「設備投資を予定しているが、特別償却と税額控除のどちらを選ぶべきか分からない」「中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の違いが整理できない」。製造業・サービス業を中心に、設備投資の意思決定をするタイミングで多くいただく相談です。同じ500万円の機械投資でも、特別償却なら150万円分の損金前倒し、税額控除なら35万円の直接税額減——選び方で実効的な節税額は大きく変わります。
本記事では、リーパル会計事務所が顧問先に対して行っている設備投資税制の選択フローを公開します。適用期限は令和9年(2027年)3月31日まで。投資額・利益水準・繰越欠損金の有無・翌期以降の事業計画によって、特別償却と税額控除のどちらが有利かを判定する基準を、国税庁・中小企業庁の一次情報にもとづいて具体的な数字付きで解説します。
中小企業投資促進税制を使わないと年間でいくら損するのか
制度の概要と適用期限
中小企業投資促進税制は、青色申告書を提出する中小企業者などが機械装置等の一定の固定資産に投資を行った場合に、通常の減価償却に加えて特別償却または税額控除を受けられる制度です(租税特別措置法第42条の6)。
国税庁のタックスアンサーNo.5433では、対象となる指定期間は平成10年6月1日から令和9年(2027年)3月31日までと示されています。この期間内に新品の機械装置などを取得または製作し、国内にある製造業・建設業などの指定事業の用に供した場合に、その事業の用に供した日を含む事業年度で適用できます。設備投資の意思決定が固まっている経営者にとっては「使わない理由がほとんどない」制度ですが、期限が区切られている点は押さえておく必要があります。
対象となる中小企業
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 特別償却の対象法人 | 資本金または出資金の額が1億円以下の法人(一定の大規模法人の子会社等を除く)、または資本・出資を有しない法人のうち常時使用従業員1,000人以下の法人 |
| 税額控除の対象法人 | 上記のうち資本金または出資金の額が3,000万円以下の法人、または農業協同組合等・商店街振興組合 |
| 除外(適用除外事業者) | 事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等は対象から除かれる |
| 除外(大規模法人の子会社) | 発行済株式の2分の1以上を同一の大規模法人に、または3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人は対象外 |
ここで見落とされやすいのが適用除外事業者の要件です。資本金1億円以下であっても、直前3年の所得の年平均額が15億円を超えていると使えません。資本金だけで判定してしまうと誤ります。
対象となる設備・資産
すべての設備が対象になるわけではありません。国税庁が示す対象資産(特定機械装置等)は、新品であることを前提に次のとおりです。
| 資産の種類 | 取得価額等の要件 |
|---|---|
| 機械および装置 | 1台または1基の取得価額が160万円以上 |
| 測定工具・検査工具 | 1台または1基が120万円以上(1台30万円以上かつその事業年度の合計額が120万円以上のものを含む) |
| ソフトウェア | 1のソフトウェアが70万円以上(その事業年度に事業の用に供した合計額が70万円以上のものを含む) |
| 車両および運搬具 | 一定の普通自動車で、貨物の運送の用に供されるもののうち車両総重量が3.5トン以上のもの |
| 内航海運業の用に供される船舶 | 総トン数500トン以上の船舶は、環境負荷低減設備の設置状況等を国土交通大臣に届け出たものに限る |
車両については「貨物の運送の用に供される車両総重量3.5トン以上の普通自動車」という限定があるため、営業車や役員が使う乗用自動車は対象になりません。また、複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSの一定のものはソフトウェアから除かれます。コインランドリー業(主要な事業であるものを除く)の用に供し、管理のおおむね全部を他者に委託する機械装置も除外されています。
特別償却と税額控除の違い
特別償却(基準取得価額の30%)
特別償却とは、通常の減価償却費に加えて基準取得価額の30%を追加で費用計上できる仕組みです。基準取得価額とは、船舶についてはその取得価額に75%を乗じた金額、その他の資産についてはその取得価額をいいます。
例:1,000万円の機械装置を取得した場合(耐用年数10年・定額法)
| 通常の減価償却のみ | 特別償却(30%)を活用 | |
