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【2026年】役員報酬の適正額はいくら?月80万・120万円の税と社保を比較

税務

「役員報酬は月いくらが最適か」「法人税と所得税のどちらを優先すべきか」。期初の役員報酬決議を前にして、年商5,000万円〜3億円規模の中小企業経営者から最も多く寄せられる質問です。役員報酬は一度決めると原則1年間動かせず、設定額がずれると法人税・所得税・社会保険料の3つを同時に押し上げる、ボディブローのように効く意思決定です。たとえば役員報酬を差し引く前の利益が2,500万円の一人法人で、月80万円と月120万円を比べると、税金と社会保険料の合計負担は年70万円以上変わります(本記事のシミュレーション①)。

本記事では、リーパル会計事務所が顧問先に対して実際に行っている役員報酬シミュレーションのロジックを、モデルケースの数字とあわせて公開します。法人税率と個人累進税率の交差点・社会保険料の上限・退職金原資との連動まで、設定の根拠を数字で押さえる構成にしました。

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役員報酬の基本:損金算入の3つのルール

なぜ役員報酬の設定が難しいのか

役員報酬は、法人の費用(損金)として認められるかどうかが最初のハードルです。役員への給与は原則として損金不算入ですが、以下の3類型に該当する場合のみ損金算入が認められます。

損金算入が認められる役員給与の3類型

  1. 定期同額給与:毎月同額を支給する給与。最もポピュラーな形式。
  2. 事前確定届出給与:支給時期・金額を事前に税務署へ届け出て支給するボーナス相当。
  3. 業績連動給与:業績指標に連動した給与。上場企業に適用例が多く、中小企業では一般的ではない。

中小企業の多くが活用するのは定期同額給与です。

定期同額給与の変更ルール

定期同額給与は、1か月以下の一定期間ごとに同額を支給する給与です。額を改定できるのは原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までの改定(通常改定)で、その後は改定後の額を毎月同額で支給し続けることが要件です。

途中で金額を変えることは原則として認められません。例外として認められるのは、役員の職制上の地位の変更などの「臨時改定事由」と、経営状況が著しく悪化した場合の減額(「業績悪化改定事由」)に限られます。一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に届かなかったという理由は業績悪化改定事由に当たりません。期中に経営者の気分や状況で変えると、変更後の差額分が損金不算入となるリスクがあります。

毎年の見直しは、事業年度開始日から3ヶ月以内に開催される定時株主総会または取締役会の決議で行うことを徹底してください。

役員報酬の最適額の考え方

法人税率 vs. 個人税率のバランス

役員報酬の金額を決める最大のポイントは、「法人税率と個人所得税率のどちらが低いか」を比較することです。

  • 役員報酬を下げる → 法人の利益が増え、法人税が増える
  • 役員報酬を上げる → 個人の所得が増え、所得税・住民税・社会保険料が増える

資本金1億円以下の中小法人の法人税率は、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.2%です(令和7年4月1日以後開始事業年度。所得が年10億円を超える事業年度は800万円以下の部分も17%)。地方税を含めた実効税率の目安は、800万円以下の部分で約23%、800万円超の部分で約34%です。一方、個人の所得税率は5〜45%の累進課税で、住民税10%と復興特別所得税を合わせると最高で約56%に達します。

比較の軸になるのは、次の1万円にかかる「限界税率」です。個人の課税所得が695万円超900万円以下なら所得税23%+住民税10%で約33%と、法人の約34%とほぼ同水準です。しかし課税所得が900万円を超えると約43%となり、それ以上は報酬を増やすより法人に利益を残すほうが税率上は有利になります。

このため、一般的には以下の目安が考えられます。

法人の予想利益(役員報酬控除後) 役員報酬の方向性
800万円超になりそう 個人の課税所得が900万円以下に収まる範囲で役員報酬を増やし、法人利益を圧縮する余地あり
800万円以下に収まっている 法人側は約23%と低いため、報酬の増額は個人の限界税率(23%帯で約33%)と比べて慎重に判断
赤字になりそう 役員報酬を下げて法人赤字を最小化

ただし社会保険料(健康保険・厚生年金)は役員報酬の標準報酬月額に連動して増加するため、単純に「役員報酬を高くすれば有利」とは言えません。

社会保険料の影響

役員報酬には原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)が適用されます。社会保険料は法人と個人で折半負担のため、報酬が高いほど法人・個人ともにコストが増加します。

