「工事は終わったのに、元請の検収は翌月。今期の売上にするのでしょうか」。決算をまたぐ現場では、請求や入金の日付だけを見ていると判断に迷います。工事の売上は、原則として完成・引渡しを基準に計上します。この記事では、引渡し日の見極め方と、前受金・未入金・期をまたぐ工事の整理方法を解説します。
この記事は「建設業の税金と決算の連載|一人親方から、経審を受ける会社まで」の第6回です。
売上を計上する日は、原則として完成・引渡しで考える
売上計上とは、工事代金を帳簿の売上に記録することです。請負は、約束した仕事を完成させる契約をいいます。工事代金をいつ受け取ったかと、税務上いつ売上にするかは、分けて考えます。
法人税では、工事の請負による収益は、別に定めるものを除き、原則として引渡し等の日が属する事業年度に計上します。物の引渡しが必要な契約では、目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日が基本です。引渡しが不要な契約では、約束した作業やサービスを全部完了した日を確認します。
一人親方など個人事業主の所得税も、請負については原則として同様です。工事代金が振り込まれた年にまとめて売上にすればよい、という扱いではありません。ただし、現金の収入・支出を基準に所得を計算する「現金主義」の特例の適用を受けている場合などは、別の確認が必要です。
この記事は、完成・引渡しを基準に計上する工事を中心に説明します。工事の進み具合に応じて売上を計上する場合や、一部ずつ引き渡す場合は、後半で区別します。法人の税務全体は、建設業(法人)の税務・経費・税務調査対策|工事の期ズレ・外注費を税理士が解説も参考になります。
完成日・検収日・引渡し日は、契約と現場の事実で確かめる
完成は、請け負った工事が仕上がったことです。検収は、注文した側が仕上がりなどを確認することをいいます。現場での作業終了、元請の確認、引渡書の作成が同じ日になるとは限りません。
国税庁の通達は、建設工事等の引渡し日について、作業を終えた日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を終えた日、相手方が使用できる状態になった日などを挙げています。その中から、工事の種類・性質や契約内容に照らして合理的な日を判断し、その基準を継続して用います。法人と個人事業主の双方に、この考え方が示されています。
そのため、「現場から撤収した日なら何でもよい」「検収書に書かれた日だけで決まる」とは整理できません。自社が請け負った範囲の工事について、何をもって引渡しとする契約なのか、その事実がいつ生じたのかを確認します。
下請工事は、自社の契約範囲から確認する
下請として設備工事や内装工事の一部を担当した場合、建物全体の完成日だけで自社の売上時期を決めないようにします。自社の工事がどこまでで、元請がいつ受け入れたのかを、注文書・請書・検収の記録などで確認します。全体工事の工程表も補足資料になりますが、自社の引渡しの事実と照合することが大切です。
手直しが残っているときも、残作業の内容や契約上の扱いを確認します。小さな補修があるという理由だけで翌期と決めず、反対に、大きな未施工部分があるのに書類の作成だけで当期と決めることも避けます。写真や作業日報だけで結論を出さず、相手方とのやり取りを合わせて整理します。
継続する基準は、短い文章で共有する
たとえば、検収完了日を合理的な引渡し日とする工事であれば、検収完了の連絡や確認書を経理へ渡す流れを決めます。現場ごとに契約条件が違う場合には、その違いも記録します。利益の見込みを見て、その年だけ都合のよい日を採る運用にはしません。
引渡書の作成が遅れた場合は、実際の引渡し日と書類を作成した日を区別して残します。経理担当者が後から見ても、採用した日付の理由を追える形が望ましいです。
請求日・入金日との違いを比較する
請求書は代金を請求するための書類です。請求書を発行した事実だけで、工事の完成・引渡しまで済んだことにはなりません。次の表は、完成・引渡しを基準に計上する工事について、期末に確認する点を比べたものです。
