初めて確定申告をする年は、開業前の支出や退職までの給与の扱いで迷うことがあります。まずは、開業前に使ったお金の区分と、青色申告の申請状況を確かめましょう。年の途中で開業した人は、設備を使った月数や、退職までの給与も確認が必要です。
この記事では、2026年に開業した個人事業主に向けて、初年度の申告で確認したい点を整理します。申告全体の流れや期限は個人事業主の確定申告のやり方の記事で確認できます。
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開業1年目の確定申告で、2年目以降と違うところ
まず全体像です。次の表の論点は、どれも開業1年目に初めて判断が必要になるものです。償却方法や青色申告のように、1年目に決めた扱いが2年目以降にも関わるものがあります。
| 論点 | 開業1年目に起きること | 確認すること |
|---|---|---|
| 開業前の支出 | 開業日より前に払った費用がある | 開業費(繰延資産)か、資産の取得か、私的な支出かを分ける |
| 青色申告 | 承認申請の期限が開業日から数える形になる | 申請書を期限内に出したか。55万円・65万円の控除の要件を満たすか |
| 減価償却 | 年の途中から事業に使い始める資産がある | 事業に使った月数で月割りする。私用から転用した資産の扱い |
| 給与・退職 | 開業前に勤めていた会社を年の途中で退職している | 源泉徴収票をそろえ、給与所得も合わせて申告する |
| 消費税・予定納税 | 1年目の数字が2年目以降の判定に使われる | インボイス登録の有無、開業年の1月1日〜6月30日の売上と給与 |
開業前の支出は「開業費」か「資産」かを分ける
開業日より前に払ったお金は、そのままでは開業した年の経費になりません。所得税法施行令では、開業費を「事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」と定め、繰延資産として扱います。
ここで注意したいのは、繰延資産になる費用から「資産の取得に要した金額とされるべき費用」が除かれていることです。開業前に買ったパソコンや机のように、資産そのものを取得するための支出は開業費ではなく、減価償却資産として扱います。開業前の領収書は、「準備のための費用」と「物を買った代金」に分けて保管しておくと、申告のときに迷いません。
開業費は、経費にする年と金額を選べる
開業費の償却額は、原則として開業費の額を60で割り、その年に事業を行っていた月数を掛けて計算します。ただし、施行令では、開業費の額の範囲内の金額を確定申告書に記載した場合には、その記載した金額を必要経費にできるとされています。つまり、開業1年目に全額を経費にすることも、2年目以降に回すこともできます。
どの年に何円を経費にするのが合うかは、1年目と2年目以降の所得の見込みで変わります。所得が少ない年に経費を寄せても税額が変わらない場合もあるため、各年の所得を数字で試算しないと決まりません。
青色申告の初年度で確認すること
開業1年目から青色申告をするには、「青色申告承認申請書」を期限内に出しておく必要があります。期限は開業した日で変わります。
| 開業日 | 青色申告承認申請書の提出期限 |
|---|---|
| その年の1月1日〜1月15日 | 青色申告をしようとする年の3月15日まで(原則の期限) |
| その年の1月16日以後 | 業務を開始した日から2か月以内 |
家族に給与を払う場合の「青色事業専従者給与に関する届出書」も、1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、開始した日から2か月以内が期限です。なお、国税庁の手続案内では、個人事業の開業届出書の提出時期は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」とされています。開業届と青色申告の承認申請は期限が別なので、開業届の期限に合わせていると青色申告の申請が間に合わないことがあります。申請書の書き方は青色申告承認申請書の記事で扱っています。
初年度の青色申告特別控除
55万円の控除は、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付した確定申告書を期限(翌年3月15日)までに提出することが要件です。65万円の控除は、これに加えて電子帳簿保存か e-Tax での送信が必要です。要件に当てはまらない青色申告者は10万円の控除になります。詳しい要件は国税庁『No.2072 青色申告特別控除』で確認できます。
