会計・税務に関する
お役立ち情報ブログ

不動産営業(フルコミッション)の確定申告と税金|歩合報酬の源泉徴収・経費・インボイスを税理士が解説

確定申告
不動産営業(フルコミッション)の確定申告と税金|歩合報酬の源泉徴収・経費・インボイスを税理士が解説

「歩合だけで働いているが、税金の手続きは会社が何もしてくれない」「報酬から10.21%が引かれている月と、引かれていない月がある」。フルコミッション(完全歩合)で不動産の売買・賃貸仲介に携わる方から、確定申告についてこうした相談をいただきます。フルコミの不動産営業は、給与をもらう会社員とは税金の仕組みがまったく違い、経費の集め方ひとつで手取りが大きく変わります。

本記事では、フルコミッションの不動産営業の確定申告について、所得区分の判定、歩合報酬の源泉徴収の読み解き方、経費と家事按分、消費税・インボイス、個人事業税までを、2026年7月時点の国税庁などの一次情報に基づいて整理します。年度で取り扱いが変わる数値は、その旨を明記します。

顧問税理士をお探しの方へ

会社の規模や記帳の状況をお聞きして、顧問料をお見積りします。

顧問契約のお見積り(無料)はこちら →

全国オンライン対応です。

フルコミッションの不動産営業は「事業所得」が基本

フルコミッションで働く不動産営業は、多くの場合、会社と雇用契約ではなく業務委託契約を結んでいます。この場合、受け取る歩合報酬は給与ではなく事業所得となり、自分で帳簿をつけて確定申告を行うことになります。会社は年末調整をしてくれませんし、社会保険も国民健康保険・国民年金に自分で加入するのが原則です。

裏を返せば、営業活動にかかった費用を必要経費として差し引けるのは事業所得側の大きな利点です。給与所得の場合、実費がいくらかかっていても給与所得控除という定額の枠しか使えません。フルコミの営業は反響獲得の広告費、車のガソリン代、顧客への手土産といった実費が月20万円を超えることも珍しくないため、経費を正しく積み上げるかどうかで納税額が変わります。

給与か報酬かは「契約書の名前」ではなく実態で決まる

注意したいのは、契約書に「業務委託」と書いてあっても、税務上は自動的に事業所得になるわけではないという点です。時間的な拘束を受け、会社の指揮命令下で働き、固定給部分がある場合には、その部分が給与所得と判定されることがあります。固定給と歩合が明確に区分されている契約では、固定給は給与、歩合は報酬として扱われるのが一般的です。

自分の収入がどう区分されているかは、会社から受け取る書類で確認するのが確実です。源泉徴収票が交付されていれば給与、支払調書が交付されていれば報酬として処理されている可能性が高くなります。両方が届いている場合は、給与所得と事業所得を合算して申告します。

なお、税金とは別に、宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者はその従業者に従業者であることを証する証明書を携帯させなければ業務に従事させてはならないと定められています(宅地建物取引業法第48条)。フルコミであっても会社の名で営業する立場であれば、この扱いは変わりません。契約形態と業法上の位置づけは別問題として整理しておきましょう。

歩合報酬から源泉徴収されている場合の読み解き方

不動産の売買・賃貸の勧誘を継続的に行う立場の方が受け取る歩合報酬は、支払う側が「外交員報酬」として扱う場合、所得税の源泉徴収の対象になります。実務では、源泉徴収されているケースと、まったく引かれていないケースの両方があります。まずは報酬明細と支払調書で、実際に引かれているかを確認してください。

外交員報酬として源泉徴収される場合の税額は、次のように計算します。

区分 源泉徴収税額の計算
その月に報酬のみを受け取る場合 (その月の報酬 − 12万円)× 10.21%
その月に給与も受け取る場合 控除額が「12万円 − その月の給与等の額」に縮小
国税庁が示す計算例 報酬20万円・給与5万円の月 → {20万円 −(12万円 − 5万円)}× 10.21% = 13,273円

