会計・税務に関する
お役立ち情報ブログ

事業的規模の「5棟10室」|青色申告65万円控除・専従者給与・貸倒れで変わること

税務
事業的規模の「5棟10室」|青色申告65万円控除・専従者給与・貸倒れで変わること

「アパートを増やせば、青色申告で65万円を差し引けるのか」「物件の管理をする家族への給与は経費になるのか」と迷っていませんか。結論として、建物の貸付けは「おおむね5棟または10室」が事業的規模の目安です。控除や家族への給与には別の要件があり、家賃が回収できなくなったときの処理も規模で変わります。

この記事は「大家さんの税金と確定申告の連載|家賃収入の申告から、法人化・相続まで」の第3回です。

以下は2026年10月時点で確認した、2026年分の所得税の取扱いです。2027年分(令和9年分)以後は、65万円の控除にはe-Taxでの期限内の送信が必須になり、書面で申告した場合の控除の上限は10万円になります(2026年分までは書面申告でも55万円)。65万円の控除の要件に加えて優良な電子帳簿の保存などの要件を満たすと、最高75万円の控除を受けられます(国税庁「令和9年分確定申告から適用 75万円の青色申告特別控除」)。まず規模を判定し、その後に記帳・届出・実際の業務を点検する順番で整理します。不動産所得以外に事業所得がない個人の大家さんを中心に説明します。

顧問税理士をお探しの方へ

会社の規模や記帳の状況をお聞きして、顧問料をお見積りします。

顧問契約のお見積り(無料)はこちら →

全国オンライン対応です。

「5棟10室」は事業的規模を判断する目安

事業的規模とは、不動産の貸付けが社会通念上、事業といえる程度の規模に達していることです。所得税基本通達26-9では、建物の貸付けについて、次のいずれかに該当すれば、特に反証がない限り事業として扱うとしています。

  • 貸間・アパートなど:貸すことのできる独立した室数がおおむね10室以上。
  • 独立家屋:貸付けがおおむね5棟以上。

5棟と10室の両方をそろえるという意味ではありません。アパートなどは建物の数だけでなく、独立して貸せる部屋を確認します。入居中の部屋数と、貸すことのできる部屋数も区別しましょう。空室があるときは、募集状況や使用状態を物件一覧に記録しておくと、判定の根拠を整理しやすくなります。

基準に届かなくても、家賃収入や資産の管理状況などから、これに準ずる事情があるかを検討します。「基準未満だから対象外」と機械的に結論を出すものではありません。一方、収入が多いという事情だけで判断せず、契約内容と運営の実態をそろえて確認することが大切です。

この目安は建物の貸付けについてのものです。駐車場の区画数を、そのままアパートの室数に置き換えることは避けましょう。土地や駐車場を含む場合は、建物と分けて貸付けの内容を整理する必要があります。

また、通常の住宅賃貸では、事業的規模になっても家賃の所得区分は不動産所得です。「事業的規模」と「事業所得」は別の言葉です。収入・経費・申告全体の基本は、大家・不動産オーナーの確定申告と節税|不動産所得・減価償却・青色申告を税理士が解説で整理しています。

規模で変わる主な取扱いは、次のとおりです。青色申告特別控除の欄は、不動産貸付け以外に事業所得がない方の2026年分を前提としています。

項目 事業的規模の場合 事業的規模でない場合
青色申告特別控除 要件に応じて最高65万円・55万円。要件を満たさなければ最高10万円 最高10万円
青色事業専従者給与 届出・専従などの要件を満たせば必要経費 適用なし
白色申告の事業専従者控除 所定の要件を満たせば適用あり 適用なし
家賃などの貸倒れ 回収不能となった年の必要経費 収入を計上した年の所得計算をやり直す。適用額に制限あり
賃貸用固定資産の取壊し・除却などの資産損失 損失額の全額を必要経費に算入 資産損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度

65万円控除は「規模・記帳・申告方法」を分けて確認

青色申告とは、税務署の承認を受け、帳簿に基づいて申告する制度です。青色申告特別控除は、一定額を所得から差し引く仕組みです。税額から同額を差し引く制度ではありません。また、事業的規模に達していなくても、青色申告の承認を受けることはできます。

