毎日の売上はレジに残っているのに、帳簿の現金と手元のお金が合わない。税務署から連絡が来て、何をそろえるべきか迷っている経営者の方もいるでしょう。準備の軸は、レジの売上記録、帳簿への集計、実際の現金残高をつなげて説明できる状態にすることです。この記事では、資料の照合方法と、差額があるときの整理の仕方を解説します。
この記事は「税務調査の連載|税務署から連絡が来てから、調査が終わるまで」の第31回です。
この記事は、業種を問わない現金の管理と記録に絞っています。キャストへの報酬の支払いや源泉徴収など、夜のお店に特有の論点は「夜のお店の税務調査|キャストへの支払い・現金売上で見られるところ」で扱います。
現金商売の調査に備えるには、売上とお金の流れをつなぐ
現金を受け取る商売では、「いくら売ったか」と「現金がいくら残ったか」を分けて整理しましょう。レジに記録された売上には、カードなどで支払われた分も含まれていないかを確認します。売上総額を、そのまま現金の増加額として扱わないためです。
また、現金の入金がすべて売上とは限りません。事業用口座から引き出した釣銭資金などは、商品を売って得た代金と区別して記録します。反対に、売上代金を銀行へ預ける動きは、手元の現金から預金への移動として追えるようにします。
税務調査への準備では、申告した売上を帳簿で確認し、帳簿の数字を日々の資料へたどれるかを点検します。「会計ソフトに入力してある」という説明に加えて、どの資料から、誰が、どのように集計したかを示すことが大切です。
次の表は、自社で資料を照合するための整理例です。調査で求められる資料を一律に示すものではありません。
| 資料 | 確認する内容 | 併せて確かめたい点 |
|---|---|---|
| レジの精算記録・売上日報 | その日の売上集計、支払方法の内訳 | レジを通さない取引や集計後の追加分 |
| レジジャーナル | 個々の会計、取消し・返品の記録 | 取消しや返金をした理由 |
| 現金出納帳 | 現金の入出金と帳簿上の残高 | 手元にある現金との一致 |
| 通帳・預入れの控え | 銀行へ入れた金額と日付 | 対応する売上日と手元に残した金額 |
| 決済サービスの精算明細 | 決済記録と入金の対応 | 手数料など、契約に基づく差引項目 |
レジジャーナルとは、会計ごとの明細を時系列で残した記録です。名称や出力できる内容は機種などで異なるため、自社の画面や説明書で確認してください。
業種固有の論点は、飲食業(法人)の税務・経費・税務調査対策|現金商売の落とし穴を税理士が解説や、美容サロン(法人)の税務・経費・税務調査対策|業務委託・店販・現金管理を税理士が解説で取り上げています。ここでは業種を問わず使える現金管理に絞ります。
閉店時に、レジの記録と実際の現金を照合する
売上の集計と現金の集計を分ける
売上日報とは、その日の売上をまとめた表です。自社で作る場合は、日付、店舗やレジの区分、売上、現金・カードなどの内訳、返品・値引き、確認者を記載する形が考えられます。返品を反映済みの集計かどうかも分かるようにしましょう。
そのうえで、現金出納帳を確認します。現金出納帳は、現金の出入りと残高を記録する帳簿です。国税庁の記帳手引きも、日々の記帳と実際の現金との照合を勧めています。月末に残高だけを合わせるより、閉店時の確認を日々の業務に組み込むと経緯を追いやすくなります。
照合する前に、数える範囲をそろえます。レジだけを対象にするのか、金庫や小口現金も含めるのかを決めてください。レジから金庫へ移した現金は、レジ単位では出金でも、事業全体では保管場所の移動です。同じお金を重ねて数えないようにします。
架空の例で、残高の計算を確認する
次は説明のための架空の例です。ある店舗では、営業開始時の釣銭が30,000円、当日の現金売上が80,000円でした。返品・返金はありません。レジから消耗品代5,000円を払い、売上代金など60,000円を銀行へ預けたとします。ほかの現金の出入りはないものとします。
閉店時の現金は、30,000円+80,000円-5,000円-60,000円=45,000円です。これは現金の動きを示す計算であり、税額計算ではありません。
ここで、銀行へ預けた60,000円だけをその日の売上とすると、売上の記録と現金の動きを混同してしまいます。消耗品代の支払記録と預入れの控えを日報に対応させれば、残った45,000円まで説明できます。
実際の業務では、返金、釣銭の補充、過去の売掛金の回収なども区別して記録します。売掛金とは、すでに売上として記録した取引のうち、まだ受け取っていない代金です。その回収を新たな売上として重ねて入力しないよう、元の取引と対応させます。
残高が合わないときは、差額の理由を資料で調べる
まず、日付・支払方法・現金の移動を確認する
帳簿と実際の現金に差があったら、最初に数え直し、比較している時刻と保管場所を確認します。次に、現金とカードの区分違い、返金の記録漏れ、銀行預入れの入力漏れ、経費を払った際の記録漏れを順に調べます。
営業が深夜に及ぶ場合は、レジの営業日と暦の日付にも注意してください。自社で採用している締め時刻と集計ルールをメモにし、レジ資料と帳簿の対応を説明できるようにします。帳簿に反映した日付が違う場合も、元の取引日時を残して確認します。
銀行預入れについても、複数の営業日分をまとめたのか、一部を釣銭として残したのかを整理します。入金日と売上日を無理に一致させるのではなく、どの日の現金がどこへ移ったかをたどる作業です。
取消し・返品は、元の会計と対応させる