|---|---|---|
| 取得年度の費用計上額 | 100万円(1,000万円÷10年) | 100万円 + 300万円(特別償却)= 400万円 |
| 翌年度以降の費用計上 | 毎年100万円(残9年) | 残額600万円を残存年数で按分 |
| 総費用計上額(全期間) | 1,000万円(変わらない) | 1,000万円(変わらない) |
ポイント:特別償却を使っても最終的な費用計上の総額は変わりません。あくまで初年度により多くの費用を前倒し計上できる制度です。つまり課税の繰り延べであり、長期的な減税ではありません。
ただし「今期の税負担を減らしたい。来期以降に利益が出るかはわからない」という状況では、初年度に多く費用計上する特別償却が有効に働きます。
税額控除(基準取得価額の7%)
税額控除とは、計算された法人税額から直接基準取得価額の7%を控除できる仕組みです。ただし税額控除を選べるのは資本金または出資金の額が3,000万円以下の中小企業者等に限られ、資本金3,000万円超〜1億円以下の法人は特別償却のみの適用となります。
例:1,000万円の機械装置を取得した場合
- 税額控除額:1,000万円 × 7% = 70万円
- 仮に計算された法人税額が200万円なら、税額控除後は130万円
税額控除は法人税額を直接減らすため、繰り延べではない実額の減税になります。ただし控除上限があります。国税庁は、この制度における税額控除と中小企業経営強化税制(措法42の12の4)における税額控除の合計で、その事業年度の調整前法人税額の20%相当額が上限と定めています。2つの制度を併用する場合、上限は別枠ではなく合算である点に注意してください。
控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)については、1年間の繰越しが認められます。
どちらを選ぶべきか
| 選択基準 | 推奨される選択 |
|---|---|
| 今期の利益が大きく、翌期も利益が見込まれる | 税額控除(確実に税額を削減) |
| 今期の利益が大きく、翌期は利益が不安定 | 特別償却(今期に多く費用計上) |
| 当期の法人税額が少ない(赤字に近い) | 特別償却(税額控除の枠が使えない) |
| 繰越欠損金がある | 特別償却の効果が薄いため、税額控除を優先的に検討 |
| 資本金が3,000万円超 | 特別償却のみ(税額控除は選択できない) |
特別償却と税額控除の選択は、当期の利益水準だけでなく、翌期以降3年程度の利益見込みまで視野に入れる必要があります。当期に大きな利益が出ているなら税額控除で確実に法人税を減らす、翌期に利益増を見込むなら特別償却で当期の損金を厚くして繰り延べる、繰越欠損金があるなら特別償却の意味が薄いので税額控除を検討する——というように、ロジックは利益カーブで決まります。リーパル会計事務所では、3期分のシミュレーションを並べて選択肢を比較できる形で提示しています。
業種別の活用シーン
製造業・建設業での活用
製造業や建設業において、160万円以上の機械装置を取得するケースは非常に多く、中小企業投資促進税制のもっとも典型的な活用シーンです。
年商3億円規模の製造業が500万円の加工機械を導入する場合:
- 特別償却(30%):500万円 × 30% = 150万円を初年度に追加費用計上
- 税額控除(7%):500万円 × 7% = 35万円を法人税額から直接控除
当期の法人税額が十分にある場合は税額控除が有利です。翌期の見通しが不透明であれば特別償却で今期の負担を下げることも選択肢になります。なお税額控除35万円を使い切るには、調整前法人税額が175万円以上必要(35万円 ÷ 20%)という計算になります。ここに届かない場合は、控除しきれない部分を1年繰り越すことになります。
IT・ソフトウェア投資での活用
ITインフラへの投資でも、対象要件を満たすソフトウェアは制度を活用できます。年商1〜5億円規模のサービス業・IT業で見られる活用例として、基幹システム(ERPや受発注管理システム)の導入費用が70万円以上であれば対象になります。
複数のソフトウェアを同一事業年度内に事業の用に供した場合、その合計額が70万円以上であれば要件を満たします。年度内に複数のシステムの初期導入費・カスタマイズ費用を組み合わせて要件を満たすケースも実務上見られます。
ただし、月額サブスクリプション型のSaaSは「ソフトウェアの取得」ではなく役務提供の対価として処理されるため、この税制の対象にはなりません。資産計上されているかどうかが分岐点です。
中小企業経営強化税制との比較
令和7年度改正で建物も対象に加わった
