社会保険の手続きを外注するとき、届書の作成と提出は社会保険労務士に任せられます。ただし「誰が入社したか」「誰が辞めたか」「誰の給与を変えたか」「賞与をいつ払ったか」を最初に知るのは会社です。届出の期限は、その事実が起きた日から数えるものが多いため、事実を外注先へ早く正しく渡す役は会社に残ります。
建設業の社会保険と法定福利費の見積書への載せ方は、建設業の社会保険と法定福利費|見積書に載せる考え方で詳しく解説しています。
この記事は、会社を設立したときの新規適用ではなく、運営中に繰り返し起きる手続き(入社・退職・被扶養者の異動・賞与・算定基礎届・月額変更届)を外注する場合の分担を扱います。手続きごとの期限、外注先へ渡す情報、会社に残る確認作業を表で整理します。
設立直後の加入手続きは会社設立後の社会保険手続きガイドで扱っています。
社会保険の届出を頼める相手:社会保険労務士法で決まる範囲
社会保険労務士法2条は、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、その提出の代行、申請等の事務代理、帳簿書類の作成などを社会保険労務士の業務としています。そのうえで27条は、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得てこれらの事務を業として行うことを禁じています(他の法律に別段の定めがある場合などを除きます)。
給与計算の代行会社や会計事務所に給与計算を頼んでいる会社では、社会保険の届出も同じ先にまとめたくなります。その場合は、届出の作成・提出を社会保険労務士が担う体制になっているかを、契約前に確かめてください。届出を自社で出し、計算だけを外に出す分け方もあります。
社会保険労務士が事業主に代わって電子申請する場合は、提出代行者であることを証明する「提出代行証明書」を届書とあわせて送信することで、事業主の電子署名を省略できます(日本年金機構『社会保険労務士の方へ(電子申請における委任状・提出代行証明書)』)。電子申請で頼む場合は、この書類を最初に用意します。
手続きごとの期限と、会社が外注先へ渡す情報
健康保険・厚生年金保険の届書は年金機構(事務センターまたは管轄の年金事務所)へ、雇用保険の届書は公共職業安定所(ハローワーク)へ出します。健康保険組合に加入している会社は、健康保険の手続きの窓口を組合にも確かめておきます。期限と、外注先が届書を作るために会社から受け取る情報をまとめると次のとおりです。
| 手続き | 届書 | 期限 | 会社が外注先へ渡す情報 |
|---|---|---|---|
| 入社(健康保険・厚生年金保険) | 被保険者資格取得届 | 事実発生から5日以内 | 入社日、雇用契約の所定労働時間・日数、報酬、マイナンバーまたは基礎年金番号 |
| 家族を扶養に入れる・外す | 被扶養者(異動)届 | 事実発生から5日以内 | 家族の氏名・続柄・収入、続柄を確認した書類 |
| 退職(健康保険・厚生年金保険) | 被保険者資格喪失届 | 事実発生から5日以内 | 退職日、回収した資格確認書など |
| 入社(雇用保険) | 雇用保険被保険者資格取得届 | 事実のあった日の属する月の翌月10日まで | 入社日、所定労働時間、賃金 |
| 退職(雇用保険) | 雇用保険被保険者資格喪失届 | 事実のあった日の翌日から起算して10日以内 | 退職日と、離職の場合に資格喪失届へ添える書類(離職証明書など)の情報 |
| 賞与の支給 | 被保険者賞与支払届 | 賞与支払日から5日以内 | 支給日、支給額(税引き前の総支給額) |
| 固定的賃金の大幅な変動 | 月額変更届 | 速やかに | 変動した月、変動の内容、変動後3か月の報酬と支払基礎日数 |
| 毎年の報酬の届出 | 算定基礎届 | 毎年7月10日まで(10日が土曜または日曜の場合は翌営業日) | 4月・5月・6月の報酬と支払基礎日数 |
表のとおり、期限の多くは「事実発生から5日以内」です。外注先が月に1回まとめて処理する契約だと、この期限に間に合いません。入社日や退職日が決まった時点で連絡する、と契約で決めておく必要があります。
このほか、住所や氏名の変更、70歳への到達、産前産後休業・育児休業の保険料免除などにも届書があります(年金機構『健康保険・厚生年金保険の適用関係届書・申請書』)。どの届書まで外注先に任せるかを、一覧にして契約書に添えておくと抜けが防げます。
入社と退職で会社に残る仕事
入社:加入の判断材料と本人確認
健康保険・厚生年金保険は、適用事業所に常時使用される人が、国籍や性別、賃金の額等に関係なく被保険者になります。パートタイマーやアルバイトでも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務をする通常の労働者の4分の3以上であれば被保険者になります。さらに、特定適用事業所・任意特定適用事業所・国や地方公共団体に属する事業所では、所定労働時間や所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満でも、週の所定労働時間が20時間以上で学生でない人は被保険者になります。この短時間労働者の扱いには、本人の申し出で加入する特定減額特例対象者のような例外もあるため、自社がどの事業所に当たるかとあわせて、日本年金機構の案内で確かめてください。判断には雇用契約の中身が要るため、契約書や労働条件通知書の写しを外注先へ渡す流れを作っておきます。
