医療法人の決算は、税務署への法人税の申告だけでは終わりません。医療法で、毎会計年度終了後2か月以内に事業報告書等を作り、3か月以内に都道府県知事へ届け出ることが決まっていて、同じ3か月以内に資産の総額の変更登記と、病院・診療所ごとの経営情報の報告も必要です。
この記事では、社団たる医療法人を中心に、決算後の手続を期限順に並べ、事業報告書等の中身と承認の流れ、資産の総額の変更登記、役員報酬と関係事業者との取引の記録の残し方を、医療法・同施行規則と厚生労働省の資料に沿って整理します。医療法人の法人税の論点(社会保険診療報酬の扱いなど)は別の記事に譲ります。
決算後の手続と期限の一覧
決算日を起点に、期限が2か月・3か月・4か月の手続が重なります。提出先も税務署・都道府県・法務局と分かれるので、最初に一覧で押さえます。
| 手続 | 根拠 | 期限 | 提出先など |
|---|---|---|---|
| 事業報告書等の作成 | 医療法51条1項 | 毎会計年度終了後2か月以内 | 法人内で作成する(監事の監査・理事会の承認はその後、届出までに受ける) |
| 法人税の確定申告 | 法人税法74条 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内(申告期限の延長を受けている場合を除く) | 税務署 |
| 事業報告書等の届出 | 医療法52条1項 | 毎会計年度終了後3か月以内 | 都道府県知事 |
| 経営情報等の報告 | 医療法69条の2第2項 | 毎会計年度終了後3か月以内(外部監査の対象は4か月以内) | 都道府県知事(システムでの報告を推進) |
| 資産の総額の変更登記 | 組合等登記令3条3項 | 毎事業年度末日から3か月以内 | 法務局(主たる事務所の所在地) |
| 登記の届出 | 医療法施行令5条の12 | 登記後、遅滞なく | 都道府県知事 |
事業報告書等は2か月以内に作成し、その後の監事の監査、理事会の承認、社員総会(財団たる医療法人は評議員会)の承認を、3か月以内の知事への届出に間に合うように日程を組みます。法人税の申告書の作成と事業報告書等の作成は同じ決算の数字を使うので、決算の締めを遅らせないことが、後ろの手続すべての前提になります。
事業報告書等の作成・監査・承認の流れ
医療法51条1項は、医療法人に、毎会計年度終了後2か月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書その他省令で定める書類(事業報告書等)を作成するよう定めています。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 作成 | 事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書など | 51条1項 |
| 監事の監査 | 事業報告書等について監事の監査を受ける | 51条4項 |
| 公認会計士等の監査(一定規模以上) | 財産目録、貸借対照表、損益計算書について公認会計士又は監査法人の監査を受ける | 51条5項 |
| 理事会の承認 | 監査を受けた事業報告書等について理事会の承認を受ける | 51条6項 |
| 社員総会 | 理事が事業報告書等を社員総会に提出し、貸借対照表と損益計算書は社員総会の承認を受ける。それ以外は内容を報告 | 51条の2 |
財団たる医療法人では、社員総会の部分が評議員会に読み替えられます(51条の2第5項)。また、貸借対照表と損益計算書は、作成した時から10年間保存しなければなりません(51条3項)。
公認会計士等の監査が必要になる医療法人
51条2項の医療法人(公認会計士等の監査の対象)は、施行規則33条の2で次のように定められています。
| 区分 | 基準(最終会計年度) |
|---|---|
| 医療法人 | 貸借対照表の負債の部の合計額が50億円以上、又は損益計算書の事業収益の部の合計額が70億円以上 |
| 社会医療法人 | 負債の部の合計額が20億円以上、又は事業収益の部の合計額が10億円以上 |
| 社会医療法人債発行法人である社会医療法人 | 規模にかかわらず対象 |
対象になる法人は、公認会計士等の監査報告書も知事への届出書類に加わります(52条1項3号)。判定は最終会計年度の負債の部・事業収益の部の合計額で行うので、規模が大きくなってきた法人は毎年の決算で確かめます。
都道府県知事への届出と経営情報の報告
医療法52条1項は、毎会計年度終了後3か月以内に、事業報告書等、監事の監査報告書、(対象法人は)公認会計士等の監査報告書を都道府県知事に届け出ることを定めています。届け出た書類は、請求があれば都道府県知事が閲覧に供します(同条2項)。届出をしなかったり虚偽の届出をしたりした場合、医療法人の理事・監事などは20万円以下の過料の対象です(93条7号)。
