「もうすぐ決算なのに、まだ何も節税対策をしていない」——そんな焦りを感じている経営者は少なくありません。確かに、年度初めから計画的に取り組む節税対策がベストです。しかし、決算直前であっても実行可能な節税手法は存在します。
本記事では、決算期末から逆算して「3ヶ月前」「1ヶ月前」「直前(1週間以内)」の3フェーズに分けて、実行可能な節税対策を優先度順に解説します。時間的制約の中で最大限の効果を引き出すための実務ガイドとしてご活用ください。
なぜ決算前に慌てることになるのか?毎期同じ失敗を繰り返さないために
節税対策の第一歩は、「当期の課税所得がいくらになりそうか」を正確に把握することです。感覚や前年比較ではなく、最新の試算表をもとに税引前利益を計算し、そこから課税所得の見込みを算出してください。
リーパル会計事務所では、freee・マネーフォワードクラウドを活用したリアルタイムな月次決算を実施しており、決算前にこうした把握が即座にできる体制を整えています。顧問税理士なしで進める場合でも、最新の損益計算書を会計ソフトから出力したうえで対策の優先順位をつけることを強く推奨します。
法人の実効税率は以下の通りです。
| 課税所得 | 法人税率(実効税率概算) |
|---|---|
| 800万円以下の部分 | 約22〜23% |
| 800万円超の部分 | 約33〜34% |
800万円の壁を意識した対策が、最も節税効果を高める観点から重要です。
残り3ヶ月あれば間に合う節税手法——まず経営セーフティ共済を動かす
対策1:役員報酬の改定(3ヶ月以内が期限)
役員報酬の変更は、事業年度開始から3ヶ月以内に決議した場合のみ損金算入が認められます。つまり、3月決算の法人であれば6月末までが変更の期限です。
決算3ヶ月前(期末の9ヶ月後=翌期の開始直後)の時点では翌期向けの話になりますが、「当期末に近い3ヶ月前」で残れる時間を考えると、まず現状を確認することが重要です。当期の役員報酬が適正かを試算表で確認し、翌期に向けた変更を検討してください。
対策2:経営セーフティ共済への加入・増額・前納
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、加入月の掛金から損金算入できます。決算期末の3ヶ月前であれば、加入手続きを完了させれば数ヶ月分の掛金を損金に計上できます。
さらに、1年分の前払いが可能で、前払い分も全額損金算入が認められます。たとえば月20万円掛けている場合、決算期末月に1年分前払いすると最大240万円の追加損金を計上できます。
対策3:設備投資(少額減価償却資産の即時償却)
取得価額が30万円未満の資産は、青色申告書を提出する中小企業者(従業員400人以下)であれば取得した事業年度に全額費用計上できます(年間合計300万円まで)。本特例は令和8年度税制改正により取得価額の上限が40万円未満に引き上げられ、適用期限も令和11年3月31日まで延長されました。
決算3ヶ月前の段階であれば、業務上必要な設備・ソフトウェア・PCなどの購入を検討できます。「節税のために不要なものを買う」のは本末転倒ですが、近い将来の購入予定があるものを当期中に前倒しすることには合理性があります。
決算直前の節税は、「打ち手の総量」よりも「実行可能性の見極め」がすべてです。残り3ヶ月で何が間に合い、1ヶ月で何が間に合うか、直前1週間で本当に動かせる手は何か。この時間軸の整理ができていないまま動くと、書類整備が追いつかず否認リスクが上がるか、時間切れで何もできずに終わります。リーパル会計事務所では、決算月の3ヶ月前と1ヶ月前にチェックインを入れて、フェーズごとに「やる・やらない」を経営者と一緒に決めていく運用を顧問先で標準化しています。
残り1ヶ月で動かせる対策——決算賞与・評価損・修繕費の3点確認
対策4:決算賞与の未払計上
従業員に対して支給する決算賞与は、一定の要件を満たせば未払計上のまま当期損金に算入できます。
要件
- 決算期末までに各従業員への支給額を書面または電子手段で通知していること
- 決算期末から1ヶ月以内に実際に支給すること
