給与計算の代行費用は、基本料金1万〜3万円に1人あたり500〜2,000円の人数単価を加える形が一般的です。従業員5名の会社なら月1.5万円程度が目安になります。
金額そのものは大きくありませんが、外注を検討する理由はコストよりも制度改正への追随にあります。令和7年度・令和8年度の税制改正で基礎控除と給与所得控除が続けて見直され、特定親族特別控除も新設されました。年末調整で回収する申告書も増えています。加えて令和8年度の雇用保険料率も改定されました。毎年これを自社で追い続けられるかが判断の分かれ目です。
本記事では、給与計算を税理士に依頼した場合の費用相場、社労士との役割の違い、そして外注に切り替えるべきタイミングを整理します。
アルバイトの多い店舗の給与計算と年末調整は、アルバイトの多い店舗の給与計算と年末調整で詳しく解説しています。
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給与計算が「単なる計算」で済まない理由
給与計算は、労働基準法、社会保険諸法令、所得税法という3つの体系が同時に関わる実務です。総支給額から控除額を引くだけの作業に見えて、それぞれの根拠法が毎年のように変わります。
2026年時点で押さえるべき直近の改正
所得税(令和7年度・令和8年度税制改正)
令和7年度・令和8年度の税制改正により、次の見直しが行われました。令和8年分の改正は令和8年12月1日に施行され、12月の年末調整でまとめて精算します。
- 基礎控除の見直し(令和7年分は合計所得金額に応じて最大95万円、令和8年分・令和9年分は合計所得金額489万円以下で104万円)
- 給与所得控除の最低保障額の引上げ(令和2年分〜令和6年分55万円→令和7年分65万円→令和8年分・令和9年分74万円)
- 特定親族特別控除の創設(特定親族1人につき、その合計所得金額に応じて最高63万円)
- 扶養親族等の所得要件の引上げ(令和7年分58万円以下→令和8年分62万円以下。給与収入だけなら123万円以下→136万円以下)
実務への影響が大きいのは年末調整です。基礎控除の適用には従業員から「基礎控除申告書」の提出を受ける必要があり、特定親族特別控除の適用にも「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が別途必要になります。回収する書類が増え、記載内容のチェック項目も増えました。あわせて、令和8年分以後の源泉徴収税額表も改正されています。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁 / 国税庁 No.1199 基礎控除 / 国税庁 No.1410 給与所得控除 / 国税庁 No.1177 特定親族特別控除
雇用保険料率(令和8年度)
令和8年4月1日から令和9年3月31日までの雇用保険料率は、一般の事業で合計13.5/1,000(労働者負担5/1,000、事業主負担8.5/1,000)です。建設の事業は16.5/1,000、農林水産・清酒製造の事業は15.5/1,000となります。
料率は年度単位で見直されるため、4月分の給与から設定を切り替える必要があります。ここを更新し忘れると、従業員から過大または過少に徴収することになり、後から精算が必要になります。
1円のずれが信頼に直結する
給与は従業員の生活を支えるものです。残業代の計算漏れや社会保険料の徴収ミスが重なると、会社への不信につながり、労務トラブルに発展することもあります。売上に直接つながらない業務でありながら、ミスの影響が対外的に大きいという点で、優先度を下げにくい業務です。
税理士に依頼する3つのメリット
年末調整までシームレスにつながる
給与計算の出口は年末調整です。毎月の給与データを税理士が把握していれば、年末調整の計算、源泉徴収票の発行、法定調書合計表の提出までを一本の流れで処理できます。給与計算と年末調整を別の窓口に依頼すると、データの受け渡しと転記が発生し、そこがミスの起点になります。
とくに令和7年分以降は申告書の種類が増えているため、書類の回収から計算までを同じ窓口で完結できる意味は以前より大きくなっています。
役員報酬を法人税と所得税の両面から設計できる
給与計算を通じて個人側の所得税・住民税を把握し、同時に法人側の法人税も見られるのが税理士の立ち位置です。「役員報酬をいくらに設定すれば会社と個人の合計負担が最小になるか」というシミュレーションは、両方の数字を持っていて初めて成立します。
役員報酬は原則として事業年度開始から3か月以内に決め、その後は期中に変更できません。決め方の考え方は役員報酬の適正額はいくら?最適な決め方シミュレーションで解説しています。
人件費が即座に月次の数字に反映される
