「現場の仕事は得意でも、確定申告の書類仕事は毎年憂うつ」「インボイスに登録すべきか、元請から言われて迷っている」。建設業で独立して働く一人親方の方から、確定申告やインボイスについてこうした相談を多くいただきます。一人親方は経費の種類が多く、外注費の扱いやインボイスの判断など、建設業ならではの論点が申告に直結します。
本記事では、建設業の一人親方の確定申告について、計上できる経費と家事按分、税務調査で必ず問われる外注費と給与の区別、インボイス制度下の消費税の選び方、建設国保や労災特別加入の扱いまでを、2026年6月時点の国税庁・厚生労働省の一次情報に基づいて整理します。年度で取り扱いが変わる論点は、その旨を明記します。
建設業の一人親方のインボイス登録の判断は、一人親方のインボイス登録|元請から求められたときの判断と、2027年分からの3割特例で詳しく解説しています。
一人親方の所得区分と確定申告の基本
一人親方が請負契約に基づいて受け取る収入は、原則として事業所得に区分されます。これに対し、特定の元請に雇用される形で働いている場合は給与所得となります。事業所得として青色申告をすれば、青色申告特別控除(複式簿記・貸借対照表等の添付・期限内申告に加え、e-Taxまたは優良な電子帳簿保存で65万円、電子要件を満たさない場合は55万円、簡易な帳簿は10万円)を受けられます。
令和7年分(2025年分)の所得税の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までです。通常の期限である3月15日が日曜日にあたるため、翌開庁日の3月16日が期限となります。
一人親方が計上できる経費と家事按分
一人親方は、仕事のために使った費用を必要経費として所得から差し引けます。建設業で代表的な経費には、次のようなものがあります。
| 費目 | 具体例 | 留意点 |
|---|---|---|
| 消耗品費・工具 | 電動工具・手工具・釘などの材料 | 10万円以上の工具は減価償却の対象 |
| 車両費 | ガソリン代・車検・修理・自動車の減価償却 | 自家用と兼用なら走行距離等で家事按分 |
| 旅費交通費 | 自宅から現場・取引先への移動費 | 駐車場代・高速代も対象 |
| 作業用品費 | 作業着・安全靴・ヘルメット | 仕事専用のものが対象 |
| 外注費 | 応援を頼んだ職人への支払い | 後述の給与との区別に注意 |
| 損害保険料 | 工事保険など | 事業に関するもの |
自宅の一部を事務所として使っている場合の家賃や水道光熱費、自家用車のガソリン代、携帯電話の通信費などは、事業に使った割合で家事按分して経費にします。按分の根拠(床面積比、走行距離の記録など)を残し、私用との区分を説明できるようにしておくことが大切です。
車両が事業の中心になる働き方では、按分の考え方に加えて耐用年数の区分が論点になります。同じ一人で請ける働き方の例として、軽貨物・配送ドライバー(業務委託)の確定申告では、事業用と自家用で車両の耐用年数が変わる点を解説しています。
外注費と給与の区別|税務調査で必ず問われる論点
一人親方や、応援を頼む側にとって最も注意すべきなのが、支払いが「外注費」なのか「給与」なのかという区別です。建設業は現金での支払いや常用(人工・じょうよう)での働き方が多く、税務調査でこの点が重点的に問われます。
国税庁の法令解釈通達(大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて)では、区分が明らかでないときに次の要素を総合的に勘案して判定するとされています。
- 他人が代替して業務を遂行できるか(代替できる=外注費寄り)
- 作業の具体的な内容や方法について指揮監督を受けるか(受けない=外注費寄り)
- 完成前に引渡しができなくなった場合に報酬を請求できないか(請求できない=外注費寄り)
- 材料や用具が供与されているか(自前で用意している=外注費寄り)
この区別が重要なのは、外注費として処理していた支払いが税務調査で給与と認定されると、支払う側に大きな負担が生じるためです。具体的には、給与であれば必要だった源泉所得税の徴収漏れを遡って徴収され、不納付加算税や延滞税が加わります。さらに、外注費として行っていた消費税の仕入税額控除も否認され、消費税の追徴につながります。応援を頼む際は、請負契約書や請求書を整え、代替性や自前の工具といった事実を残しておくことが、後のトラブルを防ぎます。
インボイス制度と消費税の選び方
基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下の一人親方は、本来は消費税の納税義務がない免税事業者です。しかし、適格請求書(インボイス)を発行できるのは登録を受けた課税事業者だけです。元請や上位の下請が課税事業者の場合、免税事業者へ支払うと相手方の仕入税額控除が制限されるため、取引の見直しや値引きを求められることがあります。
2割特例・経過措置・簡易課税
インボイス登録を機に課税事業者になった人は、納税額を「売上にかかる消費税額の2割」に抑えられる2割特例を使えます。適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日を含む課税期間までで、個人事業者は実質的に令和8年(2026年)分の申告までが対象です。
また、免税事業者からの仕入れについては、買い手側で仕入税額控除を一定割合認める経過措置が設けられています。
| 期間 | 免税事業者からの仕入れの控除割合(令和8年度改正後) |
|---|---|
| 〜2026年(令和8年)9月30日 | 80% |