中小企業投資促進税制とは別に、「中小企業経営強化税制」(措法42の12の4)があります。中小企業等経営強化法の認定(特定認定)を受け、特定経営力向上計画に記載された設備投資について、より強力な優遇を受けられる制度です。指定期間は平成29年4月1日から令和9年3月31日までで、投資促進税制と同じ期限になっています。
国税庁のタックスアンサーNo.5434によると、優遇の内容は設備の区分によって次のように分かれます。
| 設備の区分 | 特別償却 | 税額控除 |
|---|---|---|
| 機械装置・工具・器具備品・建物附属設備・一定のソフトウェア(経営の向上に著しく資するもの) | 取得価額から普通償却限度額を控除した金額(=即時償却) | 7%(資本金3,000万円以下の特定中小企業者等は10%) |
| 建物およびその附属設備(建物の新設・増設を含む生産等設備で、経営の向上および経営の規模の拡大に著しく資するもの) | 基準取得価額の15%(特定建物等は25%) | 1%(特定建物等は2%) |
この建物を対象に含める区分が、規模拡大を目指す中小企業向けに用意されている点が近年の変化です。ここでいう基準取得価額は、一の生産等設備を構成する特定機械装置等の取得価額の合計額が60億円を超える場合、60億円を基礎に按分した金額になります。また「特定建物等」に該当するには、投資計画に記載された給与支給額増加目標を達成し、経済産業大臣に報告した内容が確認できる書類を確定申告書等に添付する必要があります。
経営強化税制はA〜E類型で要件と手続きの重さが大きく異なり、B・D・E類型では公認会計士または税理士の事前確認書が必要になります。類型ごとの要件、令和8年度税制改正で工具・器具備品が40万円以上に引き上げられた点、即時償却と10%税額控除の判断軸は【2026年】中小企業経営強化税制とは?即時償却と10%税額控除の選び方で詳しく解説しています。
| 比較項目 | 投資促進税制 | 経営強化税制 |
|---|---|---|
| 計画認定 | 不要 | 必要(中小企業等経営強化法の特定認定) |
| 特別償却(機械装置等) | 基準取得価額の30% | 即時償却 |
| 税額控除率(機械装置等) | 7%(資本金3,000万円以下のみ) | 7%(資本金3,000万円以下は10%) |
| 建物 | 対象外 | 一定の要件下で対象(特別償却15%・25%/税額控除1%・2%) |
| 税額控除の上限 | 両制度の合計で調整前法人税額の20%(控除しきれない額は1年繰越) | |
経営強化税制は計画認定という手間がかかりますが、機械装置の即時償却は強力です。設備投資の計画がある場合は、認定に要する期間も含めて両制度を比較検討する価値があります。
申告手続きと実務上の注意点
必要な手続き
確定申告時に以下の書類を添付する必要があります。
- 別表六(六):中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除
- 明細書:取得した設備の取得価額・取得年月日・耐用年数等
- (特別償却の場合)特別償却の付表
申告書への添付漏れは、控除・償却の適用が認められない原因になります。税務申告を担当する税理士と連携して、取得した設備の情報を正確に提供することが重要です。
リース取引の取り扱いは要注意
実務でもっとも誤解が多いのがリースです。国税庁は、所有権移転外リース取引により賃借人が取得したものとされる資産については、特別償却の規定は適用できないが、税額控除の規定は適用できると明記しています。「リースだから対象外」と決めつけると、使えるはずの税額控除を落とすことになります。
ただし税額控除を使えるのは資本金3,000万円以下の法人に限られるため、資本金3,000万円超の法人が所有権移転外リースで設備を導入すると、特別償却も税額控除も使えないという結果になります。設備の調達方法(購入かリースか)と資本金の水準は、セットで検討すべき論点です。
購入前に対象資産該当性を確認する
設備投資の対象資産(機械装置・工具・ソフトウェア・貨物自動車・内航船舶)と取得価額の要件は細かく定められており、「対象になると思っていた資産が実は対象外だった」というケースは実務で頻発します。リーパル会計事務所では、購入前のタイミングで対象資産該当性を確認し、見積書段階で必要な記載要件まで整える運用を顧問先で標準化しています。
設備投資を検討している段階でご相談いただくと、税制のメリット判定から申告書類の準備まで、購入決定と並行して進められます。購入後に「申請しそびれた」という事態を防ぐためにも、早めのご相談をお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 中古の機械装置でも対象になりますか?