人件費は中小企業にとって最大の固定費です。給与計算と記帳が同じ事務所で行われていれば、その月の人件費がそのまま試算表に反映されます。売上に対する人件費率が適正か、利益を圧迫していないかを、月次のタイミングで確認できます。
税理士と社労士、どちらに頼むべきか
まず前提として、給与計算そのものは、税理士・社労士どちらの独占業務でもありません。自社で行うことも、給与計算代行会社に委託することもできます。分かれるのは、その前後の業務です。
| 項目 | 税理士 | 社会保険労務士 |
|---|---|---|
| 給与計算 | 対応可(所得税と連動) | 対応可(社会保険と連動) |
| 年末調整・源泉徴収票・法定調書 | 対応可(税務書類の作成として税理士の業務) | 対応不可 |
| 社会保険・労働保険の手続き代行 | 原則対応外(税務の業務に付随する場合の例外あり。提携社労士の紹介が一般的) | 対応可(社労士の独占業務) |
| 就業規則の作成・労務相談 | 対応不可 | 対応可 |
| 雇用関係の助成金申請 | 基本的に対応外 | 対応可 |
| 役員報酬の設計 | 法人税・所得税の観点から提案 | 社会保険料の観点から提案 |
年末調整に関する書類の作成は税務書類の作成に当たるため税理士の業務であり、社会保険の資格取得・喪失などの手続き代行は原則として社労士の業務です。社会保険労務士法27条ただし書と同法施行令2条により、税理士が税務の業務に付随して行う場合は例外とされていますが、どこまでが「付随」に当たるかは条文だけでは決まらないため、社会保険の手続きは社労士に任せる前提で考えるのが確実です。
税理士に向いているケース:すでに税務顧問がいて窓口を一本化したい、年末調整までまとめて任せたい、役員報酬を節税の観点から設計したい。
社労士に向いているケース:入退社が頻繁で社会保険手続きの量が多い、就業規則の整備や労務トラブルの相談が主目的、助成金を活用したい。
中小企業の実務では、税理士に数字と税務を、社労士に労務と保険手続きを任せる分担が現実的です。提携関係のある事務所を選べば、窓口を増やさずに両方の支援を受けられます。役割の違いは経理代行と税理士の違い|それぞれの役割と上手な使い分け方もご参照ください。
参考:令和8年度雇用保険料率のご案内|厚生労働省
費用相場と料金の内訳
月額の基本構成
| 費用項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 基本料金(月額) | 10,000〜30,000円 |
| 人数単価(1人あたり月額) | 500〜2,000円 |
| 賞与計算(1回あたり) | 月額料金の1か月分、または人数単価×人数 |
| 年末調整(年1回) | 基本料金10,000〜20,000円+1人あたり2,000円前後 |
| クラウド給与ソフト利用料 | 実費(サービス・人数により変動) |
従業員5名、基本料金1万円・人数単価1,000円の場合、月額15,000円程度が目安です。ここに賞与計算と年末調整のスポット費用が加わるため、年間では月額の14〜15か月分程度を見ておくと実態に近くなります。
顧問契約とセットにすると単価が下がりやすい
給与計算だけを単独で依頼するより、税務顧問契約とセットにしたほうが基本料金が抑えられるケースが多くなっています。税理士側から見ても、毎月の人件費データを把握できていれば決算業務が効率化されるため、セット価格を出しやすい構造があるためです。
見積もりを比較するときは、月額だけでなく賞与計算と年末調整を含めた年間総額で並べてください。
外注を検討すべき3つのタイミング
従業員が5名を超えたとき:勤怠集計、各種手当、社会保険料の月額変更届など、人数の増加に対して作業量は比例以上に増えます。経営者が計算作業に時間を使っている状態は、機会損失として無視できない規模になります。
改正を追いきれなくなったとき:所得税の改正、社会保険料率の改定、雇用保険料率の年度更新、最低賃金の改定。設定を古いまま運用すると、未払い賃金や過大徴収が生じます。今年の改正内容を即答できないと感じたら、それが目安です。
労務リスクに不安があるとき:固定残業代の超過分を正しく計算できているか、有給休暇の取得状況を管理できているか。トラブルが起きたときの対応コストは、代行費用とは桁が違います。
なお、外注ではなくソフトの導入で解決できる場合もあります。自社で運用する前提で比較したい方はクラウド給与計算ソフトおすすめ比較|freee・マネフォ・他社の選び方、マネーフォワードでの運用方法はマネーフォワード クラウド給与の使い方をご覧ください。
税理士への依頼を考えるときの関連記事
よくある質問
Q1. 給与計算を税理士に頼むといくらかかりますか?
