元請から法定福利費の内訳を求められたものの、職人さんの手間代とどこで分けるのか迷っていませんか。結論は、加入対象を整理し、現場で働く人の賃金と社会保険料の会社負担分を分けて見積もることです。この記事では、法人・個人事業の加入の違い、2026年度の変更点、見積書への載せ方を説明します。
この記事は「建設業の税金と決算の連載|一人親方から、経審を受ける会社まで」の第11回です。
社会保険は、会社の形と働き方から確認します
ここでいう社会保険は、主に健康保険・厚生年金保険・雇用保険です。健康保険・厚生年金保険は、まず事業所が加入対象かを確認します。そのうえで、働く人ごとの加入条件を確認します。雇用保険は別の制度ですので、健康保険と同じ人数基準で判断しないようにします。
2026年10月時点の日本年金機構の案内では、法人の事業所は、代表者だけの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用の対象です。強制適用とは、法律上、加入が義務づけられることです。ただし、実際の加入手続きは、報酬を受けて常用的に働くなど、被保険者となる人がいることを前提に判断します。
建設業の個人事業所は、従業員を常時5人以上使用する場合に、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用の対象です。人数がそれより少なくても、認可を受けて任意適用となる制度があります。「個人事業だから対象外」と決めず、事業所の状況を確認しましょう。
独立した請負事業者である一人親方は、基本的に国民健康保険と国民年金に加入します。一人親方という呼び名でも、実態が雇用なら扱いが変わることがあります。請求書の名目だけで加入関係を決めないことが大切です。
また、建設国保などの国民健康保険組合に加入している場合、必要な健康保険の適用除外承認を受け、厚生年金保険と組み合わせる扱いもあります。「建設国保に入っているから年金の確認は不要」とは考えず、それぞれの手続きを確認してください。
見積書の法定福利費は、現場の会社負担分を分けます
法定福利費とは、法令に基づいて事業主が負担する社会保険料などの費用です。ただし、会社全体の会計でいう法定福利費と、下請の見積書で内訳明示する現場分は、範囲を分けて考えます。本社の経理担当者や役員の保険料を、現場分の算定にそのまま混ぜないようにします。
国土交通省の見積書ガイドでは、現場労働者に係る健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金、雇用保険料の事業主負担分を示しています。これに加え、2026年度は子ども・子育て支援金の事業主負担分も含めます。
職人さん本人の保険料負担は、賃金の原資である労務費の中に含まれます。給与から控除する本人負担分まで、会社負担分として別に上乗せすると重複します。給与の手取り額を労務費に使うと、この区分が崩れやすいため注意が必要です。
| 区分 | 見積りでの考え方 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 現場従業員の賃金 | 労務費として示します | 本人負担の社会保険料を含む賃金の原資で考えます |
| 現場従業員の社会保険料の会社負担 | 法定福利費として内訳を示します | 各保険の事業主負担率と加入対象を確認します |
| 子ども・子育て支援金 | 2026年度から会社負担分を法定福利費に含めます | 従来の子ども・子育て拠出金と区別します |
| 工事の労災保険料 | 原則として元請一括加入の扱いです | 自社が元請なら、加入に必要な費用を別途計上します |
| 独立した一人親方本人の国保・国民年金 | 雇用する従業員の会社負担分と区別します | 本人の負担を踏まえた請負価格を検討します |
工事の労災保険料は、下請の見積りに雇用保険料などと同じ感覚で加えると、元請側の計上と重なるおそれがあります。自社が元請か下請かを先に確認しましょう。特定の工事現場に付随しない業務を行う場合などは、事務所等の労災保険も別に確認します。一人親方の労災特別加入も、工事の労災保険とは分けて確認します。
一人親方本人の保険負担が、請負価格の検討から消えるわけではありません。自分で負担する保険料や事業運営費を踏まえて価格を考えることと、従業員について発生する会社負担分を明示することを区別します。一人親方の税務全般は、建設業の一人親方の確定申告ガイド|経費・外注費・インボイスを税理士が解説で扱っています。
見積りは「労務費・対象保険・会社負担率」の順に組み立てます
工事に必要な労務費を積み上げます
最初に、作業内容、必要な人数、作業日数、労務単価を整理します。労務単価は、ここでは作業に対応する賃金の単価を指します。材料代や会社負担の保険料が混ざった請負単価を、そのまま計算の土台にしないようにします。
次に、対象となる労務費に、保険ごとの事業主負担率を使って法定福利費を算定します。再下請を使う場合は、再下請先の現場労働者分も計上対象です。相手の見積書で既に含まれている金額と、自社で追加する金額を突き合わせます。外注費総額には材料費などが含まれるため、その全額に保険料率を掛ける計算は避けます。
見積段階で加入対象者を把握しきれない場合について、国土交通省のガイドは、現場作業員全員の加入を前提に内訳を示し、その後、注文者と協議して最終額を決める方法を案内しています。判明していない部分は、見積書に前提を残しましょう。
2026年度の料率と、支援金の追加を確認します
2026年10月時点の厚生労働省の資料では、2026年度の「建設の事業」の雇用保険料率は、事業主負担が10.5/1,000、労働者負担が6/1,000です。見積書の会社負担分には、合計率ではなく事業主負担率を使います。適用期間は2026年4月1日から2027年3月31日までです。
また、国土交通省の事務連絡を踏まえ、2026年4月から健康保険料と合わせて徴収される子ども・子育て支援金にも対応します。2026年10月時点で、協会けんぽなどの被用者保険の2026年度の支援金率は0.23%で、事業主負担はその半分です。被用者保険とは、会社などを通じて加入する医療保険のことです。
