店舗を譲る話が進み、「提示された金額で合意してよいのか」「税金を引くと、いくら残るのか」と迷っていませんか。結論は、譲る資産と契約を整理し、価格の内訳と税金を確認してから合意することです。この記事では、フランチャイズ加盟店の事業譲渡について、価格の考え方、売り手の税務、契約前にそろえる資料を説明します。
この記事は「フランチャイズ加盟店の税金と会計の連載|開業から複数店舗・閉店まで」の第13回です。
事業譲渡では、譲るものと引き継ぐ契約を分ける
事業譲渡とは、店舗の設備や在庫、営業上の価値などを、事業として他の事業者に引き継ぐ取引です。会社の株式を売る取引とは区別して検討します。「店を丸ごと譲る」という説明だけでは、何を渡し、どの支払いを誰が負担するのかが曖昧になります。
まず、設備、商品、保証金、本部との契約、店舗の賃貸借契約などを一覧にします。それぞれについて「譲渡対象」「対象外」「相手方との調整が必要」に分けましょう。帳簿にある資産と、実際に引き渡せる資産が一致するかも確認します。
フランチャイズでは、本部の承諾の要否、買い手の再加盟や研修、契約期間、費用負担を契約書と本部への照会で確認します。設備の譲渡と、加盟店として営業を続けられることは、分けて判断する必要があります。貸主との契約やリース設備も、名義と引継ぎ方法を調べます。
従業員についても、売り手と買い手の合意だけで雇用が移ると考えないようにします。労働契約を承継させる場合は、対象となる従業員の個別の承諾が必要です。仕事内容や労働条件などを説明し、協議する時間を確保します。根拠は厚生労働省の事業譲渡等に関する指針です。
譲渡価格は、設備・在庫・営業権に分けて考える
価格の検討では、まず引き渡す資産の内容と状態を確かめます。そのうえで、買い手が引継ぎ後に得られる収益を検討します。営業権、いわゆる「のれん」とは、信用や営業基盤などによる、設備や在庫だけでは説明できない事業の価値です。
日本政策金融公庫の譲渡価格算出ツールでも、資産・負債を時価で見直した純資産と、営業権を組み合わせる考え方が示されています。ただし、算出結果は参考値です。そのまま店舗の成約価格になるわけではありません。
加盟店では、本部へのロイヤリティや賃料、人件費を反映した店舗別の収支を整理しましょう。オーナー自身の作業を買い手が従業員に任せるなら、その人件費も検討材料になります。設備更新や修繕の見込み、契約を継続できる期間も、価格交渉に使う資料としてまとめます。
| 価格の区分 | 根拠としてそろえる資料 | 合意前に確認する点 |
|---|---|---|
| 内装・設備・備品 | 固定資産台帳、購入資料、現物の状態、中古品の見積り | 所有者、故障や修繕、撤去・更新の予定 |
| 商品・食材などの在庫 | 棚卸表、仕入資料、数量や期限の記録 | 引渡日に再確認する方法、譲渡対象から外す商品 |
| 営業権 | 店舗別の収支、本部との契約条件、引継ぎ計画 | 買い手に引き継げる営業基盤と、その評価の理由 |
| 保証金などの精算 | 契約書、預入額や返還条件が分かる資料 | 権利を移すのか、売り手に返還されるのか |
帳簿価額とは、取得後の費用化などを反映して帳簿に残っている金額です。売買価格を考える時価とは区別します。設備の帳簿価額が小さくても、買い手が使い続けられる価値が残っている場合があります。反対に、帳簿に金額が残っていても、修繕が必要な設備もあります。
総額だけでなく、資産ごとの価格と評価理由を契約書の別紙などに残しましょう。税負担に合わせて内訳を動かすのではなく、現物や収益資料で説明できる配分にします。売り手と買い手が同じ一覧を使えば、後の帳簿処理も照合しやすくなります。
売り手の税金は、個人と法人で整理が異なる
個人事業主は、資産ごとに所得の種類を確認する
個人事業主は、譲渡代金の全額を同じ所得として処理するわけではありません。通常の商品の販売に当たる在庫の譲渡は事業所得として扱い、設備や営業権などは譲渡所得の対象となるかを確認します。譲渡所得とは、資産を譲ったことによって生じる所得です。
設備は原則として譲渡所得の対象ですが、例外もあります。一括償却資産として必要経費に算入した資産などは、譲渡所得に含まれません。購入時にどの制度で処理したかを、固定資産台帳や過去の申告資料で確認します。営業権も、実際に移す権利や価値の内容を整理して判定します。
土地・建物・株式等以外の資産に係る総合課税の譲渡所得では、収入から取得費と譲渡費用を差し引き、特別控除を適用して所得を計算します。総合課税とは、他の対象所得と合算して税額を計算する仕組みです。取得費は購入時の支払額をそのまま使えるとは限らないため、申告用の計算額を確認します。
2026年10月時点では、この特別控除は短期・長期を合わせて年間最高50万円です。資産ごとに50万円ずつ控除する仕組みではありません。短期の譲渡益から先に控除し、残額があれば長期の譲渡益から控除します。譲渡益が控除限度額より少なければ、その譲渡益が控除額の上限です。
原則として所有期間が5年以下なら短期、5年を超えれば長期です。長期譲渡所得は、控除後の金額の2分の1を他の対象所得と合算します。店舗の開業日だけで判定せず、譲った資産ごとの取得時期を確認しましょう。計算の基本は国税庁の譲渡所得の説明に示されています。
法人は、事業年度全体の所得に反映する
法人税は、税務上の収益である「益金」から、税務上の原価・費用等である「損金」を差し引いた所得を基に計算します。店舗の譲渡による収益と、対応する資産の税務上の帳簿価額、費用などを整理し、通常営業の損益と合わせて検討します。