まず55万円控除の要件を満たす

2026年分で、不動産貸付けについて最高55万円の控除を受けるには、青色申告者であることに加え、事業的規模での貸付け、正規の簿記による記帳、必要書類を添えた期限内申告が必要です。一般的な記帳方法は、取引を借方・貸方の両面で記録する複式簿記です。

貸借対照表は資産や借入金などの残高を示す書類、損益計算書は収入と経費を示す書類です。これらと所得金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付し、控除額を記載して申告します。現金主義による所得計算の特例を選んでいる場合は、55万円・65万円控除を受けられません。

65万円控除には追加の要件がある

55万円控除の要件に加え、申告書や貸借対照表・損益計算書等を申告期限までにe-Taxで送信すると、最高65万円の控除の対象になります。e-Taxは国税の電子申告システムです。申告書だけを送信して、決算書の提出方法を確認しないまま終えないようにしましょう。

別の方法として、仕訳帳・総勘定元帳を「優良な電子帳簿」の要件に沿って備え付け、保存する方法もあります。原則として所定の届出書を申告期限までに提出する必要があり、従来から要件を満たす方には届出不要の場合があります。会計ソフトに入力したり、帳簿をPDFにしたりするだけで、この要件を満たすとはいえません。

なお、控除額には控除前の黒字所得による限度があります。不動産所得だけであれば、その所得を超えて差し引くことはできません。物件を増やす判断では、控除額だけでなく、借入返済や修繕に必要な資金も含めて検討しましょう。

次は説明のための架空の例です。独立して貸せる10室のアパートを運営する大家さんが、家賃と経費を簡易な帳簿だけで記録し、e-Taxで申告しました。この場合、規模と電子申告の条件がそろっていても、複式簿記などの条件を満たしていなければ65万円控除は使えません。規模の判定と、控除の要件確認を分ける理由はここにあります。

記帳と確定申告を毎年まとめて任せたい個人事業主の方は顧問契約のお見積りを依頼する →

家族への給与は「専ら従事」の実態と届出が重要

生計を一にする配偶者や親族への給与は、原則として必要経費になりません。「生計を一にする」とは、生活の資を共にしている関係をいいます。事業的規模の不動産貸付けを行う青色申告者には、一定の要件の下で、青色事業専従者給与として必要経費にできる特例があります。

専従者とは、その事業に専ら従事する家族です。2026年10月時点の主な要件は次のとおりです。

  • 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
  • その年の12月31日現在で15歳以上であること。
  • 原則として、その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事すること。一定の場合は、従事できる期間の2分の1を超える期間で判定します。
  • 所定の届出を行い、届出の支給方法・金額の範囲内で実際に給与を支払うこと。
  • 給与額が実際の労務の対価として相当であること。過大な部分は必要経費になりません。

必要経費にしたい年の3月15日が、届出の原則的な期限です。その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合や、新たに専従者がいることとなった場合は、その日から2か月以内です。提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限になります。

例えば、管理会社に委託している業務と、家族が実際に担う業務を書き分けます。入金確認、帳簿作成、入居者への連絡などについて、担当者と作業記録を残すと、働き方や給与額を説明する資料になります。たまに手伝う場合と、専ら従事する場合は区別が必要です。

また、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。給与を経費にしたときの所得だけでなく、家族全体の申告への影響も確認します。白色申告の事業専従者控除も事業的規模が前提ですが、青色の給与とは別の制度です。

貸倒れと建物の取壊しは、計上する年と限度が違う

家賃の滞納と貸倒れを分ける

貸倒れとは、債権を回収できなくなったことをいいます。家賃の入金が遅れているだけの状態と、回収不能になった状態は分けて確認します。契約書、家賃の計上記録、入金履歴、回収不能を判断した資料を対応させておきましょう。

事業的規模の場合、家賃などの回収不能による貸倒損失は、回収不能となった年の必要経費に算入します。これに対し、事業的規模でない場合は、家賃を収入に計上した年にさかのぼり、回収不能に対応する所得がなかったものとして計算し直します。申告済みの年分について、この計算のし直しで税額の減額を求める更正の請求をする場合は、回収できなくなった事実が生じた日の翌日から2か月以内が期限です(所得税法第152条)。

小規模な貸付けで、未回収額をそのまま今年の経費に加える処理は適切ではありません。また、過去の収入を修正すれば、未回収額の全額について税金が戻るわけでもありません。国税庁の質疑応答事例では、収入を計上した年の不動産所得が赤字のケースについて、この取扱いによる更正の請求はできないと示されています。更正の請求とは、申告した税額などの減額を求める手続きです。

