「子どもに会社を継がせたいけれど、株を渡すと税金はいくらかかるのか」。後継者に購入資金がなく、贈与と売買のどちらを選ぶか迷う社長もいるでしょう。自社株の移転は、贈与時の税金だけでなく、相続時の負担、後継者の資金、経営を引き継ぐ時期を合わせて比較することが大切です。この記事では、暦年贈与・相続時精算課税・売買の違いと、選ぶ前の確認事項を整理します。
この記事は「事業承継の連載|後継者・自社株・M&A・会社のたたみ方」の第5回です。
自社株を移す方法は「税金・資金・時期」で比較する
ここで扱う自社株は、社長個人が保有する非上場会社の株式です。会社自身が持つ自己株式の処分ではありません。また、親個人から後継者個人へ移す場面を中心に説明します。法人が買主になる場合などは、別の検討が必要です。
暦年贈与とは、暦年課税という、年ごとに贈与税を計算する方法による贈与です。相続時精算課税は、一定の贈与について、贈与税と将来の相続税を通じて税負担を精算する制度です。売買では、後継者が代金を払い、社長から株式を買い取ります。
次の表は、2026年10月時点の制度を基にした比較です。個別の特例を適用しない場合の基本を示しています。
| 比較する点 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 | 個人間の売買 |
|---|---|---|---|
| 後継者の購入資金 | 代金は不要。贈与税の資金は別途検討 | 代金は不要。贈与税と将来の相続税の資金を検討 | 購入代金が必要 |
| 移転時の税金 | 年110万円の基礎控除後に贈与税を計算 | 年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除。残額に20% | 売主の譲渡益に通常20.315% |
| 将来の相続との関係 | 一定期間内の贈与は加算対象になる | 原則として贈与時の価額から基礎控除を引いた額を加算 | 売却後に社長の手元に残る資金も含めて承継計画を考える |
| 主な検討場面 | 時間をかけて段階的に移したい | まとまった株式を早めに移したい | 後継者に資金があり、社長も代金を受け取りたい |
| 見落としやすい点 | 他の贈与との合算、相続時の加算 | 同じ贈与者について暦年課税へ戻せない | 価格の妥当性、代金の支払い、売主の納税 |
なお、贈与税の計算で使う株価は、設立時に払い込んだ金額をそのまま使えるとは限りません。国税庁は、取引相場のない株式について、取得する株主の立場や会社の規模などに応じた評価方法を示しています。まず移す予定の株式を評価し、その金額で各方法を比較します。評価方法の詳細は、本記事では扱いません。(国税庁「取引相場のない株式の評価」)
暦年贈与は少しずつ移せるが、相続時の加算に注意
年110万円は「もらう人」の年間合計で考える
暦年課税では、1月1日から12月31日までに受けた贈与財産を合計し、基礎控除の110万円を差し引いて贈与税を計算します。2026年10月時点でも、基礎控除は贈与者ごとではありません。暦年課税の対象となる贈与を、受け取る人ごとに合計します。(国税庁「贈与税がかかる場合」)
自社株のほかに現金などの贈与を受けていれば、それも含めた確認が必要です。株式だけを見て控除内と判断すると、年間の贈与額を見誤ります。父からの株式、母からの現金などを一覧にすると、整理しやすくなります。
基礎控除を超えた部分には、金額に応じた贈与税率が適用されます。贈与を受ける年の1月1日に18歳以上の子などが父母・祖父母などから受ける贈与には、特例税率が使われます。親族であれば誰でも同じ税率表になるわけではありません。
2026年の相続で、既に7年分が加算されるわけではない
相続などで財産を取得した人については、亡くなった人から一定期間内に受けた暦年贈与が、相続税の計算に加算されます。対象期間内なら、年110万円以下で贈与税がかからなかった財産も対象になります。
