「創業して10年以上経つが、一度も税務調査が来ていない」という法人は珍しくありません。むしろ統計上は自然なことです。国税庁の令和6事務年度の公表データでは、法人税の申告件数322万件に対し、法人税・消費税の実地調査は5万4千件。実地調査率は約1.7%、単純計算で約59年に1回という水準です。
問題は、この数字を「うちは大丈夫」と読むか、「順番が来ていないだけ」と読むかです。同じ令和6事務年度の追徴税額は3,407億円で、直近10年で最高を記録しました。調査の件数は絞られている一方、1件あたりで取れる額は増えている——これが現在の税務調査の姿です。
本記事では、長期間調査が来ない理由を統計から整理したうえで、いざ来たときに追徴が膨らむ構造、そして今のうちに確認しておくべき点を解説します。
統計で見る「調査が来ない」の実態
令和6事務年度の法人税調査の数字
| 項目 | 令和6事務年度の実績 |
|---|---|
| 法人税の申告件数 | 322万件 |
| 法人税・消費税の実地調査件数 | 5万4千件(前年比 ▲7.4%) |
| 実地調査率(概算) | 約1.7% |
| 追徴税額の総額 | 3,407億円(直近10年で最高) |
| 簡易な接触の件数 | 8万5千件(前年比 +13.4%) |
ここから読み取れることは3つあります。
第一に、実地調査の件数は減っていること。前年比7.4%減です。国税当局の人員は限られており、調査先の選定はますます絞り込まれています。
第二に、1件あたりの追徴額は増えていること。件数が減ったのに追徴総額が過去10年で最高ということは、「行くと決めた先」からは確実に取れているということです。調査対象の選定精度が上がっていると考えるべきです。
第三に、実地調査以外の接触が増えていること。「簡易な接触」(文書や電話による指摘、来署依頼)は8万5千件と前年比13.4%増です。臨場する調査はなくても、お尋ね文書というかたちで接触を受ける可能性は高まっています。
参考:令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要|国税庁 / 令和6事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要|国税庁
規模別に見た調査頻度の目安
| 法人の規模 | 実地調査の頻度の目安 |
|---|---|
| 大企業(資本金1億円超) | 数年に1回 |
| 中堅企業(売上10億円超) | 5〜7年に1回程度 |
| 中小法人(売上1億円未満) | 10〜15年に1回程度 |
| 小規模法人 | 15年以上来ないこともある |
これは実務上の体感値であり、国税庁が公表している基準ではありません。実際には業種・申告内容・過去の調査結果によって大きく変わります。法人の調査頻度をより詳しく知りたい方は法人の税務調査はどのくらいの頻度で来る?対象になりやすい企業の特徴と対策をご覧ください。
長期間調査が来ない4つの理由
適正申告が続いており、調査優先度が低い:毎期きちんと申告し、売上総利益率などの指標が同業種の水準から大きく外れていない法人は、選定の優先順位が下がります。これは望ましい理由です。
規模が小さく、調査の費用対効果が低いと判断されている:調査には調査官の稼働がかかります。追徴が見込みにくい小規模法人は後回しになりやすいのが実情です。ただしこれは免除ではなく順番待ちです。
業種・取引形態による差:現金取引が少なくBtoB専業、電子決済が中心で取引の追跡がしやすいビジネスモデルは、相対的に優先度が下がる傾向があります。逆に現金商売は優先度が上がります。
過去の調査で是認(修正なし)だった:前回の調査で問題が見つからなかった法人は、次のサイクルが長くなる傾向があります。
「来ない=安全」が危険といえる4つの理由
来たときに、まとめて遡られる
税務調査で遡られる期間は、通常は直近3年分です。ただし申告漏れが見つかれば5年、偽りその他不正の行為があれば7年まで遡ることができます。
長期間調査が入っていない法人は、同じ誤った処理を何年も繰り返している可能性があります。たとえば、外注費として処理してきた支払いが実質的に給与と判定された場合、源泉所得税の徴収漏れが遡って認定され、不納付加算税と延滞税が積み上がります。年間の金額が小さくても、5年分となれば話が変わります。遡及年数の考え方は税務調査は何年前まで遡れる?3年・5年・7年の違いと時効で詳しく解説しています。
法改正への未対応が積み上がっている
税法は毎年変わります。とくに電子帳簿保存法の電子取引データ保存義務化とインボイス制度は、直近数年で実務が大きく変わった領域です。
以前は問題がなかった処理が、現在は不適切になっているというのが厄介なところです。長く調査が入っていない法人ほど「これまでこのやり方で通ってきた」という前例が社内に固定化しており、改正への対応が後回しになりがちです。
証憑書類が手元に残っていない
法人の帳簿書類の保存期間は、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年です。ただし、青色申告法人で欠損金額が生じた事業年度については10年(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年)の保存が必要です。
