売上は毎日記録しているのに、レジの現金やキャストへの支払額と帳簿が合わない。税務調査の連絡を受け、何をそろえればよいか迷う経営者もいるでしょう。備えの中心は、売上の発生から入金までと、キャストへの支払いの根拠を、資料でたどれる状態にすることです。この記事では、お店側が確認したい記録と、調査に対応する際の準備を整理します。
この記事は「夜の仕事の税金の連載|働く人と、お店の経営者」の第9回です。
レジ締めや現金の残高の合わせ方など、業種を問わない現金商売の調査で見られるところは、税務調査の連載の「現金商売の税務調査|レジ・売上の記録と現金の残高で見られるところ」にまとめています。この記事では、キャストへの報酬の支払いと源泉徴収、夜のお店に特有の記録を中心に扱います。
税務調査に備える軸は、売上・支払い・帳簿のつながり
税務調査では、申告内容を確認するため、必要な帳簿や書類の提示・提出が求められます。国税庁も、この権限と手続きを説明しています。以下は夜のお店に共通する調査項目を断定したものではなく、経営者が日頃の記録を点検するための整理です。確認される内容は個別の事情で異なります。
帳簿は、取引を記録したものです。伝票や支払明細は、その記録の根拠になります。帳簿の数字だけを見て終えず、「どの伝票から集計したか」「実際の入出金とどう対応するか」を説明できるようにしましょう。
| 点検する項目 | 数字だけでは説明しにくい状態 | 説明に使う資料・整理 |
|---|---|---|
| 現金売上 | 銀行に預けた額しか分からない | 売上伝票、日報、現金出納帳、預入記録を照合する |
| カード売上 | 通帳の入金額だけを記録している | 売上額、決済手数料、入金額を明細で分ける |
| 未入金の代金 | 売上日と入金日の対応が不明 | 請求内容、売上の記録、入金記録を結び付ける |
| キャストへの支払い | 手渡した合計額しか残っていない | 対象者、計算期間、内訳、控除額、受領記録をそろえる |
| 源泉所得税 | 明細の控除額と納付額がつながらない | 対象者別の計算、月ごとの集計、納付記録を照合する |
資料をそろえる目的は、帳簿と実態の違いを見つけ、理由を確認することです。違いがあれば、元の資料を残して調べます。数字を合わせるためだけに伝票を書き換える対応は避けましょう。調査の手続きは、国税庁「税務調査手続に関するFAQ」で確認できます。
現金売上は、伝票から入金まで追えるかを確認する
売上金を経費の支払いに使った日を切り分ける
現金を受け取り、その場で仕入代やキャストへの支払いに使うと、銀行への預入額だけでは売上全体を確認できません。売上の記録と、現金を何に使ったかの記録を分けて照合します。
次は説明のための架空の例です。あるお店では、その日の現金売上から飲料の仕入代を払い、残額を銀行へ預けていました。通帳だけを見て売上を入力すると、仕入代に使った現金が売上の集計から抜けます。売上伝票で売上全体を確認し、仕入代は領収書と支払記録で別に確認する必要があります。
レジ内の釣銭、金庫への移動、銀行への預入れも区別しましょう。店舗内での現金の移動を、新たな売上や経費として重ねて集計しないよう、移動元と移動先を残します。日々の締め方の細部よりも、調査時にその動きをたどれるかが本記事での確認点です。
カード売上・取消し・未入金を混ぜない
カード決済の振込額がお客様の利用額と異なるときは、手数料や取消し・返金の有無を明細で確かめます。売上と振込額の違いを説明できるように整理しましょう。入金日だけで集計すると、月末や決算をまたぐ取引の確認が難しくなります。
個人事業の所得税では、原則として、年末までに入金されていなくても、収入を受け取る権利が確定した金額がその年の収入になります。一定の条件の下で現金主義を選択できる例外はあります。現金主義とは、現金の出入りを基準に収入や費用を計上する方法です。単に現金商売だから適用されるものではありません。根拠は国税庁「収入金額とその計算」です。
法人も、決算時には未入金や翌期入金の伝票を帳簿と照合しておきましょう。未入金の代金は、売上と入金を結び付け、入金時に同じ売上を重ねて記録していないか確認します。ここでは税務上の記録の整理を扱います。代金の請求や取立ての方法を勧める趣旨ではありません。
キャストへの支払いは、内訳と源泉徴収を確認する
給与か報酬か、支払いの内容を整理する
源泉徴収とは、支払者が支払額から所得税などを差し引き、国へ納める仕組みです。国税庁は、居住者であるホステス等への報酬・料金について源泉徴収が必要とし、内容が給与に該当するものは給与所得として源泉徴収すると説明しています。「居住者」は税法上の区分です。海外から来た方への支払いなどは、別途確認が必要です。
お店では、契約書、勤務や業務の記録、報酬の計算方法をそろえてください。「外注費」と帳簿に入力したことだけを判断の根拠にせず、実際の働き方と支払いの内容を税理士と確認します。ホスト、接客担当、厨房担当などへの支払いも、呼び名だけで同じ処理にまとめないようにします。
支払明細には、基本部分、指名等に応じた加算、その他の支給、源泉徴収税額、差引支払額を分けると照合しやすくなります。源泉徴収の対象となるホステス等の報酬には、報奨金、衣装代、深夜帰宅のためのタクシー代も含まれると国税庁は説明しています。別名目で支給したものを、確認せず対象外にしないことが大切です。
手渡した記録と、税金を納めた記録を分ける
現金払いでは、支払明細に加え、いつ、誰に、どの期間分を渡したかが分かる受領記録を残しましょう。源氏名を使う場合は、帳簿の相手方と実際の受取人を確認できる対応表も整理します。実名や住所などを含む資料は、閲覧できる担当者を絞って管理してください。