| 期末の状況 | 売上の基本的な扱い | 照合する資料・記録 |
|---|---|---|
| 完成・引渡し済みで、入金は翌期 | 原則として当期の売上。未入金分は売掛金等で管理 | 引渡し・検収の記録、契約金額、入金予定 |
| 着手金を受け取ったが、工事は未完成 | 受領だけでは売上にせず、未成工事受入金・前受金等で管理 | 契約の支払条件、入金明細、進捗の記録 |
| 請求書は発行済みだが、工事は未完成・未引渡し | 請求書の発行だけでは売上時期を決めない | 請求の対象、完成状況、引渡し条件 |
| 完成・引渡し済みだが、請求書は翌期に発行 | 請求書の発行を待たず、原則として当期の売上 | 引渡し日、契約・変更契約、未請求の工事一覧 |
| 毎月、出来高に応じて請求している | 資金の前受け、部分引渡し、進行に応じた計上のどれかを確認 | 出来高明細、契約条件、部分引渡しの記録 |
売掛金は、売上として計上したものの、まだ受け取っていない代金です。未成工事受入金・前受金は、売上計上前に受け取った代金を管理する科目です。入金の有無とは別に、売上を計上する条件を満たしたかで区分します。
着手金を受け取った時点で仮に売上として入力している場合には、決算で工事の状態と突き合わせます。そのまま残すと、後の引渡し時にも同じ工事代金を売上にする重複につながります。反対に、入金明細からだけ売上を拾うと、引渡し済みの未入金工事を見落とすおそれがあります。
消費税も、原則として実際の引渡しやサービスの提供があった時を基準にします。前受金を受け取った時期や、未収代金の決済時期で決まるものではありません。ただし、現金主義や工事進行基準に関する特例は、別に扱いを確認します。
期をまたぐ工事は、未完成・部分完成・進行基準を区別する
完成・引渡しと入金が別の期になる例
次は説明のための架空の例です。決算日が3月31日の建設会社が、検収完了日を合理的な引渡し日として継続して売上計上しているとします。以下の工事には、部分完成や工事進行基準の扱いは適用しません。
ある工事は3月28日に検収と引渡しが完了しました。請求書の発行と入金は4月です。この場合、原則として3月31日までの事業年度の売上にします。決算時点で入金がなくても、翌期の売上に持ち越す扱いにはしません。
別の工事は3月中に着手金を受け取りましたが、期末には施工途中で、完成・引渡しは4月でした。この場合、着手金を受け取っただけでは当期の工事売上にせず、前受けした代金として整理します。「入金済みだから売上」「未入金だから売上ではない」と分けると、この違いを捉えにくくなります。
期ズレとは、本来計上する期とは別の期に売上や費用を記録してしまうことです。翌期に売上が入っていればよいと考えず、期末の現場の状態に戻って確認します。未請求の現場と前受金のある現場を並べて見ると、両方向の見落としを探しやすくなります。
出来高払いと、部分完成による売上は分ける
出来高払いは、工事の進み具合に応じて代金を支払う方法です。ただし、出来高に応じて代金を受け取ることと、完成部分を引き渡すことは、同じ意味ではありません。支払条件だけを読んで、売上時期まで決めないようにします。
工事の一部が完成し、その部分を引き渡す都度、割合に応じて工事代金を受け取る特約や慣習がある場合などは、部分完成による計上の対象になります。この場合、全体の完成を待つのではなく、引き渡した部分に対応する売上を計上します。単なる中間金なのか、部分引渡しに対応する代金なのかを確認してください。
工事の進行に応じて計上する扱いもある
工事進行基準は、工事の進み具合に応じて売上と費用を各期に配分する方法です。法人税では、法令上の長期大規模工事に該当すると、この方法が適用されます。長期大規模工事は、請負の対価の額が10億円以上で、着手の日から契約で定めた目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であることが要件です。さらに、契約上、対価の2分の1以上がその引渡しの期日から1年を経過する日後に支払われる定めがないことも必要です(2026年10月時点)。それ以外の工事でも、要件を満たして選択適用する場合があります。期をまたぐという理由だけで、自動的にこの方法になるわけではありません。
