工事は受注できているのに、材料代や職人への支払いが先に来て、口座残高が心細い。建設業の資金繰りでは、工事の利益と、入金までに必要なお金を分けて考えることが出発点です。この記事では、工事ごとの立替額を資金繰り表に落とし込み、借入額・返済時期・用意する資料を整理する方法を説明します。
この記事は「建設業の税金と決算の連載|一人親方から、経審を受ける会社まで」の第10回です。
利益が出る工事でも、入金までのお金は別に必要です
資金繰りとは、入金と支払いの時期を把握し、支払日に使えるお金を用意することです。材料を先に仕入れ、外注先へ支払い、完成・検査を経て工事代金を受け取る契約なら、その間のお金を自社で用意する必要があります。ここでいう「立替え」は、入金前の支払いを自社が先に負担するという意味です。
工事の採算を見る資料と、資金の残高を見る資料は役割が違います。売上を計上しても、その日に代金が入るとは限りません。反対に、前金を受け取ったときは、後の材料代や外注費に充てる分も含まれています。口座にある金額を、そのまま自由に使える利益と考えないことが大切です。
また、受注が増えると、複数の現場で支払いが先行することがあります。過去の工事の入金で次の工事を回せていても、大きな材料発注や入金の遅れが重なると不足が表面化します。工事別の予定と、事業全体の予定をつなげて確認しましょう。
売上や原価をどの期に計上するかは、建設業(法人)の税務・経費・税務調査対策|工事の期ズレ・外注費を税理士が解説で扱っています。本記事では、実際にお金が動く日を中心に見ていきます。
工事別の予定を集めて、資金が最も減る日を探します
まず工事ごとに、契約額、前金、出来高払、最終入金の予定を並べます。出来高払とは、工事の進み具合に応じた代金の支払いです。支出側には材料代、外注費、給与、現場経費などを並べ、請求書がまだ届いていない支出も発注内容から見込みます。
次に、各工事の予定を事業全体の資金繰り表に集めます。事務所家賃、借入返済、税金、社会保険料なども加えます。日本政策金融公庫の資金繰り表の記入例も、売上高と回収額を分け、借入と返済を別に記入する形です。
架空の例:工事の利益と、途中の資金不足を分けます
次は説明のための架空の例です。工事代金600万円を完成後に全額受け取る契約で、入金前に材料代・外注費など450万円を支払うとします。そのほかの入出金はないものとして、着工前の手元資金は200万円とします。
| 確認すること | 架空の例の計算 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 工事代金と支出の差 | 600万円-450万円=150万円 | この差だけでは、途中の支払いを賄えるか分かりません |
| 入金直前の資金過不足 | 200万円-450万円=250万円の不足 | 少なくとも、この不足を埋める手当てが必要です |
| 前金を受け取る場合との比較 | 仮に前金100万円なら、不足は150万円 | 支払条件によって必要な資金が変わります |
この例の150万円は、共通経費や税金などを差し引く前の差額です。また、250万円を借りれば事業全体が回るという意味でもありません。現実には別の現場の支払いや既存の借入返済を加え、入金が遅れた場合の残高も計算します。前金がある場合は、完成時の入金からその分を差し引き、二重に数えないようにします。
月末残高だけでなく、給与や外注費を払う日と入金日の前後も確認します。同じ月の入出金でも、支払いが先なら、その日にお金が必要です。月別の表で不足する時期を絞り、残高が薄い期間は日付ごとに並べ直すと、借入が必要になる日を説明しやすくなります。
まだ契約していない受注や、審査中の融資は、確定した入金と分けて表示します。予定表には、金額だけでなく「契約済み」「請求済み」「検査待ち」といった根拠も添えましょう。
借りる前に、前金・出来高払・追加工事の条件を確認します
資金不足が見えたら、受注条件も見直します。着工時にまとまった材料代が必要なら、前金や出来高払を契約条件として協議する方法があります。工事を進めてから支払時期を変えるのではなく、見積りと契約の段階で、何を確認したら請求できるかまで明らかにします。
請求締日だけでなく、出来高の確認日、請求書の提出期限、検査日、支払日をつなげて確認してください。追加工事は、作業内容と代金、工期、支払条件を早めに協議し、変更内容を書面に残します。承認前の追加代金を、元の工事と同じ日に入る予定として扱うと、資金計画にずれが生じます。
外注先への支払いは、契約と法令に沿って予定に入れます。建設業法第24条の3では、元請負人が注文者から出来形部分の代金や完成後の代金を受け取った場合、対象工事を施工した下請負人に相応する代金を、受領日から1か月以内、かつ、できる限り短い期間内に支払うこととされています。
さらに特定建設業者には、一定の下請契約について、下請負人の引渡しの申出日から起算して50日以内、かつ、できる限り短い期間内に支払期日を定める規定があります。下請負人が特定建設業者、または資本金4,000万円以上の法人である場合は、この規定の対象から除かれます。適用される場合は、先の1か月の期限と、この規定に基づく支払期日のうち、早い期日を守る必要があります。
これらは2026年10月時点の国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」で確認できます。資金計画は、適用される法定期限と契約上の支払期日を守る前提で組み、発注者の入金が遅れた場合の資金も検討します。
工事資金は、使い道と返済原資に合わせて借ります
