会社から役員報酬を受け取っている社長は給与所得者なので、役員報酬だけなら会社の年末調整で所得税の計算が終わるのが原則です。ただし、役員報酬が年2,000万円を超える場合や、自分の会社に貸している土地・建物の家賃や、会社に貸したお金の利子を受け取っている場合、配当や不動産収入がある場合は、社長個人の確定申告が必要になることがあります。
この記事では、社長個人に確定申告が必要になる場合を国税庁の案内に沿って整理し、法人の顧問税理士に社長個人の申告を頼むときの範囲と、渡す資料をまとめます。個人事業主が確定申告を税理士に頼む場合の話は個人事業主の確定申告の依頼の記事で扱っているため、ここでは「法人の社長個人」の申告に絞ります。
社長個人に確定申告が必要になる主な場合
国税庁は、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人は確定申告をしなければならないとしています(確定申告をすれば税金が還付される人は除きます。タックスアンサーNo.1900)。社長に関係しやすいものを抜き出すと、次のとおりです。
| 当てはまる場合 | 社長によくある例 |
|---|---|
| 給与の年間収入金額が2,000万円を超える | 役員報酬の年額が2,000万円を超えている |
| 給与を1か所から受けていて、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える | 個人で所有するアパートの家賃収入、会社以外からの配当がある |
| 給与を2か所以上から受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と他の所得金額の合計額が20万円を超える | 複数の会社の役員を兼ねて、それぞれから報酬を受け取っている |
| 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている | 自宅の一部や個人名義の土地・建物を会社に貸している、会社にお金を貸して利息を受け取っている |
最後の項目は、金額が20万円以下でも確定申告が必要になる点が重要です。国税庁は、同族会社の役員がその同族会社から給与のほかに貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている場合には、これらの所得金額が20万円以下であっても確定申告が必要になるとしています(タックスアンサーNo.1901)。役員の親族など特殊な関係にある人も同様です。
役員報酬だけの社長:年2,000万円が分かれ目
1か所から役員報酬を受け取り、その収入金額が2,000万円以下で、源泉徴収と年末調整を受けていれば、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下である限り、原則として確定申告は必要ありません。
一方、会社からの給与等の収入金額が年間2,000万円を超える人は年末調整の対象にならないため、ほかの所得が無くても確定申告が必要です(タックスアンサーNo.1901)。役員報酬の額を決めるときは、会社の損金になるかどうかだけでなく、社長個人の申告が必要になるかどうかも合わせて見ておきます。役員報酬の決め方は役員報酬の決め方の記事で扱っています。
申告が必要でない社長でも、医療費控除や寄附金控除を受けたいときは、確定申告をすることで税金が還付される場合があります。こうした申告も、社長個人の申告として依頼の範囲に入れるかを決めておきます。
会社に不動産を貸している・お金を貸している社長
社長が個人名義の土地・建物や自宅の一部を会社に貸している場合、会社から受け取る賃料は社長個人の不動産所得になります。不動産所得の金額は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算し、必要経費には固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などがあります(国税庁タックスアンサーNo.1370)。
社長が会社にお金を貸して利息を受け取っている場合も、その利子は社長個人の所得として申告の対象になります。どちらも、同族会社から受け取るものなので、金額が20万円以下でも確定申告が必要です。
この取引は、会社側では支払家賃や支払利息、社長側では収入として、同じ金額が両側に現れます。会社の決算と社長個人の申告を同じ税理士が見ると、次の点を突き合わせやすくなります。
- 会社の帳簿の支払家賃・支払利息と、社長個人の申告の収入金額が一致しているか
- 賃貸借契約書や金銭消費貸借契約書があり、金額や利率の決め方が説明できるか
- 自宅の一部を貸す場合、貸している部分と自分が使う部分の区分が整理されているか
- 固定資産税や減価償却費など、社長個人の必要経費の資料がそろっているか
会社と社長の間のお金の貸し借りの整理は役員貸付金・借入金の記事も参考にしてください。
自分の会社から配当を受け取る社長
自分の会社が上場していない場合、その配当は「上場株式等以外の配当等」に当たります。上場株式等以外の配当等は、支払の際に20.42パーセント(地方税なし)の税率で所得税及び復興特別所得税が源泉徴収され、原則として総合課税の対象として確定申告の対象とされています(国税庁タックスアンサーNo.1330)。
ただし、1回に支払を受けるべき配当等の金額が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下の少額配当である場合は、確定申告を要しないとされています。この確定申告不要制度を選ぶと、その配当から源泉徴収された税額は、その年分の所得税額から差し引くことができません。
