親が亡くなった後も家賃は入るのに、誰が申告するのか決まらない。遺産分割の話合いと申告の期限が重なり、手が止まっていませんか。結論は、亡くなった方の準確定申告と、相続人自身の確定申告を分け、遺産分割前の家賃は原則として法定相続分で申告することです。この記事では、家賃を分ける考え方と、先に準備したい資料・手続きを整理します。
この記事は「大家さんの税金と確定申告の連載|家賃収入の申告から、法人化・相続まで」の第18回です。
相続した年は「誰の所得か」を期間で分けます
準確定申告とは、亡くなった方の所得税の申告を相続人などが行う手続きです。一方、相続後に相続人に帰属する家賃は、相続人自身の不動産所得として扱います。不動産所得は、土地や建物の貸付けによる所得のことで、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。
整理の出発点は、亡くなるまで、相続開始後から遺産分割の確定まで、分割の確定後という区切りです。次の表は、遺言による指定などがなく、共同相続人が遺産分割をする一般的な場合を示しています。
| 区分 | 家賃などの所得の帰属先 | 申告の整理 |
|---|---|---|
| 亡くなった方の死亡日までに確定した所得 | 亡くなった方 | 申告義務がある場合は準確定申告 |
| 相続開始後、遺産分割が確定するまでに生じる所得 | 各共同相続人に法定相続分で帰属 | 各人の不動産所得に反映 |
| 遺産分割の確定後に生じる所得 | 物件を取得した相続人。共有なら各人の持分に応じて帰属 | 取得した各人の不動産所得に反映 |
ただし、通帳の入金日だけでこの区切りに当てはめるのは避けます。家賃の収入計上時期は、契約や慣習で支払日が決まっている場合、原則としてその支払日です。管理会社からの送金日と、入居者との契約上の支払日は分けて把握します。
物件ごとに、契約上の支払日、実際の入金日、家賃の対象月を並べておくと、死亡前後の重複や計上漏れを探しやすくなります。前受家賃や未収家賃がある場合は、従来の帳簿でどのように処理していたかも確認します。
遺産分割前の家賃は、受取口座ではなく法定相続分で考えます
法定相続分とは、民法で定められた相続の割合です。遺言がなく、賃貸物件が未分割の場合、その物件から生じる不動産所得は、各共同相続人に法定相続分に応じて帰属します。家賃を管理する代表者が決まっていても、その人だけの所得になるわけではありません。
国税庁の「未分割遺産から生ずる不動産所得」でも、特定の相続人が収益を管理している場合を取り上げています。遺産分割が確定するまでは、共同相続人が法定相続分に応じて申告するという取扱いです。自分の口座に振り込まれていないことと、自分に所得が帰属しないことは別です。
架空の例:配偶者と子どもが相続する場合
次は説明のための架空の例です。亡くなった方が単独所有していた賃貸物件を、配偶者と子ども2人が相続します。遺言はなく、相続放棄などもないものとします。この場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもが各4分の1です。
未分割期間に生じた家賃収入を120万円とすると、収入の配分は配偶者60万円、子ども各30万円です。これは所得税額でも、必要経費を差し引いた後の所得額でもありません。実際の申告では、各人に帰属する収入と必要経費を整理して不動産所得を計算します。
この例で、子どものうち一人が家賃の全額を預かっていても、申告上の収入の配分は変わりません。代表者は入出金の明細を共有し、各相続人が自分に帰属する金額を確認できるようにします。家族の間で現金をいつ渡すかという精算の記録も、申告の計算表とは分けて残すと整理しやすくなります。
後から物件を取得しても、過去の所得はさかのぼりません
その後の遺産分割で、物件を子どもの一人が単独で取得したとします。それでも、未分割期間の所得まで、その子ども一人の所得に変わるわけではありません。分割の確定だけを理由に、その期間の所得について更正の請求や修正申告をすることはできません。
更正の請求は納め過ぎた税額などの訂正を求める手続き、修正申告は少なかった税額などを訂正する申告です。「最終的な所有者が決まったら、まとめて申告を直す」という進め方は避けましょう。分割前と分割後の計算表を分け、分割が確定した日を記録しておきます。
準確定申告は、相続を知った日の翌日から4か月以内です
亡くなった方に確定申告の義務がある場合、相続人などは、その年の1月1日から死亡日までに確定した所得と税額を計算します。申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。遺産分割の話合いと並行して、準備を進める必要があります。
相続税の申告・納税が必要な場合の期限は、死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。準確定申告とは別の手続きなので、期限を同じものとして予定を組まないようにします。ここで示す期限は2026年10月時点の制度に基づきます。
前年分が未申告のまま亡くなったときも確認します
確定申告が必要な方が、年明けから確定申告期限までの間に、前年分の申告書を提出せずに亡くなることがあります。この場合、前年分と亡くなった年の分の準確定申告の期限は、いずれも相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。前年の申告が済んでいるか、控えや提出記録で確認しましょう。
相続人などが複数いる場合は、原則として連署して提出します。他の相続人などの氏名を付記して各人が別々に提出する方法もありますが、その場合は申告内容を他の相続人などへ通知します。別々に作業する場合も、家賃の集計や経費の資料を共有しておくことが大切です。