1ヶ月前の段階であれば、期末日までの通知と期末後1ヶ月以内の支払いをスケジューリングできます。賞与は多くの場合、従業員のモチベーション向上にもつながるため、一石二鳥の施策です。
通知は書面やメールで支給額を明示し、記録を残しておくことが必須です。口頭のみの通知は否認される可能性があります。
対策5:不要在庫・不良在庫の評価損計上
販売見込みのない在庫や品質劣化した在庫は、棚卸資産の評価損として損金算入できる可能性があります。評価損を計上するためには、廃棄・売価引き下げの実態があること、または市場価格が著しく下落していることが条件です。
在庫を棚卸し、実際に不良・陳腐化している商品がある場合は、証拠写真や廃棄記録を残したうえで評価損を計上してください。
対策6:不良債権の貸倒損失計上
回収見込みのない売掛金・貸付金は、貸倒損失として損金算入できます。ただし、法的に回収不能が確定した場合(破産・強制執行が空振り等)のほか、長期未回収で連絡が取れない場合なども一定の要件で計上可能です。
回収見込みのない債権がある場合は、早急に弁護士や税理士に相談して貸倒処理の可否を判断してください。
対策7:修繕費・消耗品の前倒し計上
決算前に修繕が必要な設備・什器がある場合、決算期内に工事・修理を完了させることで当期の修繕費として計上できます。ただし、資産価値を高める修繕の場合は資産計上が必要となる場合があります。また、消耗品は購入した時点で費用計上が可能です(ただし、大量購入による在庫形成は棚卸資産として扱われる可能性があります)。
残り1週間でも手遅れではない——未払費用・短期前払費用を見落とすな
対策8:未払費用の計上
決算期末時点でサービスを受けているが請求書が未達の費用は、未払費用として当期に計上できます。
対象となる費用の例:
- 社会保険料の会社負担分(翌月納付分)
- 電気・ガス・通信費(締め日の関係で翌月請求分)
- 顧問料(月末締め翌月払い)
これらは会計処理上の正確性の問題でもありますが、決算直前に漏れなく計上することで課税所得の圧縮につながります。
対策9:短期前払費用の特例活用
翌期以降のサービスに対して前払いした費用は、原則として前払費用(資産)として処理し、サービス提供期間に応じて費用計上します。ただし短期前払費用の特例として、支払日から1年以内に提供が完了するサービスの前払い費用は、支払時に全額費用計上することが認められます。
対象の例:
- 年払いの賃借料(1年以内の前払い)
- 年払いの損害保険料
- 年払いのサーバー利用料・ライセンス料
ただし、毎期継続して同じ処理を行うことが要件です。決算期末直前に契約して前払いし、翌期以降は通常払いに戻すような処理は認められないケースがあります。
対策10:役員への未払報酬の計上(定期同額給与の範囲内)
定期同額給与として決議された役員報酬が、何らかの事情で期末時点で未払いとなっている場合は、未払計上することで当期損金に算入できます。ただし、実際に支払わずに長期にわたって未払いのままにすることは税務上の問題となりかねないため注意が必要です。
時期別・節税対策チェックリスト一覧(10項目)
| 実行タイミング | 対策 | 効果の大きさ |
|---|---|---|
| 3ヶ月前まで | 経営セーフティ共済の加入・前納 | 大(年240万円まで) |
| 3ヶ月前まで | 少額資産(30万円未満)の購入 | 中(年300万円まで) |
| 3ヶ月前まで | 役員報酬の翌期向け改定計画 | 翌期以降に効果 |
| 1ヶ月前まで | 決算賞与の支給額通知・未払計上 | 中〜大 |
| 1ヶ月前まで | 不良在庫・不良債権の整理 | 状況依存 |
| 1ヶ月前まで | 修繕費・消耗品の前倒し計上 | 小〜中 |
| 直前 | 未払費用の計上漏れ確認 | 小〜中 |
| 直前 | 短期前払費用の特例活用 | 中 |
| 直前 | 役員未払報酬の確認・計上 | 小〜中 |
「節税のつもり」が否認になる——決算対策で必ず避けるべき3つの落とし穴
架空経費の計上は絶対禁止