2024年1月1日以後の贈与について、加算対象期間は段階的に延びます。2026年12月31日までに開始する相続は相続開始前3年以内です。2027年から2030年に開始する相続は2024年1月1日から死亡日まで、2031年1月1日以後に開始する相続は相続開始前7年以内となります。
また、2027年1月2日以後に開始する相続では、相続開始前3年以内の贈与以外の加算対象財産について、その合計から総額100万円を控除します。毎年100万円を控除する仕組みではありません。加算対象となった贈与に贈与税がかかっていた場合は、対応する贈与税額を相続税から控除します。(国税庁「贈与財産の加算と税額控除」)
したがって、暦年贈与を選ぶときは、年間の税額と移転完了までの見通しを並べます。控除内に収めることを優先した結果、必要な時期までに予定した株数を渡せない計画になっていないかも点検しましょう。
相続時精算課税は早期移転の選択肢。ただし撤回できない
対象者と控除の仕組み
相続時精算課税は、原則として、贈与の年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母などから、同日に18歳以上の子などの推定相続人または孫への贈与で選択できます。推定相続人とは、その時点で相続が起きれば相続人になる人です。事業承継税制などには特例があるため、親族以外の後継者を含む場合は適用関係を分けて確認します。
2026年10月時点では、2024年1月1日以後の贈与に年110万円の基礎控除があります。その後に、贈与者ごとに累計2,500万円までの特別控除を差し引き、残額に一律20%の贈与税がかかります。特別控除は毎年復活する枠ではなく、前年までに使った分を差し引きます。
複数の人から相続時精算課税による贈与を受けた年も、基礎控除が贈与者の人数分に増えるわけではありません。年110万円を、それぞれから受けた贈与の課税価格に応じて按分します。
贈与税がゼロでも、相続税の検討は残る
贈与者が亡くなったときは、原則として、贈与を受けた年ごとの贈与時の価額から基礎控除を引いた残額を相続税の計算に加えます。特別控除で贈与税がかからなかった部分も、この加算から外れるわけではありません。一方、2024年以後の贈与で基礎控除の適用を受けた部分は加算されません。
株価が贈与後に上がっても、相続時に加算する株式の価額は原則として贈与時を基準にします。ただし、将来の値上がりは予測どおりになるとは限りません。値下がりした場合も考え、株式以外の相続財産を含めて試算することが大切です。
次は説明のための架空の例です。年齢などの要件を満たす親子間で、2026年に評価額1,000万円の株式を贈与するとします。その年の他の贈与はなく、特別控除は未使用で、必要な届出と期限内申告を行う前提です。
1,000万円から基礎控除110万円を引いた890万円に特別控除を使うため、この贈与の贈与税はゼロです。しかし、将来の相続税の計算には原則として890万円を加算します。贈与時の納税がないことと、相続まで含めた税負担がないことは区別しましょう。
選択届出と申告を分けて確認する
初めて選択する場合は、原則として贈与の翌年2月1日から3月15日までに、相続時精算課税選択届出書と所定の添付書類を提出します。基礎控除内で贈与税の申告が不要な場合も、初回の選択届出は必要です。2,500万円の特別控除を使うには、贈与税の期限内申告が要件となります。
一度選択すると、その贈与者から受ける贈与は、選択した年以後、暦年課税へ戻せません。株式だけの選択ではないため、同じ親から今後受ける現金などの贈与も見据えて判断します。(国税庁「相続時精算課税の選択」)
売買は社長に代金が入る一方、後継者の資金と価格が課題
売買は、後継者が購入資金を用意でき、社長も承継後の生活資金を受け取りたい場合の比較対象になります。検討するときは、売却代金の総額と、売主の税金を差し引いた手取り額を分けて考えます。
個人が非上場株式を売った場合、一般株式等の譲渡益は、他の所得と分けて計算する申告分離課税の対象です。基本的な計算は、売却代金から取得費と売却にかかった手数料などを引き、譲渡益を求める形です。
