法人税や消費税を一度に払うと、仕入れや給与の資金が足りなくなりそうで困っていませんか。一定の要件を満たし、税務署に申請して許可を受ければ、分割納付ができる猶予制度があります。税金が免除される制度ではないため、払えないと分かった時点で早めに相談しましょう。
この記事では、納税の猶予と換価の猶予の違い、申請書類、延滞税の扱いを整理します。地方税や社会保険料も含め、どの窓口に相談するかも確認できます。
顧問税理士をお探しの方へ
会社の規模や記帳の状況をお聞きして、顧問料をお見積りします。
顧問契約のお見積り(無料)はこちら →数字で先に確かめたい方は、無料の決算診断はこちら。全国オンライン対応です。
猶予制度とは:期限の延長や免除とは別のもの
国税庁は、国税の猶予制度を、期限内の納付が難しい場合に、申請により税務署長の許可を受けて、原則として1年以内の期間に限り分割して納付できるようにする制度と説明しています。猶予を受けるには一定の要件を満たす必要があり、猶予期間中は延滞税が免除または軽減されます。
似た言葉の制度と混同しやすいため、違いを先に押さえます。
| 制度 | 何が変わるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 猶予(換価の猶予・納税の猶予) | 期限後に分割して納付できる。申告・納付期限そのものは延びない | 国税通則法46条、国税徴収法151条の2など |
| 申告・納付期限の延長 | 災害による交通の途絶などで申告や納付の行為自体ができない場合に、申請により期限を延ばす | 国税通則法11条 |
| 免除・還付 | 猶予では、納付そのものが免除されたり、納めた税金が還付されたりすることはない | 国税庁FAQ |
国税庁は、損益が黒字の会社でも要件を満たせば猶予が受けられるとしています。黒字でも、売掛金の回収が遅れている、借入の返済が重なっているなどで手元資金が足りないことはあります。決算が黒字かどうかではなく、納期限に一度に払える資金があるかどうかで判断される制度です。
換価の猶予と納税の猶予の違い
2つの猶予は、使える場面と申請の期限が違います。国税庁のFAQは、要件を次のように整理しています。
| 項目 | 換価の猶予 | 納税の猶予 |
|---|---|---|
| 使える場面 | 一時に納付することで、事業の継続・生活の維持が困難となるおそれがある | 災害・盗難、やむを得ない事業の休廃業、利益の減少等による著しい損失などがあり、そのために一時に納付できない |
| そのほかの要件 | 納税について誠実な意思があること | 申請があること |
| 申請の期限 | 納期限から6か月以内 | (災害・盗難等の場合)納付困難となったとき。法定申告期限等から1年を経過した後に税額が確定した国税は、原則として納期限まで |
| ほかに滞納がある場合 | 猶予を受けようとする国税以外に滞納している国税(納税の猶予・換価の猶予の申請中や適用中のものを除く)があると受けられない | ほかに滞納している国税があっても受けられる |
| 担保 | 原則として必要 | 原則として必要 |
| 根拠 | 国税徴収法151条の2 | 国税通則法46条 |
赤字が続いて資金が足りないといった事情は、事業について「著しい損失を受けた」場合として納税の猶予の対象になることがあります。一方、そこまでの事情はないが一度に払うと事業が回らなくなる、という場面は換価の猶予で検討します。どちらに当たるかは会社の状況で変わるため、相談の場で税務署と確かめることになります。
担保は、猶予を受ける金額が100万円以下の場合、猶予を受ける期間が3か月以内の場合、提供できる担保がない場合には不要です。既に滞納がある場合や換価の猶予の申請期限を過ぎた場合は、状況に応じて税務署長の職権による猶予が検討されます。
「一時に納付が困難」と猶予される金額の考え方
猶予の中心にある要件が「一時に納付が困難」です。国税庁は、納付すべき国税の全額を一時に納付する資金がないこと、または全額を一時に納付すると事業の継続や生活の維持を困難にすると認められることを指すとしています。具体的には、納付可能金額(手元資金から当面の資金繰りに必要な額を引いた額)が、納付すべき国税の額に満たない場合です。
