ペットショップで売れ残った犬や猫は、仕入れた年の経費にしてよいのでしょうか。販売前の生体は在庫として扱い、期末に残った分の取得費用は翌期へ繰り越します。売れ残りを理由に価額を下げられるかは、選んだ在庫の評価方法や、生体ごとの事情によって判断が変わります。
この記事では、生体の在庫と死亡時の処理、ホテルの予約金、トリマーとの契約を、法人・個人事業主向けに整理します。
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ペット事業の売上ごとの会計の論点
まず、事業ごとに何が論点になるかを整理します。
| 事業 | 主な売上 | 会計の論点 |
|---|---|---|
| ペットショップ | 生体の販売、フード・用品の販売 | 生体の取得価額と期末の評価、死亡時の処理 |
| トリミングサロン | トリミング・シャンプーの施術 | トリマーが雇用か業務委託か |
| ペットホテル | 預かり料金 | 予約金の前受金、キャンセル料の消費税 |
消費税の簡易課税を選んでいる場合は、事業区分も分かれます。国税庁のタックスアンサーNo.6509によると、第2種事業(みなし仕入率80%)の小売業は「他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの」、第5種事業(50%)はサービス業などです。仕入れた生体や用品を消費者に売る部分と、トリミングや預かりのようなサービスの部分は、売上を分けて記録しておきます(国税庁『No.6509 簡易課税制度の事業区分』)。自社で繁殖させた生体の販売は「他の者から購入した商品」ではないため、どの区分に当たるかを別に確かめる必要があります。簡易課税を選ぶかどうかの考え方は簡易課税制度のメリット・デメリットの記事にまとめています。
生体は棚卸資産:取得価額と評価方法
販売目的で仕入れた子犬や子猫は、法人税法施行令第10条の「商品」として棚卸資産に当たります。仕入れた時点では経費にせず、売れたときに売上原価になり、期末に残っている分は在庫として翌期へ繰り越します。
取得価額に含めるもの
法人税法施行令第32条は、購入した棚卸資産の取得価額を次の合計額としています。
- 購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他購入のために要した費用を加算した金額)
- その資産を消費し、または販売の用に供するために直接要した費用の額
ブリーダーやオークションから仕入れる場合の生体代金に加え、輸送費や購入手数料も取得価額に入ります。自社で繁殖させた生体は、施行令第32条第1項第2号の「製造、採掘、採取、栽培、養殖その他これらに準ずる行為」に係る棚卸資産に当たるかを含めて、原価の集め方を個別に確かめる必要があります。
評価方法は届け出て選ぶ
期末の在庫をいくらで評価するかは、法人税法施行令第28条の評価方法から選びます(法人税法施行令(e-Gov法令検索)第28条)。
| 評価方法 | 内容 | 生体での使い方 |
|---|---|---|
| 個別法 | 期末棚卸資産の個々の取得価額をその取得価額とする | 1頭ごとに仕入値が違う生体で、仕入値をそのまま在庫の金額にする |
| 最終仕入原価法 | 種類等ごとに、期末に最も近い時に取得したものの単価を使う | 届出をしなかった場合の法定評価方法 |
| 低価法 | 原価法の評価額と期末の時価のいずれか低い価額 | 成長などで販売価格が下がる生体を時価で評価する |
評価方法を届け出なかった場合は、施行令第31条により最終仕入原価法で評価します。最終仕入原価法は「種類等」ごとに期末に最も近い仕入れの単価を使うため、犬種や個体で仕入値が大きく違う生体では、在庫の金額が実際の仕入値から離れることがあります。
新たに設立した法人は、施行令第29条第2項により、設立の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに評価方法を書面で届け出ます。一度選んだ方法を変えるには税務署長の承認が必要で、施行令第30条により、新たな方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに申請書を出します。
個人事業主も、所得税法施行令第99条に同じ評価方法が並び、届出がなければ第102条により最終仕入原価法です。ただし、低価法を選べるのは青色申告の承認を受けている人に限られます。在庫評価の全体像はEC・物販(法人)の税務の記事でも扱っています。
生体が死亡したとき・売れ残ったときの処理
死亡した生体は期末の在庫に含めない
期末に在庫として数えるのは、その時点で実際に持っている生体だけです。期中に死亡した生体は期末の在庫に入らないため、その取得価額は結果として当期の売上原価または損失として扱われます。法人税法第22条第3項は、損金の額に算入する金額として「当該事業年度の収益に係る売上原価」や「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」を挙げています。
実在しない生体を在庫に残すと利益が過大になり、反対に、生きている生体を死亡扱いにして在庫から外すと利益が過少になります。死亡の日付、個体の識別情報、獣医師の診断や火葬の記録など、死亡の事実を説明できる資料を個体ごとに残しておきます。
売れ残った生体の評価損は事実が限られる
