元請から「次の現場までにインボイス登録を」と言われ、税金がどれだけ増えるのか迷っていませんか。結論は、登録後の納税額と取引条件を並べて判断することです。2026年10月時点では、要件を満たす個人事業者に2027年・2028年分の「3割特例」があり、2割特例の終了後も選択肢があります。
この記事は「建設業の税金と決算の連載|一人親方から、経審を受ける会社まで」の第2回です。
登録を求められたら、税金と取引条件を分けて確認する
インボイスとは、適用税率や消費税額、登録番号などを記載した適格請求書です。元請が自社の消費税を計算する際に使います。一人親方の登録は任意ですが、登録すると消費税の納税義務が生じます。番号を取得して請求書に追記するだけの手続きではありません。
2026年10月時点では、個人事業者の基準期間は前々年です。その期間の課税売上高、つまり消費税がかかる売上などを集計した金額が1,000万円以下なら、原則として免税事業者になります。ただし、インボイス登録中はこの金額以下でも納税義務が免除されません。売上などの要件ですでに課税事業者になっている場合もあるため、最初に現在の立場を確認します。
元請には、登録を求める理由、必要となる時期、登録後の請負金額を確認しましょう。税抜金額と税込金額のどちらで話しているかも重要です。「今までと同じ金額」という説明でも、消費税を含む総額が同じなら、新たな納税負担をどこで賄うか考える必要があります。
判断のため、元請ごとの売上、材料費、外注費、入金予定を書き出します。登録後の受注見込みも、口頭の期待と契約上の約束を分けて整理しましょう。日々の帳簿や経費整理の基本は、建設業の一人親方の確定申告ガイド|経費・外注費・インボイスを税理士が解説で扱っています。
元請の負担は「未登録なら全額控除できない」とは限らない
仕入税額控除とは、売上に係る消費税額から、仕入れや経費に係る消費税額を差し引く仕組みです。元請が一般課税という、実際の仕入れ等を基に計算する方法を使っている場合、原則としてインボイスと帳簿の保存が必要です。
ただし、未登録の事業者からの仕入れにも経過措置があります。2026年10月時点では、2026年10月1日から2028年9月30日までの対象取引は、仕入税額相当額の70%を控除できます。必要事項を記載した請求書等と、経過措置の適用が分かる帳簿の保存などが条件です。「2026年10月から50%」という改正前の予定で判断しないようにしましょう。
一方、元請が簡易課税を適用する場合、納付税額の計算に仕入先のインボイスは使いません。登録の有無が与える税負担の影響は、元請の計算方法でも変わります。元請の説明と、自分の登録による納税額を混同しないことが大切です。
なお、登録を求めること自体が直ちに法律上の問題になるわけではありません。ただし、取引上の立場を利用し、登録しなければ値下げや取引停止をすると一方的に通告する行為などは、独占禁止法上問題となるおそれがあります。公正取引委員会も、取引価格について十分に協議するよう示しています。
値下げの話が出たら、経過措置や材料費の負担を踏まえて根拠を確認し、協議の内容を見積書やメールに残します。職人へ外注する建設会社側も同様です。未登録という理由だけで一律の減額を決めず、工事内容と費用負担を確認して話し合うことが大切です。
2026年分の2割特例と、2027年分からの3割特例
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者などが、売上に係る消費税額の2割を納付税額とする特例です。対象は2026年9月30日までの日が属する課税期間までです。課税期間とは、消費税をまとめて計算する期間をいいます。
課税期間を短縮していない個人事業者では、要件を満たせば2026年分まで2割特例を使えます。2026年9月で年の途中から使えなくなる意味ではなく、同じ課税期間の10月以降の対象売上も含めて計算します。
その後、2026年度改正で設けられた3割特例は、対象となる個人事業者の2027年分・2028年分に適用できます。納付税額は売上に係る消費税額の3割です。法人は対象外なので、法人化の予定がある場合は個人のまま事業を続ける場合と分けて試算します。
次は説明のための架空の例です。各年の売上に係る消費税額が、地方消費税を含めて60万円で、売上返品等がないと仮定します。各特例の要件を満たし、端数処理を省略した概算です。期間と制度は2026年10月時点のものです。
| 個人事業者の年分 | 対象となる特例 | 納付税額の概算 | 判断時の注意 |
|---|---|---|---|
| 2026年分 | 2割特例 | 60万円×20%=12万円 | 登録と無関係に課税事業者になる場合などは対象外 |
| 2027年分・2028年分 | 3割特例 | 60万円×30%=18万円 | 個人事業者に限り、年ごとの要件確認が必要 |
| 2029年分以降 | 現行制度では両特例の対象外 | 一般課税・簡易課税で異なる | 届出状況や事業内容を踏まえて比較 |
この例では、売上に係る消費税額が同じでも、2割特例から3割特例になると概算の納付額は6万円増えます。「売上の3割を納税する」という意味ではありません。売上に係る消費税額を基にする点を押さえましょう。
前々年の売上だけで対象と決めない
2026年10月時点の3割特例の主な要件は、個人事業者でインボイス登録を受けていること、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることです。2027年分なら2025年、2028年分なら2026年の売上を確認します。
