税理士の交代に向けて過去の申告書を見ても、消費税の計算方法を選んだ届出や、青色申告の申請まで済んでいるのか分からないことがあります。結論からいうと、申告書だけで判断せず、届出の内容・提出の記録・適用開始時期を照合することが大切です。この記事では、法人の社長・個人事業主が引継ぎ時に点検したい手続きを整理します。
この記事は「税理士の乗り換えの連載|変えるか決めるところから、変えた後の1年目まで」の第6回です。
まずは申告書と届出の履歴を分けて確認する
申告書は、その年や事業年度の所得・税額などを報告する書類です。一方、届出書や申請書は、制度の選択や承認などに関わる書類です。申告書に記載された計算方法が分かっても、その方法を使える根拠まで確認できたとは限りません。
点検では「どの制度を使っているか」「いつから使っているか」「選択をやめる手続きをしていないか」を並べて見ます。直近の書類だけで説明がつかないときは、制度を選んだ当時までさかのぼります。古い届出が、その後の申告に影響することもあるためです。
電子申告では、e-Taxという国税の電子申告システムの受信通知と、送信した帳票を確認します。受信通知は受付結果を示すものです。受付日時・手続名と帳票の内容を照合し、送信エラーの表示がないかも見ます。作成済みの書類があるだけでは、送信できたかどうかを判断できません。
控えが見当たらない場合は、すぐに未提出と決めつけず、保存先や受信通知を調べます。税務署の申告書等閲覧サービスも、所定の条件のもとで申請書・届出書の確認に使えます。個人向けの申告書等情報取得サービスは対象書類が限られ、届出書全般を取得する仕組みではありません。
変更に伴う手続き全体は、税理士の変更手続きと注意点|トラブルなく変更する方法を解説で扱っています。ここでは、過去の申告を支えた届出の確認に絞ります。
消費税は「課税になった理由」と「計算方法」を分ける
消費税の課税事業者とは、消費税の納税義務が免除されない事業者です。課税期間は消費税を計算する対象期間を指します。基準期間は、納税義務などの判定に使う過去の期間です。個人は原則として前々年、事業年度が1年の法人は前々事業年度を確認します。
2026年10月時点では、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務が免除されます。ただし、インボイスを発行できる適格請求書発行事業者の登録や、課税事業者を選択した届出がある場合などは別です。直近の売上高だけで、申告が不要とは判断できません。
次の表のように、似た名前の書類も役割が違います。特に「消費税課税事業者届出書」と「消費税課税事業者選択届出書」を区別して整理しましょう。
| 書類・手続き | 主な役割 | 引継ぎで確かめる点 |
|---|---|---|
| 消費税課税事業者届出書 | 売上高の判定などで課税事業者となる事実を届ける | 基準期間用・特定期間用の別と判定資料 |
| 消費税課税事業者選択届出書 | 免税事業者が課税事業者になることを選ぶ | 適用開始時期と選択をやめた履歴 |
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 消費税の計算方法として簡易課税を選ぶ | 適用要件、開始時期、不適用届出の有無 |
| 適格請求書発行事業者の登録申請 | インボイス発行のための登録を受ける | 申請の控えに加え、登録通知と登録日 |
売上高などによって課税事業者となる場合の届出は、課税を任意に選ぶ手続きとは異なります。届出の控えがないことだけを理由に、免税と扱わないようにします。また、インボイス登録と課税事業者の選択は別の手続きなので、片方の書類だけで全体を説明しないことも大切です。
課税事業者を選んだ後は、原則として2年間は免税事業者になれません。選択をやめるには不適用届出が必要で、設備などの取得により制限が続く場合もあります。以前の設備投資を理由に選択していたなら、取得資料と当時の判断メモも確認しましょう。
簡易課税は古い届出と今後の予定を一緒に見る
簡易課税は、実際の仕入れ等に係る消費税額に代えて、売上げに係る消費税額と事業の種類に応じた割合を使う計算方法です。2026年10月時点では、選択届出書を提出した課税事業者で、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることなどが適用の前提になります。
確認するのは、前年の申告で使った方法だけではありません。過去に簡易課税の選択届出書を提出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間には適用できません。その後、売上高の条件を満たすと、不適用届出をしていない限り再び簡易課税が適用される場合があります。
このため、「前期は一般課税だったから、簡易課税の届出は関係ない」とは判断できません。一般課税は、実際の仕入れ等に係る消費税額をもとに計算する方法です。過去の選択届出が残っていないかを確認し、当期の方法と照らし合わせます。
簡易課税の選択届出は、原則として適用したい課税期間の初日の前日までに提出します。やめるときも、原則としてやめたい課税期間の初日の前日までに不適用届出が必要です。さらに、選択後は原則として2年間の継続が必要になります。課税期間の初日の前日が期限となるこれらの届出は、土日祝日でも翌営業日には延びません。
一方、開業時やインボイス登録に伴う場合などには、提出時期の特例があります。インボイスに関する税負担の軽減措置を適用した後、簡易課税へ移る場合にも期限の特例があります。通常の期限だけを当てはめず、自社がどの経過措置を使っていたかを確認します。
設備投資の予定があるなら、選択の履歴と予定時期を併せて引き継ぎます。「税額が少なくなる方法へ申告時に変更する」という進め方では、届出期限や継続の制限を見落とすおそれがあります。過去の選択を確認してから、今後の方針を検討する順番が適切です。