また、法人税の通達には、相手方への仕事の提供が期間にわたって進む契約について、所定の要件と算定方法に従い、進捗に応じた収益計上を認める扱いがあります。従来の処理を確認せず、未完成の現場を一律に売上から除外することは避けます。
所得税や法人税で工事進行基準の特例を適用していても、消費税には引渡し時を基準とする扱いが認められています。消費税にも進行基準の特例を使う場合は、申告書への付記が必要です。税目ごとに、採用している処理を確認します。
なお、完成・引渡しを基準とする工事では、施工途中の原価を未成工事支出金として整理し、引渡し時に完成工事原価へ振り替える処理があります。未成工事支出金とは、未完成工事にかかった原価を一時的に資産としてまとめる科目です。原価の細かな分け方は別の論点ですが、売上の確認と同じ工事番号で照合できる状態にしておきます。
決算前に確認するチェックリスト
経理資料に加え、現場から完成・検収・引渡しの情報を集める運用を作ります。次の項目を工事ごとに確認すると、判断に足りない資料も見つけやすくなります。
- 自社が請け負った工事の範囲を、注文書・請書・契約書で確認したか。
- 完成日、検収日、引渡し日、請求日、入金日を分けて記録したか。
- 採用する引渡し日の基準が、契約内容と現場の実態に合っているか。
- 期末の完成・引渡し済み工事に、未請求・未入金のものがないか。
- 着手金や中間金の残高を、対象工事の状態と照合したか。
- 部分引渡しの有無と、代金を受け取る特約・慣習を確認したか。
- 工事進行基準など、完成前に売上を計上する扱いの適用を確認したか。
- 売上と原価の資料を、同じ工事番号で追えるか。
工事一覧には、判断の根拠となる書類の保管場所も記入します。「検収書待ち」の一言だけで保留せず、作業は終わったのか、相手方の確認は済んだのか、残る手続きは何かを具体的に残すことがポイントです。決算後に届く請求書の控えや入金明細も、期末に完了していた工事の確認に使えます。
建設業の決算書や提出資料の整理については、経営事項審査と決算書|建設業の決算変更届と評価が変わる科目の付け方で扱っています。まずは各工事の売上時期を、根拠とセットで説明できる形に整えましょう。
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まとめ
工事の売上は、原則として完成・引渡しを基準に計上します。引渡し日は、工事の性質や契約内容に合う合理的な基準を継続して用いて判断します。請求や入金が期をまたいでも、それだけで売上の期は変わりません。期末には未請求工事と前受金を工事ごとに照合し、部分完成や進行に応じた計上の対象も確認しましょう。
よくある質問
Q. 元請の締日が翌月なら、売上も翌期になりますか?
締日だけでは決まりません。完成・引渡しを基準に計上する工事では、自社の契約内容と採用している合理的な引渡し日の基準で判断します。期末までに引渡し済みなら、請求の締日や支払日が翌期でも、原則として当期の売上です。
Q. 期末までに着手金を受け取りました。消費税もその期の売上ですか?
原則として、前受けした時点ではなく、実際の引渡し等の時を基準にします。着手金という名称だけで決めず、工事の状態を確認します。現金主義や工事進行基準の特例を適用している場合は、その扱いも確認します。
Q. 工事が年をまたぐ一人親方も、入金した年に売上をまとめてよいですか?
現金主義の特例の適用を受ける場合などを除き、原則として完成・引渡しの時期を確認します。部分引渡しや工事進行基準の扱いも含め、自分に適用される方法で整理します。申告全体の準備は、建設業の一人親方の確定申告ガイド|経費・外注費・インボイスを税理士が解説も参考になります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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