後継者への引き継ぎを考えて株主名簿を見たら、昔の役員や親族の名前が残っていた。社長は「名前を借りただけ」と覚えていても、それを説明する書類が見当たらないことがあります。名義株の整理は、名簿を書き換える前に、誰の株式なのかを資料で確かめることから始めます。この記事では、確認する証拠、贈与との区別、整理の進め方を説明します。
この記事は「事業承継の連載|後継者・自社株・M&A・会社のたたみ方」の第6回です。
名義株とは何か|名簿の名前だけで結論を出さない
名義株とは、株主名簿に名前がある人と、実際に株式を持つ人が異なる株式をいいます。株主名簿は、会社が株主を管理するための帳簿です。整理するときは、名簿の記載と、株式を取得して保有してきた経緯の両方を調べます。
ただし、昔の役員や親族の名前があるだけでは、名義株とはいえません。その人が自分で出資した株式かもしれません。社長から贈与を受けた可能性もあります。贈与とは、財産を無償で渡すことです。退職後に経営へ関わっていないことと、株式を持っていないことは、分けて考える必要があります。
ここでいう「帰属」とは、財産が誰のものかという意味です。国税不服審判所の2001年2月7日裁決では、その事案の株主名簿の記載や配当所得の申告状況だけでは、株式の帰属を決められないと判断されています。株券の保管状況や過去の相続関係なども検討されています。株券とは、株式の権利を表す証券です。個別の事案ですが、書類の名前だけで判断しないための参考になります。
後継者がまだ決まっていなくても、株式の整理は先に着手できます。引き継ぎ方の全体像は、後継者不在の対策と選択肢|廃業・M&A・外部招聘を税理士が比較解説で扱っています。
実際の持ち主を確かめるために集める資料
最初に、株主ごとの調査表を作ります。名簿上の氏名、株数、取得時期、資金の出し手、契約書の有無、本人の説明を並べてください。「確認できた事実」と「まだ分からないこと」を分けて記載すると、後の判断を進めやすくなります。
取得時のお金と契約をたどる
設立時や増資時の払込記録、株式を買ったときの送金記録、売買契約書、贈与契約書などを探します。増資とは、会社が新たな出資を受けることです。現在の名簿だけでなく、その名前になった時点の書類から確認します。
通帳からお金が出ていても、それだけで持ち主を決めないことが大切です。親が子へ取得資金を渡したのか、立て替えたのか、親自身の株式について名前だけ借りたのかで、検討する内容が変わります。当時の合意や、その後の返済の記録も合わせて調べます。
保有中の扱いと本人の認識を確かめる
配当金の振込先、株券がある場合の保管者、株主総会の議事録、委任状、過去のやり取りを確認します。本人には、出資した認識があるか、株式を受け取った説明があったか、名義を貸す約束をしたかを聞きます。社長の記憶と本人の説明が違う箇所は、そのまま調査表に残します。
配当がなかった会社では、振込記録からは判断できません。株主総会に出ていなかったことだけで、株主ではないとも判断しないでください。個々の資料が示す範囲を確認し、複数の資料のつながりを見ていきます。
古い資料が見つからない場合は、「資料なし」と記録したうえで、残っている契約書や関係者の説明を整理します。後から作る確認書には、現在確認できた内容と作成日を記載します。当時の書類が存在したように日付をさかのぼらせる処理は避けます。
名義の訂正・贈与・売買は、税務上も分けて考える
「名義変更」という言葉だけでは、税務上の扱いは決まりません。もともとの持ち主へ表示を合わせるのか、別の人へ財産を移すのかを区別します。以下は、個人同士の株式の整理を考えるための比較です。会社が買い取る場合などは、別途検討が必要です。
| 整理の内容 | 確認する実態 | 税務上の主な注意点 |
|---|---|---|
| 本来の持ち主への名義の訂正 | 以前からその人の株式だったことを説明できるか | 贈与に当たらない根拠や、関係する通達の適用条件を確認する |
| 実際の株主から後継者への贈与 | 株式を無償で渡す合意と移転があるか | 贈与税の検討が必要。名義の訂正として処理しない |