これとは別に、病院・診療所の経営情報の報告があります。医療法69条の2第2項は、医療法人に、開設する病院又は診療所ごとに、収益及び費用その他の事項を都道府県知事に報告するよう定めています。厚生労働省は、経営情報等の報告期限を毎会計年度終了後3か月以内(外部監査の対象となる医療法人は4か月以内)と案内しています。
| 比べる点 | 事業報告書等の届出 | 経営情報等の報告 |
|---|---|---|
| 単位 | 医療法人ごと | 開設する病院・診療所ごと |
| 中身 | 事業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算書・関係事業者との取引の報告書など | 病院・診療所ごとの収益・費用などを所定の様式(病院用・診療所用)で |
| 期限 | 毎会計年度終了後3か月以内 | 毎会計年度終了後3か月以内(外部監査の対象は4か月以内) |
| 提出方法 | システム(MCDB)による報告が推進されている | 所定の様式で報告。システムで報告する場合は事前に利用申請が必要 |
経営情報の報告は、病院・診療所ごとに収益と費用を分ける必要があります。複数の診療所を持つ医療法人は、日々の記帳の段階で部門(診療所)ごとに売上と経費を分けておかないと、決算後に按分の作業が発生します。報告対象外になる場合の様式も用意されているので、自院が対象かは厚生労働省の『医療法人に関する情報の調査及び分析等について』で確かめます。
資産の総額の変更登記は毎年必要
医療法人は、登記事項に変更が生じたときに変更の登記をします(医療法43条)。登記事項には「資産の総額」が含まれ、厚生労働省の医療法人運営管理指導要綱は、資産の総額(貸借対照表の純資産額)は毎会計年度終了後に変更の登記が必要であるとしています。
変更の登記は原則として変更が生じてから2週間以内ですが、資産の総額の変更の登記は、毎事業年度末日現在により、その末日から3か月以内にすれば足ります(組合等登記令3条3項)。決算で純資産の額が確定してから登記する流れなので、決算の確定が遅れると登記の期限も迫ります。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 登記する金額 | 決算で確定した貸借対照表の純資産額 |
| 期限 | 事業年度末日から3か月以内 |
| 登記後の届出 | 登記事項と登記の年月日を、遅滞なく主たる事務所の所在地の都道府県知事に届け出る(医療法施行令5条の12) |
| 怠った場合 | 政令の規定による登記を怠ったときは、理事・監事などが20万円以下の過料の対象(医療法93条1号) |
| 理事長の再任 | 任期満了で再任された場合も変更の登記が必要(運営管理指導要綱) |
登記の申請手続の代理は司法書士の業務です(司法書士法3条1項1号)。税理士が担うのは、登記の元になる決算書の作成です。決算が確定したら、純資産の額が分かる貸借対照表を司法書士に早めに渡せるよう、段取りを決めておきます。
役員報酬と関係事業者との取引の記録
決算で税務と医療法の両面から確認されやすいのが、理事への報酬と、理事やその親族が関わる会社(いわゆるMS法人など)との取引です。記録が残っていないと、法人税の計算でも事業報告書等の作成でも説明に困ります。
理事の報酬は定款か社員総会の決議で決める
医療法46条の6の4は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律89条を医療法人の理事に準用しています。理事の報酬等は、定款にその額を定めていないときは社員総会の決議によって定めます(財団たる医療法人では評議員会)。社員総会の議事録に、総額や決め方が残っていることが前提になります。
法人税では、役員給与のうち定期同額給与などに当たらないものは損金の額に算入されません(法人税法34条1項)。期の途中で報酬額を変えるときは、改定の時期と議事録の日付が問われます。改定の時期の考え方は役員報酬の3か月ルールの記事で解説しています。
関係事業者との取引は報告書の対象になる
関係事業者との取引の状況に関する報告書の対象は、施行規則32条の6で、相手方と取引の金額の両面から決まっています。
| 区分 | 主なもの(施行規則32条の6) |
|---|---|
| 相手方 | 医療法人の役員又はその近親者(配偶者又は二親等内の親族)、役員又はその近親者が代表者である法人、役員又はその近親者が議決権の過半数を占める法人など |
| 取引(事業収益・事業費用) | 額が1,000万円以上で、かつ事業収益又は事業費用の総額の10%以上を占める取引 |
| 取引(特別利益・特別損失) | 額が1,000万円以上の取引 |
| 取引(資金貸借・資産の売買など) | 総額が1,000万円以上で、かつ会計年度末の総資産の1%以上を占める取引 |
