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社長の退職金と承継|株価と老後の資金を一緒に考える

事業承継・相続
社長の退職金と承継|株価と老後の資金を一緒に考える

後継者に会社を渡す準備を進める中で、「自分の退職金を払うと、株価や会社の資金はどうなるのか」と悩む社長もいるでしょう。結論は、社長個人の税引後の手取り、後継者へ渡す株式の評価、会社に残す現預金を同時に試算することです。

この記事は「事業承継の連載|後継者・自社株・M&A・会社のたたみ方」の第10回です。

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退職金は「社長の生活」と「会社の継続」を一緒に考える

この記事では、法人が退任する社長に支給する役員退職金を扱います。退職金を老後の資金に充てる際は、希望する支給額から考えるだけでなく、会社が支払った後の経営まで見通すことが大切です。

まず、社長個人の生活費、住宅費、医療・介護への備えを整理します。そこから年金などの収入や個人の預貯金を差し引き、退職金で補いたい金額を考えます。自社株を持っていても、生活費に使える現金とは分けて管理しましょう。

一方、会社の預金には、仕入代金や給与、納税、借入返済に使う予定の資金も含まれます。預金残高の全額を退職金の原資として見込むと、後継者が事業を始める段階で資金不足になりかねません。次の表のように、立場ごとの確認事項を並べると整理しやすくなります。

考える立場 確かめる金額 計画で確認したいこと
退任する社長 税引後の退職金と個人の金融資産 退任後の生活費を賄えるか
後継者 引き継ぐ株式の評価額と取得資金 株式取得と経営に無理がないか
会社 支給後の現預金と今後の収支 給与・仕入・返済・設備更新を続けられるか

会社で税負担が減る見込みがあっても、退職金を払うための現金は別に必要です。税額の試算と資金繰り表を並べ、支給する月と、その後に資金が少なくなる月を確認します。

退職金で自社株の評価はどう変わるのか

ここでいう株価は、主に贈与税・相続税を計算するための自社株の評価額です。国税庁は、上場していない会社などの株式について、取得する株主の立場や会社規模などに応じた評価方法を示しています。退職金を払ったという事実だけで、評価額の下がり方は決まりません。

資産を基にする評価と、利益などを比べる評価

純資産価額方式は、会社の資産と負債を基に株式を評価する方法です。原則として、資産を相続税評価額に置き換え、負債などを差し引いて計算します。そのため、退職金の支給で現預金が減ることは、評価額を下げる方向に働く可能性があります。

ただし、退職金の支給額と株式評価額の減少額は同じとは限りません。土地などの評価、負債、法人税等の扱いも関係します。退職金を支給する前と後について、同じ前提で計算して比べる必要があります。

類似業種比準方式は、類似する業種の株価を基に、自社の配当・利益・帳簿上の純資産を比べる方法です。計算には直前期末の数値などを使います。今期に退職金を支給しても、その影響が贈与する日の評価にすべて反映されるとは限りません。

支給日、決算日、株式を移す日を並べ、評価に使う決算がどれかを確認しましょう。評価方式の選択や計算結果を見ないまま、「退職金を払った直後に株を渡せばよい」と決めることは避けます。

将来の支給予定と、評価上の負債は分ける

退職給与引当金とは、将来の退職金の支払いに備えて会計上計上する金額です。国税庁の財産評価基本通達では、純資産価額の計算上、この引当金は負債に含めません。将来払うつもりの金額を、そのまま株価から差し引く考え方はできません。

株価への影響を見る際は、実際の退任、支給額の決定、支払いの状況を整理します。税務上の評価が下がる見込みだけを優先せず、後継者に残る事業資金も併記しましょう。

老後の資金は、退職金の額面ではなく手取りで見る

退職所得とは、退職に伴って受け取る退職手当などの所得です。原則として、他の所得と分けて所得税を計算します。また、退職所得控除という、勤続年数に応じて差し引く仕組みがあります。

2026年10月時点の原則的な退職所得の計算は、「(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1」です。退職所得の金額が、そのまま税額になるわけではありません。

  • 勤続年数が20年以下:退職所得控除額は40万円×勤続年数。計算結果が80万円未満なら80万円です。
  • 勤続年数が20年超:退職所得控除額は800万円+70万円×(勤続年数-20年)です。

ただし、役員等としての勤続年数が5年以下で、その期間に対応する退職金に当たる場合は、上記の2分の1計算を使いません。従業員だった期間と役員だった期間がある社長は、期間と支給の内訳を整理して試算します。

通常、支給時には所得税等や住民税が差し引かれます。老後の計画には、これらを控除した入金額を使いましょう。会社側では、社長への振込額に加え、差し引いた税金の納付も資金繰りに含めます。

iDeCoなどの一時金も受取予定を並べる

iDeCoは個人型確定拠出年金です。会社の退職金に加え、iDeCoなどの老齢給付金を一時金で受け取る場合は、受給順と対象期間にも注意します。

2026年10月時点では、2026年1月1日以後に受け取った老齢一時金が前年以前9年内にあり、その後に会社の退職金を受け取る場合、対象期間の重複によって退職所得控除の調整が生じることがあります。2025年以前に受け取った老齢一時金でも、会社の退職金を受け取る年の前年以前4年内にあれば、同じように調整が生じることがあります。会社の退職金を先に受け、その後に老齢一時金を受け取る場合は、前年以前19年内の退職金が調整の確認対象です。

