会社を後継者に引き継ぐとき、退職金をいくら受け取れば税負担を抑えられるか、迷っていませんか。役員退職金は、金額や退職の実態などの条件を満たせば、会社の損金にできます。受け取る個人にも税負担を軽くする仕組みがありますが、勤続年数などによって扱いが変わります。
この記事では、適正額の計算や損金にする時期、退任後も会長などとして会社に残る際の注意点を退職前に整理します。
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役員退職金で「手取り」が数百万円変わる仕組み
法人側:損金算入で課税所得を圧縮
役員退職金は、株主総会での決議に基づいて支給される場合、支給が確定した事業年度に全額損金算入できます。数千万円規模の退職金が損金になれば、その年度の法人税負担を大幅に圧縮できます。
これが多くの中小企業において、事業承継・代表交代のタイミングで退職金を活用する理由です。
個人側:退職所得の税制優遇
受け取る役員にとって、退職金は退職所得として課税されます。退職所得には以下の2つの優遇措置があります。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな控除
- 2分の1課税:退職所得控除後の金額をさらに2分の1にして課税所得を算出
ただし、勤続5年以下の役員等が受ける退職金(特定役員退職手当等)については、1/2課税の適用がありません(所得税法第30条第4項)。短期間で多額の退職金を受け取る場合は税負担が大きくなる点に留意が必要です。
退職所得控除額の計算
| 勤続年数 | 控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円未満の場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
例:勤続30年で退職金5,000万円を受け取る場合
- 退職所得控除:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
- 課税対象退職所得:(5,000万円 − 1,500万円)÷ 2 = 1,750万円
- 所得税:1,750万円 × 33% − 153.6万円(控除)= 423.9万円
- 実効税率(退職金5,000万円に対して):約8.5%
役員報酬として同額を受け取った場合に比べ、明確に低い税率で手元に残るのが退職所得の最大の特長です。
適正額の計算方法:功績倍率法
功績倍率法が実務の標準
役員退職金の適正額を算定する方法として、実務上最も広く使われているのが功績倍率法です。
役員退職金の適正額 = 最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
功績倍率の目安
| 役職 | 功績倍率の目安 |
|---|---|
| 代表取締役 | 2.0〜3.0倍 |
| 専務・常務取締役 | 2.0〜2.5倍 |
| 取締役(非常勤除く) | 1.5〜2.0倍 |
| 監査役 | 1.0〜2.0倍 |
これらの倍率は判例・税務調査の実例をもとにした目安です。「代表取締役=最大3.0倍」は一般的な上限として認識されていますが、業績・会社規模・功績の程度によって個別判断がなされます。
計算例
月額報酬80万円・勤続25年・代表取締役(功績倍率3.0倍)の場合:
80万円 × 25年 × 3.0 = 6,000万円
この水準であれば、同業他社の退職金水準と比較しても合理的な範囲として損金算入が認められる可能性が高いです。ただし、功績倍率の選択理由の説明と、その裏付けとなる同業他社比較データを準備しておくことが税務調査への備えとして重要です。
役員退職金の支給は「退職金そのものの設計」だけでは終わりません。同時に法人側でどの期に損金算入するか、退職保険・小規模企業共済の解約とどう組み合わせるか、最終事業年度の利益との相殺をどう取るか——周辺設計まで含めて初めて節税効果が確定します。リーパル会計事務所では、退職前2〜3年から逆算して退職金原資・支給時期・損金算入年度をセットで設計するスタイルでご支援しています。
損金算入のルール
株主総会の決議が必要
役員退職金を損金算入するためには、株主総会または取締役会で支給額を決議し、その議事録を保存することが必要です。決議のない退職金支給は損金として認められない可能性があります。
不相当に高額な部分は損金不算入
功績倍率が著しく高い、または同業他社の支給水準と比較して過大な退職金は、「不相当に高額な役員退職金」として超過部分が損金不算入となります。
税務調査でこの争点になるケースは多く、リーパル会計事務所には元国税局OBが在籍する「リーパル税務調査119番」として、事前の適正額設計と調査対応の両面でサポートを行っています。
