公共工事を元請で受注する建設業者は、毎年の決算のあと「決算変更届」を出し、経営事項審査(経審)を受け直します。経審の点数は決算書の数字から機械的に計算されるので、税務申告用の決算書を作る段階で、建設業の勘定科目と区分が正しく付いているかが評価に直結します。
建設業許可の財産要件と決算書の見方は、建設業許可の財産要件と決算書|一般と特定で違う基準で詳しく解説しています。
この記事では、法人の建設業者を前提に、決算日から決算変更届・経審までの期限、決算変更届で出す財務諸表が税務の決算書とどう違うか、経審のどの指標が決算書のどの数字を使うかを、建設業法・施行規則と国土交通省の資料に沿って整理します。工事の売上の期ズレや外注費の税務上の論点は別の記事に譲ります。
決算から経審までの流れと期限
建設業者の決算後の手続は、税務署への申告と、許可行政庁への届出・審査の2本立てです。期限はそれぞれ別の法律で決まっています。
| 手続 | 提出先 | 期限・時期 |
|---|---|---|
| 法人税の確定申告 | 税務署 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内(法人税法74条。申告期限の延長を受けている場合を除く) |
| 決算変更届(毎事業年度経過後の届出) | 許可を受けた行政庁 | 毎事業年度経過後4か月以内(建設業法11条2項) |
| 経営状況分析の申請 | 登録経営状況分析機関 | 決算確定後。分析結果を経営規模等評価の申請に使う |
| 経営規模等評価の申請(総合評定値の請求) | 許可を受けた行政庁 | 公共工事の契約に間に合うように受ける |
経審の結果には実質的な使用期限があります。公共工事を元請で請け負う建設業者は、発注者と請負契約を締結する日の1年7月前の日の直後の事業年度終了の日以降に経営事項審査を受けていなければなりません(建設業法施行規則18条の2)。決算日(経審の審査基準日)から1年7か月を過ぎると、その決算で受けた経審では契約できなくなるので、毎年の決算後に切れ目なく受け直す段取りが要ります。
決算が終わってから経審の結果が出るまでには、税務申告、決算変更届、経営状況分析、経営規模等評価と工程が続きます。税務申告用の決算書の確定が遅れると後ろの工程がすべて遅れるので、決算の締めの日程は経審の日程から逆算して決めます。
決算変更届で出す書類
建設業法11条2項は、許可を受けた建設業者に、毎事業年度終了の時の工事経歴書と直前3年の各事業年度の工事施工金額を記載した書面、その他国土交通省令で定める書類を、毎事業年度経過後4か月以内に提出するよう定めています。省令で定める書類は施行規則10条にあります。
| 区分 | 出す財務諸表など(施行規則10条) |
|---|---|
| 株式会社以外の法人 | 様式第15号〜第17号の2の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表 |
| 株式会社のうち小会社 | 上の書類と事業報告書 |
| 株式会社(小会社を除く) | 様式第15号〜第17号の3の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表、附属明細表と事業報告書 |
| 個人 | 様式第18号・第19号の貸借対照表と損益計算書 |
| 国土交通大臣の許可 | 法人は法人税、個人は所得税の納付すべき額と納付済額を証する書面 |
| 都道府県知事の許可 | 事業税の納付すべき額と納付済額を証する書面 |
提出先は、国土交通大臣の許可なら本店の所在地を管轄する地方整備局長等、都道府県知事の許可なら都道府県知事です。11条2項の書類を提出しなかったり、虚偽の記載をして提出したりすると、6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金の対象になります(建設業法50条1項2号)。
なお、官公署に提出する書類を他人の依頼を受け報酬を得て作成することは行政書士の業務で、行政書士でない者は業として行えません(行政書士法1条の3・19条)。決算変更届や経審の申請書の作成を外部に頼む場合は行政書士(行政書士の登録をしている税理士を含みます)に、その元になる決算書と税務申告は税理士に、という役割分担になります。
建設業の財務諸表は、税務の決算書の「組み替え」で作る
決算変更届の財務諸表は、税務申告に使った決算書の数字を、建設業法の様式に組み替えて作ります。様式には建設業特有の勘定科目があり、記載要領にも税務の決算書にはない決まりがあります。
| 項目 | 建設業の様式での扱い |
|---|---|
| 消費税の処理 | 税抜方式・税込方式のどちらを採用したかを注記する。経営状況分析申請書・経営規模等評価申請書に添付する場合は税抜方式 |
| 金額の単位 | 千円単位(大会社は百万円単位も可) |
| 兼業事業 | 建設業以外の事業の売上高・売上原価を区分して表示する(割合が軽微なら区分不要) |