A. 対象になりません。この制度の対象資産は「その製作の後事業の用に供されたことのない」資産、つまり新品に限られます。中古資産を取得した場合は、少額減価償却資産の特例など別の制度を検討することになります。
Q2. リース資産でも適用できますか?
A. 所有権移転外リース取引により賃借人が取得したものとされる資産については、特別償却は適用できませんが、税額控除は適用できます(国税庁タックスアンサーNo.5433の注記)。ただし税額控除は資本金3,000万円以下の法人に限られる点にご注意ください。
Q3. ソフトウェアも対象になりますか?
A. 対象になります。1のソフトウェアの取得価額が70万円以上、またはその事業年度に事業の用に供したソフトウェアの取得価額の合計額が70万円以上であることが要件です。ただし、複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用オペレーティングシステムのうち一定のものは除かれます。
Q4. 設備を購入したが、すぐに使用開始しなくても適用できますか?
A. この制度は「指定期間内に取得しまたは製作して指定事業の用に供した」資産が対象で、適用されるのは事業の用に供した日を含む事業年度です。購入しただけで使用開始していない場合、その事業年度では適用できません。期末近くの購入では、事業の用に供した日をいつと判定するかが重要になります。
Q5. 投資促進税制と少額減価償却資産の特例は同時に使えますか?
A. 同じ資産について重複して使うことはできません。国税庁は、少額減価償却資産の特例の適用を受ける資産について、租税特別措置法上の特別償却・税額控除・圧縮記帳との重複適用はできないと明記しています。もっとも、少額減価償却資産の特例は取得価額の基準が低いため、実務上は対象資産が分かれます。なお中小企業庁の公表資料では、この特例の取得価額基準が従来の30万円未満から40万円未満に拡充され、対象法人から常時使用従業員400人超の法人が除外されたとされています(年間の損金算入限度額は合計300万円)。国税庁のタックスアンサーNo.5408は令和7年4月1日現在の内容(30万円未満)で公表されているため、ご自身の取得時期にどちらの基準が適用されるかは、申告前に最新の公表資料でご確認ください。
監修
本記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制は、いずれも令和9年3月31日という期限が設定されています。一方で、対象資産・要件・選択肢が複雑なため、自前で完全に理解して申告に落とし込むのは難しい領域でもあります。リーパル会計事務所では、設備投資の見積もり段階から制度活用を見据えた支援を行っています。設備購入の意思決定前に一度、御社の利益見込みと投資内容を擦り合わせる時間を持っていただければ、有利不利の判定はその場でお示しできます。
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参考資料
- 国税庁 タックスアンサー No.5433 中小企業投資促進税制
- 国税庁 タックスアンサー No.5434 中小企業経営強化税制
- 国税庁 タックスアンサー No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 中小企業庁 少額減価償却資産の特例
監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の法人節税・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年8月28日
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