青色申告と源泉所得税も点検する
青色申告は申請した時期と承認の状況を確認
青色申告は、一定の帳簿を備え、承認を受けて行う申告の制度です。交代時には承認申請書の控えと提出の記録をそろえ、過去の申告書の表示とも照合します。取下げや取消しに関する書類があれば、それも確認対象です。
2026年10月時点で、個人が青色申告の承認を受けようとする場合の申請期限は、原則としてその年の3月15日です。その年の1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、原則として開始日から2か月以内です。新設法人が設立初年度から青色申告を行う場合は、設立日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了日の、いずれか早い日の前日までが期限です。個人と法人で同じ期限を使わないようにします。これらの申請期限が土日祝日等に当たる場合は、休日明けが期限になります。
個人事業で家族に給与を支払っている場合は、青色事業専従者給与に関する届出書も確認します。これは青色申告の承認申請とは別の書類です。家族への給与の扱いを引き継ぐ際は、届出の内容と実際の働き方・支払内容を確認項目として残します。
源泉所得税の納期の特例は承認と支払内容を確認
源泉所得税は、事業者が給与や一定の報酬などを支払う際に差し引いて納める税金です。原則の納付期限は、支払った月の翌月10日です。2026年10月時点では、給与の支給人員が常時10人未満で、申請により承認を受けた場合、対象となる税金を半年分まとめて納める納期の特例があります。
対象は給与・退職金や、税理士・弁護士などへの一定の報酬に係るものです。すべての外注報酬が対象になるわけではありません。特例対象分の納付期限は、1月から6月分が7月10日、7月から12月分が翌年1月20日です。これらの納付期限が土日祝日等の場合は、休日明けになります。
以前からまとめて納付していたという説明だけでなく、申請・承認の状況と実際の納付記録を照合します。給与の支給人員が常時10人以上となり要件を満たさなくなった場合は、その旨の届出も必要です。担当者の交代と採用時期が重なる場合は、人数の変化も引継ぎメモに残しましょう。
自社のチェックリストで確認漏れを減らす
確認結果は、書類ごとに「提出日」「適用開始時期」「現在の状態」「追加確認する内容」を記録すると整理しやすくなります。次の項目を、社内と引継ぎ先で共有するたたき台にしてください。
- 消費税が課税となる理由を、売上高の判定・任意の選択・インボイス登録などに分けて説明できるか。
- 課税事業者選択と簡易課税について、古い選択届出と不適用届出の履歴を確認したか。
- 基準期間の売上資料と、申告で使った計算方法を照合したか。
- 青色申告の申請記録と、承認・取消しなどの状況を確認したか。
- 家族への給与や源泉所得税の納期の特例など、自社に関係する手続きを確認したか。
- 届出の控えと受信通知を照合し、不明な項目を未提出と断定せず残したか。
- 設備投資・採用などの予定と、次の届出期限を共有したか。
- 誰が追加調査・書類作成・提出・受付結果の確認を担うか決めたか。
次は説明のための架空の例です。ある法人では、直近の消費税申告が一般課税だったため、社長は簡易課税の届出はないと考えていました。引継ぎ資料を調べると、以前の選択届出書が見つかりました。前期に一般課税となった理由と、当期の基準期間の課税売上高、不適用届出の有無を調べる必要があると分かりました。
この段階で、前の申告が誤っていたとは断定できません。前期は簡易課税を使えない条件に該当していた可能性があるためです。申告当時の事実と制度を確認する作業と、これからの選択を決める作業を分けて進めます。
また、「今後の届出は新しい担当者が行うはず」と考えるだけでは、役割が曖昧になります。業務範囲の整理には、【2026年版】税理士の顧問契約書で確認すべき9項目|業務範囲・決算料・解約予告のトラブル回避チェックリストも参考になります。確認した内容は、口頭だけでなく共有メモに残しておきましょう。
まとめ
税理士の交代時は、申告書と届出の履歴を照合し、現在の計算方法を使える理由まで確認しましょう。消費税は、課税になった理由と簡易課税などの計算方法を分けると整理できます。青色申告や源泉所得税も含め、不明点・期限・担当者を記録することが引継ぎに役立ちます。交代全体の留意点は、【2026年版】税理士変更のデメリットは5つだけ|リスクを抑えてメリットを最大化する方法でも整理しています。
よくある質問
Q. 届出書の控えがなければ、未提出と考えてよいですか。
控えがないだけでは判断できません。保存データやe-Taxの受信通知を調べ、必要に応じて税務署の申告書等閲覧サービスの利用も検討します。確認できるまで、提出状況は不明として管理しましょう。
Q. 前期が一般課税なら、今期も同じ方法になりますか。
前期の方法だけでは判断できません。古い簡易課税の選択届出が残っている場合は、基準期間の課税売上高などによって今期の取扱いが変わることがあります。不適用届出の有無も確認します。
Q. 届出の確認で気になる点が見つかったら、申告を直すべきですか。
まずは提出記録と適用要件を確認します。資料不足なのか、届出の問題なのか、申告内容への影響があるのかを整理してから、必要な対応を判断します。書類が見つからないことと、申告に誤りがあることは分けて扱いましょう。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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