過去に赤字の年度があった法人は、7年で廃棄してよいと思い込んでいると保存義務違反になります。青色申告の承認取消しにつながるおそれもあるため、欠損金が出た年度は10年という点は必ず確認してください。
参考:国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
「どうせ来ない」という前提が経理を緩ませる
これは実務で最も多く見る問題です。調査が来ないまま年数が経つと、領収書の裏書き(誰と・何の目的で)が省略されるようになり、役員報酬の変更手続きの記録が残らなくなり、期末の在庫評価が前年の踏襲だけになっていきます。ひとつひとつは小さくても、調査で見られるのはこの積み重ねです。
10年以上調査が来ていない法人が確認すべき8項目
| 確認項目 | 確認内容 | 優先度 |
|---|---|---|
| 帳簿・証憑の保管 | 直近7年分(欠損金が出た年度は10年分)が揃っているか | 高 |
| 電子帳簿保存法対応 | 電子取引データを要件どおりに電子保存しているか | 高 |
| インボイス対応 | 取引先の登録番号を確認し、適格請求書を保存しているか | 高 |
| 過去申告の自主点検 | 繰り返している処理に誤りがないか税理士と確認 | 高 |
| 役員報酬の手続き | 定期同額給与の要件と株主総会議事録が揃っているか | 中 |
| 交際費の使途記録 | 相手先・場所・目的の記録があるか | 中 |
| 外注費と給与の区分 | 指揮命令関係の実態から見て区分が妥当か | 中 |
| 棚卸資産の評価 | 評価方法が届出どおりで毎期一貫しているか | 中 |
上位4項目は、いずれも「誤りが年数分積み上がる」性質のものです。ここから手をつけるのが効率的です。
実務で分かれ目になるのは「月次で見ているか」
長期未調査の法人が実際に調査を受けたとき、結果を分けるのは調査当日の対応ではなく、それまでの体制です。
月次で試算表と証憑を確認する運用が回っている法人は、10年以上ぶりの調査でも是認(修正なし)で終わることが少なくありません。帳簿と証憑の突合が日常的にできており、調査官の質問に対してその場で根拠を示せるためです。
一方、申告時にまとめて帳簿を作っている法人では、現金売上の計上時期のずれ、期末在庫の計上漏れ、外注費と給与の区分といった論点が同時に出てきます。年商数千万円規模でも、5年分を遡られた結果として本税・加算税・延滞税の合計が数百万円に達することがあります。
金額の大小より問題なのは、遡及分の納税は一括で求められるという点です。過去の利益はすでに事業に使われており、手元資金がないところに納付義務だけが立つ。これが長期未調査法人の最大のリスクです。追徴課税の計算方法は追徴課税はいくらになる?計算方法と加算税・延滞税の種類にまとめています。
調査が来る前に自主修正すれば、加算税は課されない
過去の申告に不安がある場合、調査を待つより先に修正申告を出すほうが有利です。過少申告加算税の割合は、修正のタイミングで次のように変わります。
| 修正申告のタイミング | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 税務調査の事前通知を受ける前に自主的に修正 | 課されない(0%) |
| 事前通知後、調査による更正を予知する前 | 5%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%) |
| 調査による更正を予知した後、または更正を受けた | 10%(同じく超える部分は15%) |
つまり、事前通知が来る前に自主的に修正申告すれば過少申告加算税はかかりません。「自主修正なら5%に軽減される」という説明を目にすることがありますが、5%は事前通知を受けた後の話です。0%と5%の差は、この一報の前か後かで決まります。
なお、延滞税は自主修正の場合でも発生します。それでも、加算税が課されないうえに、調査時の心証も大きく変わるため、気づいた時点で動く価値は十分にあります。手続きの流れは修正申告のやり方|必要書類・手続きの流れ・ペナルティを軽減する方法をご参照ください。
参考:国税庁 No.2026 確定申告を間違えたとき
「いつ来ても是認される」状態をつくる4つの対策
月次で帳簿を確認する:問題を年単位ではなく月単位で発見できるようになります。調査時に「毎月確認している」という事実そのものが、帳簿の信頼性の裏づけになります。
過去申告を点検し、必要なら自主修正する:前述のとおり、事前通知前なら過少申告加算税は課されません。長期未調査の法人こそ、この選択肢の価値が大きくなります。
証憑の保管体制を整える:直近7年分(欠損金が生じた年度は10年分)を、紛失しない形で保管します。クラウドストレージを使えば、電子帳簿保存法への対応と保管リスクの低減を同時に進められます。
電子帳簿保存法とインボイスの対応状況を棚卸しする:電子取引データの保存要件を満たしているか、仕入税額控除の要件となる適格請求書が揃っているかを確認します。ここは調査で必ず見られる論点です。
調査当日の流れを事前に把握しておきたい方は税務調査の流れを完全解説|事前通知から終了までもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1. 10年以上調査が来ていないのは、申告が正しいからですか?