| 配当の状況 | 確定申告 |
|---|---|
| 1回の配当が少額配当の基準以下 | 確定申告をしないことを選べる(源泉徴収税額は差し引けない) |
| 少額配当の基準を超える | 総合課税として確定申告の対象 |
※少額配当の基準は、配当計算期間が1年なら1回10万円です。ここでの申告不要は所得税の話です。住民税の配当割は上場株式等の配当等などに課されるもので(東京都主税局「個人住民税」)、住民税の申告が必要かどうかは、お住まいの市区町村の案内で確かめます。申告するかどうかで税額がどう変わるかは、役員報酬など他の所得の額によって変わるため、試算しないと決まりません。配当を支払う会社の側では、支払の際に所得税等を源泉徴収するため、会社の決算と社長個人の申告で、配当の額と源泉徴収税額が一致しているかも確かめます。
顧問税理士に頼む範囲と、渡す資料
法人の顧問契約に社長個人の確定申告が含まれるかどうかは、契約の内容によります。法人とは別の依頼として扱われることもあるため、範囲と時期を先に決めておきます。社長個人の申告書の作成や提出の代理も税務代理・税務書類の作成に当たり、税理士又は税理士法人でない者は税理士業務を行ってはならないとされています(税理士法第52条)。
頼む範囲を決めるときは、次のように分けると漏れを防げます。
| 範囲 | 主な中身 | 渡す資料の例 |
|---|---|---|
| 給与の部分 | 役員報酬の収入金額と源泉徴収税額の確認 | 会社が発行した源泉徴収票 |
| 会社との取引 | 会社から受け取る賃料・利息の申告 | 賃貸借契約書、金銭消費貸借契約書、受取額の分かる通帳 |
| 個人の不動産 | アパートなど個人で持つ不動産の収支 | 管理会社の送金明細、固定資産税の通知書、修繕の請求書、借入金の返済予定表 |
| 配当 | 配当の申告の要否と計算 | 配当金の支払通知書(源泉徴収税額の分かるもの) |
| 所得控除 | 医療費控除・寄附金控除・生命保険料控除など | 医療費の明細、寄附の受領証明書、保険料の控除証明書 |
所得税の確定申告書は、原則として翌年2月16日から3月15日までの期間に提出します(所得税法第120条)。令和8年分であれば、2027年2月16日(火曜日)から3月15日(月曜日)までです。12月決算の会社では、会社の申告期限(事業年度終了の日の翌日から2か月以内)と社長個人の申告期間が重なるため、資料を渡す時期も合わせて決めておきます。
依頼する前に決めておくこと
- どこまでを依頼するか:申告書の作成だけか、税務署への提出(e-Tax)や税務署からの問合せへの対応まで含めるか
- 資料を誰が集めるか:会社の経理担当が社長個人の資料も預かるのか、社長本人が渡すのか。個人の資料を会社の資料と混ぜないように分けておく
- 納付の段取り:申告書に記載した納付すべき所得税は、第三期(翌年2月16日から3月15日まで)に納付します(所得税法第128条)。誰の口座から、どの方法で納めるかを決めておく
- 翌年以降の扱い:会社との賃貸借や貸付が続く限り毎年申告が必要になるため、単年の依頼か継続の依頼かを決めておく
税理士への依頼を考えるときの関連記事
まとめ:会社との取引がある社長は金額が少なくても申告する
- 役員報酬だけで年2,000万円以下、他の所得が20万円以下なら、原則として年末調整で完了する
- 役員報酬が年2,000万円を超えると年末調整されず、確定申告が必要
- 同族会社から家賃や貸付金の利子を受け取る社長は、20万円以下でも確定申告が必要
- 自社からの配当は、少額配当なら申告不要を選べるが、源泉徴収税額は差し引けない
- 顧問契約に社長個人の申告が含まれるかは契約による。範囲と資料を先に決めておく
会社と社長個人の取引が多いほど、会社の決算と社長個人の申告を突き合わせる意味が大きくなります。依頼するかどうかは、取引の種類と金額を並べてから決めます。
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よくある質問
Q. 会社から受け取る家賃が年10万円でも確定申告が必要ですか?
同族会社の役員がその会社から不動産の賃貸料などを受け取っている場合は、所得金額が20万円以下でも確定申告が必要とされています(確定申告をすれば税金が還付される人を除きます)。家賃の額が少なくても、申告の対象になります。
Q. 役員報酬が2,000万円を少し超えるだけでも確定申告は必要ですか?
必要です。給与等の収入金額が年間2,000万円を超える人は年末調整が行われないため、ほかの所得が無くても確定申告が必要です(確定申告をすれば税金が還付される人を除きます)。
Q. 自分の会社からの配当が少額なら、申告しなくてよいですか?
1回の配当が少額配当の基準以下であれば、確定申告をしないことを選べます。その場合、配当から源泉徴収された税額は所得税額から差し引けません。ただし、これは所得税の話で、住民税の申告が必要かどうかは、お住まいの市区町村の案内で確かめます。申告した方がよいかどうかは、他の所得との合計で変わるため試算して決めます。
Q. 社長の家族が会社に土地を貸している場合も同じですか?
国税庁は、同族会社の役員と特殊な関係にある人(例えば役員の親族など)も同様としています。家族が会社から賃料などを受け取っている場合は、その家族の確定申告が必要になるかを確かめます。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月21日
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