「103万円の壁」「150万円の壁」——パート従業員や大学生の子を扶養する従業員の働き方に影響してきた「年収の壁」は、令和7年度・令和8年度の税制改正で実際に引き上げられました。基礎控除・給与所得控除の引上げにより、扶養に入れる給与収入のラインは、改正前の103万円から令和7年分は123万円、令和8年分は136万円へ。本人に所得税がかかり始める給与収入も、基礎控除の特例加算により令和8・9年分は178万円(給与収入のみ・合計所得132万円以下の場合)まで上がっています。さらに大学生年代の子には特定親族特別控除が新設され、アルバイト収入が増えても親の控除が維持されやすくなりました。
本記事では、リーパル会計事務所の給与実務支援の経験から、施行済みの確定内容(令和7年分・令和8年分の違い)と、給与担当者・経営者が年末調整でやるべき対応を整理します。数値は国税庁の公表資料に基づく2026年9月時点のものです。年度で変わる箇所は、その旨を明記します。
まず結論:「103万円の壁」は令和7・8年分でこう変わった
| 区分 | 改正前(〜令和6年分) | 令和7年分 | 令和8年分〜 |
|---|---|---|---|
| 給与所得控除の最低額 | 55万円 | 65万円 | 69万円(+時限措置5万円=74万円) |
| 基礎控除(本則) | 48万円 | 58万円 | 62万円 |
| 基礎控除(合計所得132万円以下・特例加算後) | 48万円 | 95万円 | 104万円(令和8・9年分の時限措置) |
| 本人に所得税がかかり始める給与収入(給与のみ・合計所得132万円以下) | 103万円 | 160万円 | 178万円 |
| 扶養・配偶者に入れる合計所得(給与収入換算) | 48万円(103万円) | 58万円(123万円) | 62万円(136万円) |
「103万円の壁」という言葉は今も使われますが、所得税・扶養判定の観点ではすでに過去の基準です。令和8年分は、家族を扶養に入れられるかの判定が「給与収入136万円」、本人に所得税がかかり始めるラインが「給与収入178万円」と、2つの数字に分かれた点が実務上の最大の変化です。「136万円」は扶養する側(親・配偶者)の控除に効く数字、「178万円」は働く本人の所得税に効く数字と覚えておくと混乱しません。なお社会保険の106万円・130万円の壁は別制度で、金額は変わっていません(所得税の壁とは分けて考える必要があります)。
控除の基本と改正後の所得要件
主な控除の種類と控除額(令和8年分)
| 控除の種類 | 対象者(令和8年分の要件) | 控除額(所得税) |
|---|---|---|
| 配偶者控除 | 配偶者の合計所得62万円以下(給与収入136万円以下) | 最大38万円 |
| 配偶者特別控除 | 配偶者の合計所得62万円超〜133万円以下(給与収入136万円超〜207万円以下) | 段階的に0〜38万円 |
| 扶養控除(一般) | 16歳以上・合計所得62万円以下の扶養親族 | 38万円 |
| 特定扶養控除 | 19〜22歳・合計所得62万円以下の扶養親族 | 63万円 |
| 老人扶養控除 | 70歳以上の扶養親族 | 48万円(同居58万円) |
ポイントは、控除額そのもの(配偶者控除38万円・特定扶養控除63万円など)は変わっていないことです。変わったのは「いくらまでの収入なら扶養・配偶者に入れるか」という所得要件で、令和8年分は合計所得62万円(給与収入136万円)以下に緩和されました。
年収の壁を整理(所得税と社会保険)
| 年収の壁 | 内容 | 現在の扱い |
|---|---|---|
| 106万円 | 一定規模以上の企業で社会保険の加入義務 | 社会保険(金額は変更なし) |
| 123万円 / 136万円 | 扶養控除・配偶者控除の対象から外れる給与収入(家族側の壁) | 令和7年分123万円・令和8年分136万円に引上げ(施行済み) |
| 130万円 | 社会保険の被扶養者から外れる | 社会保険(年収の壁・支援強化パッケージで一時的な緩和あり) |
| 160万円 / 178万円 | 本人に所得税がかかり始める給与収入(合計所得132万円以下の場合) | 令和7年分160万円・令和8・9年分178万円(令和10年分以後は基礎控除の加算額・給与所得控除とも縮小予定) |
| 約169万円(令和7年分160万円・旧150万円) | 配偶者特別控除が満額(38万円)から減り始める給与収入 | 令和8年分は配偶者の合計所得95万円(給与収入169万円)まで満額 |