| 2026年10月〜2028年(令和10年)9月30日 | 70% |
| 2028年10月〜2030年(令和12年)9月30日 | 50% |
| 2030年10月〜2031年(令和13年)9月30日 | 30% |
| 2031年10月以降 | 控除なし |
2割特例が使えなくなった後は、簡易課税や原則課税を選びます。簡易課税のみなし仕入率は事業区分で決まり、建設業は工事の内容によって区分が分かれます。
- 材料を自分で調達・提供して施工する場合:第3種事業(みなし仕入率70%)
- 元請から材料の支給を受け、労務(手間)だけを提供する手間請け・常用の場合:第4種事業(みなし仕入率60%)
自分の働き方がどちらにあたるかで納税額が変わるため、取引の実態に応じた区分が必要です。なお、令和8年度の税制改正で、2割特例の後継として個人事業者向けの「3割特例」(令和9年分・令和10年分)が設けられ、上の表のとおり経過措置も見直されました。インボイスの経過措置の詳細はインボイスの経過措置はいつまで?仕入税額控除8割→7割→5割→3割の期限、簡易課税の判断は簡易課税制度のメリット・デメリットもあわせてご参照ください。
建設国保・労災特別加入と所得控除
一人親方ならではの社会保険の扱いも、確定申告で押さえておきたいポイントです。
健康保険は、市町村の国民健康保険のほか、建設業の国民健康保険組合(建設国保)を選べます。建設国保は所得に関係なく家族構成や年齢で保険料が決まる仕組みのため、所得が高い人にとっては市町村国保より有利になることがあります。支払った国民健康保険料・建設国保の保険料・国民年金保険料は、その年に実際に支払った全額が社会保険料控除の対象となり、所得から差し引けます。
一人親方は労働者ではないため、通常は労災保険の対象外ですが、特別加入制度を使えば労災に加入できます。給付基礎日額は3,500円から25,000円の範囲で選び、保険料は給付基礎日額に応じて決まります(建設業の一人親方の保険料率は1,000分の17)。本人の労災特別加入の掛金は社会保険料控除の対象として扱われるのが一般的で、加入する団体の組合費・会費部分は必要経費として処理できると考えられます。控除と経費の区分は個別の事情で異なる場合があるため、判断に迷うときは専門家に確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 一人親方は青色申告と白色申告のどちらがよいですか?
A. 多くの場合、青色申告をおすすめします。複式簿記で記帳し、貸借対照表などを添付して期限内に申告すれば、最大65万円(e-Tax等の要件を満たす場合)の青色申告特別控除を受けられます。工具や車両など経費の多い建設業では、帳簿をしっかり付けることが節税に直結します。
Q2. インボイスに登録しないと仕事は減りますか?
A. 取引先が課税事業者中心の場合、免税事業者のままだと相手方の仕入税額控除が制限されるため、値引きや取引の見直しを求められることがあります。一方、消費者向けの仕事が中心なら影響は小さくなります。元請の構成と、登録した場合の納税見込み額(2割特例や簡易課税を含む)を比較して判断してください。
Q3. 応援に来てもらった職人への支払いは外注費にできますか?
A. その職人が独立して請負で働いているか(代替性があるか、指揮監督を受けないか、自前の工具を使っているかなど)で判断します。実態が雇用に近いと給与と認定され、源泉徴収漏れや消費税の追徴につながるおそれがあります。請負契約書や請求書を整え、外注費といえる事実を残しておくことが重要です。
Q4. 建設業の簡易課税のみなし仕入率は何%ですか?
A. 建設業は工事の内容で区分が分かれます。材料を自分で調達して施工する場合は第3種事業(70%)、元請から材料の支給を受けて手間だけを提供する場合は第4種事業(60%)です。働き方によって納税額が変わるため、取引の実態に応じた区分が必要です。
Q5. 労災の特別加入の掛金は経費になりますか?
A. 本人の労災特別加入の掛金は、必要経費ではなく社会保険料控除の対象として扱われるのが一般的です。一方、加入団体の組合費・会費部分は必要経費として処理できると考えられます。区分に迷う場合は専門家にご確認ください。
参考資料
- 国税庁:No.6509 簡易課税制度の事業区分
- 国税庁:大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて
- 国税庁:No.1130 社会保険料控除
- 厚生労働省:特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)
建設業の一人親方の確定申告は、経費の幅広さに加えて、外注費と給与の区別やインボイスの判断といった、税務調査でも問われる論点が絡みます。現場の仕事に集中するためにも、帳簿と申告の体制を早めに整えておくことが、結果的に手取りを守ることにつながります。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績と税務調査対応の知見をもとに、外注費の整理からインボイス・消費税の有利判定、freee・マネーフォワードクラウドでの記帳まで、一人親方の実態に合わせてサポートしています。申告に不安のある方は、お気軽にご相談ください。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、建設業をはじめとする中小事業者の税務・税務調査対応を専門とする。
最終更新日: 2026年10月10日
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