「開業届は税務署に出したけれど、都道府県にも何か出す書類があると聞いて戸惑っている」——個人事業を始めたばかりの方から、こうしたご相談が数多く寄せられます。実は、個人事業を開始したときに提出する届出は税務署向けの開業届だけではありません。地方税である個人事業税のために、都道府県(自治体によっては市区町村も)へ提出するのが「事業開始等申告書」です。名称も書式も自治体ごとに少しずつ異なり、提出期限も開業届とは別に定められているため、見落としやすい書類の一つです。本記事では、事業開始等申告書とは何か、税務署の開業届との違い、自治体別の書き方と記入例、提出先・期限までを整理します。
事業開始等申告書とは何か——個人事業税のための地方税の届出
開業届との違いは「提出先」と「目的」
個人事業を始めると、国税である所得税のために税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(=いわゆる開業届)」を提出します。これに対して事業開始等申告書は、地方税である個人事業税の課税のために、事業所がある都道府県の税事務所へ提出する書類です。つまり、同じ「開業の届出」でも、提出先と対象となる税金が異なります。
個人事業税(=法律で定められた特定の業種に課される地方税で、年290万円の事業主控除がある)は、都道府県が課税・徴収します。都道府県は税務署から所得税の確定申告データの共有を受けてはいますが、事業の開始時点を正確に把握するために、事業者自身からの申告書提出を求めています。この申告書こそが事業開始等申告書です。
| 比較項目 | 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書) | 事業開始等申告書 |
|---|---|---|
| 提出先 | 税務署(国税) | 都道府県税事務所(地方税)※市区町村も必要な自治体あり |
| 対象となる税金 | 所得税 | 個人事業税 |
| 提出期限 | 開業した年分の確定申告期限まで(2026年1月1日以後の開業。それより前の開業は開業日から1か月以内) | 自治体ごとに異なる(開業後15日以内〜1か月以内など) |
| 書式の名称 | 全国共通 | 自治体ごとに名称・様式が異なる |
リーパル会計事務所では、開業時のご相談を受ける際、税務署向けの開業届と都道府県向けの事業開始等申告書を「セットで出す書類」としてご案内しています。片方だけでは届出が完結しないからです。開業時に必要な届出全体を確認したい方は個人事業主の開業時に必要な届出一覧もあわせてご覧ください。
提出を忘れるとどうなるのか
事業開始等申告書を提出しなかった場合でも、多くの自治体では所得税の確定申告データをもとに個人事業税が課税されます。そのため「出さなかったから課税されない」ということにはなりません。ただし、本来の届出義務を果たしていない状態になるため、開業の事実確認に時間がかかったり、自治体からの問い合わせが入ったりすることがあります。罰則が即座に科されるケースは多くないものの、届出は法令上の義務であり、提出しておくのが原則です。
事業開始等申告書の書き方——記入する主な項目
書式は自治体ごとに異なりますが、記入を求められる項目はおおむね共通しています。ここでは代表的な記入欄を順に見ていきます。
事業所・事務所の所在地と名称
事業を行う場所の住所と、屋号があれば屋号を記入します。自宅を事業所とする場合は自宅住所を記入します。複数の事業所がある場合は、主たる事業所を中心に記入し、自治体の様式に従って従たる事業所も記載します。
事業主の住所・氏名
事業主本人の住所・氏名を記入します。事業所の所在地と住所が異なる場合は、それぞれ正確に分けて記入することが重要です。個人事業税は事業所の所在地を基準に課税されるため、ここを取り違えると課税先の自治体が変わってしまいます。
事業の種類
営む事業の種類を記入します。個人事業税は法律で定められた70の業種(法定業種)に課税され、業種によって税率(おおむね3〜5%)が異なります。たとえば物品販売業や飲食店業は5%、畜産業などは4%、医業や弁護士業などは5%といった区分があります。一方、法定業種に該当しない事業は個人事業税の対象外となるため、事業の種類の記入は課税の有無に直結する重要な項目です。
開業日(事業開始年月日)
事業を開始した日を記入します。税務署の開業届に記載した開業日と整合させることが大切です。日付がずれていると、開業時期の確認で問い合わせを受ける原因になります。
| 記入欄 | 記入内容のポイント |
|---|---|
| 事業所の所在地 | 課税自治体を決める基準。自宅兼事務所なら自宅住所 |
| 事業の種類 | 法定業種かどうかで課税の有無・税率が変わる |
| 事業開始年月日 | 税務署の開業届の開業日と一致させる |
