「介護報酬は非課税なのに、なぜ消費税の負担が発生するのか」「処遇改善加算や賃上げの税制は、自社でも使えるのか」。介護事業所・デイサービス・障害福祉サービスを法人で運営する経営者から、税務についてこうした相談をいただきます。介護・福祉は消費税の非課税が中心となる特殊な業種で、ほかの業種とは異なる税務の考え方が必要です。
本記事では、介護・福祉の法人の税務について、消費税の課税・非課税の線引き、控除対象外消費税、賃上げ促進税制、法人形態の違いまでを、2026年6月時点の国税庁の一次情報に基づいて整理します。年度で取り扱いが変わる数値や個別判断が必要な論点は、その旨を明記します。
介護・福祉サービスの消費税|非課税が中心
介護保険の対象となるサービスは、消費税法の規定により非課税とされています。訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所、特定施設入居者生活介護などの指定居宅サービスや、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付など)は、社会福祉事業として消費税が非課税です。
ただし、すべてが非課税というわけではなく、課税となる部分もあります。
| 区分 | 消費税の扱い |
|---|---|
| 介護保険の対象となる居宅・施設サービス | 非課税 |
| 障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付等) | 非課税 |
| 福祉用具の貸与・特定福祉用具の販売 | 原則課税(身体障害者用物品に該当すれば非課税) |
| 利用者の選択による特別な居室・特別な食事・選定による送迎等 | 課税 |
| 物販(日用品の販売等) | 課税 |
このように、日常的な介護報酬は非課税である一方、福祉用具の販売や自費の付加サービス、物販は課税になります。なお、障害者の相談支援のうち、計画相談支援・地域相談支援は非課税ですが、一般的な「障害者相談支援事業」は社会福祉事業に該当せず課税となる点に注意が必要です。課税・非課税を正しく区分した経理が求められます。
控除対象外消費税という業種特有の負担
介護・福祉の法人で経営に直結する重要な論点が、控除対象外消費税です。介護・福祉は売上の大半が非課税のため、課税売上割合(全売上のうち課税売上の占める割合)が低くなりがちです。
消費税の仕組みでは、課税売上割合が95%未満になると、仕入れで支払った消費税を全額は控除できず、個別対応方式か一括比例配分方式で按分して控除します。その結果、家賃・備品・送迎車両・水道光熱費などで支払った消費税のうち、控除できない部分が生じます。これが控除対象外消費税で、事業者の負担(コスト)になります。介護・福祉は非課税売上が中心であるがゆえに、この負担が構造的に発生しやすいのです。消費税の計算の基本は、法人の消費税の計算方法|原則課税と簡易課税の違いもあわせてご参照ください。
なお、非課税売上が中心のため、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えにくく、消費税の免税事業者となるケースも多く見られます。
賃上げ促進税制・法人形態の違い
介護・福祉業界では、処遇改善加算などによる職員の待遇改善が進められています。給与を増やした法人は賃上げ促進税制を活用できますが、ここで重要なのが、この税制は法人税の税額控除であるため、法人税が課税される法人でなければ実益が出にくいという点です。株式会社などの営利法人は適用しやすい一方、社会福祉法人は後述のとおり法人税が非課税の事業が中心のため、適用の場面が限られます。
なお、賃上げ促進税制の控除率や要件は年度で変わります。また、給与の増加額を計算する際、賃上げのための補助金を受け取っている場合は、その補助金を給与増加額から差し引く必要があるなど、加算・補助金の種類ごとに取り扱いが分かれる論点があります。適用にあたっては個別に確認してください。賃上げ促進税制の詳細は、【2026年】賃上げ促進税制を中小企業が使う方法で解説しています。
法人形態によって、税務上の扱いは大きく異なります。株式会社はすべての所得が法人税の課税対象です。一方、社会福祉法人は、社会福祉事業や公益事業から生じる所得は法人税が非課税で、収益事業(不動産賃貸や物販など)のみが課税対象になります。NPO法人も収益事業のみが課税対象です。設立する法人形態によって税負担が変わるため、事業の性質に応じた選択が重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 介護報酬は非課税なのに、なぜ消費税の負担があるのですか?
A. 売上(介護報酬)は非課税でも、家賃・備品・送迎車両などの仕入れには消費税がかかります。介護・福祉は課税売上割合が低いため、この仕入れの消費税を全額は控除できず、控除できない部分(控除対象外消費税)が事業者の負担になります。
Q2. 福祉用具の販売も非課税ですか?
A. 福祉用具の貸与や特定福祉用具の販売は、原則として課税です(身体障害者用物品に該当する場合は非課税)。介護報酬の本体サービスは非課税でも、物販部分は課税になるため、区分した経理が必要です。
Q3. 自費サービスを始めたら消費税はどうなりますか?
A. 利用者の選択による特別な居室・食事や、保険外の自費サービス、物販は課税対象です。課税売上が増えると課税事業者になる場合があり、課税・非課税を区分した経理と消費税の申告が必要になります。
Q4. 賃上げ促進税制は社会福祉法人でも使えますか?
A. 賃上げ促進税制は法人税の税額控除のため、法人税が課税される法人でないと実益が出にくい制度です。社会福祉事業が中心で法人税が非課税の社会福祉法人では、適用の場面が限られます。株式会社などの営利法人は活用しやすい制度です。
Q5. 介護事業は株式会社と社会福祉法人でどちらが税務上有利ですか?
A. 一概には言えません。社会福祉法人は社会福祉事業の所得が法人税非課税という大きな利点がありますが、設立や運営に要件があります。株式会社は課税される一方で、賃上げ促進税制などの恩恵を受けやすい面があります。事業計画に応じた検討が必要です。
参考資料
- 国税庁:No.6215 社会福祉事業等として行われる資産の譲渡等に係る非課税範囲
- 国税庁:非課税となる「居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービス」の具体的な範囲
- 国税庁:No.6401 仕入控除税額の計算方法(課税売上割合・個別対応方式)
介護・福祉の法人の税務は、消費税の非課税が中心という特殊性、控除対象外消費税の負担、法人形態による違いという、ほかの業種とは異なる論点が中心です。これらを正しく理解すれば、無駄な負担を避け、活用できる制度を取りこぼさずに済みます。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績とクラウド会計導入支援の知見をもとに、freee・マネーフォワードクラウドでの課税・非課税の区分経理から、課税売上割合を踏まえた消費税の最適化、賃上げ促進税制の適用判断までをサポートしています。介護・福祉の税務に不安のある経営者の方は、お気軽にご相談ください。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、介護・福祉をはじめとする中小企業の税務・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年6月29日
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