税理士の顧問契約でよく起きるトラブルは、その大半が「聞いていた話と違う」というものです。記帳代行も月額に含まれると思っていた、年末調整は当然やってくれると思っていた、税務調査の立会いに別途費用がかかると知らなかった——いずれも、契約書の業務範囲の記載を読めば事前に防げたケースです。
税理士との関係は数年から十数年続きます。最初に確認すべき項目を押さえておけば、あとは本来の相談に集中できます。本記事では、顧問契約書で確認すべき9項目をチェックリスト形式で整理し、それぞれどこを見れば判断できるかを解説します。
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なぜ契約書の確認が重要なのか
「顧問業務」の定義は事務所ごとに違う
「顧問料に何が含まれるか」に業界共通の定義はありません。月次訪問を前提とする事務所もあれば、オンライン相談のみの事務所もあります。記帳代行を標準で含む事務所もあれば、自計化を前提に安く設定している事務所もあります。
問題は、どちらも「顧問契約」と呼ばれることです。金額だけを比較して安いほうを選ぶと、含まれるサービスの範囲がまったく違っていた、ということが起こります。契約書で業務範囲を明文化する作業は、この「当たり前」のずれを潰す作業です。
契約書が明確なほど、前向きな相談に時間を使える
「これは契約に含まれますか」というやり取りが毎回発生する関係は、双方にとって消耗です。ルールが明確であれば、そこに立ち返るだけで済み、節税や資金繰りといった本来の相談に時間を割けます。
確認すべき9項目チェックリスト
1. 業務範囲の詳細
まず、次の項目が契約書のどこに、どう書かれているかを確認してください。
- 面談の形式と頻度:訪問かオンラインか、月次か四半期か
- 記帳業務:自社入力(自計化)が前提か、記帳代行が含まれるか
- 申告書の作成:法人税・消費税・地方税の申告が含まれるか
- 随時相談:電話・メール・チャットでの相談が可能か、回数制限があるか
「税務顧問業務一式」とだけ書かれている契約書は要注意です。何が含まれるのかを口頭で確認し、可能であれば別紙の業務一覧として添付してもらってください。
2. 報酬規定と支払時期
| 項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 月額顧問料 | 金額、支払日、支払方法(口座振替か振込か) |
| 決算料 | 金額または算定基準、請求のタイミング |
| 臨時業務報酬 | 税務調査立会い、年末調整、個人の確定申告などの単価 |
| 消費税・源泉徴収 | 表示金額が税込か税抜か、源泉徴収後の手取り額か |
決算料は事務所によって幅が大きく、月額顧問料の4〜6か月分(金額にして15万〜30万円程度)というのが実務上よく見る水準です。月額だけを比較すると判断を誤るため、月額顧問料×12+決算料の年間総額で並べてください。相場の詳細は税理士の顧問契約料金相場|法人・個人別の費用目安で解説しています。
3. 契約期間と自動更新の有無
多くの顧問契約は1年更新です。確認すべきは次の2点です。
- 自動更新条項:申し出がなければ自動的に1年延長されるか
- 契約開始日と担当する決算期:どの事業年度の決算から担当するのか
期の途中で契約する場合、その期の決算から担当するのか、翌期からなのかで決算料の扱いが変わります。ここが曖昧だと、初年度の請求額で認識のずれが生じます。
4. 別料金になりやすい業務
「顧問料に含まれている」と思われがちで、実際には別料金であることが多い業務です。
- 年末調整・法定調書の作成:従業員数に応じた別料金が一般的
- 税務調査の立会い:日当と修正申告書の作成料が別に設定されていることが多い
- 資金繰り表の作成・融資サポート:コンサルティング業務として別枠になる場合がある
- 経営者個人の確定申告:法人の顧問契約とは別契約になることが多い
- 相続・事業承継・組織再編:ほぼ確実に別料金
これらが別料金である事務所が不誠実というわけではありません。問題は、契約時に説明がなく、請求書で初めて知ることです。税務調査の立会費用の相場感は税務調査の立会いは税理士に任せるべき?費用相場と当日の流れをご参照ください。
5. 資料提出の期限と遅延時の取扱い
税理士が期限内に申告するには、事業者側の資料提出が前提になります。
- 毎月何日までに資料を渡すというルールが明記されているか
- 提出が遅れた場合に、特急料金の発生や期限内申告の保証外といった規定があるか
この条項は事業者に不利に見えますが、実務上はむしろ有用です。社内で「いつまでに何を出すか」が決まるため、経理の運用が安定します。
6. 損害賠償の範囲と上限規定
税理士側の過失で追徴課税が生じた場合の賠償について、多くの契約書には「支払済みの報酬額の◯か月分を上限とする」といった上限規定が置かれています。
上限規定があること自体は一般的で、これをもって不誠実と判断する必要はありません。確認しておきたいのは、税理士職業賠償責任保険に加入しているかです。契約時に「万が一の際の補償体制はどうなっていますか」と一言聞いておけば足ります。
7. 書面添付制度への対応可否
税理士法第33条の2に基づく書面添付制度は、申告書に「どのような資料をどう確認して作成したか」を記載した書面を添付する制度です。この書面が添付されている場合、税務署は納税者への調査に先立って税理士に意見を述べる機会を与えることとされています。
すべての事務所が対応しているわけではないため、希望する場合は契約前に確認してください。対応の可否と、追加費用の有無をあわせて聞いておくとよいでしょう。
