち上げたばかりの時期は、設備投資や広告費の負担で赤字が出るケースも少なくありません。個人事業主の場合、赤字を繰り越せる期間は3年ですが、法人であれば最長10年間も認められているのです。
この欠損金の繰越控除という制度を利用するには青色申告を行っていることが前提条件となりますが、設立初期の赤字を将来の利益と相殺できれば、大きな節税効果が期待できます。
立ち上げ期にコストがかさみやすい事業ほど、法人化による恩恵は長く続くでしょう。
副業で会社を設立するメリット
会社という組織を持つことは、単なる節税手段にとどまりません。社会的信用の獲得やリスク管理など、事業を永続させるための土台作りとしての側面も大きいのです。
ここでは、法人化がもたらすビジネス上の主なメリットを見ていきましょう。
社会的信用が高まり取引の幅が広がる
株式会社という肩書きは、ビジネスにおいて信頼の証となります。登記によって所在や代表者が公にされている事実は、初めて取引をする相手にとって大きな安心材料になるからです。とくに企業間取引(BtoB)においては、法人格があることでスムーズに商談が進み、結果として新規営業や優秀な人材の採用において優位に立てる場面も増えるでしょう。
万が一の際のリスクを抑えられる有限責任
事業を運営する上で、負債や損害賠償といったリスクを完全にゼロにすることは困難です。個人事業主はすべての債務を個人の資産で支払う無限責任を負いますが、株式会社の出資者は有限責任が原則となります。
これは、万が一会社が倒産したとしても、個人の貯金や持ち家まで手放す必要はなく、出資した金額の範囲内で責任を負えばよいという仕組みです。社長個人の資産と会社の資産が法的に切り離されていることは、思い切った経営判断を行う上での支えになります。
本業の繁忙期を避けて決算期を設定できる
意外と見落とされがちなのが、決算期を自由に決められるというメリットです。個人事業主は、法律によって事業年度が1月〜12月と決まっており、一律で3月の確定申告時期に作業が重なってしまいます。
しかし法人であれば、本業の繁忙期を避けて、5月や8月を決算月に設定することも可能です。仕事が落ち着いている時期に決算作業を合わせることで、本業に支障を出さず、余裕を持って節税対策や来期の計画を立てられるはずです。
副業で会社を設立するデメリット
法人化には多くの利点がある一方で、会社という組織を維持していくためのコストや責任についても正しく理解しておく必要があります。設立後に「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、代表的なデメリットを冷静に確認しておきましょう。
法人住民税の均等割などの維持費用
法人は、たとえ赤字であっても、その自治体に存在しているだけで税金を納める義務があります。これが法人住民税の均等割と呼ばれるもので、小規模な法人の場合でも毎年最低約7万円の支払いが発生します。
また、法人の決算申告は個人の確定申告に比べて極めて複雑なため、多くの方は税理士へ依頼することになるでしょう。事務負担や専門家への報酬といったコストは、個人時代より確実に増えることを覚悟しておく必要があります。
社会保険への加入義務と負担額の変化
役員報酬を1円でも支払う場合は、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必要です。保険料は会社と個人の労使折半ですが、一人社長の場合は実質的にすべての額を自分の事業収入から支払う形になります。
この負担は意外に重く、設定する給与額によっては、税金が安くなった分以上に社会保険料が増え、結果的に手取り額が減ってしまうケースもあります。失敗を避けるためにも、設立前にしっかりとシミュレーションを行っておきましょう。
会社を解散・清算する際の負担リスク
会社を作る際の手続きだけでなく、事業を閉じる際の手間とコストも忘れてはいけません。万が一解散することになった場合、登記費用や官報への公告費用などで、最低でも10万円前後の実費がかかります。
さらに、解散に伴う確定申告などの税理士費用も発生する点に注意が必要です。会社は「とりあえず作る」のではなく、こうした出口のリスクまで納得した上で決断することが大切です。
会社を設立する際の流れ

最後に、実際に会社を設立する際の流れを解説します。準備から登記完了までは、一般的に2週間から1ヶ月程度を見込んでおきましょう。
1. 基本情報の決定
まずは、法務局に登記する会社の骨組みを決めます。
- 商号(社名):同一住所に同一名称がないか確認
- 事業目的:現在行っている事業だけでなく、将来行う可能性があるものも含める
- 本店所在地:自宅にする場合は、賃貸借契約で事務所利用が可能か確認。難しい場合はバーチャルオフィスの検討も有効。
- 資本金:1円でも設立可能だが、融資や許認可、法人口座開設の審査を考慮し、初期費用3〜6ヶ月分程度を目安にするのが現実的。
- 決算月:本業の閑散期に合わせて設定するのがおすすめ。
2. 実印作成と印鑑証明書の準備
基本情報が固まったら、会社の代表印(実印)を注文します。また、役員になる方全員の個人の印鑑証明書を役所で取得しておきましょう。これらは発行から3ヶ月以内のものである必要があります。
3. 定款の作成と認証
定款とは会社の憲法です。決定した基本情報を書類にまとめ、公証役場で公証人の認証を受けます。現在は、PDFデータによる電子定款を選択することで、本来かかるはずの収入印紙代4万円を節約するのが一般的です。
ただし、専用のソフト等が必要なため、このステップは専門家に依頼するのが最も効率的です。
4. 資本金の払い込み
定款の認証後、発起人の個人の銀行口座に資本金を振り込みます。この際、単に残高がある状態ではなく、誰がいくら入金したかが分かるように、振込の記録を残すことが重要です。入金完了後、通帳のコピーをとって払込証明書を作成します。
5. 法務局への登記申請
すべての書類を揃え、本店所在地を管轄する法務局へ登記を申請しましょう。この申請日が「会社設立日」です。
無事に登記が完了(通常1週間程度)したら、税務署や都道府県、市町村への設立届出を行い、晴れて法人の運営がスタートします。
会社の設立方法についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
会社設立の流れを5ステップで解説!費用やメリット、失敗しないための注意点も紹介
【完全版】会社設立の必要書類リスト|株式会社・合同会社別のチェックリストと入手方法
まとめ
副業での会社設立は、ルール上の「できるかどうか」だけでなく、自分にとって「すべきかどうか」という損得の視点が非常に大切です。節税や信用といったメリットは魅力的ですが、維持コストや社会保険といった責任も伴います。
ご自身の事業が今どのフェーズにあり、法人化することでどのような未来を描けるのか、一度冷静に検討してみてください。もし法人化の判断に迷うことがあれば、ぜひ一度リーパル会計事務所へご相談ください。
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