準確定申告書には、相続人などの氏名・住所・続柄などを記載する付表を添付します。提出先は、亡くなった方の死亡当時の納税地を所轄する税務署です。代表者の住所地と同じとは限らないため、提出先も早い段階で整理します。
相続人の申告は、家賃と経費の明細を引き継いで作ります
相続人自身の確定申告では、自分に帰属する家賃などを不動産所得の計算に反映します。遺産分割が終わっていなくても、所得の帰属を整理する作業は必要です。申告を担当する家族だけが資料を持つ状態を避け、同じ集計表から各人の金額を確認できるようにします。
まず集めたいのは、賃貸借契約書、管理会社の送金明細、通帳、過去の確定申告書と決算書です。物件や部屋の一覧も用意すると、空室と資料の不足を区別できます。管理会社が複数ある場合は、物件ごとに資料がそろっているかを確かめます。
集計表には、収入の内容、計上時期、対象物件、帰属する人、配分の根拠を記載します。通帳の金額と合わない項目は、管理料などの控除や送金の時期を明細で照合します。差額を理由が分からないまま経費に入れず、確認事項として残すことが大切です。
必要経費は、不動産収入を得るために直接必要な費用で、生活上の支出と明確に区分できるものです。固定資産税、損害保険料、減価償却費などが主な例です。相続の年は、誰が支払ったかという記録に加え、どの物件の費用か、誰の所得に対応するかを確認します。
経費をすべて通帳の出金日だけで死亡前後に振り分けると、確認が不十分になることがあります。請求書、契約、納税通知書なども並べ、費用ごとに計上時期と帰属を検討します。同じ領収書を複数の相続人が全額ずつ計上しないよう、配分済みの明細を共有しましょう。
減価償却は、建物などの取得にかかった費用を使用可能期間に応じて配分する仕組みです。確認には過去の減価償却明細が手がかりになります。基本は中古アパートの減価償却|耐用年数の出し方と、建物と土地の分け方で説明しています。
相続税の評価や、物件を保有するか売却するかの判断は、所得の集計とは分けて考えます。その論点は相続した不動産の税金|相続税評価と貸家建付地、売るか持つかの判断にまとめています。
青色申告の申請と、申告前のチェックリスト
青色申告は、一定の記帳などを前提に税務上の特典を受けられる制度です。亡くなった方が青色申告をしていても、相続人が新たに青色申告を始める場合は、相続人自身の承認申請が必要です。申告書を作る時期まで申請を待たず、先に期限を調べます。
亡くなった方が青色申告者だった場合は、死亡の時期に応じた特別な申請期限があります。準確定申告の期限と同じになる場合もありますが、同じにならない場合もあります。「相続だから一律に4か月」と考えず、国税庁の「青色申告制度」の期限表で自分の区分を確認します。
亡くなった方が白色申告者で、その年の1月16日以後に相続で業務を承継した場合は、承継した日から2か月以内が青色申告承認申請の期限です。これも2026年10月時点の取扱いです。相続人が既に別の業務で青色申告の承認を受けている場合は、承認の状況も確認して整理します。
申告の準備では、次の項目を家族で共有すると、未確認の点が見えやすくなります。金額が合っているかだけでなく、同じ期間・同じ資料を基に計算しているかを点検します。
- □ 死亡日と相続の開始を知った日を記録し、準確定申告の期限を整理したか
- □ 遺言の有無、相続人の範囲、遺産分割の状況を確認したか
- □ 家賃の支払日・入金日・対象月を照合したか
- □ 未分割期間の収入の配分と、その根拠を各相続人で共有したか
- □ 家賃を預かる口座と、所得が帰属する人を区別したか
- □ 経費の資料と配分表をそろえ、重複計上がないか確認したか
- □ 前年分の申告状況と、過去の減価償却明細を確認したか
- □ 各相続人の青色申告の承認状況と申請期限を確認したか
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まとめ
相続した賃貸物件は、亡くなった方の準確定申告と、相続人自身の確定申告を分けて整理します。遺言などがなく未分割の物件から生じる所得は、原則として法定相続分で各人に帰属し、家賃を預かる口座だけでは決まりません。後の遺産分割によって、未分割期間の所得の帰属がさかのぼって変わるわけでもありません。まず契約と明細をそろえ、申告・申請の期限と各人の配分を共有することから始めましょう。
よくある質問
Q. 家賃を受け取っていない相続人にも申告の問題がありますか?
はい。遺言がなく未分割の賃貸物件では、代表者が家賃を管理していても、各相続人に法定相続分に応じて所得が帰属します。受取口座に入金がないことだけで申告不要とは判断せず、自分に帰属する不動産所得を計算して申告の要否を確認します。
Q. 遺産分割で物件を取得した人が、過去の家賃もまとめて申告できますか?
分割の確定によって、未分割期間の所得が取得者一人にさかのぼって帰属することにはなりません。分割前は各人の法定相続分、分割後は取得した持分を基に整理します。分割が確定したことだけを理由とする更正の請求や修正申告もできません。
Q. 相続税の申告準備と一緒に、準確定申告を進めればよいですか?
資料収集は並行できますが、期限は別に管理します。準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内の申告・納税が基本です。さらに青色申告の承認申請にも独自の期限があるため、相続税の作業予定だけで判断しないことが大切です。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日
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