「子ども・子育て拠出金」と「子ども・子育て支援金」は別項目です。似た名前でも置き換えず、従来の計算欄に支援金の欄を追加します。国土交通省は、独自の見積様式でも法定福利費に支援金を含めるよう案内しています。古いひな形を使う会社は、料率だけでなく項目自体も見直しましょう。
健康保険料なども、自社が加入する保険者や対象者に応じた料率を確認します。見積りに使った資料名と適用年度を計算表に残すと、後から数字の根拠をたどれます。
架空の例で、計算の一部を確認します
次は説明のための架空の例です。ある工事の対象労務費を100万円とし、全員が対象保険に加入している前提で、2026年度の雇用保険と、協会けんぽなどの子ども・子育て支援金の会社負担分だけを試算します。
- 雇用保険:100万円×10.5/1,000=10,500円
- 子ども・子育て支援金:100万円×0.23%×1/2=1,150円
これは法定福利費の一部分です。健康保険、厚生年金などの必要な項目は別に算定します。また、見積りの概算額と、給与計算などに基づく実際の保険料は一致するとは限りません。見積用の計算表を、そのまま納付額の計算に使わないようにします。
注文者とは、総額と内訳を一緒に確認します
2026年10月時点では、材料費、労務費、法定福利費の事業主負担分、安全衛生経費、建設業退職金共済の掛金などを記載した見積書の作成は、建設業法上の努力義務です。受注者が通常必要な額を著しく下回る労務費等で見積もることや、注文者がそのような額への変更を求めることも禁止されています。
内訳を示す目的は、必要な費用が請負価格にどう含まれるかを共有することです。提出した見積書が、そのまま契約金額になるわけではありません。施工範囲、工程、人数の前提をそろえたうえで協議します。
既存の見積書が「工事一式」であれば、その中の労務費と法定福利費を取り出す作業から始めます。総額に含まれていた費用を、内訳欄の新設と同時にもう一度加算しないようにします。国土交通省の様式例も、税抜合計額の「うち」の金額として必要経費を示す構成です。
値下げや仕様変更の依頼があったときは、どの作業が減るのか、日数が変わるのかを確認します。法定福利費だけを根拠なく削るのではなく、変更した施工条件に沿って積算を見直す進め方が適切です。修正版には変更理由を添え、当初版と一緒に残しましょう。
自社が発注する側でも同様です。下請先に必要な内訳の提示を依頼し、保険加入に必要な費用を確認します。形式をそろえるだけで終わらせず、再下請先まで含めた費用の範囲を共有することが大切です。
自社の確認事項を、見積りと月次管理につなげます
見積担当者と給与担当者で使う数字が違うと、原価の見通しもずれます。見積りを作る前に、次のチェックリストで確認してください。
- 法人・個人事業の別と、事業所・働く人それぞれの加入対象を確認したか
- 建設国保を使う場合、必要な適用除外承認と厚生年金の加入関係を確認したか
- 労務単価に材料代や会社負担の保険料が混ざっていないか
- 会社負担率と本人負担率を取り違えていないか
- 2026年度の子ども・子育て支援金を計算項目に追加したか
- 再下請先の必要額を把握し、重複や計上漏れを確認したか
- 工事の労災について、元請・下請の立場に応じて確認したか
- 見積りの前提、注文者との協議内容、修正履歴を残したか
工事が終わった後は、予定した人数・日数と実際の稼働を比べます。差が大きければ、追加作業、工程の変更、見積時の単価などを確認します。この振り返りは、次の工事で同じ費用を見落とさないために行います。
資金繰りの管理では、注文者からの入金予定と、給与・保険料の支払予定を並べます。見積書に法定福利費を示せていても、入金までの資金が足りるとは限りません。受注時の採算と、支払日に用意する資金を一緒に確認しましょう。
建設業許可の申請・更新でも、加入義務のある社会保険への加入が要件になっています。見積書を作成しただけでは加入手続きの確認にはなりません。加入状況や適用除外の根拠を整理しておくと、更新前に確認すべき事項が明確になります。
決算書の整理は、経営事項審査と決算書|建設業の決算変更届と評価が変わる科目の付け方も参照してください。法人の税務・経費全般は、建設業(法人)の税務・経費・税務調査対策|工事の期ズレ・外注費を税理士が解説で整理しています。
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まとめ
建設業の法定福利費は、加入対象を確認し、現場の賃金と社会保険料の会社負担分を分けて見積もることが基本です。2026年度は子ども・子育て支援金の追加を反映し、古い料率や計算欄を使い続けないようにします。再下請分、工事の労災、一人親方本人の負担は、それぞれの費用の範囲を確認します。見積りの根拠と協議内容を残し、工事後の実績確認や月次の支払管理につなげましょう。
よくある質問
Q. 代表者だけの法人でも社会保険の確認が必要ですか?
必要です。法人の事業所は、代表者だけの場合も健康保険・厚生年金保険の強制適用の対象です。代表者の報酬や勤務実態など、被保険者となる条件を満たすかも確認します。個人の一人親方と同じ扱いとは限りません。
Q. 一人親方は、国保や国民年金の費用を価格に反映できませんか?
本人が負担する保険料も、請負価格を検討する際の要素になります。ただし、従業員を雇用する会社の法定負担とは区別します。注文者の様式に合わせる際も、本人負担に相当する費用だと分かる説明を添えましょう。
Q. 法定福利費は、工事代金に一定率を掛ければよいですか?
まずは労務費と、保険ごとの事業主負担率から算定するのが基本です。材料代込みの工事代金に、根拠のない一律の率を掛ける方法は避けます。国土交通省のガイドを参考に、自社の工事内容に合う算定根拠を残してください。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月19日
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