固定資産税の通知書やローンの返済明細を前に、「払ったお金はどこまで家賃収入の経費になるのか」と迷っていませんか。結論は、賃貸に必要な支出か、私用と区分できるか、その年の費用かで判断することです。この記事では、固定資産税・ローン利息・管理費・現地へ行く交通費の線引きと、残しておきたい資料を整理します。
この記事は「大家さんの税金と確定申告の連載|家賃収入の申告から、法人化・相続まで」の第6回です。
必要経費は「支払ったか」だけでは決まりません
必要経費とは、家賃などの収入を得るために直接かかった費用や、賃貸業務について生じた費用です。不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。生活のための支出は含められません。
確認の順番は、支出の目的、賃貸用と私用の区分、計上する年です。領収書があることは金額を確かめる手がかりになりますが、それだけで賃貸との関係まで説明できるとは限りません。「どの物件の、何のための支出か」を一緒に残しましょう。
| 支出 | 必要経費の考え方 | 確かめる資料・注意点 |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 賃貸用部分は対象 | 納税通知書と課税明細書。自宅分を除く |
| ローンの利息 | 賃貸業務のための借入れに対応する部分は対象 | 返済明細と借入金の使途 |
| ローンの元本返済 | 必要経費にはならない | 毎月の引落額から利息と分ける |
| 管理会社への管理料 | 賃貸管理業務の対価は対象 | 管理委託契約書と送金明細 |
| 物件の点検に行く交通費 | 業務上必要な移動に対応する部分は対象 | 訪問目的、経路、金額の記録 |
| 旅行・帰省に伴う私用の支出 | 私用部分は対象外 | 現地に寄った事実だけで旅行全体を経費にしない |
また、通常の所得計算では、支払いの有無だけで計上する年を決めません。債務の確定、つまり支払義務が生じ、原因となる事実が発生し、金額を合理的に算定できるかで判断します。前払いした管理料などは、対象期間も確認してください。
申告全体の流れは、大家・不動産オーナーの確定申告と節税|不動産所得・減価償却・青色申告を税理士が解説で整理しています。
固定資産税とローンは、明細を分けて確認します
固定資産税は自宅と賃貸物件を切り分ける
固定資産税は、賃貸業務に使う土地・建物に対応する部分が必要経費になります。同じ通知書に自宅と貸家が載っているときは、課税明細書で物件ごとに拾い直します。口座から引き落とされた合計額を、そのまま経費にしないようにしましょう。
自宅の一部を貸している場合は、賃貸用部分と自宅部分を分けます。家事按分とは、このように生活と業務の両方に関係する支出を、合理的な基準で分けることです。建物の利用状況や床面積などを確認し、その税額を分ける根拠として適切かを検討します。
固定資産税を経費にする年は、原則として賦課決定を受けた年です。賦課決定とは、自治体が納める税額を決定することです。納期が分割されているものは、各納期の開始日が属する年、または実際に納付した年に計上する扱いも認められています。同じ税額を通知時と納付時に重ねて計上しないよう、前年の処理も照合します。
なお、所得税や住民税は必要経費になりません。「税金」という名前だけでまとめず、何の税金かを分けて確認してください。
ローンは返済額ではなく、元本と利息を見る
ローンの元本は、借りたお金そのものです。その返済は必要経費になりません。一方、賃貸物件を取得するためなど、賃貸業務のために借りたお金の利息は必要経費になります。借入先の返済明細で内訳を確認しましょう。
次は説明のための架空の例です。賃貸専用の建物を取得した借入れについて、毎月の返済額が12万円、内訳が元本9万円・利息3万円だったとします。この場合、必要経費の対象となる利息は3万円です。12万円全額を経費にすると、元本分まで差し引くことになります。
建物の購入代金は、原則として減価償却という方法で各年に配分して経費にし、土地は減価償却しません。詳しい計算は、中古アパートの減価償却|耐用年数の出し方と、建物と土地の分け方で扱います。
借入名義だけでなく、資金を何に使ったかも確認が必要です。賃貸用と私用が混在していれば、その使途に対応する利息を区分します。また、不動産所得が赤字になった場合、土地等の取得に対応する借入利息相当の赤字は、他の所得と相殺する損益通算の対象外です。経費になるかと、赤字を他の所得から引けるかは別に確認します。
管理費は業務の内容を確認し、修繕積立金と分けます
入居者対応や家賃の集金などを委託した管理会社への管理料は、賃貸業務の費用です。契約書で委託内容を確認し、毎月の送金明細と対応させます。「管理費」という科目名だけで判断せず、何のサービスに対する支払いかを押さえましょう。
管理会社が家賃から管理料を差し引いて送金する場合も、入金額だけを見ていると管理料を見落としやすくなります。送金明細では、差引前の家賃と差し引かれた費用を確認します。すでに管理料を経費として記帳していれば、通帳への入金を処理するときにもう一度引かないよう照合してください。
区分所有マンションでは、管理組合に支払う通常の管理費と、将来の大規模修繕に備える修繕積立金を分けて確認します。毎月まとめて引き落とされていても、修繕積立金には独自の経費計上の判断があります。
修繕積立金は支払っただけで経費になるとは限らない
国税庁の質疑応答事例では、修繕積立金は原則として、実際の修繕等に充てられた部分が、その工事等の完了した年の必要経費になります。ただし、適正な管理規約に従う支払いで、次の要件をすべて満たす場合は、支払期日の属する年に経費とする扱いが認められています。
- 区分所有者が管理組合に対して支払義務を負うこと。
- 管理組合が区分所有者への返還義務を負わないこと。
