「設備を入れ替えたいが、即時償却と税額控除のどちらが得なのか」「仕掛品の評価は、税務調査でどこまで見られるのか」。中小メーカーや町工場を法人で営む経営者から、税務についてこうした相談を多くいただきます。製造業は、在庫・原価計算の論点や、設備投資減税の選択など、節税の余地が大きい一方で、判断の難しい分野です。
本記事では、製造業の法人の税務について、棚卸資産の評価、設備投資減税、賃上げ促進税制、消費税の事業区分までを、2026年6月時点の国税庁・中小企業庁の一次情報に基づいて整理します。年度で取り扱いが変わる数値は、その旨を明記します。
未成工事支出金と完成工事原価の分け方(決算での原価配分)は、未成工事支出金と完成工事原価|決算で工事ごとに原価を分ける方法で詳しく解説しています。
棚卸資産の評価と仕掛品の税務調査
製造業では、製品・仕掛品・原材料という複数の棚卸資産を管理します。これらの評価方法は資産の種類ごとに選定して届け出ることができ、届け出ない場合の法定の評価方法は最終仕入原価法(事業年度終了時に最も近い時期の取得単価で評価する原価法)です。
税務調査で製造業がとくに問われるのが、仕掛品(製造途中の製品)の計上漏れです。製造途中の材料費・労務費・経費が適切に仕掛品として集計されているか、外注先に預けた半製品や届いていない原材料が計上漏れになっていないかが確認されます。仕掛品の評価単価を恣意的に引き下げると、利益操作とみなされやすいため、原価計算に基づいた正確な評価が欠かせません。
設備投資減税|経営強化税制と投資促進税制
製造業の節税で大きな効果を持つのが、設備投資減税です。代表的な2つの制度を整理します。
| 制度 | 主な措置 | 主な対象設備 |
|---|---|---|
| 中小企業経営強化税制 | 即時償却 または 税額控除(資本金3,000万円以下は10%、3,000万円超〜1億円以下は7%)※経営力向上計画の認定が必要 | 機械装置160万円以上、工具・器具備品30万円以上、ソフトウェア70万円以上 など |
| 中小企業投資促進税制 | 特別償却30% または 税額控除7%(税額控除は資本金3,000万円以下)※計画認定は不要 | 機械装置160万円以上、一定のソフトウェア70万円以上 など |
中小企業経営強化税制は、即時償却(取得した年に全額を償却)か税額控除かを選べるのが特徴で、適用には経営力向上計画の認定が必要です。中小企業投資促進税制は計画の認定が不要で使いやすい制度です。いずれも適用期限は令和7年度税制改正で令和9年(2027年)3月31日まで延長されています。なお、経営強化税制のデジタル化を対象とするC類型は2025年3月末で廃止されています。これらの対象設備・要件・期限は改正で変わるため、設備の取得前に最新情報を確認してください。
賃上げ促進税制・少額減価償却資産の特例
従業員の給与を増やした製造業は、賃上げ促進税制を活用できます。中小企業向けの制度では、前年度より給与等を増やした場合に、その増加額に控除率(賃上げ率や上乗せ要件に応じて最大45%)を掛けた金額を法人税額から控除できます。控除しきれない額は5年間繰り越せます。詳しくは、【2026年】賃上げ促進税制を中小企業が使う方法をご参照ください。
少額の設備や工具については、少額減価償却資産の特例により、取得価額30万円未満の資産を取得年に一括で経費にできます(年間合計300万円まで)。なお、令和8年度税制改正大綱では、この特例の対象を取得価額40万円未満へ引き上げ、適用期限を延長する方針が示されていますが、これは大綱段階の内容であり、施行時期・最終的な数値は成立した法令で確認してください。少額減価償却資産の特例の詳細は、少額減価償却資産の特例とは?30万円未満を全額経費にする中小企業の節税術で解説しています。
機械装置の通常の減価償却は、設備の種類に応じた法定耐用年数で行います。具体的な年数は設備区分によって異なるため、個別に確認が必要です。
消費税で簡易課税を選ぶ場合、製造業は第3種事業(みなし仕入率70%)が原則です。ただし、材料の支給を受けて加工だけを行う賃加工(下請の加工賃)は、第4種事業(みなし仕入率60%)になる点に注意してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 仕掛品の評価は税務調査でどこを見られますか?
A. 製造途中の材料費・労務費・経費が適切に仕掛品として集計されているか、外注先への預け在庫や未着の原材料が計上漏れになっていないかが確認されます。評価単価を恣意的に引き下げると利益操作とみなされやすいため、原価計算に基づく正確な評価が必要です。
Q2. 即時償却と税額控除はどちらが得ですか?
A. 即時償却は取得年に全額を費用化して課税を繰り延べる効果があり、税額控除は税額そのものを直接減らせます。利益の状況や資金繰り、今後の所得見込みによって有利なほうが変わるため、シミュレーションのうえで選ぶことをおすすめします。中小企業経営強化税制では、この2つから選択できます。
Q3. 経営強化税制と投資促進税制は併用できますか?
A. 同一の設備に両方を重複して適用することはできません。経営強化税制は計画認定が必要な一方で即時償却を選べる、投資促進税制は認定不要で使いやすいなど、それぞれ特徴が異なります。設備や状況に応じて有利な制度を選びます。
Q4. 賃上げ促進税制は赤字でも使えますか?
A. 賃上げした年が赤字で法人税額が出ない場合、その年に控除はできませんが、控除しきれない額は5年間繰り越せます。黒字化した将来の年度で控除を取り戻せる仕組みです(繰越分を使う年も給与総額が前年を上回っていることが要件です)。
Q5. 賃加工の消費税の事業区分は何種ですか?
A. 製造業は原則として第3種事業(みなし仕入率70%)ですが、材料の支給を受けて加工だけを行う賃加工は第4種事業(同60%)になります。自社の取引がどちらにあたるかで納税額が変わるため、区分に注意してください。
参考資料
- 国税庁:No.5434 中小企業経営強化税制(特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
- 国税庁:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 国税庁:No.6509 簡易課税制度の事業区分
- 中小企業庁:中小企業投資促進税制
製造業の法人の税務は、在庫・仕掛品の評価、設備投資減税の選択、賃上げ促進税制という、節税の余地が大きい論点が中心です。これらを正しく設計すれば、適正な納税と大きな節税効果の両立が可能になります。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績とクラウド会計導入支援の知見をもとに、freee・マネーフォワードクラウドでの製造原価・仕掛品の管理から、設備投資減税の有利判定、賃上げ促進税制の試算までをサポートしています。製造業の税務に不安のある経営者の方は、お気軽にご相談ください。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、製造業をはじめとする中小企業の税務・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年6月29日
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