A. 基本料金1万〜3万円に、1人あたり500〜2,000円の人数単価を加えるのが一般的です。従業員5名なら月1.5万円程度が目安になります。これとは別に、賞与計算と年末調整のスポット費用がかかります。年間の総額で比較してください。
Q2. 給与計算は社労士に頼まないといけないのですか?
A. いいえ。給与計算そのものは税理士・社労士どちらの独占業務でもなく、自社で行うことも代行会社に委託することもできます。分かれるのは前後の業務で、年末調整に関する書類の作成は税理士、社会保険の手続き代行は社労士の業務です。
Q3. 税理士は社会保険の手続きもやってくれますか?
A. 社会保険・労働保険の手続き代行は、原則として社会保険労務士の業務です。税理士が税務の業務に付随して行える例外はありますが範囲は限られるため、会計事務所の多くは提携社労士を紹介する形をとっています。契約前に、提携先があるかを確認しておくと窓口を増やさずに済みます。
Q4. 2026年の給与計算で特に注意すべき改正は何ですか?
A. 所得税では令和7年度・令和8年度改正による基礎控除の引上げ(令和8年分は合計所得489万円以下で104万円)、給与所得控除の最低保障額の74万円への引上げ(令和8年分)、扶養親族等の所得要件の引上げ、特定親族特別控除の創設が影響します。令和8年分の改正は12月の年末調整でまとめて精算します。年末調整で回収する申告書が増える点に注意してください。社会保険関係では、令和8年度の雇用保険料率(一般の事業で合計13.5/1,000)への切り替えが4月分の給与から必要です。
Q5. 顧問税理士がいるのに給与計算だけ別に頼むのは非効率ですか?
A. 効率の面では一本化したほうが有利です。給与データが分かれていると、年末調整と決算のたびに突き合わせが発生します。ただし、労務相談や助成金申請が主な目的であれば、社労士に給与計算ごと任せる選択も合理的です。何を主目的にするかで判断してください。
参考資料
- 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
- 年末調整がよくわかるページ|国税庁
- 国税庁 No.1177 特定親族特別控除
- 国税庁 No.1199 基礎控除
- 国税庁 No.1410 給与所得控除
- 令和8年度雇用保険料率のご案内|厚生労働省
給与計算の代行費用は、従業員5名規模で月1.5万円程度です。金額だけを見れば判断しづらいかもしれませんが、判断材料になるのは「毎年の改正に追随できているか」です。令和7年度改正で年末調整の申告書は増え、雇用保険料率も年度ごとに変わります。設定の更新漏れは、そのまま従業員への過不足徴収になります。
給与計算を税務顧問と同じ窓口にまとめると、年末調整と決算までが一本の流れで処理でき、人件費が月次の数字にそのまま反映されます。労務手続きが多い会社であれば、社労士との分担を前提に体制を組むのが現実的です。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績とクラウド会計導入支援の知見をもとに、給与計算から年末調整、決算申告までを一貫してご支援しています。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の税務顧問とクラウド会計導入支援を専門とする。
最終更新日: 2026年10月15日
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