| 約207万円(令和7年分は約201万円) | 配偶者特別控除がゼロになる給与収入 | 令和8年分は給与収入207万円超でゼロ |
所得税の壁(扶養判定136万円・本人178万円)は上がりましたが、社会保険の106万円・130万円の壁は据え置きです。手取りに一番効くのは社会保険料の負担なので、シフト設計では所得税より社会保険の壁を先に確認するのが実務の勘所です。
年収130万円で社会保険に加入した場合の手取り(令和8年分)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 給与収入 | 130万円 |
| 給与所得控除 | 74万円 |
| 給与所得 | 56万円 |
| 基礎控除 | 104万円(合計所得132万円以下の特例加算後) |
| 課税所得(所得税) | 0円 |
| 所得税 | 0円(令和8年分は給与130万円なら本人の所得税は生じない) |
| 住民税 | 自治体の基準により少額(数万円程度) |
| 社会保険料(被扶養から外れた場合・本人負担約14%) | 約18万円 |
| 手取りの目安 | 約110万円 |
令和8年分は給与収入178万円まで本人の所得税が発生しないため、給与130万円なら所得税はゼロです。それでも社会保険に加入すると手取りが「壁の手前」より下がる「働き損」が残ります。所得税の壁が上がったからといって社会保険の壁が消えたわけではない点に注意が必要です。
大学生の子(特定親族特別控除)の扱い
令和7年度改正で特定親族特別控除が新設されました。令和8年分では、19歳以上23歳未満の子について、給与収入136万円までは扶養控除(63万円)が満額、136万円超159万円以下は特定親族特別控除として63万円が維持され、159万円を超えると61万円・51万円…と段階的に縮小し、197万円を超えるとゼロになります。
改正前は給与収入103万円を超えると親の特定扶養控除63万円が一度に外れていましたが、学生アルバイトが収入を増やしても親の控除が急に消えない仕組みになりました。家族の年収ごとに控除がいくらになるかは扶養控除はいくらまで?新基準と控除額一覧に早見表をまとめています。
税制改正は施行タイミング・経過措置・実務インパクトの3点で読み解く必要があります。リーパル会計事務所では顧問実績をもとに、年収の壁を意識した給与設計と従業員説明を支援しています。
会社側の対応
従業員への周知
扶養控除・配偶者控除の要件変更は従業員の手取りに直接影響します。年末調整の前に「今年の変更点(判定ラインが123万円→136万円に上がったこと、大学生の子の特定親族特別控除)」を従業員に周知することが重要です。
申告書と施行日の確認
令和8年分については、基礎控除の引上げなど主要な改正の施行日が令和8年12月1日とされているため、11月までの源泉徴収は従来どおりで、1年分の減税効果が12月の年末調整に集約されます。給与担当者が実際にやるべき作業は【令和8年分】年末調整の変更点と実務対応に時系列で整理しています。
見落としやすいのが扶養控除等(異動)申告書の再提出です。所得要件が62万円に緩和されたことで、これまで対象外だった家族(給与収入123万円超136万円以下の子や親など)が新たに扶養親族等に該当する場合、令和8年分の年末調整で控除を受けるには異動申告書の提出が必要になります。11月中に従業員へ案内を出し、家族の年収見込みを回収しておくと12月の作業が止まりません。
社会保険との連動も確認
扶養控除は所得税の制度で、社会保険の被扶養者(健康保険・厚生年金)の要件は別に定められています。所得税の壁が上がっても社会保険の106万円・130万円の壁は変わらないため、収入を増やした従業員が社会保険加入の対象になる場合があります。
なお106万円の壁(月額賃金8.8万円の賃金要件)は、2025年成立の年金制度改正法で撤廃が決まっています。施行は公布から3年以内で、全国の最低賃金の水準を見極めて判断するとされ、あわせて企業規模要件も令和9年(2027年)10月から段階的に縮小されます。今後は「年収」より「週20時間以上働くか」が加入判定の軸になるため、シフト設計は労働時間ベースで見直しておく必要があります。
自社のパート従業員の働き方設計に迷う場合は、リーパル会計事務所の無料相談で具体的に検討できます。従業員数・現在の年収分布・希望する働き方をお伝えいただければ、シフト設計の方向性をお示しします。
よくある質問
Q1. 配偶者の収入が増えると配偶者控除はどうなりますか?
