夫婦で持つ賃貸物件の家賃が、夫の口座にまとめて入る。親子で共有するアパートの固定資産税を、親が全額払っている。こうした場合も、家賃は原則として各人の持分に応じて計上し、経費は共通の費用と各人に固有の費用を分けて考えます。この記事では、収支の分け方と立替精算の整理方法を解説します。
この記事は「大家さんの税金と確定申告の連載|家賃収入の申告から、法人化・相続まで」の第11回です。
家賃は入金口座ではなく、権利の持分で分けます
持分とは、共有している不動産について各人が持つ権利の割合です。按分とは、その割合などに応じて金額を分けることをいいます。通常の共有物件では、家賃収入も各共有者の持分に応じて計算します。
根拠となる考え方は、資産の収益を誰に帰属させるかを、その資産の真実の権利者で判断することです。国税庁の所得税基本通達12-1は、真実の権利者が明らかでない場合には、名義者を真実の権利者と推定するとしています。
そのため、夫が入居者との連絡を担当し、家賃を一括して受け取っていても、それだけで妻の持分に対応する家賃まで夫の所得になるわけではありません。管理会社の窓口を親に統一している場合も、窓口の担当と収入の帰属は分けて整理します。
まず、土地と建物それぞれの登記事項証明書を確認しましょう。取得時の売買契約書、資金の負担資料、贈与や相続に関する書類も照合します。登記と実際の権利関係に食い違いが疑われる場合は、申告の割合を決める前に取得の経緯を整理する必要があります。
土地と建物で持分が異なる場合には、まとめて同じ割合を使わないよう注意します。建物の賃料と土地そのものの地代も区別し、どの資産の貸付けから生じた収入かを確認してください。ここでは、権利関係に争いがなく、通常の賃貸を行う共有物件を前提に説明します。
国税庁の不動産所得の説明に沿って、総収入金額から必要経費を差し引いて求めます。共有の場合は、各人に帰属する収入と経費を整理することが出発点です。全体の仕組みは、大家・不動産オーナーの確定申告と節税|不動産所得・減価償却・青色申告を税理士が解説で説明しています。
経費は「物件に共通する費用」と「個人の費用」を区別します
経費の割合は、通帳からお金を出した人だけで決めません。共有物に関する管理費用などは、民法253条1項により、持分に応じて負担することが原則です。税務上も、その費用が誰の賃貸収入を得るためのものかを確認して計上します。
| 項目 | 分け方の基本 | 確認する資料・注意点 |
|---|---|---|
| 物件全体の固定資産税、火災保険料 | 賃貸に対応する共通費を原則として持分で按分 | 通知書・保険契約書と、各人の負担額を照合 |
| 管理会社に支払う物件全体の管理料 | 共通の管理業務に対応する費用を持分で按分 | 送金明細で家賃と相殺されていても、収入と費用を区別 |
| 修繕のための支出 | 対象となる資産と工事内容を確認して負担額を整理 | 支出の全額がその年の経費になるとは限らない |
| 借入金の利息 | 各人の借入れと賃貸業務との対応関係から判断 | 借入契約、資金使途、返済予定表、実際の負担を確認 |
| 借入金の元本返済 | 必要経費に含めない | 返済額を元本と利息に分ける |
| 各人が個別に支出する費用 | その人の賃貸業務に必要な範囲を個別に判断 | 交通費などの目的、日付、対象物件を記録 |
たとえば、代表者が物件全体の固定資産税をまとめて払っても、他の共有者が負担すべき部分まで代表者の必要経費にできるとはいえません。共通の支出を誰が立て替えたかと、各人が負担すべき金額を別々に記録します。
自宅として使う部分が混じる物件では、家事上の費用を除く整理も必要です。持分で分けさえすれば支出全額が経費になる、という扱いではありません。費用の対象と賃貸に使う範囲を確かめてから、共有者ごとの金額を計算します。
借入金と減価償却費は、別の資料で確認します
国税庁の記帳案内でも、借入金の元本返済は必要経費にならないと説明されています。賃貸用資産の取得など、業務のための借入金利息は必要経費になりますが、他の共有者の取得資金まで負担している場合は、その人の経費といえるかを別に検討します。
金融機関との契約で誰が債務者か、共有者間で誰がどの部分を負担するか、実際に何の取得に使ったかを確認しましょう。連帯債務だから利息を一律に折半する、引落口座が自分だから全額計上する、という決め方は避けます。
減価償却は、建物などの取得費を各年の経費に配分する手続です。土地は減価償却の対象になりません。共有では各人の取得価額などの確認も必要です。詳しい計算は、中古アパートの減価償却|耐用年数の出し方と、建物と土地の分け方で扱っています。
架空の例で確認する按分と、代表口座での精算
次は説明のための架空の例です。夫婦の持分を夫60%、妻40%とします。年間の家賃収入は600万円です。物件全体の共通経費は200万円で、必要経費にできる管理料、税金、保険料、減価償却費などを含むものとします。
さらに、それぞれが自分の持分の取得のために借りた金融機関への利息が、夫30万円、妻20万円あるとします。この利息は共通経費200万円には含めません。全期間が賃貸用で、年中の持分変更や他の個別経費はないものとします。
| 項目 | 夫・持分60% | 妻・持分40% |
|---|---|---|
| 家賃収入600万円の按分 | 360万円 | 240万円 |
| 共通経費200万円の按分 | 120万円 | 80万円 |
| 各人の借入金利息 | 30万円 | 20万円 |
| 青色申告特別控除前の不動産所得 | 210万円 | 140万円 |