| 事業主の氏名・住所 | 事業所所在地と異なる場合は分けて正確に記入 |
事業の種類の判断に迷う場合は、開業届の段階から専門家に相談しておくと、地方税の申告まで一貫して整合させられます。リーパル会計事務所では、開業届と事業開始等申告書の記入を同じタイミングで確認し、税務署向けと都道府県向けの整合をとる支援を行っています。
提出先・提出期限は自治体ごとに確認する
提出先は都道府県税事務所(市区町村も必要な場合あり)
事業開始等申告書の主な提出先は、事業所を管轄する都道府県税事務所です。東京都の場合は事業所を管轄する都税事務所が窓口になります。一部の自治体では、都道府県だけでなく市区町村への提出も求められることがあるため、開業地の自治体ホームページで最新の様式と提出先を確認することをお勧めします。
提出期限は「開業後15日以内〜1か月以内」が中心
提出期限は自治体によって異なります。東京都では事業開始の日から15日以内、他の道府県では1か月以内などと定められているケースが一般的です。税務署向けの開業届(2026年1月1日以後の開業は、開業した年分の確定申告期限まで)とは期限が異なるため、開業時にまとめて確認しておくのが安全です。
| 確認項目 | 確認方法 |
|---|---|
| 様式・名称 | 開業地の都道府県・自治体ホームページで最新版を入手 |
| 提出先 | 事業所を管轄する都道府県税事務所(必要なら市区町村も) |
| 提出期限 | 自治体ごとに「15日以内」「1か月以内」など異なる |
| 提出方法 | 窓口持参・郵送・電子申請(自治体により対応が異なる) |
個人事業税の取り扱いや法定業種の詳細は、各都道府県の税務当局や国税庁が公表する税制の情報とあわせて確認すると、所得税と地方税の全体像を把握しやすくなります。
開業直後は所得税・住民税・個人事業税が一度に関わってくるため、書類の出し忘れが起こりやすい時期です。開業後にやるべき手続きを体系的に確認したい方は会社設立後にやることリストも参考になります(法人向けの内容ですが、届出の考え方は個人事業にも通じます)。提出書類の整理に不安がある方は、税理士に直接相談するのが最短です。
事業開始等申告書を出すときの実務上の注意点
開業届との記載内容をそろえる
事業開始等申告書と開業届は、開業日・事業の種類・事業所所在地などで内容が重なります。両者の記載がずれていると、後日の確認や問い合わせの原因になります。リーパル会計事務所では、開業時の書類は税務署向けと都道府県向けを並べて記入内容を突合し、整合をとることを推奨しています。
青色申告など他の届出と提出時期を合わせる
開業時には、開業届のほかにも青色申告承認申請書など期限の厳しい届出があります。事業開始等申告書だけを後回しにすると出し忘れにつながるため、開業に関わる届出は時期を合わせてまとめて準備することが、結果的に最も確実な進め方です。
よくある質問(FAQ)
Q. 事業開始等申告書を出さなくても個人事業税は課税されますか。
A. 多くの自治体では所得税の確定申告データをもとに課税されるため、未提出でも課税されることがあります。ただし届出は法令上の義務であり、出しておくのが原則です。未提出だと開業時期の確認に時間がかかる場合があります。
Q. 税務署に開業届を出していれば、事業開始等申告書は不要ですか。
A. 不要にはなりません。開業届は所得税のための税務署向けの書類、事業開始等申告書は個人事業税のための都道府県向けの書類で、提出先も目的も異なります。原則として両方を提出します。
Q. 提出期限を過ぎてしまった場合はどうすればよいですか。
A. 期限を過ぎても、できるだけ早く提出することをお勧めします。提出が遅れたこと自体で重い罰則が科されるケースは多くありませんが、未提出のまま放置すると確認の問い合わせなどにつながるため、気づいた時点で提出するのが望ましい対応です。
Q. 個人事業税がかからない業種もありますか。
A. あります。個人事業税は法律で定められた法定業種にのみ課税されるため、法定業種に該当しない事業は対象外です。ただし該当・非該当の判断は実態に基づくため、迷う場合は専門家に確認することをお勧めします。
監修
本記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。事業開始等申告書は自治体ごとに様式・期限が異なり、開業届とあわせて整合をとる必要がある書類です。開業時の届出を漏れなく済ませたい個人事業主の方は、リーパル会計事務所までお気軽にご相談ください。開業届・青色申告承認申請書・事業開始等申告書をまとめて確認し、最初の一歩を確実なものにするお手伝いをしています。
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