年金機構は、資格取得届を出す事業主に、被保険者となる人の本人確認を求めています。マイナンバーまたは基礎年金番号を本人に確認することとされ、未記入の資格取得届は返戻されます。番号の回収は従業員と接する会社の仕事です。外注先に渡す方法(暗号化したファイル、専用の受け渡しの仕組みなど)も先に決めておきます。
資格取得届の提出漏れが後で分かった場合は、さかのぼって資格取得届を出し、事実が発生したときにさかのぼって保険料を納めることになります(年金機構『就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き』)。入社の連絡が外注先に届かないことが、そのまま届出漏れになります。
家族の扶養:届書は従業員から会社を経由する
協会けんぽに加入している会社で、従業員に被扶養者がいる場合や追加があった場合は、被保険者(従業員)が事業主を経由して被扶養者(異動)届を出します。続柄の確認書類や収入を確かめる書類が必要になるため、従業員への案内と書類の回収は会社が担い、外注先は届書の作成と提出を担う形が一般的です。
退職:回収するものと日付の確定
協会けんぽに加入している会社では、資格喪失届に、交付されている資格確認書などを添付します。回収できない場合は「資格確認書回収不能届」を添えます。最終出社日と退職日が違う場合は、どちらを退職日とするかを会社が確定させてから外注先へ伝えます。
算定基礎届と月額変更届:給与データの渡し方で決まる
算定基礎届と月額変更届は、どちらも標準報酬月額(保険料の計算の基礎)を決め直す手続きです。届書を作るのは外注先でも、元になる給与データと「給与を変えた」という事実は会社から出ます。
| 算定基礎届(定時決定) | 月額変更届(随時改定) | |
|---|---|---|
| 対象 | 7月1日現在のすべての被保険者と70歳以上被用者 | 次の3つすべてに当たる人 |
| 判定に使う報酬 | 4月・5月・6月に受けた報酬(支払基礎日数17日以上の月。特定適用事業所の短時間労働者は11日以上) | 固定的賃金が変動した月以後引き続く3か月の報酬 |
| 要件 | (定時に全員が対象) | ①昇給・降給などで固定的賃金が変動した ②3か月の平均で算出した標準報酬月額と従前との間に2等級以上の差 ③3か月の支払基礎日数が17日(特定適用事業所の短時間労働者は11日)以上 |
| 提出の期限 | 毎年7月10日まで | 速やかに |
| 適用される時期 | 9月から翌年8月までの各月 | 変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目から |
算定基礎届は、6月1日以降に資格を取得した人、6月30日以前に退職した人、7月改定の月額変更届を出す人、8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出をした人は提出が不要です。外注先がこの振り分けをするには、6月までの入退社と昇給の情報がそろっている必要があります。
月額変更届で漏れやすいのは、外注先からは見えにくい「固定的賃金の変動」です。年金機構は、昇給・降給のほか、日給から月給への変更、時間給の単価の変更、歩合率の変更、住宅手当や役付手当などの固定的な手当の追加や支給額の変更を例に挙げています。残業代のような非固定的な賃金だけが増減した場合は、要件①に当たりません。
そこで、給与規程や雇用契約を変えたときは、変えた月と内容を外注先へ知らせる、という決まりを作っておきます。給与計算も同じ外注先に頼んでいれば気付きやすくなりますが、手当の新設や単価の変更を会社が伝えなければ、どちらの場合も漏れます。定時決定の算定月以後に2等級以上の変動があった場合も月額変更届が必要です(年金機構『随時改定(月額変更届)』)。
賞与支払届と保険料の納付
賞与を支給したときは、賞与支払日から5日以内に被保険者賞与支払届を出します。対象となる賞与は、名称を問わず、労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給のものです。年金機構に登録されている賞与支払予定月に賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」を出します。
| 場面 | 会社 | 外注先 |
|---|---|---|
| 賞与を払う前 | 支給日と支給額を確定し、外注先へ伝える | 届書の準備 |