当面の資金繰りに必要な額について、国税庁は一概には言えないとしつつ、一般的には事業継続のため1か月以内に支出が予定されている金額を運転資金として納税資金から除外するとしています。1か月以内でなくても、当面の事業の継続のために支出が決まっている資金は運転資金として加算できます。
このため、相談の前に、手元の現預金と、1か月以内の給与・仕入代金・家賃・借入返済などの支出予定を並べた資金繰りの表を用意しておくと、話が具体的になります。資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方の記事で扱っています。
申請の手順と必要な書類
猶予は納税者の申請に基づいて適用されるもので、自動的には受けられません。相談は所轄の税務署の徴収担当に電話で行い、申請書はe-Taxか郵送で提出できます。税務署で相談しながら提出したい場合は、相談の時間や持参する資料を伝える必要があるため、事前に電話で日時を連絡します。
| 書類 | いつ必要か |
|---|---|
| 換価の猶予申請書/納税の猶予申請書 | すべての申請 |
| 財産収支状況書 | 猶予を受けようとする金額が100万円以下の場合 |
| 財産目録・収支の明細書 | 猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合 |
| 担保提供書 | 担保を提供する場合 |
| 災害などの事実を証する書類 | 災害・盗難等による納税の猶予を申請する場合 |
国税庁は、審査の際に状況を確認することがあるため、元帳や売上帳など収支の状況が分かる書類、現金出納帳や預金通帳を準備しておくとスムーズだとしています。地方税や社会保険料で猶予の申請をしている場合は、その申請書や財産収支状況書の写しを添付することで、一部の記載や添付を省略できます。
猶予が認められると、猶予税額・猶予期間・根拠法令を記載した通知書が届き、以後は通知書に書かれた分割納付金額を各納付日までに納めます。猶予期間は原則1年以内で、申請者の財産や収支の状況に応じて最も早く完納できる期間とされています。やむを得ない理由で期間内に払えない場合は、猶予期間の延長を申請できることがあります。申請書の記載方法は、国税庁の国税庁『換価の猶予の申請手続』のページから様式と記載例をたどれます。猶予申請は、税理士による代理申請(e-Taxを含む)も可能です。
延滞税はどう変わるか
納付が期限に遅れると、法定納期限の翌日から完納する日までの日数に応じて延滞税がかかります。割合は2段階で、納期限の翌日から2か月を経過する日までと、それより後とで変わります。各年の割合は国税庁の延滞税のページで公表されています。
猶予を受けると、猶予期間中の延滞税が免除または軽減されます。国税通則法63条の原則は、次のとおりです。
- 災害等による納税の猶予(災害・盗難など):猶予期間に対応する延滞税の全額を免除
- 事業の廃止等による納税の猶予(休廃業、著しい損失など)と換価の猶予:猶予期間のうち、納期限の翌日から2か月を経過した日より後の期間に対応する延滞税の2分の1を免除
この原則には租税特別措置法94条2項の特例があります。猶予特例基準割合(平均貸付割合に年0.5%を加えた割合)が年7.3%に満たない年は、「2か月を経過した日より後の期間」「2分の1」という限定が外れ、猶予期間全体について、延滞税のうち猶予特例基準割合で計算した額を超える部分が免除される形に読み替えられます。実際の割合は年ごとに告示されるため、国税庁の延滞税のページで確かめます。
国税庁のFAQは、猶予が許可された日にかかわらず、申請日から延滞税が軽減・免除されるとしています。反対に、換価の猶予を納期限を過ぎてから申請すると、納期限の翌日から申請日の前日までの延滞税は軽減されません。申請が早いほど延滞税の負担は小さくなるので、納期限前の相談が有利に働きます。
延滞税や加算税の計算の考え方は加算税・延滞税の種類と計算の記事でも扱っています。
相談の順番:国税・地方税・社会保険料は窓口が別
払えないのが法人税や消費税だけとは限りません。国税庁は、税の種類や社会保険料によって相談窓口が異なるとしています。
| 払えないもの | 相談先 |
|---|---|