取壊し・除却による資産損失にも差がある

除却とは、使っていた資産を取り除くことです。賃貸用固定資産の取壊しや除却などによる資産損失は、事業的規模なら全額を必要経費に算入します。事業的規模でない場合は、その資産損失を差し引く前の、その年の不動産所得の金額が限度になります。

ここでいう損失額を、購入時の建物代金そのものと考えないようにしましょう。過去の減価償却などの記録を確認する必要があります。建物代金を使用期間に配分して経費にする減価償却の基本は、中古アパートの減価償却|耐用年数の出し方と、建物と土地の分け方で扱っています。

申告前に確認するチェックリスト

最初に物件一覧を作り、次に帳簿と届出、最後に特殊な損失を確認すると整理しやすくなります。前年の申告書に同じ控除があるという理由だけで、今年も同じ扱いにすることは避けましょう。

  • 独立家屋と貸室を分け、契約書・間取り図・募集資料で貸付けの内容を確認したか。
  • 年の途中の購入・売却・相続など、貸付資産の増減と日付を整理したか。
  • 基準未満で事業的規模と判断する場合、その根拠となる収入・管理の状況を説明できるか。
  • 青色申告の承認と、希望する控除に必要な帳簿・決算書・申告方法を確認したか。
  • 家族の担当業務、従事状況、給与の届出、実際の支払記録が対応しているか。
  • 未収家賃について、滞納と回収不能を区別し、過去の収入計上年を確認したか。
  • 取壊し・除却をした資産について、固定資産台帳と損失額の計算資料を用意したか。

相続で物件を引き継いだ場合も、以前の大家さんの申告方法をそのまま写すのではなく、自分の承認・届出の状況を確認します。物件の規模、申告する人、家族の働き方をそろえて見直すことが、申告漏れや控除の誤りを防ぐための準備になります。

まとめ

「5棟10室」は、建物の貸付けが事業的規模かを判断する目安です。規模が認められても、65万円控除には記帳や期限内申告などの要件があり、家族への給与には専従の実態と届出が必要です。貸倒れや資産損失は、規模によって計上する年や経費にできる範囲が変わります。2026年分の申告に向けて、物件一覧・帳簿・届出の控えを照合しておきましょう。

よくある質問

Q. 5棟10室に届かないと青色申告はできませんか?

青色申告は可能です。事業的規模でない不動産貸付けでも承認を受けられ、不動産所得以外に事業所得がない場合、2026年分の青色申告特別控除は最高10万円です。別に事業所得がある場合は、そちらの事業や記帳の状況を含めて判定します。

Q. 管理会社に任せていると事業的規模になりませんか?

管理会社への委託の有無だけでは決まりません。独立した室数や貸付けの状況などに基づいて判定します。ただし、家族への専従者給与は別の問題で、委託後に家族が実際にどの業務へ従事しているかを確認する必要があります。

Q. 規模が小さい場合は、経費を差し引けませんか?

規模が小さくても、不動産収入を得るために直接必要で、私生活の支出と区分できる費用は必要経費になります。事業的規模でないことによる制限は、専従者給与や資産損失などの取扱いと区別して考えましょう。

この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日

参考資料

新着情報NEWS

法人成りしたときの会計ソフトの切り替え|個人の事業所から法人用へ移す手順

IT・クラウド会計

会社の解散確定申告から清算確定申告までの流れ|たたむときの税務手続き

決算

社会保険の手続きを外注するときの分担|入社・退職・算定基礎・月額変更

法人向けサービス

freee・マネーフォワードで年末調整を行う手順【令和8年分】改正対応の確認ポイント

IT・クラウド会計

顧問税理士が廃業・引退するとき|引継ぎ先の探し方と会社側の手続き

経営相談

相続した賃貸物件の確定申告|遺産分割前の家賃の分け方と、亡くなった方の準確定申告

税務

賃貸物件を子に移す方法|贈与・売買・相続時精算課税と、移した後の家賃

税務

家賃収入の申告漏れに気づいたとき|期限後申告・修正申告と、さかのぼる年数

税務

夫婦・親子の共有名義の賃貸物件|持分での按分と経費の負担

税務