クラウド給与ソフトを導入している会社にとって、年末調整は「従業員に入力してもらい、結果を確認して給与に反映する」だけの作業になりつつあります。ただし令和8年分に限っては、例年と同じ感覚で進めると事故が起きやすい年です。
理由は、基礎控除の引上げなど主要な改正の施行日が令和8年12月1日とされている点にあります。11月までの毎月の給与計算には改正が反映されず、1年分の減税効果が12月の年末調整に集約されます。ソフトが改正に対応したバージョンになっているか、還付原資が足りるか、事前の確認事項が例年より多くなります。
本記事では、freee人事労務とマネーフォワード クラウド年末調整それぞれの進め方と、令和8年分に固有の確認ポイントを、クラウド会計支援1,000社超の実務経験から整理します。
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着手前に確認すべき3つのこと
1. ソフトが改正後の計算表に対応しているか
令和8年12月に行う年末調整では、改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を使って年税額を計算します。国税庁は、この表を令和8年8月末頃に公開予定の「令和8年分 年末調整のしかた」に掲載するとしていました。
クラウドソフトは自動更新されますが、年末調整機能を開始する前に、リリースノートやヘルプセンターで令和8年度税制改正への対応状況を確認してください。特に次の3点が正しく反映されているかが要点です。
- 基礎控除額(合計所得489万円以下で104万円)
- 給与所得控除の最低保障額(74万円)
- 扶養親族等の所得要件(合計所得62万円以下)
2. 11月までの給与計算は変更しない
令和8年11月までの給与の源泉徴収事務に変更は生じないと国税庁が明示しています。源泉徴収税額表が改正されるのは令和9年1月1日以後に支払うべき給与からです。
ソフトの設定を先回りして変更する必要はありません。むしろ11月までの給与で改正後の税額を使ってしまうと、12月の精算額が合わなくなります。
3. 還付原資を試算しておく
令和8年分は還付額が例年より大きくなります。合計所得489万円以下の従業員では、基礎控除が改正前の68万〜95万円から104万円になるためです。
12月分として納付する源泉所得税から還付しきれない場合は、その後に納付する徴収税額から順次差し引いて還付します。還付することとなった日の翌月から2か月を経過しても還付しきれないと見込まれる場合は、「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を所轄税務署に提出することで還付を受けられます。
会社側の実務対応の全体像は【令和8年分】年末調整の変更点と実務対応にまとめています。
freee人事労務で年末調整を行う手順
freee人事労務の年末調整は、「依頼」「従業員が入力」「書類の自動作成・電子申告」という3つの段階で進みます。
ステップ1:管理者側の事前設定
- 従業員マイナンバーの管理者を確認・設定します
- 年末調整の基本情報(対象年・締切日など)を設定します
- 従業員の申告内容の入力方法を選択します
入力方法は、従業員本人に入力してもらう方式と、管理者が代理で入力する方式を選べます。従業員数が10名を超えるなら、本人入力方式にしたほうが管理者の負担は圧倒的に軽くなります。
ステップ2:従業員への依頼と入力
従業員には、一問一答のアンケート形式の画面が表示されます。表示された質問に順に答えていくと、必要な申告書が自動的に作成される仕組みです。
従業員が入力するのは主に次の情報です。
- 本人情報(住所・扶養親族の有無など)
- 家族情報(配偶者・扶養親族の氏名、生年月日、所得見積額)
- 各種控除の申告内容(生命保険料控除、住宅ローン控除など)
- 現職以外の収入(前職の所得、副業や給与以外の所得)
控除証明書はスマートフォンで撮影して添付できます。紙の申告書を回収して転記する作業がなくなるため、令和8年分のように記載ミスが起きやすい年ほど効果が大きくなります。
ステップ3:管理者の確認と給与への反映
提出された内容を管理者が確認し、差し戻しが必要なものを個別に返します。全員分の確認が終わったら年税額が自動計算され、源泉徴収票や法定調書の作成、電子申告まで進められます。
計算結果は給与計算に連携され、12月または1月の給与明細に還付額が反映されます。
操作手順の詳細はfreee公式の年末調整機能ページおよびヘルプセンターをご確認ください。
マネーフォワード クラウド年末調整で行う手順
マネーフォワードでは、給与計算の「クラウド給与」とは別に「クラウド年末調整」という製品が用意されています。両者を連携させて使うのが基本形です。
ステップ1:年末調整手続きの新規追加と回収設定
年末調整手続きを新規追加する際に、次の回収設定を行います。
- 従業員の申告書提出締切日
- 従業員に申告してもらう住所
- 電子的控除証明書の利用有無
- 使用言語の切替
締切日は、12月の給与計算の締め日から逆算して設定してください。令和8年分は確認作業が増えるため、例年より1週間程度前倒しすることをおすすめします。
ステップ2:従業員の追加
クラウド給与の従業員情報をインポートして、年末調整手続きに従業員を追加します。中途入社者や12月中に退職予定の従業員が漏れていないか、この段階で確認します。
ステップ3:従業員への提出依頼と申告
従業員には提出依頼メールが届きます。従業員はメールに記載されたURLからマネーフォワードIDでログインし、画面の案内に沿って申告を行います。
ステップ4:確認と給与計算への反映
管理者が申告内容を確認し、年末調整計算を実行します。結果はクラウド給与に取り込み、12月または1月の給与計算に反映させます。翌年の申告内容をクラウド給与に取り込む機能もあるため、翌年の扶養控除等申告書の情報も引き継げます。
手続きの詳細はマネーフォワード公式の年末調整手続き作成の流れをご確認ください。
令和8年分に固有のチェックポイント
ソフトを使っていても、次の項目は人の目で確認する必要があります。
| 確認項目 | 内容 | 見落とすとどうなるか |
|---|---|---|
| 扶養親族の所得見積額 | 所得要件が合計所得62万円以下(給与収入136万円以下)に緩和 | 新たに扶養に入れる家族を拾い損ねる |
