賃貸物件を子に渡して、今後の家賃も引き継いでもらいたい。そう考えたときは、贈与か売買かに加えて、移転時の税金と移転後の申告を整理します。この記事では、それぞれの違い、相続時精算課税の注意点、家賃を誰の収入にするかを説明します。
この記事は「大家さんの税金と確定申告の連載|家賃収入の申告から、法人化・相続まで」の第15回です。
子への贈与と売買は、代金の有無から整理する
贈与は、対価を受け取らずに財産を渡す方法です。売買は、子が親に代金を払って取得する方法です。まず、この違いを家族で共有しましょう。本記事は、国内の賃貸物件を、日本に住む個人の親から個人の子へ移す一般的な場面を扱います。
相続時精算課税は、贈与税の計算方法の一つです。贈与と別の方法で物件を渡す制度ではありません。贈与税には、年ごとに計算する「暦年課税」と、贈与時と将来の相続時を通じて計算する「相続時精算課税」があります。
| 選択肢 | 子が用意するもの | 税務上の主な確認点 |
|---|---|---|
| 贈与・暦年課税 | 贈与税などの納税資金 | 贈与する物件の評価額と、その年に受けた他の贈与。亡くなる前の一定期間の贈与は相続税に加算(2024年以後の贈与は段階的に7年へ延長) |
| 贈与・相続時精算課税 | 税金・移転費用の資金と届出書類 | 年齢などの要件、控除の残額、将来の相続税 |
| 売買 | 購入代金と移転費用 | 価格の根拠、実際の支払い、親の譲渡所得 |
暦年課税の基礎控除、つまり税額計算の前に差し引く金額は、2026年10月時点で年110万円です。その年の1月1日から12月31日までに子が受けた、暦年課税の対象となる贈与を合計して判定します。物件とは別に受けた現金なども確認します。
暦年課税の贈与財産の合計が110万円以下なら、通常、贈与税もその申告も不要です。110万円は親ごとの枠ではありません。物件を丸ごと渡すのか、一部の持分を渡すのかも、評価額を確認してから決めます。
親子売買は、価格と支払いを記録する
子に購入資金があれば、売買も検討できます。ただし、「親子だから安くしてよい」と税務上も扱われるわけではありません。時価とは、通常の取引で成立する価額です。個人間で不動産を著しく低い価額で譲ると、時価と代金との差額が贈与とみなされます。
著しく低いかどうかは、個別の事情で判断されます。親子間の売買に、一律の安全な値引率はありません。相続税評価額と、ここでいう通常の取引価額を同じものと考えないことも大切です。周辺の取引、賃貸状況、物件の状態などを踏まえ、価格を決めた根拠を残します。
契約書には対象物件、代金、支払方法、引渡しの条件を記載します。代金の送金記録も保存しましょう。親子で合意した金額と、実際に払った金額を後から照合できる状態にします。子の資金が不足する場合は、支払える計画かどうかを先に見直します。
親には、譲渡所得、つまり不動産を売った利益への課税が生じることがあります。土地・建物の売却代金から、取得費と売却に直接かかった費用を差し引いて計算します。取得費は、物件を買うために使った代金などです。税率や所有期間による違いは、不動産を売ったときの税金|譲渡所得の計算と「5年」の線で扱います。
親が消費税の課税事業者の場合、賃貸用の建物の売却は、住宅用の建物でも消費税の課税対象です(土地は非課税)。売買を選ぶときは、親の消費税の納税義務と、建物と土地の代金の区分もあわせて確かめます。
ローンの引受けを条件にすると、別の確認が必要
負担付贈与とは、財産を受け取る代わりに、借入金などの債務を負う条件を付けた贈与です。不動産の場合、贈与税は通常の取引価額から負担額を差し引いて計算します。相続税評価額からローン残高を引けばよい、という扱いではありません。
また、親は負担額で財産を譲渡したものとされ、利益があれば所得税の対象になります。借入れがある物件では、ローン契約と金融機関の手続きも事前の確認事項に入れます。税金の計算と、借入れを誰が負うかの整理を一緒に進めましょう。
相続時精算課税は、贈与時だけで判断しない
2026年10月時点の一般的な親子間の要件は、贈与した年の1月1日に親が60歳以上、子が18歳以上であることです。子は、親の直系卑属である推定相続人に該当する必要があります。推定相続人とは、その時点で相続が起きれば相続人となる人です。
計算では、年110万円の基礎控除と、贈与者ごとに累計2,500万円の特別控除を区別します。年の贈与額から基礎控除と特別控除の未使用額を差し引き、残額には一律20%の贈与税がかかります。これらは2026年10月時点の金額・税率です。
年110万円の基礎控除は、2024年1月1日以後の贈与に適用されます。同じ年に父母の双方など、複数の贈与者について相続時精算課税の贈与を受けた場合は、110万円を贈与額に応じて配分します。各贈与者について110万円ずつ使えるわけではありません。
相続時に合算する額と、贈与税が出ない額は違う
親が亡くなったときは、原則として贈与時の価額を相続税の計算に合算します。2024年以後の贈与では、年ごとに基礎控除を差し引いた残額が対象です。2,500万円の特別控除を使った部分も、合算する額に含まれます。
暦年課税の贈与も、相続税と無関係ではありません。親が亡くなったときに、相続や遺贈(または相続時精算課税に係る贈与)で親から財産を取得した人は、亡くなる前の一定期間に親から受けた暦年課税の贈与も相続税の計算に加算します。2024年以後の贈与は加算の期間が段階的に7年へ延び、相続が2026年までなら3年、2027年から2030年までは2024年1月1日以後の贈与、2031年以後は7年です(2026年10月時点)。延びた期間(亡くなる前3年より前)に受けた贈与は、その合計額から総額100万円までは加算しません。毎年100万円ずつ差し引けるわけではありません。