法人税法第33条第2項は、災害による著しい損傷などの政令で定める事実が生じた場合に限って、評価換えによる損失を損金に算入できるとしています。法人税法施行令第68条第1項第1号は、棚卸資産について次の事実を定めています。
- 災害により著しく損傷したこと
- 著しく陳腐化したこと
- これらに準ずる特別の事実
生体が成長して販売価格が下がったことがこれらに当たるかは、事実関係によって判断が分かれます。期末の時価で評価したい場合は、評価方法として低価法を選んで届け出ておく方法があります。
ペットホテルの予約金は前受金、キャンセル料は性格で分かれる
年末年始や大型連休の予約で、宿泊前に料金や予約金を受け取ることがあります。法人税法第22条の2第1項は、役務の提供に係る収益を原則として役務の提供の日の属する事業年度に計上すると定めています。期末時点でまだ預かっていない分の予約金は、売上ではなく前受金です。国税庁のタックスアンサーNo.6165も、前受金を受け取っても、実際にサービスの提供があった時が売上げの時期になるとしています。
予約が取り消されてキャンセル料を受け取る場合、消費税の扱いは性格で分かれます(国税庁『No.6253 キャンセル料』)。
| キャンセル料の性格 | 消費税 |
|---|---|
| 解約手続などの事務手数料(時期に関係なく一定額) | 役務の提供の対価として課税 |
| 逸失利益に対する損害賠償金 | 資産の譲渡等の対価に該当せず不課税 |
| 両者を区分せず一括で受け取る | 全額を不課税として取り扱う |
キャンセル規定を「手数料」と「直前の取消しによる補償」に分けて書いておくと、消費税の区分を説明しやすくなります。前受金から差し引いて返金する場合は、返金額とキャンセル料を分けて記帳します。
トリマー・スタッフを業務委託にするときの区分
トリマーを業務委託で迎える場合、その報酬が給与なのか外注費なのかで、消費税の扱いが変わります。国税庁のタックスアンサーNo.6451のとおり、給与等の支払は課税仕入れに含まれません。業務委託の報酬であれば課税仕入れになります。
消費税法基本通達1-1-1は、雇用契約またはこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、その者の計算で役務を提供する場合は事業に該当しないとし、区分が明らかでないときの判定事項として、他人の代替を容れるか、指揮監督を受けるか、材料や用具等を供与されているかなどを挙げています。シャンプーやハサミ、施術台をサロンが用意し、予約や施術の手順をサロンが指示している場合は、これらの事項に照らして確かめます。外注費と給与の区別の実務は、美容サロン(法人)の税務の記事で業務委託スタイリストを例に整理しています。
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まとめ:ペット事業は「在庫」「前受金」「契約形態」を分けて管理する
- 販売目的の生体は棚卸資産です。取得価額には生体代金に加えて輸送費や購入手数料も入ります。
- 評価方法を届け出なければ最終仕入原価法です。1頭ごとに仕入値が違う生体では、個別法などを検討して届け出ます。
- 死亡した生体は期末の在庫に含めず、死亡の事実を説明できる記録を個体ごとに残します。
- 評価損が認められる事実は限られます。時価で評価したいなら低価法の選定を検討します(個人事業主は青色申告の承認が前提)。
- ペットホテルの予約金は宿泊まで前受金で、キャンセル料は性格で課税・不課税が分かれます。
- トリマーとの契約は、雇用か業務委託かを判定事項に照らして確かめます。
評価方法の選び方によって期末の在庫の金額と各期の利益は変わります。自社の仕入れと販売の実態にどの方法が合うかは、過去の在庫データで数字を試算しないと決まりません。
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よくある質問
Q. 評価方法の届出を出していません。どうなりますか?
法人は法人税法施行令第31条、個人事業主は所得税法施行令第102条により、最終仕入原価法で評価することになります。別の方法に変えたい場合、法人は変更しようとする事業年度開始の日の前日までに承認の申請書を提出します。
Q. 期中に生体が死亡しました。どんな記録を残せばよいですか?
死亡の日付、個体を特定できる情報、取得価額、獣医師の診断や火葬の記録など、死亡の事実を説明できる資料を個体ごとに残します。期末の在庫表と突き合わせて、実在しない生体が在庫に残っていないかを確かめます。
Q. ペットホテルのキャンセル料に消費税はかかりますか?
解約に伴う事務手数料としてのキャンセル料は課税、逸失利益に対する損害賠償金としてのキャンセル料は不課税です。両方を区分せず一括で受け取っている場合は、全額を不課税として取り扱うこととされています。
Q. 個人事業主のペットショップでも棚卸しは必要ですか?
必要です。所得税法第47条は、事業所得の必要経費に算入する売上原価を算定する基礎として、その年12月31日に有する棚卸資産の評価額を定めています。評価方法の選択肢は所得税法施行令第99条にあり、低価法は青色申告の承認を受けている場合に限って選べます。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年11月1日
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