固定給が12万円以上ある月は、12万円の控除枠がゼロになる点に注意してください。ここでよくある誤解は、「源泉徴収されているから申告しなくてよい」というものです。源泉徴収は税金の前払いにすぎず、最終的な税額は確定申告で精算されます。経費を計上した結果、前払いした税額のほうが多ければ、その差額は還付されます。逆に、源泉徴収がまったくされていない契約の方は、確定申告時にまとめて納税することになるため、資金を手元に残しておく必要があります。

記帳と確定申告を毎年まとめて任せたい個人事業主の方は顧問契約のお見積りを依頼する →

経費にできるもの・家事按分の考え方

フルコミの不動産営業で経費になりやすい支出を整理すると、次のようになります。金額の大きさよりも、「その支出が売上を得るために直接必要だったと説明できるか」が判断の軸になります。

支出の種類 具体例 実務上の注意点
広告宣伝費 反響獲得のポータルサイト掲載料、チラシ・ポスティング 自己負担分か会社負担分かを契約で確認する
旅費交通費・車両費 現地案内のガソリン代、駐車場代、高速代 私用と兼用の車は走行距離で按分する
交際費 顧客への手土産、内見後の飲食 日付・相手・目的をメモに残す
通信費 営業用スマートフォン、テザリング 私用兼用なら使用実態で按分する
図書研修費 宅建・不動産関連の書籍、資格更新の講習費 業務との関連を説明できる範囲に限る
地代家賃 自宅を事務作業に使っている場合の家賃 業務に使う面積・時間の割合で按分する

自宅や自家用車を仕事と私生活の両方に使っている場合は、事業に使った割合だけを経費にする「家事按分」を行います。ここで大切なのは、按分の割合そのものよりも、その割合を説明できる根拠を残しておくことです。車であれば走行距離の記録、自宅であれば作業スペースの面積や使用時間のメモが根拠になります。税務調査で最も多く問われるのがこの部分であり、後から作った資料は説明力が弱くなります。

固定給と歩合の両方を受け取っている方は、もうひとつ注意点があります。給与所得にはすでに給与所得控除が自動的に適用されているため、同じ支出を給与側と事業側で二重に経費計上することはできません。

家内労働者等の必要経費の特例は使えるか

不動産の営業でも、外交員として継続的に勧誘を行う立場であれば、家内労働者等の必要経費の特例の対象になり得ます。これは、実際にかかった経費が少なくても一定額までを必要経費として認める制度で、最低保障額は令和7年分(2025年分)から65万円に引き上げられました(令和2年分から令和6年分までは55万円)。

ただし、フルコミの営業ではこの特例が使えないことのほうが多いのが実情です。理由は2つあります。ひとつは、給与収入が65万円以上あるとこの特例は適用されない点です(給与収入が65万円未満の場合は「65万円 − 給与所得控除額」の残額が枠になります)。もうひとつは、フルコミの営業は実費経費が65万円を上回りやすく、そもそも実額計上のほうが有利になる点です。広告費と車両費だけで年間65万円を超える方は、特例ではなく実額で丁寧に積み上げるほうが有利になります。

消費税・インボイスと個人事業税

歩合報酬は、消費税法上は仲介という役務提供の対価にあたるため、課税売上になります。基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が生じます。トップ層の営業では歩合が年1,000万円を超えることもあるため、超えた年の翌々年から納税義務者になる点は早めに押さえておきたいところです。

免税事業者のままだと、支払側が仕入税額控除を使えないため、インボイス発行事業者の登録を求められるケースがあります。登録して課税事業者になった場合の負担軽減策として、2割特例(納付税額を売上税額の2割にできる特例)があります。これは令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が対象で、個人事業者では令和5年分から令和8年分までの申告が対象です。さらに、令和8年度税制改正では、個人事業者の令和9年分・令和10年分について納付税額を売上税額の3割とできる3割特例が示されています。2割特例の期限だけを見て「来年から急に負担が増える」と早合点しないよう、最新の制度を確認してください。

なお、簡易課税制度(基準期間の課税売上高5,000万円以下で選択可)を使う場合、不動産の仲介業は第6種事業(不動産業・みなし仕入率40%)に区分されるのが一般的です。みなし仕入率が低いため、簡易課税が必ず有利とは限りません。実額の経費に消費税が乗っている割合を試算してから選択してください。