| 実際の株主から別の個人への売買 | 価格の根拠、支払い、契約内容が対応しているか | 売主の譲渡所得や、低い価格で取得する側の贈与税を検討する |
| 持ち主について争いがある | 双方の説明や資料のどこが一致しないか | 訂正や移転と決めつけず、権利関係の確認から進める |
無償の名義変更は、原則として贈与と扱われる
通達とは、税務上の取扱いなどを示す行政内部の指針です。国税庁の相続税法基本通達9-9では、代金などのやり取りがない株式などの名義変更や、他人名義での新たな取得は、原則として贈与と取り扱うとされています。「お金を払っていないから税金は関係ない」とは考えないようにします。
一方、名義変更等に関する国税庁の個別通達の2には、贈与がなかったものとする取扱いがあります。有価証券については、名義人が自分の名義になっている事実を知らず、そのことが当時の状況などから確認できること、名義人が管理運用や収益の享受をしていないことなどが条件です。収益の享受とは、配当などの利益を得ることです。未成年者では、親権者などの法定代理人の認識も確認の対象になります。
名義人が承知のうえで名前を貸した典型的な名義株は2(1)の条件に当たらず、出資・配当の受取・議決権行使など、実際の持ち主を示す資料により、相続税法基本通達9-9による贈与の推定を覆せるかを検討します。
この通達の2の取扱いには、名義を実際の取得者へ戻す時期の条件もあります。原則として、その有価証券に係る最初の贈与税の申告・決定・更正の日より前であることが求められます。決定・更正は、税務署が課税価格や税額などを決めたり修正したりする処分です。通達が除外する更正もあるため、過去の申告や処分の内容まで確認します。また、贈与税を不正に免れる目的などの場合は、適用が制限されています。
過誤などで他人名義にした場合についても別の定めがあります。どの取扱いに当たるかは、取得の経緯に応じた検討が必要です。名義貸しの確認書への署名だけで、贈与の推定が覆ったり、これらの事実や時期の条件を満たしたりするわけではありません。
少額で買い取る方法にも注意する
名義株かどうか分からないため、形式上は売買にして終わらせたいと考えることもあるでしょう。しかし、国税庁タックスアンサーNo.4423では、個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価との差額は贈与により取得したものとみなされます。著しく低いかどうかは、個別の事案で判断されます。
実際の持ち主が個人へ株式を売る場合には、売主の譲渡所得も確認します。譲渡所得は、売却による所得のことです。国税庁タックスアンサーNo.1463は、株式等の譲渡による所得を他の所得と区分して計算する取扱いを示しています。名義株の調査と、新たな売買の税務確認を混同しないことが大切です。
整理は、事実確認・合意・手続きの順に進める
資料をそろえてから整理方針を決める
集めた資料を基に、名義の訂正を検討する株式、実際の移転が必要な株式、判断を保留する株式を分けます。すべてを一度に同じ方法で処理しようとしないでください。名義人ごとに取得の経緯が違えば、結論も変わり得ます。
株主としての権利や合意内容は弁護士、贈与税や譲渡所得などの税務は税理士と確認します。税務上の説明が整っていても、それだけで当事者間の権利の争いが解決するとは限りません。同じ資料と経緯を共有し、手続きを進める前に認識を合わせます。
確認書には、結論に至った根拠も残す
名義を貸した事実が確認でき、当事者間で認識が一致する場合は、その内容を書面にまとめることを検討します。対象の株式、名義を用いた経緯、資金負担、配当の扱い、今後の名義の整理について、資料と対応する形で記載します。
「自分の株式ではありません」という一文だけで済ませず、何を確認してその結論になったかを残すことが目的です。本人が実際に出資したという説明や、過去の贈与を示す資料があるなら、それを無視して確認書を作らないようにします。
名簿の更新と、後継者への移転を区別する
