「預金はあるのに、建設業許可の財産要件を満たさないのか」「特定への切替えに、今の決算書を使えるのか」と迷うことがあります。結論からいうと、一般は自己資本・資金調達能力・許可を受けた営業実績のいずれか、特定は資本金や自己資本などの基準すべてを確認します。この記事では、決算書の見る場所と申請前の確認手順を整理します。
この記事は「建設業の税金と決算の連載|一人親方から、経審を受ける会社まで」の第9回です。
一般と特定では、財産要件の組み立てが違います
財産要件とは、工事の契約を履行するための資金面の基準です。建設業では、入金より先に材料代や外注費などの支払いが生じます。許可では、こうした工事を進めるための財産的基礎や信用を確認します。
まず、必要な許可の区分を整理しましょう。2026年10月時点では、発注者から直接請け負った工事について、下請契約の総額が5,000万円以上、建築工事業では8,000万円以上となる場合に、特定建設業の許可が必要です。金額は消費税込みで、元請として受けた工事1件ごとに判定します。元請として受ける工事の請負金額そのものを基準にする制度ではありません。区分の説明は、国土交通省「建設業の許可とは」で確認できます。
財産要件の比較は次のとおりです。以下の金額・割合は2026年10月時点の基準です。国土交通省「許可の要件」を基に整理しています。なお、倒産することが明白な場合は、数字などを満たしても別の判断になります。
| 確認する項目 | 一般建設業 | 特定建設業 |
|---|---|---|
| 要件の満たし方 | 以下のいずれかに該当 | 以下のすべてに該当 |
| 自己資本 | 500万円以上 | 4,000万円以上 |
| 資金調達能力 | 500万円以上を調達できることでも判定可能 | 預金残高や融資証明だけでは、各基準を代替できません |
| 許可を受けた営業実績 | 申請直前の過去5年間、許可を受けて継続して営業した実績でも判定可能 | 営業実績だけでは代替できません |
| 資本金 | 財産要件として独立した最低額の基準はありません | 2,000万円以上 |
| 欠損の額 | 特定と同じ独立した数値基準はありません | 資本金の20%を超えていないこと |
| 流動比率 | 特定と同じ独立した数値基準はありません | 75%以上 |
資本金が小さい会社でも、一般の財産要件を満たす余地があります。一方、特定では資本金だけを増やせば足りるわけではありません。また、財産要件は許可の要件の一部です。営業所技術者等の別の要件も確認が必要です。
一般建設業は、自己資本と預金残高を分けて確認します
法人の自己資本は、貸借対照表の純資産合計です
貸借対照表とは、一定時点の資産・負債・純資産を示す決算書です。法人の許可でいう自己資本は、この書類の「純資産合計」を指します。預金残高、資本金、売上高のどれとも同じではありません。
法人の資本金は、出資のうち資本金として計上された金額です。純資産合計には、資本金に加えて利益の蓄積なども反映されます。そのため、登記上の資本金だけを見て、自己資本の基準を満たすか判断しないようにします。
自己資本が不足していても、資金調達能力を確認できます
一般では、自己資本が500万円に届かないことだけで、財産要件を満たさないと決まるわけではありません。500万円以上の資金調達能力という別の判定方法があります。国土交通省のガイドラインでは、金融機関の融資証明書や預金残高証明書などで確認するとされています。
書類を取得する前に、申請先が求める証明書の種類、名義、証明日や発行日の扱いを手引きで確認しましょう。社長個人の預金と会社の預金は、分けて整理します。資金があるという説明と、申請者の能力を所定の資料で示すことは別の作業です。
個人事業主には、個人用の自己資本の計算があります
個人の場合は、期首資本金・事業主借・事業主利益の合計から事業主貸を差し引き、負債に計上した利益留保性の引当金・準備金を加えて計算します。事業主借・事業主貸は、事業と事業主個人の間の資金移動などを記録する勘定です。通帳の残高だけで自己資本を判定しないことが大切です。
帳簿自体の整理が必要な方は、建設業の一人親方の確定申告ガイド|経費・外注費・インボイスを税理士が解説で、日々の経理の基本を確認できます。
特定建設業は、資本金・自己資本・欠損・流動比率を点検します
資本金と自己資本は、それぞれの基準を確認します
特定では、資本金2,000万円以上と自己資本4,000万円以上の両方が必要です。法人では資本金の欄と純資産合計の欄を、それぞれ確認します。個人の場合、資本金には期首資本金を用います。一般のように、預金残高証明書で自己資本の不足を補う判定方法ではありません。
特定への切替えを予定する会社は、予定する受注だけでなく、判定に使う決算書も早めに確認しましょう。「口座には資金がある」という説明だけでは、純資産合計の不足は解消しません。
欠損の額は、当期赤字や税務上の繰越欠損金とは別です
欠損の額には、許可の判定用の定義があります。法人では、繰越利益剰余金がマイナスの場合、そのマイナスの大きさが、資本剰余金・利益準備金・任意積立金の合計を上回る部分を指します。繰越利益剰余金は、過年度から繰り越された利益や損失などを示す項目です。
この欠損の額が、資本金の20%を超えていないかを確認します。損益計算書の当期赤字だけで判定したり、税務申告書の繰越欠損金をそのまま当てはめたりすると、別の数字を比べることになります。対象になる科目を、貸借対照表から拾う手順が必要です。定義は、国土交通省の許可事務ガイドラインに示されています。
流動比率は、流動資産を流動負債で割って計算します
流動比率は、短期の支払いに対応する資産と負債のバランスを示す指標です。計算式は「流動資産合計÷流動負債合計×100」で、特定の基準は75%以上です。