見落としがちなのが個人事業税です。東京都の場合、仲介業や不動産売買業は第1種事業として税率5%が適用されます。事業主控除が年290万円あるため、所得がこれを超えると課税されます。納期は原則として8月末と11月末の年2回で、所得税の納付とは別のタイミングで資金が必要になります。

まとめ:フルコミの営業は「経費の根拠づくり」で差がつく

フルコミッションの不動産営業は、経費の自由度が高い反面、その正しさを自分で説明する責任も負います。次の点を押さえておけば、払いすぎも申告漏れも防げます。

  • 源泉徴収票と支払調書の両方を確認し、給与と報酬の区分を把握する
  • 源泉徴収は前払いであり、確定申告で精算して還付を受けられる場合がある
  • 家事按分は割合よりも「根拠を残すこと」が重要
  • 家内労働者等の特例より実額計上が有利なケースが多い
  • 歩合が1,000万円を超えたら、消費税・インボイスと個人事業税を同時に検討する

リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績とクラウド会計導入支援の知見をもとに、フルコミ営業の所得区分の整理から経費の按分根拠づくり、freee・マネーフォワードクラウドでの記帳、消費税の選択判断までサポートしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 歩合報酬から源泉徴収されていません。申告しなくてよいのでしょうか?

A. 源泉徴収の有無と申告義務は別の話です。事業所得が生じている場合は確定申告が必要で、源泉徴収されていない分は申告時にまとめて納税することになります。前払いがない状態なので、納税資金を年間を通じて確保しておくことが重要です。

Q2. 会社が経費を負担してくれません。全部自腹ですが経費にできますか?

A. 自分が負担し、かつ売上を得るために必要だったと説明できる支出であれば必要経費にできます。ポータルサイトの掲載料、案内時のガソリン代、顧客への手土産などが典型例です。逆に、会社が負担している分を自分の経費として計上することはできません。

Q3. 固定給と歩合の両方があります。確定申告はどうなりますか?

A. 固定給が給与所得、歩合が事業所得として区分されている場合は、両方を合算して申告します。給与所得にはすでに給与所得控除が適用されているため、同じ支出を給与側と事業側で二重に経費計上することはできません。源泉徴収票と支払調書の両方を用意してください。

Q4. 自家用車を営業に使っています。車両代は全額経費になりますか?

A. 全額ではなく、事業に使った割合で按分します。車両本体は減価償却を通じて複数年に分けて経費化し、ガソリン代・保険料・駐車場代も同じ割合で按分するのが基本です。走行距離の記録を残しておくと、按分根拠として説明しやすくなります。

Q5. インボイス登録を求められました。登録すべきでしょうか?

A. 取引先が仕入税額控除を必要とする事業者であれば、登録を求められるのが一般的です。ただし登録すると免税事業者ではなくなるため、2割特例や簡易課税を含めて、どの計算方法が有利かを試算したうえで判断するのが安全です。歩合の水準と経費構成によって結論が変わります。

参考資料

関連記事

監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、個人の確定申告・税務調査対応を専門とする。

最終更新日: 2026年7月30日

新着情報NEWS

法人成りしたときの会計ソフトの切り替え|個人の事業所から法人用へ移す手順

IT・クラウド会計

会社の解散確定申告から清算確定申告までの流れ|たたむときの税務手続き

決算

社会保険の手続きを外注するときの分担|入社・退職・算定基礎・月額変更

法人向けサービス

freee・マネーフォワードで年末調整を行う手順【令和8年分】改正対応の確認ポイント

IT・クラウド会計

顧問税理士が廃業・引退するとき|引継ぎ先の探し方と会社側の手続き

経営相談

相続した賃貸物件の確定申告|遺産分割前の家賃の分け方と、亡くなった方の準確定申告

税務

賃貸物件を子に移す方法|贈与・売買・相続時精算課税と、移した後の家賃

税務

家賃収入の申告漏れに気づいたとき|期限後申告・修正申告と、さかのぼる年数

税務

夫婦・親子の共有名義の賃貸物件|持分での按分と経費の負担

税務