- 将来の修繕等だけに使用され、他の用途へ流用されないこと。
- 長期修繕計画に基づき、共有持分に応じて合理的に金額が算出されていること。
明細の名称だけでは、これらの要件は確認できません。管理規約と長期修繕計画もそろえましょう。大家さんが自分の口座へ将来の工事代を移しただけの場合に、この取扱いをそのまま当てはめることはできません。
実際に工事をした場合も、通常の維持修理と、価値を高めたり使用可能期間を延ばしたりする資本的支出では扱いが異なります。ここでは、工事代の全額がその年の修繕費になるとは限らない点を押さえておきましょう。
物件を見に行く交通費は、訪問目的と私用の区分が要点です
賃貸中の物件の点検や、修理の立会い、管理会社との打合せのための交通費は、業務上必要な部分が必要経費の対象です。これは、国税庁が示す必要経費と家事関連費の一般的な考え方を、現地訪問に当てはめた整理です。個別の移動の必要性や内容に照らして判断します。
電車代の利用履歴に「最寄り駅まで往復」としか書かれていないと、私用との区別がつきにくくなります。「貸家の雨漏り修理の立会い」など、物件と用件を短く添えます。管理会社との日程調整の記録や作業報告があれば、訪問の内容も振り返りやすくなります。
同じ物件への訪問でも、毎回同じ用件とは限りません。点検の結果、入居者対応、確認した設備などを、その都度記録すると整理しやすくなります。写真は現場の状態を示す資料にはなりますが、交通費の支払額や経路は別の資料で確かめましょう。
旅行や帰省を兼ねる場合、旅行全体を一括しない
旅行中に物件へ立ち寄ったとしても、旅行全体の交通費や宿泊費が自動的に経費になるわけではありません。訪問の目的、行程、実際に行った作業を整理し、賃貸業務に直接必要だった部分を明確に区分します。
次は説明のための架空の例です。帰省先の実家から賃貸中の貸家へ出向き、管理会社と設備不良の確認をしたとします。実家と貸家の往復がその業務のためだけの移動なら、その区間の交通費を業務費用として検討します。自宅と実家の往復については、帰省の目的があるため、一緒に全額を経費にしない整理が必要です。
業務と観光が混ざった行程は、立寄先ごとの目的と移動区間を先に整理します。単純に旅行日数で割るだけで、その費用の実態に合うとは限りません。区分の根拠を説明できない金額を、便宜的な割合で算入することは避けましょう。
自家用車は走行記録と支払記録を組み合わせる
自家用車で物件へ行く場合も、私用分を含めた車の費用全体を経費にはできません。訪問日、出発地、目的地、用件、走行距離を記録し、燃料費などの業務用部分を区分する資料にします。年間の総走行距離も残しておくと、利用状況を照合しやすくなります。
高速料金や現地の駐車料金は、その訪問に対応する明細を整理します。一方、家族の買物などを兼ねた移動では、同じ日の支払いでも私用部分を除きます。交通系ICカードも、チャージ額だけでは業務で利用した区間や金額を確認できないため、利用履歴と訪問記録を対応させる方法が役立ちます。
申告前に確認するチェックリスト
経費の資料は、支払先別に集めるだけでなく、物件別・用件別にも追える状態にしておきましょう。迷う支出は、目的や利用状況を書き添えた確認用の一覧にすると、申告前に検討しやすくなります。
- 固定資産税の課税明細から、自宅分と賃貸用部分を分けたか。
- 固定資産税を、前年分と重ねて計上していないか。
- ローン返済額を元本と利息に分け、借入金の使途を確かめたか。
- 管理会社の送金明細と記帳を照合し、管理料の漏れや重複がないか。
- 管理費と修繕積立金を区別し、積立金の取扱いを規約等で確認したか。
- 現地訪問の目的・経路・金額を記録し、旅行や帰省の私用部分を除いたか。
- 車や通信費などの共用費について、按分の根拠と計算を残したか。
- 前払費用など、支払った年と経費にする年が異なるものを確認したか。
金額だけを一覧にするより、判断に使った資料の保存場所も添えると確認が進みます。たとえば、固定資産税には課税明細書、利息には返済明細、交通費には利用履歴と訪問メモを対応させます。資料が足りない項目から先に補い、申告書を作る段階で支出の目的を思い出す負担を減らしましょう。
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まとめ
大家さんの必要経費は、賃貸との関係、私用との区分、計上する年を順に確認します。固定資産税は賃貸用部分を拾い、ローンは元本と利息を分けてください。管理費は契約と明細を照合し、修繕積立金は規約等による要件の確認が必要です。現地へ行く交通費は、訪問目的と経路を記録し、私用が混じる場合は業務部分を説明できる資料を残しましょう。
よくある質問
Q. 会社に勤めながら大家をしています。現地確認の交通費は経費になりますか?
会社に勤めていることだけで対象外にはなりません。賃貸物件の管理のために必要な移動で、私用と明確に区分できる部分が対象です。勤務先への通勤などと混ざる場合は、不動産の管理のために生じた費用を分けて確認します。
Q. ローンの引落額を、そのまま経費にしてもよいですか?
元本返済は必要経費にならないため、引落額の全額は計上できません。返済明細で元本と利息を分け、賃貸業務に対応する利息を確認します。返済による現金の減少と、税金の計算上の経費は分けて捉えましょう。
Q. 領収書があれば、物件を見に行った費用は全額経費になりますか?
領収書だけで全額を判断することはできません。賃貸管理上の必要性と、私用部分を除いた金額を確認します。訪問日、対象物件、目的、経路、金額を記録し、打合せや作業の記録と対応させておくと確認しやすくなります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日
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