「報酬から源泉徴収されているが、毎年確定申告で還付になる。これは正しいのか」「インボイス登録で消費税の負担が増えたが、簡易課税にすべきか」。独立して事務所を構える弁護士・司法書士・行政書士・社会保険労務士など、士業の方からこうした相談をいただきます。士業は報酬の源泉徴収のルールが資格ごとに異なり、消費税や法人化の判断も独特です。
本記事では、税理士以外の士業の確定申告について、報酬の源泉徴収の仕組み、インボイスと消費税、経費や法人化の考え方までを、2026年6月時点の国税庁の一次情報に基づいて整理します。年度で取り扱いが変わる数値は、その旨を明記します。
士業報酬の源泉徴収は資格ごとに異なる
士業が受け取る報酬の多くは、支払い時に源泉徴収されます。ただし、その扱いは資格によって分かれます。
| 資格 | 源泉徴収の扱い |
|---|---|
| 弁護士・社労士・公認会計士・弁理士 等 | 1回の支払が100万円以下は10.21%、100万円を超える部分は20.42% |
| 司法書士・土地家屋調査士・海事代理士 | (1回の支払金額 − 1万円)× 10.21% |
| 行政書士 | 原則として源泉徴収の対象外 |
弁護士などの士業報酬は、1回100万円までは10.21%、100万円を超える部分は20.42%が源泉徴収されます。一方、司法書士などは1回の支払ごとに1万円を差し引いた後に10.21%を掛ける、独自の計算特例があります。行政書士の報酬は、所得税法の源泉徴収の対象に列挙されていないため、原則として源泉徴収されません(建築確認申請書類の作成など一部の例外を除きます)。
なお、これらの税率は復興特別所得税を含んだ数値で、復興特別所得税の課税期間に応じた値である点を補足しておきます。
源泉徴収された税額は確定申告で精算する
士業報酬は事業所得にあたります。源泉徴収された税額は前払いであり、確定申告で1年間の所得と各種控除を反映した税額と精算します。源泉徴収は経費や所得控除を反映していないため、経費をしっかり計上すると、納めるべき税額より源泉徴収額のほうが多くなり、還付になるケースが少なくありません。「毎年還付になる」のは、この構造によるものです。
インボイスと消費税・経費
士業は、取引先が法人や他の事業者であることが多く、適格請求書(インボイス)の発行を求められる場面が多い業種です。基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になりますが、それ以下でもインボイス発行のために登録して課税事業者になる士業が多く見られます。
消費税の計算で簡易課税を選ぶ場合、士業は第5種事業(サービス業)に区分され、みなし仕入率は50%です。免税事業者からインボイス登録した場合は、納税額を売上にかかる消費税額の2割に抑えられる2割特例も使えます(適用期間は経過措置として定められており、年度で取り扱いが変わるため、適用の可否は最新情報で確認してください)。消費税の基本はインボイス制度とは?登録すべきか判断チャート付きもあわせてご参照ください。
経費としては、業務用の書籍・判例データベース、研修・セミナー費、所属する会(弁護士会・司法書士会など)の会費、業務上の賠償責任保険料などが代表的です。いずれも業務との関連性が前提となります。
資格に依らず専門知識で稼ぐ働き方という点では、フリーランスのコンサルタントやPMも同じ構造です。ただしコンサルタント業は個人事業税の法定業種にあたり、報酬の源泉徴収の扱いも士業とは異なります。違いはフリーランスコンサル・PMの確定申告と節税で整理しています。
個人事業と士業法人化の判断
所得が大きくなってくると、個人事業のままでよいか、士業法人(弁護士法人・司法書士法人・社会保険労務士法人など)を設立すべきかが論点になります。法人化には、役員報酬による給与所得控除の活用、家族への所得分散、退職金や生命保険を使った設計といった節税メリットがある一方、社会保険への加入義務や設立・運営の手間といった負担も生じます。
法人化が有利になる所得水準は事務所の状況によって異なるため、具体的な判断は個別のシミュレーションが必要です。一般的な法人化のメリットは、個人事業主が法人化するメリット|節税・信用・将来設計まで完全解説で詳しく解説しています。
令和7年分の所得税の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までです。個人事業の士業は、源泉徴収されていても精算(還付を含む)のために確定申告を行うのが原則です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 行政書士の報酬は源泉徴収されないのですか?
A. 原則として源泉徴収の対象外です。行政書士報酬は所得税法の源泉徴収の対象に列挙されていないためです。ただし、建築基準法に基づく建築確認申請書類の作成など、一部の業務は対象になる例外があります。
Q2. 司法書士の源泉徴収はなぜ計算が違うのですか?
A. 司法書士・土地家屋調査士・海事代理士の報酬は、1回の支払ごとに1万円を差し引いてから10.21%を掛けるという特例が設けられています。少額の依頼が多い業務特性に配慮した仕組みです。
Q3. 毎年確定申告で還付になりますが、申告しなくてもよいですか?
A. 還付を受けるには確定申告が必要です。源泉徴収された税額は経費や控除を反映していないため、申告して精算することで払いすぎた分が戻ります。申告しなければ還付は受けられません。
Q4. インボイス登録後、簡易課税と原則課税のどちらがよいですか?
A. 士業は仕入れが少ない業種のため、簡易課税(第5種・みなし仕入率50%)が有利になることが多い一方、設備投資が大きい年などは原則課税が有利な場合もあります。売上規模と経費の状況を比較して判断してください。
Q5. 会費や賠償責任保険料は経費になりますか?
A. 所属する会の会費や、業務上の賠償責任保険料は、業務との関連が認められれば必要経費になります。研修費や業務用書籍なども同様です。私的な支出と区分して記録しておきましょう。
参考資料
士業の確定申告は、資格ごとに異なる源泉徴収のルール、消費税の選択、法人化の判断といった独自の論点が絡みます。とくに源泉徴収された税額の精算は、正しく申告すれば還付につながることも多く、見過ごせないポイントです。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績とクラウド会計導入支援の知見をもとに、士業の源泉徴収の自動仕訳から消費税の有利判定、法人化のシミュレーションまでサポートしています。事務所経営の数字に不安のある士業の方は、お気軽にご相談ください。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、士業をはじめとする専門サービス業の税務・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年6月29日
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