「所有物件が増えて所得税の税率が上がってきた」「不動産管理会社をつくれば節税になると聞いたが、どこまで本当なのか」。賃貸物件をお持ちのオーナーの方から、法人化についてこうした相談をいただきます。不動産管理会社の設立は、確かに有効な選択肢になり得ます。一方で、設計を誤ると税務調査で管理料を否認され、かえって不利になるケースもあります。
本記事では、不動産管理会社による節税の仕組み、3つの方式の違い、管理料の適正額をめぐる実際の判断、設立・維持コストと判断の順序までを、2026年7月時点の国税庁などの一次情報に基づいて整理します。年度で取り扱いが変わる数値は、その旨を明記します。
家賃収入がある方が資産管理会社をつくる判断は、資産管理会社をつくる分かれ目|家賃収入と所得税率で考えるで詳しく解説しています。
不動産管理会社で節税できる仕組み
不動産管理会社の節税効果は、大きく3つの要素から生まれます。
ひとつめは所得の分散です。個人に集中していた不動産所得の一部を、管理料という形で法人に移します。さらに法人から家族へ役員報酬を支払うことで、ひとりに集中していた所得が複数人に分かれ、累進税率の高い部分を削ることができます。
ふたつめは給与所得控除の活用です。個人が直接受け取る不動産所得には給与所得控除がありませんが、法人から給与として受け取れば給与所得控除が使えます。給与所得控除の最低額は令和8年分・令和9年分は74万円で(給与収入220万円以下の場合。令和7年分は65万円。上限は195万円)、この分だけ課税所得が圧縮されます。
みっつめは税率差です。所得税は累進課税で税率が上がっていきますが、法人税は中小法人であれば比較的低い水準に収まります。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 課税所得に応じた累進税率(最高45%。これに住民税10%が加わる) |
| 法人税(資本金1億円以下の中小法人・年800万円以下の部分) | 15%(令和7年4月1日以後に開始する事業年度で所得金額が年10億円を超える場合は17%) |
| 法人税(同・年800万円超の部分) | 23.2% |
個人の所得税・住民税の負担率が法人の実効税率を上回る水準まで来ていれば、法人化を検討する意味が出てきます。逆に言えば、その水準に達していないうちに法人をつくると、後述する維持コストの分だけ損になります。
3つの方式の違い:管理委託・サブリース・不動産所有
不動産管理会社には代表的な3つの形があり、節税効果とリスクの大きさが方式ごとに変わります。ここを理解せずに「管理会社をつくる」と決めてしまうのが、最も多い失敗です。
| 方式 | 仕組み | 法人に移る収入 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 管理委託方式 | 個人が物件を所有したまま、管理業務だけを法人に委託する | 管理料のみ | 導入は容易だが、法人に移せる金額が小さい |
| サブリース方式(一括転貸) | 法人が個人から物件を一括で借り上げ、入居者に転貸する | 転貸差益 | 法人が空室リスクを負うため、管理委託より多くを移せる |
| 不動産所有方式 | 物件そのものを法人が所有する | 賃料収入の全額 | 効果は最大だが、個人から法人への移転時に譲渡所得課税・登録免許税・不動産取得税が生じる |
節税効果は「管理委託方式 < サブリース方式 < 不動産所有方式」の順に大きくなり、導入の手間と初期コストも同じ順に重くなります。物件を法人に移す不動産所有方式は、移転時のコストを回収できるだけの保有期間と収益規模があるかが判断の分かれ目になります。すでに保有している物件を移すのは負担が大きいため、実務では「これから取得する物件は法人で買う」という組み立てを取ることも多くあります。
管理料に「安全な%」は存在しません
インターネット上には「管理料は賃料の8%まで、サブリースなら15%までなら否認されない」といった説明が数多く見られます。しかし、法令にそのような基準はありません。パーセンテージだけを根拠に管理料を決めるのは危険です。
根拠となる規定は、所得税法第157条の同族会社等の行為又は計算の否認です。国税庁の資料では、この規定は「同族会社たる法人の選択した行為又は計算が実在し、私法上有効なものであっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から税務計算上これを否認し、通常あるべき行為又は計算に引き直して税法を適用するもの」と説明されています。
実際に、不動産管理料が否認された事例が国税不服審判所の公表裁決事例として残っています。そこでは、原処分庁(税務署側)が算定した同業者の不動産管理料割合が適正と認められ、それを基に計算した所得税額が申告額と著しくかい離していることから、管理委託契約に基づく行為・計算は所得税の負担を不当に減少させる結果となっていると判断されています。
ここから読み取れる実務上の要点は次のとおりです。
- 判断の基準は「何%か」ではなく、同業者の管理料水準と比べて説明できるかどうか
- 前提として、法人が実際に管理業務を行っている事実が必要
- 契約書があるだけでは足りず、業務の実態を示す記録が求められる
つまり、管理会社の設立で本当に重要なのは料率の設定ではなく、法人が何をしているかを説明できる状態をつくることです。入居者からの問い合わせ対応の記録、清掃・巡回の履歴、募集条件の決定に関するやりとり、家賃入金の管理台帳といった業務の痕跡を残しておけば、料率の妥当性も自然に説明しやすくなります。逆に、実態のない法人に高い管理料を払う設計は、料率を低く抑えても否認の対象になり得ます。