A. 改正で所得要件が引き上げられ、令和7年分は配偶者の給与収入123万円(合計所得58万円)以下、令和8年分は136万円(合計所得62万円)以下であれば配偶者控除(満額38万円)の対象です。それを超えても配偶者特別控除が段階的に適用され、令和8年分は給与収入207万円超でゼロになります(控除額は本人の所得により38万・26万・13万円と縮小します)。
Q2. 大学生の子供のアルバイト収入が増えると親の税負担はどうなりますか?
A. 令和8年分では、子の合計所得が62万円(給与収入136万円)を超えると一般の扶養控除は外れますが、19〜22歳なら給与収入159万円までは特定親族特別控除により63万円が維持されます。改正前の「103万円で控除が一気に外れる」より大きく緩和されています。
Q3. 「103万円の壁」は変わりましたか?
A. 変わりました。基礎控除・給与所得控除の引上げにより、扶養の判定ラインは令和7年分で123万円、令和8年分で136万円に、本人に所得税がかかり始めるラインは令和7年分で160万円、令和8・9年分で178万円(いずれも給与収入のみ・合計所得132万円以下の場合)に引き上げられ、すでに施行されています。「103万円の壁」は過去の基準です。ただし社会保険の106万円・130万円の壁は別制度で変わっていません。
Q4. 扶養控除の見直しは会社の経費・法人税に影響しますか?
A. 直接的な影響はありません。ただし、壁の引上げで従業員が収入を増やしやすくなると、人手不足の緩和や人件費増加につながる可能性があります。
Q5. 会社としてどう対応すればいいですか?
A. 最新の改正内容を顧問税理士から確認し、給与計算・年末調整への影響を把握したうえで従業員へ周知します。特に「判定ラインが136万円に上がったこと」と「大学生の子の特定親族特別控除」は説明の要点です。
Q6. パート社員の年末年始の勤務調整は必要ですか?
A. 社会保険の106万円・130万円、配偶者特別控除の各ラインをもとに、本人の希望年収から逆算したシフト設計を行います。毎年11月時点で年収見込みを再計算する運用が安全です。
まとめ:年収の壁は「議論」から「施行済みの実務」へ
扶養控除・配偶者控除の見直しは、令和7・8年度の税制改正としてすでに施行された確定ルールです。扶養の判定ラインは123万円(令和7年分)→136万円(令和8年分)、本人に所得税がかかり始めるラインは最大178万円(令和8・9年分)に上がり、大学生の子には特定親族特別控除が用意されました。一方で社会保険の106万円・130万円の壁は据え置きのため、手取りの「働き損」は依然として残ります。
103万・106万・123万・130万・136万・約169万・178万・約207万——どの壁を意識すべきかは従業員ごとに違います。リーパル会計事務所では、パート従業員の年収見込み再計算(毎年11月)・社会保険加入の影響シミュレーション・改正内容の社内周知文の作成までを支援しています。「年末になると毎年パート社員から手取りの相談が殺到する」という方は、シフト設計の年初に一度ご相談ください。
税理士への依頼を考えるときの関連記事
参考資料
- 国税庁 No.1180 扶養控除
- 国税庁 No.1190 配偶者控除
- 国税庁 令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について
- 国税庁 源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)
- 厚生労働省 社会保険の加入対象の拡大について
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。扶養控除・配偶者控除の年収の壁設計、パート社員の社会保険加入シミュレーション、令和7・8年度改正(年収の壁の引上げ・特定親族特別控除)への企業実務対応を専門とする。
最終更新日: 2026年9月29日
リーパル会計事務所では、パート社員の年収見込みシミュレーション・年収の壁影響分析・改正内容を踏まえた社内周知文書の整備を行っています。freee人事労務・マネーフォワードクラウド人事労務の認定アドバイザーとして、シフト設計と給与計算の双方にわたる年末調整実務を伴走で支援します。