誤入力の訂正や返品があった場合は、元の会計、処理した日時、理由、返金方法、担当者を確認できるようにします。値引きの前後の金額も残す運用が役立ちます。処理の回数だけを見て結論を出さず、個々の内容を資料で説明しましょう。
理由が分からない差額を、売上や経費へ機械的に振り分けることは避けてください。確認できた事実、未確認の点、調べた資料を分けて記録し、帳簿への反映は税理士と検討します。訂正が必要な場合も、訂正前の記録と根拠を残します。
事業用と私用の現金が混ざっている場合は、経営者が入れたお金や持ち出したお金を先に整理します。法人と個人事業では会計処理が異なるため、同じ勘定科目で一律に処理しないようにしてください。後から資金移動があったことにして残高を合わせるのではなく、実際の動きを確認します。
レジの集計後も、元資料と電子データを残す
保存を考える際は、日々の管理に役立つ資料と、税法上の保存対象・保存方法を分けて確認します。表に挙げた資料が、すべて同じ法的区分になるわけではありません。レジの明細を日報へ集計した後も、元の数字を追える形を保つことを勧めます。
2026年10月時点で、法人の帳簿と取引に関して作成・受領した書類は、原則として、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が必要です。青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間となる場合があります。古い事業年度には別の扱いもあるため、過去分の廃棄は対象年度を確認して判断します。
個人事業主は、青色申告・白色申告や資料の種類によって保存期間が異なります。事業所得がある白色申告者の場合、収入金額や必要経費を記載する法定帳簿は7年間、任意帳簿や領収書などは原則5年間です。これとは別に、消費税に関する保存義務にも注意が必要です。
電子取引とは、請求書や領収書などの取引情報を電子データでやり取りすることです。紙なら保存が必要な書類に相当する情報をデータで受領・交付した場合は、その電子取引データの保存が必要です。印刷物だけを残す運用にせず、電子データの保存方法も確認します。
また、紙の書類を撮影した画像で原本の保存に代える「スキャナ保存」は、一定の要件に沿う制度です。撮影したことだけを理由に原本を捨てないでください。電子取引データの保存と、紙を読み取る保存は分けて考えます。
レジや会計ソフトを入れ替える前には、過去の記録を閲覧・出力できるかを確認しましょう。解約後に利用できる範囲を提供会社へ確認し、必要な記録を読める形で残す準備をします。保存したファイルは実際に開き、日付や店舗を指定して探せるかも点検してください。
調査前に、自社で確かめるチェックリスト
まずは、直近の営業日を選び、日報から現金残高までをたどってみましょう。差額が出た日は、その前後の日も確認します。過去の資料が足りない場合は、残っている資料と不足している資料を分け、不足を隠すために当時の記録を作ったように見せることは避けます。
- □ 現金を受け取る場所と保管場所を把握している。
- □ レジの売上総額と、現金・カードなどの内訳を照合できる。
- □ 売上日報から会計帳簿へ集計した手順を説明できる。
- □ 取消し・返品・値引きの理由と元の取引を確認できる。
- □ 釣銭補充、経費支払、銀行預入れを区別して記録している。
- □ 現金を数えた時刻・場所・担当者と、差額の確認結果が残っている。
- □ 事業用と私用の資金の移動を説明できる。
- □ 過去のレジ記録と電子取引データを取り出せる。
担当者が複数いるなら、会計操作、日報の作成、現金確認、会計ソフトへの入力を誰が担うかも整理します。社長だけが知っている例外的な入出金があれば、その内容を記録担当者と共有しましょう。
税務署への説明では、資料で確認した内容と記憶に基づく内容を分けて伝えます。不明な点は、確認する資料と回答できる時期を整理してください。質問への対応は、税務調査の質問にどう答える?よくある質問と適切な応答方法も参考になります。
まとめ
現金商売の税務調査に備えるには、レジの売上、帳簿への集計、現金残高をつなげて整理することが大切です。銀行へ預けた金額だけで売上を把握せず、支払方法や経費の支払、釣銭の移動も区別します。差額があれば、元の記録を残したまま原因を調べ、確認できた事実に沿って処理を検討しましょう。日々の照合と資料を取り出せる保存方法を、店舗の通常業務に組み込むことが準備につながります。
よくある質問
Q. 白色申告なら、売上の記帳は不要ですか?
事業所得がある白色申告者にも記帳・保存の義務があります。日々の合計額をまとめるなど、簡易な記帳方法が認められていますが、記帳自体が不要になるわけではありません。集計の基になる資料も整理しておきましょう。
Q. レジがなく、手書きで管理していてもよいですか?
国税庁の手引きには、手書きで使える帳簿の様式例も掲載されています。レジがない場合も、その様式を参考に記録を整えられます。自社に適用される記帳事項を満たし、売上と現金の入出金をたどれる形に整えましょう。
Q. 現金商売では、事前連絡なしに調査が来ますか?
実地の税務調査は事前通知が原則です。ただし、事前通知により正確な事実の把握や調査の適正な遂行に支障が生じるおそれがあると判断された場合は、通知せずに行われることもあります。通知の有無にかかわらず、日々の記録を残しておくことが基本です。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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