家賃は増えたのに、税金を払うと手元にあまり残らない。資産管理会社をつくるべきか迷ったら、家賃収入より先に、経費を引いた所得と資金の使い道を確認しましょう。法人化の分かれ目は、個人と会社の税金・社会保険・維持費を含めて、必要な資金を残せるかどうかです。この記事では、所得税率の読み方と比較の手順を整理します。
この記事は「不動産の税金の連載|大家さん・資産管理会社・不動産会社」の第4回です。
家賃収入ではなく、経費を引いた所得から考える
資産管理会社とは、ここでは不動産の保有や管理を担う会社を指します。「家賃がいくらになったら設立する」という一律の金額では、判断しにくいものです。同じ家賃収入でも、経費や生活に必要なお金が違うためです。
個人の不動産所得は、原則として総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。必要経費は、賃貸収入を得るために直接必要で、私生活の支出と区分できる費用です。貸付資産の固定資産税、損害保険料、修繕費などが例として挙げられます。
次は説明のための架空の例です。年間の家賃収入を1,200万円とし、ほかの収入はないものとします。税務上の必要経費が400万円なら差額は800万円です。経費が850万円なら差額は350万円になります。いずれも青色申告特別控除を差し引く前の数字で、所得税を計算する課税所得とは異なります。
また、所得と預金の増減も分けて見ます。減価償却費は、建物などの取得費を一定の方法で各年の経費に配分するものです。経費計上と同じ時期に、同額の現金を払うとは限りません。税務上の所得を示す表と、借入返済や生活費まで含めた資金繰り表を用意すると、比較の出発点がそろいます。減価償却の基本は国税庁の解説で確認できます。
不動産所得や青色申告の基本は、大家・不動産オーナーの確定申告と節税|不動産所得・減価償却・青色申告を税理士が解説で扱っています。
所得税率は「課税所得」と超過累進で読む
課税所得とは、税率を当てはめる対象となる所得です。不動産所得は、他の対象所得と合算して税額を計算する「総合課税」の対象です。原則として他の総合課税の所得と合わせ、基礎控除や社会保険料控除など、所得から差し引く「所得控除」を反映します。個人事業も営んでいる方は、不動産所得だけで税率を判断しないことが大切です。
所得税は、所得の区分ごとに高い税率を適用する超過累進課税です。2026年10月時点の一般的な所得税率は、次のとおりです。分離課税の所得などは、この表と扱いが異なります。
| 課税所得の範囲 | 所得税率 |
|---|---|
| 195万円未満 | 5% |
| 195万円以上330万円未満 | 10% |
| 330万円以上695万円未満 | 20% |
| 695万円以上900万円未満 | 23% |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% |
| 4,000万円以上 | 45% |
課税所得は1,000円未満を切り捨てて判定します。表の税率を所得全体にそのまま掛けた額が、納める所得税になるわけではありません。速算表を使うときは、税率を掛けた後に、その区分の控除額を差し引きます。
次は説明のための架空の例です。課税所得が700万円なら、所得税は「700万円×23%-63万6,000円=97万4,000円」です。税額控除を適用する前の計算で、復興特別所得税や住民税は含みません。2026年分の復興特別所得税は、原則として基準所得税額の2.1%です。税率と速算表は国税庁「所得税の税率」に基づきます。
法人化の試算では、現在の所得にかかる税率を、所得全体の負担割合と取り違えないようにします。個人側の所得が減る案は、その減少前後の税額を計算して比較しましょう。「今の税率×個人側の所得の減少額」だけでは、税額差を大きく見積もるおそれがあります。
法人税の15%だけでは有利・不利を決められない
法人側は、会社の税務上の所得に対する税額を計算します。2026年10月時点では、期末の資本金が1億円以下などの要件を満たす普通法人(一般的な株式会社や合同会社など)について、年800万円以下の所得部分の法人税率は原則15%、年800万円を超える部分は23.2%です。
大企業の完全子会社などは対象から除かれ、軽減税率の適用が除外される事業者にも別の扱いがあります。また、所得が年10億円を超える事業年度では、年800万円以下の部分は17%です。資本金だけで税率を決めず、国税庁の適用区分を確認する必要があります。
さらに、会社には法人住民税、法人事業税、地方法人税なども関係します。法人住民税には、所得だけで決まらない「均等割」という税負担があります。所在地や資本金等の額、従業者数などを確認し、年間の負担を見積もります。「法人税率が個人の所得税率より低い」という比較だけでは、全体の負担差は分かりません。
2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税の制度も始まっています。所得に対する法人税を課される法人は、税額がゼロでも同税の申告が必要です。法人化後の試算では、事業年度に応じた税制を使いましょう。
| 比較する点 | 個人で保有する案 | 会社で保有する案 |
|---|---|---|
| 税額を見る単位 | 不動産所得と他の総合課税の所得を合わせて確認 | 会社の所得と、社長が受け取る報酬等を分けて確認 |
| 負担の見積もり | 所得税に加え、住民税や現在の社会保険などを確認 | 法人税以外の税と、会社・個人の社会保険などを確認 |