上の相手方と、上のいずれかに当たる取引を行う場合が報告の対象です。このほか、事業外収益・事業外費用、資産・負債の残高、事業の譲受・譲渡についても基準があります。
理事が自己又は第三者のために医療法人と取引をしようとするときは、理事会で重要な事実を開示して承認を受けます(医療法46条の6の4で準用する一般社団法人法84条、「社員総会」を「理事会」と読み替え)。医療法人は剰余金の配当をしてはならない(医療法54条)ので、関係する会社への支払が取引の実態に見合っているかも説明できるようにしておきます。契約書、理事会の議事録、取引額の集計を、決算ごとにまとめて保管します。
決算を締める前に揃える資料
医療法人の決算は、税理士が作る決算書と法人税の申告書に、医療法の書類と登記が続きます。次の資料を決算前に揃えると、2か月・3か月の期限に間に合わせやすくなります。
| 資料 | 使う手続 |
|---|---|
| 理事会・社員総会の日程案と前年の議事録 | 事業報告書等の承認、理事の報酬の決議 |
| 病院・診療所ごとの売上・経費の内訳 | 経営情報等の報告 |
| 関係する会社・親族との契約書と取引額の一覧 | 関係事業者との取引の状況に関する報告書 |
| 理事の報酬の支給実績と改定の議事録 | 法人税の役員給与、事業報告書等 |
| 前年の届出書類の控えと登記事項証明書 | 書類の様式・記載の連続性、資産の総額の変更登記 |
| 役員の任期の一覧 | 理事長の再任に伴う変更登記の要否 |
顧問契約の見積りは、開設する病院・診療所の数、部門ごとの記帳の要否、関係事業者との取引の有無、決算月と社員総会の時期で変わります。医療法人の法人税・消費税の論点は医療・クリニック・歯科の税務|社会保険診療報酬の概算経費・消費税・法人化で扱っています。
まとめ:決算後3か月の間に、届出・報告・登記が重なる
- 事業報告書等は毎会計年度終了後2か月以内に作成し、その後、届出までに監事の監査と理事会の承認を受ける。貸借対照表と損益計算書は社員総会の承認も要る
- 事業報告書等の都道府県知事への届出は3か月以内。病院・診療所ごとの経営情報等の報告も3か月以内(外部監査の対象は4か月以内)
- 資産の総額(貸借対照表の純資産額)の変更登記は、事業年度末日から3か月以内。登記後は知事へ届け出る
- 理事の報酬は定款か社員総会の決議で定め、関係事業者との一定額以上の取引は報告書に載せる
- 届出や登記を怠ると、理事・監事などが20万円以下の過料の対象になる
税務申告・医療法の届出・登記は担当する専門家が分かれるので、決算日から逆算した日程表を1枚作っておくと、期限の取りこぼしを防げます。
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リーパル会計事務所では、法人の決算申告を単発でもお引き受けしています(最短5日・法人のみ)。個人事業主の方は、顧問契約のご相談・お見積りの窓口をご利用ください。
よくある質問
Q. 純資産が前期と同じでも、資産の総額の変更登記は必要ですか?
変更の登記は登記事項に変更が生じたときにするもので、資産の総額については、毎事業年度末日現在の金額で、末日から3か月以内に登記すれば足りるとされています。決算で確定した純資産額が登記されている金額と違えば登記が必要なので、登記事項証明書の金額と照らして確かめます。
Q. 事業報告書等の届出を出し忘れた年があります。どうすればよいですか?
医療法52条1項の届出をしない場合は、理事・監事などが20万円以下の過料の対象とされています。出していない年の分を、主たる事務所の所在地の都道府県に確認したうえで提出します。その年の決算書・議事録・監査報告書がそろっているかを先に確かめます。
Q. 診療所が1つだけの医療法人でも、経営情報の報告は必要ですか?
医療法69条の2第2項は、医療法人に、開設する病院又は診療所ごとに収益及び費用などの報告を求めています。報告の対象から除かれる者は厚生労働省令で定められていて、報告対象外の場合の様式も用意されています。自院が対象かどうかは、厚生労働省の案内と都道府県の窓口で確かめます。
Q. 理事長の親族が経営する会社に業務を委託しています。何を残せばよいですか?
契約書、理事会での承認の記録、年間の取引額の集計を残します。取引の相手方と金額が施行規則32条の6の基準に当たると、関係事業者との取引の状況に関する報告書に載せる必要があります。委託料が業務の内容に見合っているかを説明できる資料もあわせて保管します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月17日
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