方針が固まったら、会社の基本ルールを定めた定款、株券の発行状況、過去の契約などを基に、会社側で必要な手続きを確認します。持ち主について争いがある場合や、名義人が亡くなっている場合は、関係者と手続きの範囲を弁護士と整理します。連絡が取れないことだけを理由に、社長の判断で名簿から外す処理は避けます。
更新前の名簿、確認書、根拠資料、更新後の名簿は関連づけて保管します。そのうえで、後継者へ移す株式と方法を検討します。名義株を整理した時点と、後継者が株式を取得する時点を区別して記録すると、承継の経緯を説明しやすくなります。
M&Aは、企業の合併や買収のことです。株式を売る形でのM&Aを考える場合も、株式の持ち主を説明できる資料を先に整えておきます。買い手側の事前調査については、デューデリジェンスとは|中小企業M&Aでの種類と進め方を税理士が解説で説明しています。
架空の例と、自社で確かめるチェックリスト
次は説明のための架空の例です。ある会社の社長が、子への承継準備で株主名簿を調べたところ、退職した元役員の名前が残っていました。社長は「設立時に名前を借りた」と説明しましたが、元役員は「出資した記憶がある」と話しています。
この段階では、名義株だと決めつけず、設立時の払込記録と当時のやり取りを探します。社長が資金を出した記録が見つかっても、元役員への贈与や立替えの可能性を含めて確認します。資料と説明が一致しない間は、その株式も社長が持つものとして子への移転を進めることを避けます。
後の調査で名義を借りた経緯が裏づけられた場合と、元役員が実際の株主だと分かった場合では、進め方が変わります。前者は名義の整理と税務上の取扱いを確認し、後者はその株主の意思を踏まえ、新たな移転を検討します。調査前に売買契約書を作ると、この違いが曖昧になるため注意が必要です。
- 株主名簿の各名義について、取得時期と取得の経緯を説明できるか。
- 設立・増資・売買の資金記録と、関連する契約書を探したか。
- 配当の受取先、株券の保管、株主総会の資料を確認したか。
- 名義人本人の説明と、社長の認識の違いを記録したか。
- 過去の贈与や相続の資料と、現在の説明に食い違いがないか。
- 名義の訂正と、後継者への新たな移転を区別したか。
- 税務上の取扱いと、会社側の手続きをそれぞれ確認したか。
- 確認できない点を残し、根拠資料と更新履歴を保管する準備があるか。
チェックが付かない項目は、調査が必要な箇所です。資料探しの担当者と確認の順番を決め、分かるところから進めていきます。
まとめ
名義株の整理では、株主名簿の名前だけでなく、取得資金、契約、保管状況、本人の認識などを照合します。名義を本来の持ち主へ合わせることと、後継者へ新たに株式を渡すことは分けて考えます。無償の名義変更には贈与の問題があり、贈与がなかったものとする取扱いにも条件があります。まずは株主ごとの資料と経緯をまとめ、権利関係と税務を確認してから手続きを進めましょう。
よくある質問
Q. 社長が出資金を払っていれば、社長の株式として整理できますか?
資金の負担は重要な確認事項ですが、それだけでは結論を出せません。名義人への贈与や立替えだった可能性も確認します。契約内容、取得後の管理、当事者の説明を照合し、その株式を誰が取得したのかを検討します。
Q. 名義人の確認書があれば、贈与税はかかりませんか?
確認書だけでは判断できません。名義を借りた経緯や取得後の扱いを資料で確認します。名義人が承知していた場合は、個別通達の2(1)の条件に当たらず、実際の持ち主を示す資料で贈与の推定を覆せるかを検討します。同通達の2の取扱いは、名義人が知らなかったことや、名義を戻す時期などの条件を満たす場合のものです。
Q. 名義人と意見が合わない場合も、先に名簿を直せますか?
先に書き換えて解決しようとせず、どの資料や事実について意見が違うのかを整理します。権利関係や対応方法は弁護士と検討し、合意内容に応じた税務上の扱いも確認してから進めます。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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