| 完成工事原価 | 材料費、労務費(うち労務外注費)、外注費、経費に分けた完成工事原価報告書を付ける |
| 貸借対照表の科目 | 完成工事未収入金、未成工事支出金、材料貯蔵品、工事未払金、未成工事受入金など |
税込経理で記帳している会社は、経審に使う財務諸表を税抜の数字に直す必要があります。売上高・原価・利益のどれもが変わるので、決算の時点で税抜の数字も出せるようにしておくと組み替えが楽になります。
勘定科目は、日々の記帳の時点で建設業の科目を使っておくのが近道です。工事代金の未入金を一般の「売掛金」に、工事の外注代の未払を一般の「未払金」に入れていると、決算時に工事分を抜き出す作業が発生します。工事の完成前に受け取った前受金(未成工事受入金)や、完成前の工事にかかった費用(未成工事支出金)も、工事台帳と結びつけて管理します。工事の売上の計上時期と税務調査で見られる点は、建設業(法人)の税務・経費・税務調査対策|工事の期ズレ・外注費で扱っています。
経審の点数の構成:決算書から計算される項目
経審は、建設業法27条の23で、経営状況と、経営規模・技術的能力その他の客観的事項について数値で評価するものとされています。国土交通省の資料では、総合評定値(P)は次の式で計算されます(令和8年7月1日以降の申請に適用される内容)。
| 区分 | 審査項目 | ウェイト |
|---|---|---|
| X1(経営規模) | 完成工事高(許可業種別) | 0.25 |
| X2(経営規模) | 自己資本額、利払前税引前償却前利益 | 0.15 |
| Y(経営状況) | 負債抵抗力、収益性・効率性、財務健全性、絶対的力量 | 0.20 |
| Z(技術力) | 技術職員数、元請完成工事高(許可業種別) | 0.25 |
| W(社会性等) | 担い手の育成・確保、営業継続、防災活動、法令遵守、建設業の経理の状況など | 0.15 |
総合評定値はP=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15Wです。このうちX1・X2・Yと、Zの元請完成工事高は、決算書と工事の記録から計算されます。X2の自己資本額は基準決算の純資産合計の額(又は2期の平均)、利払前税引前償却前利益は営業利益に減価償却実施額を加えた額の2期平均です。減価償却実施額には、未成工事支出金や完成工事原価に含まれる減価償却費も入ります。
経営状況(Y)の8指標と、決算書のどこを見るか
経営状況の分析は、国土交通大臣が登録した経営状況分析機関が行います。国土交通省の「経営事項審査の事務取扱いについて」は、Yの8つの指標の計算方法を次のように定めています。
| 指標 | 計算に使う決算書の数字 | 上限・下限 |
|---|---|---|
| 純支払利息比率 | (支払利息-受取利息配当金)÷売上高(完成工事高+兼業事業売上高) | 5.1%/-0.3% |
| 負債回転期間 | (流動負債+固定負債)÷(売上高÷12) | 18.0/0.9 |
| 総資本売上総利益率 | 売上総利益÷総資本(負債純資産合計)の2期平均。平均が3,000万円未満なら3,000万円とみなす | 63.6%/6.5% |
| 売上高経常利益率 | 経常利益÷売上高 | 5.1%/-8.5% |
| 自己資本対固定資産比率 | 自己資本÷固定資産 | 350.0%/-76.5% |
| 自己資本比率 | 自己資本÷総資本 | 68.5%/-68.6% |
| 営業キャッシュフロー | 経常利益+減価償却実施額-法人税等±引当金・売掛債権・仕入債務・棚卸資産・受入金の増減(2期平均・億円単位) | 15.0/-10.0 |
| 利益剰余金 | 利益剰余金合計(億円単位) | 100.0/-3.0 |
科目の付け方で数字が動くところ
営業キャッシュフローでは、売掛債権は受取手形と完成工事未収入金、仕入債務は支払手形と工事未払金、棚卸資産は未成工事支出金と材料貯蔵品、受入金は未成工事受入金の額を使います。工事の未収・未払・前受を一般の科目に入れていると、これらの増減が正しく拾われません。
純支払利息比率は、支払利息から受取利息配当金を差し引いた額を使います。借入金の利息を「支払手数料」など別の科目に入れていたり、受取利息を雑収入に混ぜていたりすると、計算の元になる数字がずれます。売上総利益や経常利益は、工事原価と販売費及び一般管理費の振り分け、完成工事高と兼業事業売上高の区分にも左右されます。
ここで目指すのは「実態どおりの科目で記帳すること」です。経営状況分析申請書や経営規模等評価申請書の書類に虚偽の記載をして提出すると罰則の対象になります(建設業法50条1項4号)。数字をよく見せるための操作ではなく、取引を正しい科目に入れることが、結果として評価の正確さにつながります。
社会性等(W)の「建設業の経理の状況」と資本性借入金
Wの項目には「建設業の経理の状況」があります。施行規則18条の3第3項は、①会計監査人又は会計参与の設置の有無、②経理に関する業務の責任者による経理が適正に行われたことの確認の有無、③職員のうち公認会計士等の数で評価すると定めています。