この例では、夫は360万円から120万円と30万円を差し引きます。妻は240万円から80万円と20万円を差し引きます。個人ごとの利息を混ぜて物件全体の経費にすると、借入れの実態によっては各人の所得を誤るため、計算欄を分けておくと確認しやすくなります。
所得の計算表と、現金の精算表を分けましょう
夫の口座で家賃をまとめて受け取る場合でも、妻に帰属する家賃を区別できる記録を作ります。共通費の立替額を差し引いて妻へ送金するなら、家賃の配分額、妻が負担する費用、実際の送金額を並べて残してください。
ここで、表の所得額をそのまま送金額にしないことが大切です。減価償却費には、その年の現金支出がありません。一方、ローン元本の返済は現金が減っても必要経費にはなりません。税務上の所得と、共有者間で精算する現金の額は一致しないことがあります。
実務では、次の流れで資料をつなぐと整理しやすくなります。これは管理方法の一例であり、共有物件専用の法定様式を示すものではありません。
- 管理会社の明細などから、物件全体の家賃と差し引かれた費用を把握します。
- 共通の収支と各人に固有の収支を分け、各人の所得を計算します。
- 代表口座に残る他の共有者のお金と、立替額を照合します。
- 精算日と送金額を記録し、未精算額があれば翌月以降に引き継ぎます。
管理会社からの振込額だけを見ると、差し引かれた管理料などが見えにくくなります。入金額と収入額を混同しないよう、明細に戻って確認します。家族への精算送金も、元の家賃を計上済みなら、新たな家賃収入や追加の経費として重ねて計上しないようにします。
親族間の管理料や肩代わりは、按分とは別に考えます
管理を担当する家族への支払い
家族が管理を多く担当していても、それだけで家賃の帰属割合を変えることはできません。また、管理の対価を払えば、その全額が支払った人の必要経費になるとも限りません。
生計を一にするとは、日常生活の費用を共通にする関係を指す税務上の考え方です。同居だけが条件ではなく、生活費などを継続して送金する別居の親族も該当する場合があります。生計を一にする配偶者や親族への給与、地代家賃などは、原則として必要経費になりません。給与については青色事業専従者給与などの制度がありますが、対象や要件を別に確認する必要があります。
共有費用を実費で立替精算することと、家族に報酬を払うことを、帳簿上も分けましょう。摘要には「管理料」とだけ書かず、外部の管理会社への支払いなのか、共有者への立替金の返済なのか、家族への対価なのかが分かる内容を残します。
他の共有者の負担を引き受ける場合
立替精算が終わっていないというだけで、直ちに贈与と決まるわけではありません。ただし、他の共有者の返済義務を無償で免除したり、その人の債務を対価なく肩代わりしたりすると、贈与税の検討が必要になります。
国税庁は、無償などによる債務免除や第三者の債務の弁済で受けた利益を、原則として贈与で取得したものと扱うと説明しています。立替金を記録するだけで判断を終えず、返してもらう約束や実際の精算状況も確認しましょう。
申告前に共有者全員で確認したいチェックリスト
申告書を作る前に、次の資料と計算を照合しましょう。家族のうち誰かが集計を担当する場合でも、各人が自分の数字の根拠を説明できるようにしておくと、翌年への引継ぎも円滑になります。
- 土地と建物それぞれの所有者・持分を、登記と取得資料で確認したか。
- 家賃の入金先や管理担当者だけを理由に、収入を片方へ寄せていないか。
- 物件全体の家賃と、各人に配分した家賃の合計が一致しているか。
- 共通経費に、自宅部分や他の物件の支出が混じっていないか。
- 借入金利息を個人別に検討し、元本返済を経費から除いているか。
- 減価償却費の資料を各人の計算と照合し、重複を避けているか。
- 他の共有者分の立替額、精算済みの額、未精算額を区別したか。
- 家族への報酬と、外部への支払いの立替精算を区別しているか。
登記資料、管理会社の明細、請求書、支払記録、按分表は、対象の物件や取引がつながるよう整理します。家族の片方の計算だけを直した場合は、相手の計算にも同じ修正が反映されているか確認してください。物件全体の金額と個人別の合計を照合すると、重複や計上漏れを見つけやすくなります。
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まとめ
共有名義の賃貸物件では、原則として権利の持分に応じて家賃収入を分けます。経費は共通費と個人に固有の費用を区別し、引落口座だけで帰属を決めないことが大切です。代表者が入出金をまとめる場合は、所得の計算と現金の精算を分けて記録しましょう。親族への報酬や負担の肩代わりは別の税務論点になるため、登記、契約、資金移動を照合して整理してください。
よくある質問
Q. 家賃が夫の口座に入る場合、夫が全額を申告できますか?
通常の共有物件では、夫の口座に入ることだけを理由に全額を夫の収入にはできません。妻の持分に対応する家賃は妻の収入として整理します。夫の口座で預かる妻の分と、夫自身の収入を区別してください。
Q. 親が固定資産税を全額払えば、親が全額を経費にできますか?
支払った事実だけでは決まりません。物件に共通する費用は原則として持分に応じた負担額を確認します。子の負担分を立て替えた場合は、その金額と精算状況を別に記録します。
Q. 家族で合意すれば、今年だけ家賃を好きな割合で分けられますか?
税負担に合わせて申告上の割合だけを変えることはできません。通常の共有では、資産の真実の権利者とその持分に基づき収入を整理します。持分自体を移す場合は贈与や売買などの別の検討が必要です。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日
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