完成工事未収入金などの債権や、工事未払金・借入金などの負債は、残高と区分を確認します。勘定科目の名称だけで処理を決めず、契約や支払条件と照合しましょう。基準に合わせる目的で、実態のない科目の振替えをすることは避けます。
工事の売上や費用の整理は、建設業(法人)の税務・経費・税務調査対策|工事の期ズレ・外注費を税理士が解説で扱っています。本稿では、適切に作成した決算書を許可の基準と照らす点に絞ります。
架空の例で見る、預金・資本金・自己資本の違い
次は説明のための架空の例です。ある建設会社が、特定建設業の許可申請を検討しています。判定対象の決算書は、資本金2,000万円、自己資本3,800万円、流動資産4,500万円、流動負債5,000万円で、許可上の欠損の額はないものとします。
流動比率は「4,500万円÷5,000万円×100=90%」です。この例では、資本金・流動比率・欠損の基準は満たします。しかし、自己資本は4,000万円に200万円足りません。ほかの数字が基準を超えていても、特定の財産要件全体を満たしたことにはなりません。
ここで、借入れによって預金を増やすことと、自己資本を増やすことの違いに注意します。貸借対照表の構造に沿って考えると、通常の借入れでは、預金という資産と借入金という負債が同額増えます。その取引だけで純資産が増える計算にはなりません。手元資金の確保と、自己資本の不足への対応は、目的を分けて考えましょう。
出資の受入れを検討する場合も、申請時点の残高だけを見ればよいとは限りません。どの時点の財務諸表で、どの項目を判定するのかが次の確認点になります。
申請・更新から逆算し、決算前に確認します
原則は直前の決算書、新設時は創業時の財務諸表です
財産要件の判断は、既存企業では原則として申請時の直前の決算期の財務諸表で行います。新規設立企業では、創業時の財務諸表を用います。申請日と決算日の並びを確認し、どの決算書が対象になるかを先に決めることが大切です。
特定について、直前の決算書では資本金の基準を満たさなくても、申請日までの増資で満たした場合は、資本金について基準を満たす扱いになる例外があります。この例外を、自己資本や流動比率にも同じように使えると考えないようにしましょう。決算後に資金を入れる計画は、判定項目と根拠資料を申請先の手引きで確認してから組み立てます。
一般の営業実績と、特定の更新を混同しないようにします
一般では、申請直前の過去5年間、許可を受けて継続して営業した実績が、財産要件の判定方法になります。単に事業を5年間続けたという意味ではありません。一方、特定には、営業実績を理由に財産要件を置き換える仕組みはありません。更新を控える会社も、対象決算の各項目を確認します。
許可を受けた後に財産の基準に適合しなくなっても、直ちに許可の効力へ影響するものではないとされています。ただし、次の更新に向けた確認は必要です。基準を下回った事実を把握した時点で、更新予定と対象となる決算期を並べ、準備する事項を整理しましょう。
自社で確かめるチェックリスト
- 申請する業種と、一般・特定の区分を整理しているか。
- 申請予定日から、判定対象の決算期を特定しているか。
- 法人では、資本金と純資産合計を別々に確認しているか。
- 一般では、自己資本・資金調達能力・許可を受けた営業実績のどれで示すか決めているか。
- 特定では、資本金・自己資本・欠損の額・流動比率をそろえて点検しているか。
- 証明書の名義や日付、必要な添付資料を申請先の手引きで確認しているか。
- 会計帳簿、決算書、許可申請用の財務諸表の数字のつながりを説明できるか。
試算表は、決算前の見込みを把握するために使えます。ただし、見込みの数字と、申請の判定に使う確定した財務諸表は分けて管理します。社長、経理担当者、税理士、許可申請を担当する行政書士などで、対象決算と不足項目を共有しておくと準備を進めやすくなります。
経営事項審査は、建設業者の経営に関する審査で、経審とも呼ばれます。許可の財産要件を確認する表と、経審の評価を確認する資料は分けて整理しましょう。決算変更届や経審用の科目整理については、経営事項審査と決算書|建設業の決算変更届と評価が変わる科目の付け方で解説しています。
まとめ
一般建設業の財産要件は、自己資本、資金調達能力、許可を受けた営業実績のいずれかで確認します。特定建設業は、資本金・自己資本・欠損の額・流動比率の基準すべてを満たす必要があります。預金残高、資本金、自己資本を区別し、判定対象の決算書から数字を拾いましょう。申請や更新の前に対象決算と不足項目を整理することが、準備の出発点になります。
よくある質問
Q. 資本金が500万円未満でも、一般建設業の許可を取れますか?
財産要件を満たす余地があります。法人の自己資本は純資産合計で判定し、資金調達能力や許可を受けた営業実績による判定方法もあります。資本金だけで結論を出さず、ほかの許可要件と併せて確認します。
Q. 赤字決算だと、特定建設業の更新はできませんか?
当期赤字だけでは判断できません。許可上の欠損の額を計算し、資本金との割合を確認します。さらに、自己資本と流動比率なども確認する必要があります。
Q. 決算後に増資すれば、特定の自己資本不足を補えますか?
増資したという事実だけでは判断できません。原則は直前の決算書による判定で、申請日までの増資に関する例外は資本金についての扱いです。自己資本にも同じ例外があると考えず、対象決算と申請先の取扱いを確認します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
リーパル会計事務所|関与実績1,100社以上・全国オンライン対応
法人の決算・申告を任せる顧問税理士をお探しの方へ
MF公認・freee認定元国税調査官の知見