| 評価されるもの | 内容 |
|---|---|
| 監査の受審状況 | 会計監査人の適正意見、会計参与の会計参与報告書、経理実務の責任者が確認項目を用いて経理処理の適正を確認した旨の書類(署名付き)の提出 |
| 確認できる人 | 公認会計士又は税理士で国土交通大臣が指定する研修を受けた者、登録経理試験の合格者、登録経理講習の受講者など |
| 公認会計士等の数 | 建設業に従事する職員のうち、上の人の数 |
経理処理の適正の確認は、社内の経理実務の責任者が行うもので、外部の人が署名すれば足りるものではありません。社内に該当する職員がいるか、確認項目に沿って経理が回っているかを決算の前に点検しておきます。
令和7年7月1日以降の経営状況分析の申請からは、金融機関などからの一定の要件を満たす借入金(資本性借入金)のうち自己資本と認められる金額を、負債から控除して自己資本に加算できるようになりました。償還期間が5年超・期限一括償還などの要件があり、公認会計士・税理士・建設業経理士1級などから指定様式で証明を受ける手続が要ります。対象は審査基準日が令和7年3月31日以降で単独決算での申請者です。
税理士に決算を頼むときに揃える資料
経審を受ける会社の決算は、税務申告だけを見て締めると、決算変更届の段階で組み替えや確認がやり直しになります。決算の前に次の資料を揃えておくと、税務申告と建設業の財務諸表を同じ数字で作れます。
| 資料 | 使い道 |
|---|---|
| 工事台帳(工事ごとの請負金額・原価・入金・完成日) | 完成工事高と未成工事支出金・未成工事受入金の確定 |
| 元請・下請の区分と許可業種の区分が分かる工事一覧 | 工事経歴書、X1・Zの元請完成工事高 |
| 外注先との契約書・請求書 | 外注費と労務外注費の区分 |
| 借入金の契約書と返済予定表 | 支払利息の集計、資本性借入金の要件の確認 |
| 兼業事業の売上と原価の内訳 | 完成工事高と兼業事業売上高の区分 |
| 前回の経審の結果通知書と決算変更届の控え | 2期平均を使う項目と科目の連続性の確認 |
顧問契約や決算の見積りは、工事の件数、工事台帳の整い方、兼業事業の有無、税込経理か税抜経理か、決算月と経審の時期の関係で変わります。
まとめ:経審は「正しい科目の決算書」から始まる
- 法人税の申告は原則として事業年度終了の翌日から2か月以内、決算変更届は毎事業年度経過後4か月以内
- 公共工事の元請には、契約日の1年7月前の日の直後の事業年度終了の日以降に受けた経審が要る
- 決算変更届の財務諸表は建設業の様式で作り、経審に使うものは税抜方式で作る
- Yの8指標は、完成工事未収入金・未成工事支出金・工事未払金・未成工事受入金、支払利息と受取利息配当金などの数字から計算される
- Wには建設業の経理の状況があり、経理処理の適正の確認や公認会計士等の数が評価される
記帳の段階で建設業の科目を正しく付けておくことが、決算変更届と経審を期限内に正確に出すための土台になります。
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よくある質問
Q. 決算変更届を出し忘れていた年があります。どうなりますか?
建設業法11条2項の書類を提出しないことは、6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金の対象とされています(同法50条1項2号)。出していない年の分は、許可を受けた行政庁に確認したうえで、さかのぼって提出します。その年の決算書や税務申告書が手元にあるかを先に確かめます。
Q. 経審用の財務諸表を税込で作ってしまいました。そのままでよいですか?
記載要領では、経営状況分析申請書又は経営規模等評価申請書に添付する場合は税抜方式を採用するとされています。税込経理の会社は、税抜の数字に組み替えたものを使います。売上高や利益の金額が変わるため、Yの各指標の計算にも影響します。
Q. 経審の結果はいつまで使えますか?
公共工事を元請で請け負うには、請負契約を締結する日の1年7月前の日の直後の事業年度終了の日以降に経審を受けている必要があります。決算日から数えて1年7か月の間に次の決算の経審を受けないと、空白の期間ができます。決算後の工程を逆算して日程を組みます。
Q. 税理士に決算変更届の提出まで頼めますか?
官公署に提出する書類の作成を、他人の依頼を受け報酬を得て業として行うのは行政書士の業務です。税理士が担うのは決算書と税務申告で、決算変更届や経審の申請書の作成を外部に頼むなら、行政書士(行政書士の登録をしている税理士を含みます)への依頼になります。決算書の数字をそのまま組み替えられるよう、税理士と行政書士の間で資料をやり取りできるようにしておきます。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月16日
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