次は説明のための架空の例です。父から子への贈与税評価額が2,000万円で、その年の相続時精算課税の贈与はこれだけとします。要件・手続きを満たし、過去に特別控除を使っていないものとします。年110万円を引いた1,890万円に未使用の特別控除を充てれば、贈与税は出ません。しかし、将来の相続税の計算では、原則として1,890万円が合算対象になります。
そのため、贈与時の税金が出ないことと、相続まで含めた税負担が軽くなることは別です。将来の物件価格、親が保有し続けた場合の家賃、親の生活資金も並べて検討します。また、相続時精算課税で贈与された土地には、相続税の評価額を減らす「小規模宅地等の特例」を使えません。相続税評価の詳しい考え方は、相続した不動産の税金|相続税評価と貸家建付地、売るか持つかの判断で説明しています。
選択届出と、特別控除の申告を分けて確認する
初めて選ぶ年は、贈与額が110万円以下でも選択届出が必要です。届出書と必要書類の提出期間は、原則として贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。特別控除を使うには、期限内に贈与税の申告書を提出します。
一度選ぶと、その親からの贈与について暦年課税へ戻れません。その後の現金などの贈与にも関わります。物件だけの選択と考えず、親子間の贈与全体を確認して決めましょう。
移した後の家賃は、口座より権利関係で判断する
家賃の帰属とは、誰の所得として申告するかということです。所得税基本通達12-1は、資産から生じる収益について、その資産の真実の権利者を基準に判断するとしています。所有権を実際に子へ移し、子が賃貸人となる通常のケースでは、その後の家賃は原則として子に帰属します。
親の物件のまま振込口座だけ子に変更しても、それだけで子の不動産所得になるわけではありません。反対に、子に移した物件の家賃が、切替えの遅れで親の口座に入ることも考えられます。通帳の名義だけで決めず、契約と権利関係を確認します。
移転する年は、親子それぞれの収入を整理した一覧表を作りましょう。契約上の移転日、家賃の対象期間、支払期日、入金日を並べます。管理会社からの送金が翌月になる場合もあるため、入金日だけで移転前後を分けないことが大切です。前受家賃や未収家賃がある場合は、その内容も明記します。
管理会社には、所有者の変更、送金先、送金明細の切替えを伝えます。入居者への通知や、敷金の残高と返還負担の引継ぎも確認項目です。親子の間で決めた内容と、管理会社の明細が食い違わないようにします。
子に渡す資料は、贈与契約書や売買契約書だけではありません。購入時の契約書、過去の工事資料、建物の帳簿も一緒に整理します。贈与した物件を子が将来売る際の取得費は、原則として親の購入代金などを基に計算し、取得時期も引き継ぎます。取扱いは国税庁の取得費・取得時期の説明でも確認できます。
減価償却は、建物などの取得費を使用期間に応じて配分する処理です。移転方法に応じた計算の確認が必要なので、建物・土地の資料を分けておきましょう。基本は、中古アパートの減価償却|耐用年数の出し方と、建物と土地の分け方で扱っています。
契約前に親子で確認するチェックリスト
比較するときは、「移すとき」「保有している間」「将来の相続」の順に整理します。登録免許税は登記に、不動産取得税は不動産の取得に関わる税金です。相続時精算課税を選んでも、これらの税金や登記費用の確認は別に必要です。
- 土地・建物の両方を移すのか、対象の範囲を決めたか。
- 贈与税の評価額と、売買で用いる時価の根拠を分けて確認したか。
- 子がその年に受けた他の贈与と、過去の相続時精算課税の選択を確認したか。
- 購入代金、税金、登記費用を誰の資金で払うか整理したか。
- ローン契約と、借入れを引き受ける条件の有無を確認したか。
- 移転後も親の生活費や修繕資金を確保できるか。
- 家賃の切替え、前受・未収家賃、敷金を一覧にしたか。
- 契約書、送金記録、過去の購入・工事資料を親子で保存できるか。
子が受け取る家賃を、そのまま自由に使える金額とは考えないようにしましょう。管理費、修繕、空室への備えを含めた資金計画を作ります。親が管理を手伝い続ける場合も、家賃の入金と親子間の資金移動を分けて記録すると、申告資料を整理しやすくなります。
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まとめ
賃貸物件を子に移す際は、贈与と売買の違いを整理し、贈与なら課税方式を検討します。相続時精算課税は、控除だけでなく、届出・申告と将来の相続税まで含めて判断する制度です。移転後の家賃は、振込口座だけでなく、物件の権利関係を基に整理します。税金の試算と家賃・敷金・借入れの引継ぎを一緒に準備し、親子それぞれの生活と資金計画に合う方法を選びましょう。
よくある質問
Q. 家賃の振込先だけ子の口座に変えればよいですか?
口座の変更だけでは、所得の帰属は変わりません。物件の真実の権利者が誰かを確認します。物件を親が所有したまま子が家賃を受け取る場合は、その資金移動の内容も別に整理します。
Q. 相続時精算課税なら、贈与税が出なくても申告が要りますか?
特別控除を使って税額をゼロにする場合は、期限内申告が必要です。年の基礎控除以内で贈与税の申告が不要な場合も、初めて選ぶ年の選択届出は必要です。
Q. 売買代金を相続税評価額にすれば問題ありませんか?
その金額だけでは判断できません。個人間の不動産の低額譲渡で用いる時価は、通常の取引価額です。売買価格の根拠と、実際に代金を支払う計画を確認します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日
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