ただし、特定期間と呼ばれる前年1月から6月の判定もあります。国内の事業者は、この判定で課税売上高に代えて給与等支払額を使えます。また、相続や高額な資産の取得によって課税事業者となる場合、課税期間を短縮している場合など、対象外となるケースもあります。3割特例は事前の選択届出を要しませんが、申告書に適用を受ける旨の記載が必要です。
一般課税と簡易課税も、工事の実態に合わせて比べる
3割特例を使える場合も、一般課税や簡易課税と比較する意味があります。一般課税は実際の仕入れ等に係る税額を基に計算するため、材料の購入や設備投資が大きい年は結果が変わります。納税額だけでなく、請求書の整理など事務作業も含めて検討します。
簡易課税は、実際の仕入額ではなく、売上に係る消費税額と業種別の割合で計算する制度です。この割合を「みなし仕入率」といいます。2026年10月時点では、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることや、選択届出書の提出などが要件です。
建設業は原則として第3種事業で、みなし仕入率は70%です。ただし、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供は第3種から除かれ、第4種事業の60%となります。材料を元請が支給し、施工の対価を受け取る取引などは、この区分の確認が必要です。「一人親方だから同じ割合」と決めず、契約と実際の仕事を照らし合わせます。
先ほどの架空の例と同じく売上に係る消費税額を60万円とすると、簡易課税では第3種だけなら概算18万円、第4種だけなら概算24万円です。3割特例の概算18万円と比べると、仕事の区分によって結果が変わることが分かります。
簡易課税の届出は、原則として適用する課税期間の初日の前日までに行います。ただし、2割特例や3割特例を使った翌課税期間には、その翌課税期間の確定申告期限までの届出で適用できる措置があります。この取扱いは、翌課税期間が2026年10月1日以後に終了する場合が対象です。
また、簡易課税は原則として2年間の継続が必要です。設備購入を予定しているなら、今年だけの納税額で選ばず、翌年の支出も含めて比較しましょう。法人としての経費や工事管理の基本は、建設業(法人)の税務・経費・税務調査対策|工事の期ズレ・外注費を税理士が解説で整理しています。
登録前後に確認するチェックリストと納税資金
登録の判断をする前に、次の項目を資料と照らし合わせて確認します。すでに登録済みの方も、2027年分の見込みを整理する際に使えます。
- 現在は免税か課税か。前々年の売上、特定期間、過去の届出を確認したか。
- 元請が登録を求める時期と理由、登録後の税込請負金額を確認したか。
- 材料を自分で購入する工事と、元請から支給される工事を整理したか。
- 2割特例・3割特例の対象かを、年ごとに確認したか。
- 一般課税・簡易課税との概算比較と、届出期限の確認をしたか。
- 登録後の請求書の様式、控えの保存、登録番号の連絡方法を決めたか。
- 工事の入金と材料・外注費の支払いに、納税資金を加えて見通したか。
登録後は、登録番号だけでなく、取引日、取引内容、税率ごとの金額や消費税額など、所定の記載事項を整えます。交付したインボイスの写しも保存します。特例で納税計算が簡単になっても、請求書の発行や帳簿管理まで不要になるわけではありません。
資金面では、入金の都度、見込納税額を別に取り分ける方法が考えられます。工事代金を受け取った口座残高のすべてを、使える利益と考えないことが大切です。売上の増減や設備購入の予定が変わったら、積み立てる金額も見直します。
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まとめ
一人親方のインボイス登録は、取引条件と登録後の納税負担を並べて判断します。課税期間を短縮していない個人事業者は、要件を満たせば2026年分まで2割特例、2027年・2028年分は3割特例を使えます。元請側の経過措置も改正されているため、古い予定ではなく2026年10月時点の制度で確認しましょう。材料の負担方法、設備投資、届出状況を整理し、一般課税・簡易課税も含めて資金の見通しを立てることが大切です。
よくある質問
Q. 登録しないと、元請は消費税を一切控除できませんか?
一般課税の元請には、条件を満たせば仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置があります。2026年10月1日から2028年9月30日までの対象取引は70%控除です。元請が簡易課税を適用している場合も、計算方法が異なります。
Q. 2027年分は、全員が3割特例を使えますか?
使えません。対象となる個人事業者に限られ、法人は対象外です。登録の有無に加え、基準期間や特定期間などの条件を確認します。売上が増えた場合は、前年と同じ方法で申告できると考えず、適用可否を見直します。
Q. 登録をやめれば、すぐに免税事業者に戻れますか?
登録の取消しと、納税義務が免除されるかの判定は別です。取消しには届出が必要で、効力が失われる時期も決まっています。登録時期や過去の届出、売上などによって、取消し後も課税事業者となる場合があります。登録する段階で、事業を続ける期間も含めて検討しましょう。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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