運転資金とは、材料代や外注費など、日々の事業を回すためのお金です。設備資金は、機械や車両などの取得に使うお金です。工事の入金までをつなぐ資金と、長く使う設備への投資を分けると、必要な期間と返し方を整理できます。
| 候補 | 仕組み・用途 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫の融資 | 公庫から事業資金を借ります。一般貸付には運転資金の取扱いがあります | 資金使途、希望額、返済期間、適用利率、担保・保証条件 |
| 信用保証付き融資 | 金融機関からの事業資金の借入れを、信用保証協会が保証する仕組みです | 金融機関・保証協会の審査、利息、信用保証料、返済条件 |
| 地域建設業経営強化融資制度 | 中小・中堅建設企業の公共工事等の請負代金債権を活用する制度です | 対象工事、発注者の債権譲渡承諾、出来高、既受領の前払金等 |
公庫の限度額を、そのまま借入希望額にしない
2026年10月時点の公庫の一般貸付では、運転資金の融資限度額は4,800万円です。返済期間は5年以内、特に必要な場合は7年以内で、うち据置期間は1年以内と案内されています。審査があり、希望どおりの融資になるとは限りません。
希望額は、資金繰り表で示した不足額と、遅延や支出増に備える分の根拠から組み立てます。工事代金で返す予定なら、入金日と返済日が合うかを確認します。毎月返す契約なら、工事代金が入る前の返済も資金繰り表に加えます。融資限度額や最長の返済期間だけで判断せず、実際の条件で計算しましょう。
保証付き融資と、公共工事向け制度の違い
信用保証制度では、信用保証協会が事業内容や経営計画などから保証の可否を判断します。保証が付いても返済義務は残ります。また、利息とは別に、保証を利用する対価として信用保証料がかかります。比較するときは、支払総額と手元に残る資金を確認します。
地域建設業経営強化融資制度は、一般の運転資金借入れとは仕組みが異なります。発注者が工事請負代金債権の譲渡を承諾していることが必要です。出来高に応じた融資に加え、保証事業会社の保証により、出来高を超える部分も金融機関から融資を受ける仕組みがあります。2026年10月時点で、制度は2031年3月31日まで延長されています。公共工事を受注しているという理由だけで利用を見込まず、対象工事と手続きを確認します。
借入資料は、工事の予定と決算書をつなげて用意します
借入れの説明では、「どの工事に、いつ、いくら必要で、何の入金から返すか」を資料で示します。公庫は資金繰り表と受注工事明細表の書式を公開しています。受注工事明細と注文書、資金繰り表の数字が対応するようにすると、資金の使い道を追いやすくなります。
公庫の国民生活事業の申込手続きの案内では、原則として直近2期分の申告書等を用意します。法人では確定申告書・決算書、個人事業主では確定申告書一式が基本です。申告が1期のみなら1期分、申告未了なら提出不要とされています。必要書類は利用制度や事業の状況で異なるため、申込先の案内に合わせます。
自社で確かめるチェックリスト
- 工事ごとの契約額、未入金額、請求条件、入金予定日を確認したか。
- 材料・外注の発注済みで未請求の支払いも予定に入れたか。
- 給与、税金、社会保険料、既存借入の元金・利息を反映したか。
- 前金を完成時の入金と二重に数えていないか。
- 追加工事の合意済み金額と、協議中の金額を分けたか。
- 入金が遅れる場合でも、支払日と返済日に資金が足りるか。
- 一人親方の場合、事業から出す生活費も含めたか。
- 借入後の返済を入れても、次の工事に必要なお金が残るか。
一人親方の記帳や経費の整理は、建設業の一人親方の確定申告ガイド|経費・外注費・インボイスを税理士が解説も参考になります。借入れのためだけに表を作るのではなく、予定と実績の差を見て更新することが、次の受注判断にもつながります。
許可更新などを控える会社でも、資金繰り表と決算書の役割を分けて管理します。決算書の科目整理は、経営事項審査と決算書|建設業の決算変更届と評価が変わる科目の付け方で確認できます。
まとめ
建設業の資金繰りは、工事の利益と入金までの立替額を分けることから始まります。工事別の入出金予定を集め、事業全体で資金が最も減る日を把握しましょう。借入れは、不足する理由と返済原資を資料で示し、前金や出来高払の条件も合わせて検討します。資金繰り表を更新しながら、外注先への支払いと次の工事を続けられる受注計画を組むことが大切です。
よくある質問
Q. 黒字なのに運転資金を借りてもよいのでしょうか。
利益が出る工事でも、入金より支払いが先なら資金が必要です。入金までの一時的な不足なのか、材料・外注費の増加などで採算が崩れているのかを分けて説明します。借入れだけで採算不足が解消するわけではないため、工事別の収支も確認しましょう。
Q. 工事の注文書があれば融資を受けられますか。
注文書だけで融資が決まるわけではありません。公庫は資金使途や事業計画などを確認して融資を判断します。契約額に加え、未入金額、支払予定、返済原資を示せる資料をそろえ、融資金が入るまでの手続きも確認します。
Q. 前金をもらえれば借入れは不要ですか。
前金によって不足額が減ることはありますが、他の工事の支払いや税金、借入返済まで賄えるかは別に確認します。前金が入った後から工事の最終入金まで、残高を追って判断しましょう。借入れの有無にかかわらず、受け取った前金を何に使うかも予定に残します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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