設立コストと、毎年かかる維持コスト
節税額の計算だけで判断すると、法人を持つこと自体のコストを見落とします。設立時と毎年の両方を押さえておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立時の登録免許税(株式会社) | 資本金の額×7/1000。これが15万円に満たない場合は15万円 |
| 設立時の登録免許税(合同会社) | 資本金の額×7/1000。これが6万円に満たない場合は6万円 |
| 法人住民税の均等割 | 赤字でも毎年発生し、最低でも年7万円程度 |
| 社会保険料 | 役員報酬を支払えば加入義務が生じ、会社負担分が発生する |
| 決算・申告の実務 | 法人税・法人事業税・消費税の申告が毎年必要になる |
管理会社を持つと、家族に役員報酬を出す設計にする場合は社会保険料の会社負担も発生します。「所得税は下がったが、社会保険料の増加で手残りが減った」という結果になることもあるため、税金だけでなく社会保険を含めた手残りで比較してください。
消費税も見落としがちな論点です。居住用物件の家賃は消費税が非課税ですが、管理料は課税取引にあたります。そのため、個人側では非課税だった収入が、法人側では課税売上として積み上がります。管理会社の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じるため、管理料の水準を決める段階で試算しておく必要があります。なお、簡易課税制度を選択する場合、不動産業は第6種事業(みなし仕入率40%)に区分されるのが一般的です。
検討の順序:まず「今の税率」を確認する
不動産管理会社は、つくるかどうかを先に決める話ではありません。判断の順序は次のようになります。
- 現在の不動産所得と、所得税・住民税を合わせた実際の負担率を確認する
- 法人化した場合の税負担・社会保険料・維持コストを含めて、手残りで比較する
- 効果が出るなら、管理委託・サブリース・不動産所有のどの方式が実態に合うかを選ぶ
- 選んだ方式で、法人が実際に担う業務を具体的に定義する
- 業務の記録を残す運用(管理台帳・対応履歴)を最初から組み込む
この順序を踏まずに「節税になると聞いたから」で設立すると、実態のない法人に管理料を払う形になり、税務調査で最も問われやすい状態になります。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績と税務調査対応の経験をもとに、法人化の損益分岐の試算から方式の選定、管理業務の実態づくり、freee・マネーフォワードクラウドでの法人経理の立ち上げまでサポートしています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家賃収入がいくらくらいから不動産管理会社を検討すべきですか?
A. 一律の金額基準はありません。判断材料は所得の絶対額ではなく、所得税・住民税を合わせた現在の負担率と、法人の税負担・社会保険料・維持コストを含めた手残りの比較です。法人には赤字でも年7万円程度の均等割がかかるため、効果が小さいうちは設立しないほうが有利です。
Q2. 管理料は賃料の何%までなら安全ですか?
A. 法令上、安全とされる料率はありません。国税不服審判所の公表裁決事例では、同業者の管理料割合と比較して著しく高いと判断され、否認された事例があります。料率よりも、法人が実際に管理業務を行っている事実と、その記録が残っているかが重要です。
Q3. 管理会社の役員に配偶者や子を入れれば節税になりますか?
A. 所得を分散でき、給与所得控除も使えるため効果は生まれます。ただし、実際に業務に従事していることが前提です。名前だけの役員に報酬を払う設計は否認リスクが高く、加えて社会保険料の負担も増えるため、手残りベースで検証してください。
Q4. すでに持っている物件を法人に移したほうがよいですか?
A. 不動産所有方式は効果が最大ですが、個人から法人への移転時に譲渡所得の課税、登録免許税、不動産取得税が発生します。これらを回収できる保有期間と収益規模があるかが判断の分かれ目です。実務では、既存物件は個人に残し、今後取得する物件を法人で購入する組み立ても選択されます。
Q5. 管理会社をつくると消費税がかかるようになりますか?
A. 居住用物件の家賃は非課税ですが、管理料は課税取引です。管理会社の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じます。管理料の水準を決める段階で、この判定を含めて試算しておくことをおすすめします。
参考資料
- 国税庁:No.5759 法人税の税率
- 国税庁:No.1410 給与所得控除
- 国税庁:No.7191 登録免許税の税額表
- 国税庁:No.6505 簡易課税制度
- 国税不服審判所:公表裁決事例(同族会社の行為又は計算の否認)
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、法人化の設計・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年10月15日
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