受給額などによっても計算は変わります。「受取年を分ければ控除をそれぞれ満額使える」と考えず、過去の受給履歴と今後の予定をまとめて確認します。

退任の実態と支給時期を、承継の予定に合わせる

会社の損金とは、法人税の計算で収益から差し引ける費用などのことです。適正な役員退職金は損金に算入できます。支給額の相当性は、在任期間、退職の事情、同業種・同規模の法人の支給状況などから判断されます。

損金に入れる時期は、原則として株主総会の決議等により金額が具体的に確定した事業年度です。実際に支払った事業年度に損金経理をする扱いも認められます。一方、金額が具体的に確定する前に、取締役会で内定した金額を未払金に計上しただけでは、その時点で損金に算入できません。

退職金の適正額の詳しい考え方は、役員退職金を活用した法人の節税対策|適正額の計算方法と損金算入のルールで解説しています。この回では、支給額の検討と、引き継ぐ時期を結び付けることに重点を置きます。

社長が会長などとして会社に残る場合は、肩書だけで退職の扱いは決まりません。役員の職務変更に伴う支給について、国税庁は、地位や職務の内容が大きく変わり、実質的に退職したのと同様の事情があるかを示しています。また、分掌変更による退職給与は、原則として未払金等に計上しただけでは損金に算入できません(法人税基本通達9-2-32の注)。

引き継ぎ後に誰が経営判断をするか、前社長はどの範囲で助言するかを具体化します。後継者が社長に就いた後も、前社長が実質的に経営の中心にいる計画なら、退職金の税務上の扱いを事前に検討する必要があります。

支給額と承継後の資金を、複数案で比較する

まず、会社の資金繰りを月ごとに作り、退職金を払う案と、金額や退任時期を見直す案を比べます。社長が必要とする金額と会社の支払余力が合わなければ、税額を計算し直すだけでは解決しません。生活費の見通しや承継の時期も含めて調整します。

次は説明のための架空の例です。親から子へ承継する会社で、親は退職金を老後の主な資金にしたいと考えています。会社には預金がありますが、設備の更新と借入返済も控えています。

当初の案では、希望する退職金を支給すると、設備更新後の現預金が乏しくなる見通しでした。そこで、退職金を減らす案と、設備更新や引き継ぎの時期を再検討する案を作ります。親の生活費が足りるか、子が必要な投資を続けられるかを、それぞれの案で確認します。

この例で大切なのは、株価がどれだけ下がるかだけで案を選ばないことです。親の手取りが増えても、その後に会社への資金支援が必要になる計画では、老後の見通しも不安定になります。

自社で確認するチェックリスト

  • 社長個人の生活費、年金などの収入、金融資産を整理したか。
  • 退職金は、税引後の手取りで比較しているか。
  • 過去の退職金やiDeCoなどの一時金の受給履歴を確認したか。
  • 会社の給与、仕入、納税、返済、設備更新の資金を残せるか。
  • 退任後の経営判断と、前社長の役割を具体化したか。
  • 退職金の決定・支払い、決算、株式移転の予定を並べたか。
  • 株式評価に使う決算や評価方法を確認したか。

比較の結果は、社長と後継者が同じ資料で確認できる形にします。退職金の額だけを伝えるより、支給後に会社へ残る資金と、予定している支出を共有した方が、引き継いだ後の判断につながります。

M&Aを選ぶ場合も、退職金と株式売却代金を合わせた社長の手取りを見積もり、会社から支給する条件を取引全体の中で整理します。手続きの流れは、【税理士監修】中小企業のM&A流れと手順を完全解説|準備から成約までを参照してください。

まとめ

社長の退職金は、老後の生活資金、自社株の評価、会社の資金繰りを一緒に考えるテーマです。退職金を支給した場合の株価への影響は、評価方法や使う決算、株式を移す時期によって異なります。社長個人は税引後の手取りを、会社は支給後の現預金と今後の支出を確認しましょう。退任後の役割も具体化し、後継者が事業を続けられる条件から支給額と時期を検討することが大切です。

よくある質問

Q. 退職金を払えば、自社株の評価は支給額と同じだけ下がりますか?

同じだけ下がるとはいえません。評価方式や資産・負債の状況、計算に使う決算によって影響が異なります。支給前後を同じ前提で試算し、会社に残る資金も確認します。

Q. 会長として残りながら退職金を受け取れますか?

肩書だけでは判断できません。役員としての地位や職務が大きく変わり、実質的に退職と同様の事情があるかを検討します。代表権や経営への関与など、退任後の実態を確認します。

Q. 後継者が決まる前でも、退職金の準備はできますか?

生活資金と会社の支払余力の整理は進められます。ただし、親族への承継かM&Aかによって計画は変わります。支給だけを先行させず、承継方法が決まった段階で金額と時期を見直しましょう。

この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日

参考資料

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