保険料率は労使合計で、厚生年金18.3%、健康保険9.85%(協会けんぽ東京支部・令和8年3月分〜)、子ども・子育て支援金0.23%(令和8年4月分〜)で、40〜64歳はさらに介護保険料1.62%が加わります。ただし標準報酬月額には上限があり、厚生年金は報酬月額63.5万円以上で標準報酬月額65万円、健康保険は報酬月額135.5万円以上で標準報酬月額139万円が上限です。報酬月額が63.5万円を超えると厚生年金保険料は増えなくなる一方、健康保険料は135.5万円まで増え続けるため、この2つの上限を踏まえた報酬設計が実務上重要です。

役員報酬の最適額は、法人税率の刻み・所得税の累進刻み・社会保険料の上限という3つの「曲線」が交差する点で決まります。リーパル会計事務所の顧問先では、利益水準ごとにこの3曲線をエクセルでシミュレートし、月額報酬を5万円刻みで動かしたときの世帯手取りの差を可視化したうえで意思決定しています。直感や同業他社の額面に合わせるよりも、数字で根拠を持たせるほうが結果として手取りが10〜30万円/年単位で変わります。

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具体的なシミュレーション

シミュレーション①:年商8,000万円規模の製造業(一人法人)

前提条件

  • 法人の売上:8,000万円
  • 売上原価・経費(役員報酬を除く):5,500万円
  • 役員報酬を控除前の法人利益:2,500万円

パターンA:役員報酬 月80万円(年960万円)の場合

  • 法人の課税所得:2,500万円 − 960万円 = 1,540万円
  • 法人税等(800万円以下の部分約23%・超える部分約34%):約436万円
  • 個人の所得(給与所得控除後):960万円 − 195万円(給与所得控除)= 765万円
  • 個人の所得税・住民税(概算):約173万円
  • 合計税負担:約609万円

パターンB:役員報酬 月120万円(年1,440万円)の場合

  • 法人の課税所得:2,500万円 − 1,440万円 = 1,060万円
  • 法人税等(同上):約272万円
  • 個人の所得(給与所得控除後):1,440万円 − 195万円(給与所得控除の上限)= 1,245万円
  • 個人の所得税・住民税(概算):約362万円
  • 合計税負担:約635万円

※個人の税額は基礎控除(所得税62万円・住民税43万円)のみを差し引いた概算で、社会保険料控除などは考慮していません。所得税には復興特別所得税を含みます。

項目(年額) パターンA(月80万円) パターンB(月120万円)
法人税等 約436万円 約272万円
個人の所得税・住民税 約173万円 約362万円
税負担の合計 約609万円 約635万円
健康保険料+子ども・子育て支援金(労使合計) 基準 約51万円増
厚生年金保険料 上限(標準報酬月額65万円)で同額 上限(標準報酬月額65万円)で同額

税負担だけで比べてもパターンAのほうが約26万円少なく、健康保険料の差(標準報酬月額79万円と121万円の差×10.08%×12か月。東京都・40歳未満の場合)を加えると、負担差は年約77万円に広がります。月120万円にすると個人の課税所得が900万円を超え、限界税率が法人の約34%を上回る約43%の帯に入ることが主な理由です。

ただし法人に残した利益は、将来の配当や役員退職金として受け取る際に改めて課税されます。単年の税負担だけでなく、退職金の原資づくりや会社の資金需要とあわせて判断する必要があり、小規模企業共済・経営セーフティ共済などの組み合わせによっても最適解は変わります。

なお、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税(法人税額から年500万円を控除した額の4%)が加わります。法人税額が500万円以下、課税所得でおおむね2,400万円以下の法人には税額が生じないため、本ケースの課税所得1,540万円・1,060万円ではいずれも影響はありません(税額がゼロでも申告は必要です)。税率の全体像は【2026年】法人税率一覧で整理しています。

シミュレーション②:役員報酬+小規模企業共済の組み合わせ

役員報酬月80万円(年960万円)のケースで、さらに小規模企業共済を月7万円(年84万円)活用する場合:

  • 個人の課税所得から84万円の所得控除が適用される
  • パターンAの課税所得帯(所得税率23%)なら年間で約28万円の節税(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)、所得税率33%の帯なら約37万円
  • 将来の退職金として受け取れるため、老後の保障にもなる

役員報酬の設定だけでなく、関連する共済・保険制度と組み合わせた総合的な設計が重要です。法人経営者が加入できる条件や掛金の考え方は小規模企業共済は法人でも加入できる?で解説しています。