分割払いのケースの処理
退職金を一括でなく分割払いする場合、支給が確定した事業年度(株主総会決議の期)に全額を損金計上することが原則です。分割払いのスケジュールに関係なく、決議時点で損金処理します。
事業承継・分掌変更での活用
代表を退いた際の「分掌変更退職金」
代表取締役が退任し会長・相談役等に就任するような場合(分掌変更)でも、一定の要件を満たせば退職金を支給して損金算入できます。
分掌変更が認められる要件(例)
- 代表権を返上し、非常勤役員となること
- 常勤役員から非常勤となり、報酬が大幅に減額されること(おおむね50%以上の減額)
単なる役職名の変更だけでは認められず、実質的な職務内容・権限・報酬の変更が伴わなければなりません。
事業承継と退職金の組み合わせ
親から子へ事業承継するタイミングで、退職する代表取締役(親)に退職金を支払うケースは、節税効果が最大化されやすい場面です。
このとき、退職金の支払い原資として経営セーフティ共済の解約返戻金を活用すると、解約益(益金)と退職金(損金)を相殺できるため、法人の納税負担を最小化しながら原資を確保できます。詳しくは経営セーフティ共済で節税する方法をご覧ください。
退職金の準備:原資をどう確保するか
役員退職金は数千万円規模になることも多く、退職時に一括で支払える資金を確保しておく必要があります。主な準備方法は以下の通りです。
| 準備方法 | 特徴 |
|---|---|
| 法人保険(解約返戻金型) | 保険料の一部が損金になる。解約返戻金を退職金原資に充当 |
| 経営セーフティ共済 | 掛金全額損金。40ヶ月以上で返戻率100% |
| 内部留保(現預金) | シンプルだが税引後利益の蓄積が必要 |
| 法人名義の定期預金 | 確実だが節税効果なし |
複数の手法を組み合わせながら、退職時期を見越して早期から準備することが理想的です。
役員退職金の適正額は、最終月額報酬・役員在任年数・功績倍率の3要素で大枠が決まります。功績倍率は2〜3倍が一般的なゾーンですが、業種・役位・退任理由によって妥当ラインが変わります。リーパル会計事務所では、過去の判例・裁決例を踏まえた功績倍率の設定根拠を文書化し、税務調査でも説明できる状態でご提案しています。
役員退職金は、準備不足のまま退任を迎えると取り返しがつきません。退職予定の3年前からが、最も節税メリットを活かしやすい動き出しの目安です。リーパル会計事務所では、退職時期・金額設計・原資の積立方法を一体で相談できる体制を整えています。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員退職金は必ず支払わなければなりませんか?
A. 義務ではありません。退職金の支給は会社の裁量であり、定款や退職金規程に定めがない場合は株主総会で決議することで支給できます。
Q2. 役員退職金の財源が不足している場合、借入金で支払えますか?
A. 法人が金融機関から借り入れた資金で退職金を支払うことは可能です。退職金自体は損金に算入でき、借入金は負債として処理されます。
Q3. 功績倍率を高く設定するには、何か理由づけが必要ですか?
A. 必要です。功績倍率を高く設定する場合は、同業他社比較や役員の特別な功績(事業の立ち上げ・業績の大幅向上等)を合理的に説明できる資料を準備してください。
Q4. 社外取締役・非常勤役員にも退職金を支払えますか?
A. 可能です。ただし非常勤役員の場合は功績倍率が低く設定されることが多く、支給額の合理性の説明が必要です。
Q5. 役員退職金と役員報酬の最適な組み合わせを考えるには?
A. 役員報酬の水準・勤続年数・会社の財務状況・事業承継の時期など多くの変数が絡むため、税理士との長期的なシミュレーションが推奨されます。早期からの計画が退職金の最大化につながります。
参考資料
役員退職金は、現役期の取り方より大幅に手取りが多くなる「最後の節税策」にほかなりません。一方で、適正額の根拠・退職実態・支給時期を間違えると、損金不算入や追徴課税につながりやすいデリケートな領域でもあります。リーパル会計事務所では、退職予定の3年前から退職金原資の積立・支給時期の設計・退職実態の整備までを伴走するスタイルでご支援しています。引退・事業承継のタイミングが視野に入っている経営者の方は、お早めにご相談ください。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の法人節税・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年10月24日
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