| 特定親族の判定 | 合計所得62万円超123万円以下(給与収入136万円超197万円以下) | 給与収入から差し引く金額を65万円で計算すると控除額が過少になる |
| 扶養控除等申告書の異動記載 | 改正で新たに扶養対象となった親族は「令和8年12月1日 改正」と記載 | 扶養控除が反映されない |
| 11月30日以前に最後の給与を支払った人 | 改正後の控除等は適用されない | 誤って改正後で計算すると年税額が誤る |
| 23歳未満の子がいる従業員の生命保険料控除 | 新生命保険料に係る一般生命保険料控除の限度額が6万円 | 申告漏れで控除が2万円少なくなる |
| 還付原資 | 12月分の納付額から還付しきれない可能性 | 従業員への還付が遅れる |
特定親族の合計所得の計算で使う給与所得控除額を間違えるミスは、令和8年分でもっとも起きやすい誤りです。令和8年・9年分は最低保障額が74万円であり、給与収入が74万1,000円以上219万1,000円未満なら給与所得は「収入金額-74万円」になります。19歳から22歳の子がいる場合の詳しい書き方は特定親族特別控除の申告書の書き方で解説しています。
ソフトに任せきれない3つの判断
クラウドソフトは計算と書類作成を自動化しますが、次の判断は人が行う必要があります。
1. 扶養を父母どちらで取るかの判断
同じ子について両親の双方が控除を受けることはできません。ソフトは片方の会社の情報しか持っていないため、世帯全体で最適かどうかは判断できません。共働き世帯からの相談が集中する論点です。
2. 所得見積額の妥当性
従業員が入力する扶養親族の所得見積額は、あくまで自己申告です。12月の給与を含めた見込みになっているか、複数のアルバイト先の収入が合算されているかは、ソフトでは検証できません。境界付近の従業員には個別に確認してください。
3. 年末調整の対象外となる人の切り分け
給与収入2,000万円超の人、他社に扶養控除等申告書を提出している人、令和8年11月30日以前に最後の給与を支払った人は、扱いが変わります。特に3つ目は令和8年分に固有の論点で、該当者には確定申告が必要になる旨を年内に案内しておく必要があります。
従業員側から見た還付額の目安は年末調整で還付金はいくら増える?年収別シミュレーションで試算しています。給与計算ソフト自体の比較検討をしている段階であれば【2026年版】クラウド給与計算ソフトおすすめ比較もあわせてご覧ください。
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まとめ
- 年末調整機能を開始する前に、ソフトが令和8年度税制改正に対応しているかを確認してください
- 11月までの給与計算の設定は変更しません。改正は12月の年末調整で一括精算されます
- freeeは「依頼・従業員入力・自動作成」の3ステップ、マネーフォワードは「手続き追加・従業員追加・提出依頼・計算」の流れです
- 扶養親族の所得見積額と特定親族の判定は、令和8年分でもっとも誤りやすい箇所です
- 還付原資が不足する可能性を11月のうちに試算してください
一次情報は国税庁の令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等についてで確認できます。
リーパル会計事務所はfreee認定アドバイザーおよびMFクラウド公認アドバイザーとして、1,000社超のクラウド会計導入を支援してきました。年末調整の設定確認から改正対応のチェックまでサポートしています。
よくある質問
Q. freeeやマネーフォワードを使っていれば、令和8年度税制改正への対応は自動ですか。
A. 計算そのものは自動で対応します。ただし、扶養親族の所得見積額の入力や、改正で新たに扶養対象となった親族の申告は従業員本人が行う必要があります。国税庁も、改正により新たに扶養控除等の対象となる親族については「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要であり、「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」などと記載するよう案内しています。ソフトの自動計算と、従業員への周知は別の作業です。
Q. 11月中に従業員から申告書を回収してよいですか。
A. 問題ありません。国税庁は、令和8年12月1日から年末調整関係書類の提出を受けたのでは年末調整に間に合わない事態が想定されるとして、同日以後適用される改正を反映した年末調整関係書類を12月1日前から提出させても差し支えないとしています。クラウドソフトの回収締切も、例年どおり11月中旬から下旬に設定して構いません。
Q. クラウド給与とクラウド年末調整は両方契約が必要ですか。
A. マネーフォワードでは給与計算と年末調整が別製品として提供されており、連携させて使う構成です。freee人事労務は給与計算と年末調整が同一のサービス内で提供されています。どちらの体系が自社に合うかは、給与計算の複雑さや従業員数によって変わります。製品ごとの違いは【2026年版】クラウド給与計算ソフトおすすめ比較で整理しています。
Q. 還付額が大きすぎて12月分の納付がマイナスになりそうです。
A. 過納額は、年末調整を行った月分として納付する徴収税額から差し引いて還付し、その月の徴収税額だけで還付しきれないときは、その後に納付する徴収税額から順次差し引いて還付します。翌月から2か月を経過しても還付しきれないと見込まれる場合は、「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を作成し、所轄税務署に提出することで還付を受けられます。従業員数が多く、報酬の源泉徴収が少ない会社ほど該当しやすいため、11月のうちに試算してください。
Q. 従業員がスマホ入力を嫌がります。紙と併用できますか。
A. できます。freee人事労務では、従業員本人に入力してもらう方式と管理者が代理で入力する方式を選べます。紙で回収した従業員の分だけ管理者が代理入力するという運用も可能です。ただし令和8年分は記載内容の確認事項が多いため、可能な範囲で本人入力に寄せたほうが、転記ミスのリスクは下がります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日
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