| 法人税・源泉所得税・消費税など国の税金 | 所轄の税務署(徴収担当) |
| 法人住民税・法人事業税・固定資産税など地方税 | 都道府県・市区町村の担当窓口 |
| 厚生年金保険料などの社会保険料 | 年金事務所(年金機構) |
| 労働保険料 | 都道府県労働局 |
相談に進む順番は、次のとおりです。
- 納期限と金額を税目ごとに一覧にし、納期限が早いものから並べる
- 手元資金と1か月以内の支出予定から、納期限に払える額と払えない額を出す
- 納期限より前に、税務署の徴収担当(地方税・社会保険料はそれぞれの窓口)に電話で相談する
- 換価の猶予なら納期限から6か月以内に、申請書と財産収支状況書などを提出する
- 許可の通知書に書かれた分割納付のとおりに納め、払えなくなりそうなら期日前に相談する
消費税の中間申告分については、課税売上高が前年より大幅に減っている場合、仮決算に基づく中間申告で納税額を抑えられることがあると国税庁は案内しています。また、次の申告で欠損金の繰戻しを予定していても、猶予を受けずに納付しなければ繰戻しまでの間は通常の延滞税がかかります。決算の数字と納税の予定は、決算後の納税と中間申告の記事で説明している納税資金の見通しと合わせて確かめます。
まとめ:払えないと分かった時点で、納期限前に相談する
- 国税の猶予は、申請して許可を受けると原則1年以内の分割納付ができる制度で、税金そのものは免除されません。
- 換価の猶予は「一時に納付すると事業の継続が困難になるおそれ」が要件で、納期限から6か月以内の申請が必要です。
- 納税の猶予は、災害・盗難・休廃業・著しい損失などの事実があって一時に納付できない場合に使えます。
- 担保は原則必要ですが、100万円以下・3か月以内・担保がない場合は不要です。
- 猶予期間中の延滞税は免除・軽減され、申請日から効くため、早い申請ほど負担が小さくなります。
猶予の要件に当たるか、いくらを何回に分けて払えるかは、手元資金と支出予定の数字で決まります。資金繰りの表をそろえてから、早めに相談の場を持つことが判断の材料になります。
創業融資も相談したい方へ
リーパル会計事務所は、1,100社以上の関与実績があるMF公認・freee認定の会計事務所です。税務顧問とあわせて、創業融資の獲得支援も行っています。
よくある質問
Q. 決算は黒字ですが、猶予を受けられますか?
国税庁は、黒字であっても要件を満たせば猶予が受けられるとしています。判断の基準は損益ではなく、手元資金から当面の資金繰りに必要な額を引いた納付可能金額が、納める税額に足りるかどうかです。
Q. 無理をして期限までに払いましたが、今から返してもらって猶予に切り替えられますか?
できません。猶予は期限後に分割して納税できるようにする制度で、既に納めた分の返還を求めることはできないと国税庁は説明しています。払う前の段階で相談するのが前提の制度です。
Q. 猶予中に融資を申し込むと、納税証明書に何か書かれますか?
未納税額を証明する納税証明書(その1)には、備考欄に猶予中である旨と猶予期限が記載されます。未納の税額がないことの証明(その3など)は、猶予を受けている税目については発行されません。所得金額の証明(その2)は猶予の有無にかかわらず発行され、猶予の記載もありません。
Q. 換価の猶予の申請期限(納期限から6か月)を過ぎたら、もう猶予は受けられませんか?
原則として、申請による換価の猶予は受けられません。ただし、状況に応じてほかの猶予や、税務署長の職権による猶予が検討されることがあります。期限を過ぎていても、まず所轄の税務署の徴収担当に相談します。
Q. 猶予の期間内に払いきれない場合はどうなりますか?
猶予期間は原則1年以内ですが、期間内に納付できないやむを得ない理由がある場合は、猶予期間を延長できることがあります。分割納付の日に間に合わないと分かった時点で、所轄の税務署の徴収担当に事情を伝えて相談します。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月27日
リーパル会計事務所|関与実績1,100社以上・全国オンライン対応
法人の決算・申告を任せる顧問税理士をお探しの方へ
MF公認・freee認定元国税調査官の知見