明細で税金を差し引くことと、その税金を国へ納付することは別の手続きです。対象者別の源泉徴収税額を集計し、納付記録と照合します。個人経営で給与の支払いがない場合も、ホステス等の報酬について源泉徴収不要とはなりません。この点は国税庁「報酬・料金等の源泉徴収義務者」に示されています。
源泉徴収の計算方法や納付期限の詳細は、連載の第2回で扱います。
受け取る側の申告の考え方は、夜職(キャバクラ・ホステス・パパ活)の確定申告と税金|源泉徴収・経費・申告の判断を税理士が解説で整理しています。本記事では、お店側に残す支払資料と納付記録に絞って確認します。
帳簿と根拠資料は、後からたどれる状態で保存する
会計ソフトに入力済みでも、売上伝票や領収書などの根拠資料の保存を省けるわけではありません。法人は取引を記録し、帳簿と関係書類を保存する必要があります。個人事業の白色申告にも、記帳と帳簿・書類の保存制度があります。
2026年10月時点で、法人の帳簿書類は、原則として、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が必要です。青色申告で欠損金額が生じた事業年度などは10年間となる場合があります。過去の事業年度には適用関係の違いもあるため、一律に処分しないでください。個人の白色申告では、事業所得に関する法定帳簿は7年、請求書や領収書などは5年です。法人と個人、申告方法、資料の種類を分けて確認しましょう。
保存期間の根拠は、国税庁「帳簿書類等の保存期間」と、国税庁「白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」です。
2026年10月時点で、個人の令和5年分以後の確定申告に対する修正申告等には、売上の帳簿の不保存や売上の記載が不十分なことなどが税務調査で把握された場合に、加算税を加重する措置があります。帳簿に記載すべき事項に関する申告漏れに対し、本来の税金とは別に課される過少申告加算税・無申告加算税の割合に、5%または10%が上乗せされます。
電子取引で受け取ったり交付したりした請求書・領収書等のデータは、原則として電子データでの保存が必要です。印刷物だけを残し、元データを消さないようにしましょう。国税庁の電子取引データの保存に関する案内では、改ざん防止や検索等の原則的なルールと、一定の場合の猶予措置が説明されています。
保存先が店長の端末だけになっていないかも確認します。会計ソフトやレジを切り替える際には、過去のデータや明細を取り出せるか確認し、必要なデータを保存しましょう。訂正する場合は、訂正前の内容と理由を追える状態を整えます。
調査の連絡が来たときの対応と自社チェック
実地の税務調査では、原則として、日時・場所、対象税目・期間、目的などが事前に通知されます。一方、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断された場合などは、事前通知がないこともあります。国税庁の前掲FAQで確認できます。
連絡を受けたら、担当者の氏名・所属と通知内容を記録し、税務代理を依頼している税理士へ共有します。通知された範囲と手元の資料を照合し、不足分を整理してください。日程に業務上やむを得ない事情があれば、その事情を伝えて調整を申し出ます。
説明では、資料で確認できた事実と、記憶だけの話を分けます。不明な点は「資料を確認して回答する」と伝え、追加で確認する事項を記録しましょう。資料がない部分を推測で埋めたり、受領記録を過去の日付で作ったりしないことが大切です。
次のチェックリストは、日頃の点検にも使えます。できていない項目について、担当者と資料の保存先を決めておきましょう。
- 売上伝票の合計と、日報・会計帳簿を照合できる。
- 現金売上、カード売上、未入金の代金を区別できる。
- 現金から直接払った仕入代や報酬の資料が残っている。
- 取消し・返金・値引きの理由と承認記録を確認できる。
- キャスト別に、計算期間・支給内訳・控除額・受領記録がつながる。
- 源泉徴収税額の集計と納付記録を照合できる。
- 紙の資料と電子データの保存先・管理担当者が分かる。
- 実名等を含む資料の閲覧範囲を決めている。
まとめ
夜のお店の税務調査への備えは、売上と支払いを根拠資料で説明できる状態を整えることから始まります。現金売上は、銀行への預入額だけでなく、伝票や現金の使途までつなげて確認します。キャストへの支払いは、内容の区分、計算内訳、源泉徴収、納付記録を照合しましょう。資料が不足している場合は、残っている記録から事実を整理し、今後の保存方法も見直すことが大切です。
よくある質問
Q. 現金払いだと、キャストへの支払いを記録できませんか?
現金払いでも、支払先、日付、対象期間、内訳、実際に渡した額を記録しましょう。支払明細と受領記録を結び付けると、後から確認しやすくなります。明細だけで実際の支払いを説明し切れると考えず、手渡しの事実を確認できる資料も残してください。
Q. 事前通知がなければ、税務調査は行われませんか?
事前通知をせずに行われる場合もあります。国税庁のFAQでは、その場合も対象税目・期間や目的などを臨場後速やかに説明する運用とされています。まず担当者と調査内容を確認し、税務代理を依頼している税理士へ共有しましょう。
Q. 通帳と会計ソフトがあれば、売上伝票は捨ててもよいですか?
通帳と会計ソフトだけを理由に処分しないでください。入金額だけでは売上や支払いの内訳を説明できないことがあります。伝票などがどの保存対象に当たるか、法人・個人の区分や申告方法も踏まえ、保存期間と方法を確認して判断します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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