A. そうとは限りません。法人税の実地調査率は約1.7%で、中小法人の実務上の目安は10〜15年に1回程度です。単に順番が来ていないだけというケースが大半です。「来ていない=安全」ではなく「いつ来てもおかしくない」と捉えて準備しておくのが妥当です。
Q2. 調査が来たら何年分遡られますか?
A. 通常は直近3年分です。申告漏れが見つかれば5年、偽りその他不正の行為があると認められる場合は7年まで遡ることができます。長期間調査が来ていないからといって、創業以来すべての期間が対象になるわけではありません。
Q3. 7年より前の書類は捨ててよいですか?
A. 原則として7年ですが、青色申告法人で欠損金額が生じた事業年度の帳簿書類は10年間の保存が必要です(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年)。赤字の年度があった場合は7年で廃棄しないよう注意してください。
Q4. 自主的に修正申告すると加算税はどうなりますか?
A. 税務調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告した場合、過少申告加算税は課されません。事前通知後で更正を予知する前なら5%、更正を予知した後は10%です(いずれも一定額を超える部分は割合が上がります)。ただし延滞税は別途発生します。
Q5. 調査の連絡が来てから税理士に依頼しても間に合いますか?
A. 事前通知から調査日までは通常2週間から1か月程度あるため、依頼自体は可能です。ただしその時点でできるのは資料の整理と論点の確認までで、過去の処理を遡って直すことはできません。また、事前通知後の修正申告では加算税が0%にはなりません。不安がある段階で相談するほど、選べる手が多く残ります。
参考資料
- 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要|国税庁
- 令和6事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要|国税庁
- 国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
- 国税庁 No.2026 確定申告を間違えたとき
税務調査が10年来ていないこと自体は、統計上まったく異常ではありません。危ないのは、それを理由に点検をやめてしまうことです。実地調査の件数は減る一方で1件あたりの追徴額は過去10年で最高になっており、「選ばれたときの重さ」はむしろ増しています。
いま確認すべきは、直近7年分(欠損金が出た年度は10年分)の証憑が揃っているか、電子帳簿保存法とインボイスに対応できているか、そして毎期繰り返している処理に誤りがないかの3点です。誤りが見つかっても、事前通知が来る前であれば過少申告加算税は課されません。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績をもとに、長期間調査が入っていない法人の過去申告の点検から、月次で回る帳簿体制の構築までをご支援しています。
すでに調査の連絡が届いている方は、税務調査119番の無料相談もご利用ください。
関連記事
- 税務調査は何年前まで遡れる?3年・5年・7年の違いと時効を税理士が解説
- 法人の税務調査はどのくらいの頻度で来る?対象になりやすい企業の特徴と対策
- 追徴課税はいくらになる?計算方法と加算税・延滞税の種類を解説
監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の税務顧問とクラウド会計導入支援を専門とする。
最終更新日: 2026年7月28日
リーパル会計事務所|関与実績1,100社以上・全国オンライン対応
顧問税理士をお探しの方へ
MF公認・freee認定元国税調査官の知見