参考:日本税理士会連合会
8. 解約の方法と予告期間
解約条項は、契約時にこそ確認する価値があります。
- 予告期間:1か月前または3か月前が一般的
- 決算期途中で解約した場合の報酬精算:既払いの顧問料の扱い、決算料の按分
- 即時解約できる条件:どのような場合に予告なしで解約できるか
予告期間が長すぎる(6か月以上など)契約や、中途解約時に残期間分の全額支払いを求める条項がある場合は、その理由を確認してください。
9. 契約終了時のデータ返還ルール
解約時に最もトラブルになりやすいのがデータの引き継ぎです。
- 預けた領収書・請求書などの原本の返還方法と時期
- 会計ソフトのデータそのものを譲渡してもらえるか、それともPDFなどの帳票形式のみか
- クラウド会計を事務所名義で契約している場合、契約を自社に移管できるか
とくに3点目は見落とされがちです。事務所が契約主体になっているクラウド会計は、解約と同時にアクセスできなくなることがあります。次の税理士への引き継ぎコストに直結するため、契約前に確認しておいてください。税理士変更時の注意点は税理士変更のデメリットは5つだけ!リスクを最小限に抑える方法にまとめています。
印紙の要否は契約内容によって判断が分かれる
顧問契約書に収入印紙が必要かどうかは、契約の性質によって扱いが変わります。
継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)に該当する場合、印紙税額は1通につき4,000円です。ただし、契約期間が3か月以内で更新の定めがないものは除かれます。
一方、税理士の顧問契約は法的には委任契約とされることが多く、その場合は課税文書に当たらないという整理もあります。申告書の作成など請負的な性質を含む定めがあるかどうかで判断が分かれる領域です。この点は契約書の文言ごとに判断が必要になるため、断定は避け、契約書を作成する事務所または所轄税務署にご確認ください。なお、電子契約であれば印紙税は課されません。
参考:国税庁 No.7104 継続的取引の基本となる契約書
契約書の説明の仕方に、その事務所の姿勢が出る
最終的に判断材料になるのは、質問したときの反応です。
不明点を尋ねたときに、専門用語を噛み砕いて説明してくれるか。税理士側の責任範囲や別料金になる業務といった、事務所にとって都合のよくない話も先に伝えてくれるか。「そこは大丈夫です」で流される場合は、契約後も同じ対応になる可能性があります。
契約書を送ってこない、あるいは口頭の合意だけで進めようとする事務所は避けたほうが無難です。税理士の選び方全般は顧問税理士とは?契約前に知っておきたいメリット・料金相場・失敗しない選び方をご覧ください。
よくある質問
Q1. 顧問契約書は必ず交わすものですか?
A. 法律上、書面がなければ契約が成立しないわけではありませんが、業務範囲と報酬をめぐる認識のずれを防ぐために書面化するのが一般的です。契約書を作成しない事務所の場合、少なくとも業務範囲と報酬を記載したメールなど、後から確認できる記録を残しておいてください。
Q2. 決算料の相場はどのくらいですか?
A. 月額顧問料の1〜6か月分、金額にして5万〜20万円程度が実務上よく見る水準です。事務所による幅が大きいため、月額顧問料×12+決算料の年間総額で比較してください。「顧問料が安いが決算料が高い」という料金体系は珍しくありません。
Q3. 契約書に書いていない業務は頼めませんか?
A. 依頼自体は可能ですが、別料金になるのが通常です。契約書に記載のない業務を依頼するときは、事前に見積もりを取ってから進めてください。口頭で依頼して後から請求額を見て驚く、というのが最も多いパターンです。
Q4. 途中で解約したら、支払った顧問料は戻ってきますか?
A. 契約書の定めによります。多くは予告期間(1〜3か月)を置いての解約となり、既払いの顧問料は返還されないのが一般的です。決算期途中で解約する場合、決算料の按分をどうするかも確認しておいてください。この点が書かれていない契約書は、事前に取り決めておくことをおすすめします。
Q5. 契約書の内容が不利かどうか、自分では判断できません。
A. まず「業務範囲」「報酬(年間総額)」「解約予告期間」「データ返還」の4点だけを確認してください。この4つが明記されていれば、実務上のトラブルの大半は防げます。それ以外の条項で気になる点があれば、その場で質問し、回答を記録に残しておくとよいでしょう。
参考資料
顧問契約書は、税理士との関係を縛るための書類ではなく、お互いの前提をそろえるための書類です。確認すべきは9項目ありますが、優先度が高いのは業務範囲、年間総額としての報酬、解約予告期間、そして契約終了時のデータ返還の4点です。
この4点が明確であれば、あとは実際のやり取りの中で関係を作っていけます。逆にここが曖昧なまま始まった契約は、数年後に必ず問題として表面化します。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績をもとに、業務範囲と料金を明示した契約からご支援しています。お手元の契約書で気になる点がある方も、お気軽にご相談ください。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の税務顧問とクラウド会計導入支援を専門とする。
最終更新日: 2026年7月28日
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