不相当に高額な役員報酬とみなされるリスク

過大役員給与は損金不算入

法人の利益を圧縮しすぎる目的で過大な役員報酬を設定した場合、税務署は「不相当に高額な部分」を損金不算入と判断することがあります。

判断基準は以下の2点です。

形式基準:定款・株主総会での決議額を超えていないか。

実質基準:同業他社・同規模法人における役員報酬水準と比較して著しく高額でないか。

実質基準に照らした判断は税務調査での争点になりやすい領域です。リーパル会計事務所には元国税局OBが在籍しており、税務調査対応の視点から事前に適正範囲の確認を行うことを推奨しています。

期中変更で損金不算入になるケース

定期同額給与は期中の変更が認められないため、業績が想定より大きく伸びたからと期中に増額した場合、増額分が損金不算入となります。この場合、法人税と個人の所得税の両方が課税される最悪のシナリオになりかねません。

役員報酬は事業計画に基づいて年度初めに慎重に設定することが最善です。

役員報酬の決め方:実務フロー

  1. 直近期の試算表・事業計画をもとに今期の法人利益を予測する
  2. 目標とする法人の課税所得(税率の有利な800万円以下を目安に)を決める
  3. ①②の差分を役員報酬の総額とし、月割り額を算出する
  4. 社会保険料・小規模企業共済・経営セーフティ共済の影響を加味して微調整
  5. 株主総会(または取締役会)で決議し、議事録を作成・保存する

役員報酬の最適額は、利益水準・家計の必要額・退職金原資の3要素を同時に動かすため、単年の最適と中期最適がずれることがあります。1年だけで判断せず、3〜5年スパンで「会社→個人」の資金移動の総コストを最小化する目線が必要です。リーパル会計事務所では、決算月から逆算したシミュレーション表を作成し、社長個人の手取りと会社の課税所得をセットで提示するスタイルでサポートしています。

役員報酬の決定は毎年一度きりの重要な経営判断です。「前年通り」で済ませている方は、見えないところで数十万円の機会損失が生じている可能性があります。リーパル会計事務所では役員報酬シミュレーションを初回相談から実施していますので、期初の決議前にぜひご活用ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 役員報酬は毎年変更してよいですか?

A. はい。変更は毎事業年度の開始日から3ヶ月以内に株主総会または取締役会で決議することで可能です。ただし期中の変更は原則として認められないため、年度初めに慎重に決定することが重要です。

Q2. 赤字法人でも役員報酬を払っていいですか?

A. 払うこと自体は法律上問題ありません。ただし会社の資金繰りへの影響があるため、実態に即した金額設定が必要です。赤字が続く場合は減額も選択肢のひとつです。

Q3. 役員報酬と役員賞与の違いは何ですか?

A. 毎月定期支給するものが定期同額給与(役員報酬)、事前確定届出給与として支給するものが役員賞与に相当します。後者は支給時期・金額を事前に税務署へ届け出た場合のみ損金算入できます。届出期限と損金算入の条件は役員賞与で節税する方法|事前確定届出給与の届出期限で解説しています。

Q4. 個人事業主から法人成りした直後の役員報酬の相場はありますか?

A. 一般的には前年の個人所得と同程度か、やや低めに設定して様子を見るケースが多いです。ただし売上規模・事業形態・家計の必要額によって最適解は異なります。

Q5. 役員報酬を月いくらにすると社会保険料が頭打ちになりますか?

A. 厚生年金は報酬月額63.5万円以上で標準報酬月額65万円(上限)となり、それ以上は保険料が増えません。健康保険は報酬月額135.5万円以上で標準報酬月額139万円が上限です(令和8年度)。月65万〜135万円の帯では厚生年金は横ばい、健康保険料だけが増える点を踏まえて金額を決めるのが実務のポイントです。

参考資料

役員報酬は、法人税・所得税・社会保険料・将来の退職金まで連動する経営判断です。期初の決議で「なんとなく前年通り」にしてしまうと、年間で数十万円単位の手取り差が静かに積み重なります。リーパル会計事務所では、freee・マネーフォワードクラウドの試算表データから直接シミュレーションを組み立て、月額報酬5パターン(例:60万円・70万円・80万円・100万円・120万円)の世帯手取りと法人課税所得を1枚の比較表で提示します。

「どの数字を信じて意思決定すれば良いか」が見えると、報酬額の決議は10分で終わります。期初決議の前に一度、リーパル会計事務所までご相談ください。

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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の法人節税・税務調査対応を専門とする。

最終更新日: 2026年9月29日

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