そのため、譲渡代金に一律の割合を掛ければ納税額が出るとはいえません。会社全体の所得や税務調整も確認が必要です。また、会社に入金される代金と、経営者個人が使える資金も分けて考えましょう。
消費税は、譲渡する資産と税率を分けて確認する
所得税や法人税とは別に、消費税を確認します。課税事業者が事業用の設備や営業権などを有償で譲渡する取引は、原則として消費税の課税対象です。個人の所得税で譲渡所得として申告する資産でも、事業用資産の譲渡であれば消費税の確認が必要です。
2026年10月時点の消費税・地方消費税を合わせた標準税率は10%、軽減税率は8%です。設備や営業権には原則として標準税率を適用します。一方、在庫のうち軽減税率の対象となる飲食料品は8%です。酒類は対象外なので、食品と酒類が混在する在庫は区分します。
土地を含めて譲渡する場合、土地の譲渡は非課税です。保証金についても、資産の売買代金と同じ扱いだと決めず、権利の移転や返還など、精算内容を確認します。各項目の性質を確認してから税区分を付けます。
契約では、総額が税込か税抜かを明示しましょう。税抜価格、税率ごとの対象額、消費税等の額を一覧にします。売り手が課税事業者か免税事業者かも確認事項です。免税事業者の資産譲渡について、課税事業者と同じ納税計算を当てはめないようにします。
架空例で、受取額・利益・手取りを区別する
次は説明のための架空の例です。課税事業者である法人が、店舗の事業を税抜1,000万円で譲るとします。内訳は設備400万円、軽減税率の対象となる食品在庫100万円、営業権500万円です。土地、保証金、債務の引継ぎは含めず、いずれの価格も説明可能な資料に基づき合意したものとします。
消費税等は、設備40万円、食品在庫8万円、営業権50万円で、合計98万円です。買い手から受け取る総額は1,098万円となります。これは取引に係る消費税等を加えた受取額であり、この法人の最終的な消費税の納付額を示したものではありません。
次に、税抜経理を前提に利益を整理します。譲渡直前の税務上の帳簿価額が設備180万円、在庫70万円、営業権0円で、この譲渡に対応する損金となる費用が税抜50万円だと仮定します。この条件での譲渡による利益は、1,000万円-180万円-70万円-50万円=700万円です。
700万円は、会社の最終的な課税所得や税額ではありません。通常営業の損益などを合わせた計算が必要です。また、入金後に借入返済や未払金の精算を行うなら、資金繰り表にはその支出も記載します。利益の計算表と、手元に残る現金の見込表を分けて作りましょう。
買い手側も、設備・在庫・営業権などの取得内容を同じ内訳で確認します。売り手の帳簿に残る金額と買い手の取得価格を混同しないことが大切です。設備の購入資料や現物確認の記録は、価格の説明と引継ぎの両方に役立ちます。
買い手が融資を利用する場合は、事業の収支と必要資金を説明できる資料を用意します。面談資料の整え方は、創業融資の面談で聞かれること|質問の型ごとの準備と持参する資料も参考になります。融資制度の利用条件は、事業を引き継ぐ状況に応じて別途確認します。
契約前に自社で確かめるチェックリスト
- 譲渡対象と対象外の資産・契約を一覧にしているか。
- 本部・貸主との契約条件、承諾や再契約の要否を確認したか。
- 従業員への説明、協議、承諾の手続を準備したか。
- 設備の所有者、帳簿価額、取得時期、過去の税務処理を確認したか。
- 在庫の数量・状態と、引渡日の価格調整方法を決めたか。
- 設備・在庫・営業権等の配分と、その理由を買い手と共有したか。
- 税込・税抜、税率別の金額、売り手の消費税の申告状況を確認したか。
- 代金の入金、費用の支払い、借入返済、納税に備える資金を整理したか。
資産一覧、契約書案、店舗別の収支、固定資産台帳を同じ時点でそろえると、価格と税務を照合しやすくなります。契約面は弁護士、税務面は税理士、借入れは金融機関というように、確認事項と担当者を明確にしましょう。買い手が創業に当たる場合の資金調達の分担は、創業融資を税理士と進める流れ|最初の相談から着金までの分担で整理しています。
まとめ
店舗の事業譲渡では、譲る資産と引き継ぐ契約を整理するところから始めます。価格は総額だけでなく、設備・在庫・営業権などの内訳と根拠を残しましょう。売り手が個人か法人かによる所得の扱いと、資産ごとの消費税を分けて確認します。契約前に利益と資金繰りを試算し、納税や精算後の手取りまで見通すことが大切です。
よくある質問
Q. 譲渡代金の全額に所得税がかかりますか。
個人事業主の場合、代金の全額がそのまま所得になるわけではありません。在庫と設備等では所得の種類が異なり、対応する原価や取得費、譲渡費用などを整理します。適用できる控除も含めて計算します。
Q. 帳簿価額で売ればよいのでしょうか。
帳簿価額だけで価格を決めず、設備の状態、在庫の内容、引継ぎ後の収益や契約条件も確認します。売買価格と帳簿価額は役割が異なります。価格配分の理由を資料で説明できるようにしましょう。
Q. 本部の月次報告があれば、譲渡の準備はできますか。
月次報告に加え、自社の帳簿、固定資産台帳、棚卸表、各契約書を照合しましょう。本部の報告に載っていない資産や支払いも確認し、譲渡対象と税務処理を整理します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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