| 資金の目的 | 生活資金と賃貸事業の資金を分けて予算化 | 会社に残す資金と、個人へ支払う資金を分けて予算化 |
| 追加の費用 | 現在の保有・管理に必要な費用を把握 | 設立時の支出と、会社を維持する費用を追加 |
この表は、物件を持つ主体を比較するための整理です。個人の物件を会社が管理する案は、会社で物件を保有する案と前提が違うため、別に試算します。
役員報酬・社会保険・維持費まで含めて考える
個人の生活費と、会社の再投資資金を分ける
会社に残したい資金が多いのか、家賃収入を生活費として使いたいのかを先に整理します。法人化後も生活費の大部分を会社から受け取る予定なら、その受け取り方まで含めて試算しなければ比較が終わりません。会社の預金残高が増える計画と、社長個人の手元資金が増える計画を区別しましょう。
役員報酬は、役員の職務に対して会社が支払う給与です。会社の税務上の経費である「損金」に算入するには、定期同額給与などの要件があります。定期同額給与とは、原則として1か月以下の一定の期間ごとに同額を支払う給与です。要件に該当しても、不相当に高額な部分は損金になりません。利益が多かった年だけ、期末に支給額を増やす前提で試算しないようにします。
社会保険と毎年の事務負担を予算に入れる
法人事業所で常時従業員を使用する場合は、事業主のみの場合を含め、健康保険・厚生年金保険への加入が義務づけられています。社長だけの会社でも確認が必要です。事業所の適用と本人の加入資格を分け、役員報酬や働き方、年齢などに応じて判定します。
厚生年金保険料は、本人と事業主が折半して負担します。本人分だけを比較すると、会社側の支出を見落とします。現在の保険負担と法人化後の負担を、会社・個人の両方で並べましょう。負担の扱いは日本年金機構の説明で確認できます。
設立時の支出に加え、会計ソフト、記帳、決算・申告、給与計算などの維持費も見積もります。社長自身が作業する部分は、必要な時間も書き出します。設立した年に出る支出と、毎年続く支出を分けると、長く保有した場合の判断がしやすくなります。
法人化の分かれ目を確かめる試算とチェックリスト
まず、個人のまま保有する案を基準として作ります。次に、会社で保有する案や管理を任せる案を、実行できる契約と業務の範囲で作ります。家賃や空室の見込みを同じ条件にし、法人化する案だけ楽観的な数字にしないことが大切です。
- 賃料一覧と決算書・申告書から、収入、経費、所得を整理します。
- 個人の他の所得と所得控除を反映し、現在の税額を確認します。
- 会社の業務、収入、経費、役員報酬、会社に残す資金を見積もります。
- 会社と個人の税・社会保険、維持費を合算し、生活費と事業資金が足りるか確認します。
- 設立時の支出を分け、空室や修繕が増える場合も比較します。
初年度の税額差だけで結論を出さず、通常の年と支出が重なる年を並べます。比較表には、税引後の合計額だけでなく、「個人が使える資金」と「会社に残す資金」を別々に記載します。同じお金を両方に計上しないようにしましょう。
自社・ご自身の資料で確かめるチェックリスト
- 家賃収入と、経費を引いた所得を区別できているか。
- 不動産以外の所得と所得控除を試算に反映したか。
- 誰が物件を所有し、誰が貸主となる計画かを整理したか。
- 役員報酬の支給計画と、社長個人の生活費が合っているか。
- 社会保険の会社負担と本人負担を確認したか。
- 設立費用、維持費、既存物件を移す場合の税・費用を分けて見積もったか。
- 借入返済、空室、修繕、次の取得に必要な資金を残せるか。
管理を任せる案と会社で所有する案の違いは、不動産管理会社の設立と節税|3つの方式・管理料の適正額・否認リスクを税理士が解説で整理しています。ここでは方式や管理料を先に決めず、比較に使う条件をそろえることを優先します。
所得が継続して見込め、維持費を払っても事業資金を残せるなら、法人化を具体的に検討する材料になります。一方、所得の変動が大きい場合や生活費への支出が多い場合は、個人保有を続ける案も同じ条件で評価しましょう。税額差が小さいときは、管理の手間や今後の取得計画も判断材料にします。
まとめ
資産管理会社をつくる分かれ目は、家賃収入だけでは決まりません。経費を引いた所得と、他の所得・所得控除を踏まえた課税所得から確認しましょう。個人と会社の税金に、社会保険、設立費用、維持費を加えて比較することが大切です。生活費と再投資資金を分け、空室や修繕が増える場合も含めて判断しましょう。
よくある質問
Q. 家賃が年1,000万円になったら会社をつくるべきですか?
その金額だけでは決まりません。家賃収入が同じでも、必要経費や他の所得、生活に使う資金によって結果が変わります。年1,000万円は、この質問で想定した家賃の額で、法人化の税法上の基準ではありません。
Q. 所得税率が33%なら、法人化で負担は下がりますか?
税率だけでは判断できません。所得税は超過累進で計算し、会社には法人税以外の税もあります。役員報酬を受け取る個人側の税・社会保険まで含め、法人化前後の金額を比べる必要があります。
Q. 会社をつくる前に、どんな資料をそろえればよいですか?
直近の決算書・確定申告書、賃料一覧、借入金の返済予定表、修繕計画を用意します。あわせて、生活費として必要な額と、今後の物件取得に回したい額を書き出します。保有を続ける案と法人化する案を、同じ条件で比べるための資料になります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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