2026年10月時点の通常の税率は、所得税15%・住民税5%に、所得税に対する2.1%の復興特別所得税を加えた20.315%です。売却代金全体にこの率を掛けるわけではありません。(国税庁「株式等を譲渡したときの課税」)詳しい計算や取得費の扱いは、株式譲渡にかかる税金(個人)|税率20.315%の計算方法と節税の注意点を税理士が解説で説明しています。
また、親子で合意した価格でも、著しく低い価額での売買は注意が必要です。個人から財産を著しく安く取得すると、時価と支払額との差額が贈与とみなされます。低額かどうかは個別の事情で判断され、一律の値引き率だけでは決められません。
国税庁は、この贈与税の取扱いで使う時価について、土地・家屋など以外の財産は相続税評価額としています。(国税庁「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」)株価の評価資料を用意し、誰が売り、誰が買う取引なのかを明確にしたうえで価格を検討しましょう。
実行時には、契約内容と代金の支払記録を残します。後継者が自己資金で買うのか、借入れを使うのかで、承継後の資金計画も変わります。親から購入資金の贈与も受けるなら、その贈与について別途税務の検討が必要です。
方法を決める前のチェックリスト
最初に「いつまでに、誰へ、どの株式を移すか」を書き出します。そのうえで、各方法の税額と資金の動きを同じ条件で比較します。贈与税だけが少なく見える案でも、後継者が将来の相続税を払う資金まで見通せるかを確認します。
- 移転前後の株主と保有株数、経営を引き継ぐ時期を整理したか。
- 移転予定の株式について、評価時点と評価方法の根拠を用意したか。
- 後継者が同じ年に受ける現金など、株式以外の贈与も確認したか。
- 過去の相続時精算課税の選択と、特別控除の使用額を確認したか。
- 贈与・売買の実行時と将来の相続時の両方で、納税資金を検討したか。
- 売買なら、購入代金の調達方法と支払いの予定を具体化したか。
- 定款、株主名簿、必要な社内手続き、契約書などを確認したか。
- 他の家族への財産の引継ぎと、社長自身の生活資金も整理したか。
税務の選択と、経営の引継ぎは一緒に進めると整理しやすくなります。準備の順序は、親族内承継の流れ|後継者への引き継ぎ手順とステップ別の進め方を税理士が解説も参考になります。
事業承継税制の利用も検討する場合は、本記事の通常の課税による比較とは分けて、適用要件や手続きを確認します。詳しくは、事業承継税制の特例措置とは|申請期限・適用要件を税理士が解説で扱っています。
まとめ
暦年贈与・相続時精算課税・売買は、移転時の税金、将来の相続、必要な資金が異なります。暦年贈与では相続時の加算、相続時精算課税では撤回できない点と将来の精算、売買では価格と購入資金が主な確認事項です。まず株価と移す時期を整理し、社長と後継者の手元資金を同じ条件で比べましょう。贈与時の税額だけで結論を出さず、承継後の経営と家族の財産まで見通すことが大切です。
よくある質問
Q. 暦年贈与で年110万円以内なら、相続税もかかりませんか?
そうとは限りません。相続などで財産を取得した人が、亡くなった人から加算対象期間内に受けた暦年贈与は、贈与税がかからなかった部分も相続税の計算に加算されます。実際の相続税の有無は、他の財産なども含めて判断します。
Q. 相続時精算課税を選び、後から暦年課税に変更できますか?
選択した贈与者については変更できません。その人から受ける株式以外の贈与にも適用されます。ただし、選択は贈与者ごとのため、別の人からの贈与の課税方法まで一緒に変更されるわけではありません。
Q. 親子で合意すれば、安い価格で株式を売ってもよいですか?
合意だけで税務上の問題がなくなるわけではありません。個人間の売買でも、著しく低い価額なら時価との差額に贈与税がかかることがあります。株価の根拠と支払条件を整理してから進めましょう。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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