「節税のために領収書を多めに集める」「実態のない外注費を計上する」などの行為は、脱税として刑事罰の対象になり得ます。合法的な節税手法のみを活用してください。
過大な前払いには注意
短期前払費用の特例は合理的な範囲でのみ認められます。節税目的だけで過大な前払いを行うと、税務調査で否認されるリスクがあります。
書類・証拠の整備を怠らない
決算賞与の通知・修繕費の請求書・貸倒損失の証拠書類など、税務調査で必ず確認される書類を整備することが節税対策の最低条件です。
決算月まで残り何週間か、利益見込みはいくらか、未払計上できる支出はあるか。この3点が即答できる状態であれば、まだ打てる手は残っています。逆に「数字を見ていない」状態で残り1ヶ月を切っているなら、最優先は試算表の確定です。リーパル会計事務所では、決算3ヶ月前のタイミングで月次決算の精度を上げ、税負担見込みと節税余地を試算する月次サービスを標準提供しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 決算月でも経営セーフティ共済に加入できますか?
A. 可能です。加入が完了した月の掛金から損金算入できます。前納(1年分の一括払い)を活用すれば、加入月に大きな損金を計上できます。ただし加入手続きに数日かかる場合があるため、早めの対応を推奨します。
Q2. 決算賞与を通知したが、1ヶ月以内に資金が不足して支払えない場合はどうなりますか?
A. 期末後1ヶ月以内の支給が損金算入の要件です。資金不足で期限内に支払えない場合、損金算入が認められない可能性があります。支給前に資金計画を確認することが重要です。
Q3. 決算期末後に行う対策で節税効果が出るものはありますか?
A. 当期の損金に計上できるものは期末日時点が基準です。ただし翌期向けの計画(役員報酬の見直し・共済の加入等)は、決算確定後すぐに着手することで翌期の節税につながります。
Q4. 決算対策は自分でできますか?税理士が必要ですか?
A. 個々の手法の基本理解は可能ですが、自社の利益水準・資金繰り・リスクを総合的に判断して最適な対策の組み合わせを選ぶには専門知識が必要です。特に税務調査を意識した書類整備は専門家のサポートが有効です。
Q5. 法人税の還付を受ける方法はありますか?
A. 前期が黒字で法人税を納付しており、当期が赤字となった場合、「欠損金の繰戻し還付」を申請することで前期納付税額の一部還付を受けられる場合があります(青色申告法人が対象)。決算時に税理士に確認することをお勧めします。
参考資料
決算直前に「何もできなかった」と後悔する経営者の共通点は、数字を追っていなかったことです。逆に言えば、試算表を月次で把握していれば、3ヶ月前から対策を講じる選択肢は必ず残っています。10の対策のうちどれを組み合わせるかは、自社の利益水準・資金繰り・翌期の事業計画次第です。「どの手を使えばいいか自分では判断できない」という段階こそ、専門家への相談が最も価値を発揮するタイミングにほかなりません。
適切な節税手法を年度ごとに選択し続けている法人は、5年・10年のスパンで見ると納税額に数百万円の差が生まれます。今期だけの話ではなく、毎期の習慣にしない理由はほとんどありません。判断に迷う場合はリーパル会計事務所までご相談ください。
決算直前は時間との勝負です。「あと1ヶ月で何ができるか」という相談を毎期この時期に多くいただきますが、3ヶ月前・1ヶ月前・直前1週間のフェーズによって打てる手は大きく変わります。リーパル会計事務所では、決算3ヶ月前から逆算したチェックリストを使って、freee・マネーフォワードクラウドの数字を見ながらタスクを順次潰していく方式で支援しています。決算月が決まっている以上、毎期同じスケジュールを踏める運用に持ち込むのが、最も再現性の高い節税です。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の法人節税・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年5月2日
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