| 賞与を払った後 | 支給実績(税引き前の総支給額)を渡す | 5日以内に賞与支払届を提出 |
| 予定月に払わなかった | 不支給を外注先へ伝える | 賞与不支給報告書を提出 |
| 決定の通知が届いた | 決定された標準賞与額を本人へ通知 | 通知書の内容の確認 |
| 保険料の納付 | 翌月の納入告知書の額を月末までに納付(口座振替なら月末に振替) | 給与から控除する保険料額の確認 |
年金機構は、決定された標準賞与額を被保険者本人へ通知するよう事業主に求めています。通知書が会社に届くのか、外注先に届くのかを決め、本人への通知が抜けないようにします。賞与にかかる保険料は、毎月の保険料と合算されて賞与支払月の翌月の納入告知書で通知され、月末までに納めます(年金機構『従業員に賞与を支給したときの手続き』)。
外注を始める前に決めておくこと
社会保険の手続きは、期限が短く、起点が会社の中の出来事です。外注の成否は、外注先の処理の速さよりも、会社からの連絡の速さで決まります。始める前に、次の項目を決めて書面に残します。
- 入社・退職・扶養の異動を外注先へ連絡する時点(例:入社日が決まった日、退職届を受け取った日)と連絡方法
- マイナンバーや雇用契約書の写しなど、個人情報の受け渡し方法と保管の分担
- 給与規程・手当・単価を変えたときの連絡(月額変更届の起点)
- 賞与の支給日・支給額の連絡期限と、不支給の連絡
- 算定基礎届のための4月から6月の給与データの渡し方と締切
- 決定通知書(標準報酬月額・標準賞与額)の受取先と、従業員への通知
- 電子申請の提出代行証明書、従業員の委任状の要否
- 給与から控除する保険料額をいつから変えるか(給与計算の担当との連携)
- 雇用保険の届出も同じ外注先に含めるか
見積りは、従業員数のほか、入退社の頻度、パートタイマーなど加入判断が要る人の数、賞与の回数、給与計算も同じ先に頼むかどうかで変わります。依頼の前に、直近1年の入退社の件数と賞与の回数を数えておくと、比較がしやすくなります。給与計算の依頼先の考え方は給与計算を税理士に依頼する場合の記事も参考にしてください。
まとめ:社会保険の外注は「事実の連絡」を会社の仕事として残す
- 届書の作成・提出代行は社会保険労務士の業務。社会保険労務士でない者が報酬を得て業として行うことは原則として禁止されている。
- 資格取得届・資格喪失届・被扶養者(異動)届・賞与支払届の期限は5日以内。雇用保険は取得が翌月10日まで、喪失が翌日から10日以内。
- 算定基礎届は毎年7月10日まで、月額変更届は3つの要件にすべて当たれば速やかに。
- 入社日・退職日・給与の変更・賞与の支給は会社しか知らない。連絡の時点と方法を契約で決める。
- 本人確認、扶養の書類回収、決定内容の本人への通知は会社の手を通る。
どの手続きを誰が、いつまでに動かすかを1枚の表にしておけば、外注先が変わっても同じ流れで回せます。
給与計算・年末調整もまとめて任せたい方へ
リーパル会計事務所は、1,100社以上の関与実績があるMF公認・freee認定の会計事務所です。税務顧問に加えて、給与計算・年末調整もオプションでお引き受けしています。
よくある質問
Q. 給与計算を頼んでいる会社に、社会保険の届出も頼めますか?
届書の作成や提出の代行を報酬を得て業として行うことは、社会保険労務士法27条により、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者には原則として認められていません。給与計算の依頼先に、届出を社会保険労務士が担当する体制があるかを確かめてください。体制が無い場合は、届出だけ別の社会保険労務士に頼むか、自社で出す方法があります。
Q. 入社の連絡が遅れて5日を過ぎてしまったら、届出はもう出せませんか?
期限を過ぎても届出は必要です。年金機構は、提出漏れが後で分かった場合はさかのぼって資格取得届を出し、事実が発生したときにさかのぼって保険料を納めることになるとしています。遅れに気付いた時点で外注先へ連絡し、提出を急いでください。
Q. 算定基礎届を出していれば、月額変更届は要りませんか?
要る場合があります。定時決定の算定月以後に固定的賃金が変わり、標準報酬月額に2等級以上の差が出るなどの要件に当たれば、月額変更届が必要です。7月改定の月額変更届を出す人は、反対に算定基礎届の提出が不要になります。
Q. 賞与を出さなかった月にも、何か届出が要りますか?
年金機構に登録されている賞与支払予定月に賞与を支給しなかった場合は、賞与不支給報告書を出します。賞与支払予定月は新規適用届や事業所関係変更(訂正)届などで登録されたものです。支給予定が変わったときは、外注先に早めに伝えてください。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月20日
リーパル会計事務所|関与実績1,100社以上・全国オンライン対応
法人の決算・申告を任せる顧問税理士をお探しの方へ
MF公認・freee認定元国税調査官の知見