ここまでの55万円・65万円の要件は令和8年分までのものです。令和8年度税制改正の大綱で示され、所得税法等の一部を改正する法律として2026年3月31日に成立した見直しでは、令和9年分以後、55万円の控除は確定申告書・貸借対照表・損益計算書等を期限までにe-Taxで提出することが要件に加わって65万円に、65万円の控除は仕訳帳・総勘定元帳の一定の電磁的記録の保存等を要件として75万円になります。また、簡易な簿記の方法で記録している人のうち、前々年分の事業所得の収入金額が1,000万円を超える人などは、10万円の控除の対象から外れます。
年の途中で開業した場合は、開業日を起点に帳簿をつけ始めます。開業時に事業用の口座へ入れたお金や、事業用に持ち込んだ資産をどう記帳するかを最初に決めておくと、年末の貸借対照表が作りやすくなります。
1年目が赤字だった場合
青色申告者は、事業所得などの損失を損益通算しても控除しきれない金額(純損失の金額)を、翌年以後3年間にわたって繰り越して各年の所得から控除できます。開業1年目は開業費や設備の支出で赤字になることもあるため、青色申告の承認を受けているかどうかで、2年目以降の税額に影響が出ることがあります。
年の途中で開業した年の減価償却
年の途中で事業に使い始めた資産の減価償却費は、1年分を丸ごと計上するのではありません。国税庁の説明では、年の中途で取得した場合には、1年分の償却費を12で割り、その年に業務に使っていた月数を掛けて計算するとされています。
| 取得価額など | 主な扱い(個人事業者) |
|---|---|
| 10万円未満、または使用可能期間が1年未満 | 業務の用に供した年に全額を必要経費にする |
| 10万円以上20万円未満 | 一定の要件の下で一括して、取得価額の合計額の3分の1ずつを3年間で必要経費にできる |
| 10万円以上40万円未満(令和8年3月31日までの取得は30万円未満) | 一定の要件を満たす青色申告者は、合計300万円に達するまで、業務の用に供した年に必要経費にできる特例がある |
| 上記以外 | 耐用年数に応じて定額法などで減価償却する。年の途中から使った年は月割り |
最後の特例は青色申告者が対象です。開業1年目に青色申告の承認を受けていないと使えない点も、承認申請の期限を守る理由の1つになります。
開業前から私用で使っていた資産
開業前から自分で使っていた車やパソコンを事業に使い始めた場合は、買ったときの値段からそのまま計算するわけではありません。国税庁の説明では、まず非業務用として使っていた期間の「減価の額」を計算し、それを取得価額から差し引いた未償却残高を基に、事業に使い始めた後の減価償却費を計算するとされています。
償却方法の届出
新たに業務を始めた場合は、減価償却の方法を選んで翌年の3月15日までに税務署長に届け出ることになっています。届出がない場合は法定の償却方法(一般的には定額法)で計算します。
開業した年に退職していた場合の給与の精算
会社を辞めて開業した人は、開業した年の確定申告で、退職までの給与も合わせて申告します。年の途中で退職して年末調整を受けていない場合は、源泉徴収された所得税が納め過ぎになっていることがあります。
給与の支払者は、年の途中で退職した人には退職の日以後1か月以内に源泉徴収票を交付することになっています。開業の準備で忙しい時期と重なるため、退職時の源泉徴収票を受け取ったかどうかを確認しておきます。手元に無い場合は、退職した会社に交付を頼みます。
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消費税と2年目に関わること
開業1年目の数字は、2年目以降の税金の判定にも使われます。申告書を作る段階で、次の2点を確認しておきます。
消費税の納税義務
新たに開業した個人事業者は、基準期間(前々年)の課税売上高がないため、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし、インボイス制度の適格請求書発行事業者の登録を受けている場合は、基準期間の課税売上高にかかわらず納税義務は免除されません。開業1年目に登録した人は、所得税とは別に消費税の申告が必要で、令和8年分の期限は2027年3月31日です。
2年目については、特定期間(前年の1月1日から6月30日まで)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になる場合があります。この判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額で行うこともできます。国税庁の例では、前年の3月1日に開業した個人事業者の特定期間の課税売上高は、3月1日から6月30日までの分で判定し、6か月分に換算する必要はないとされています。
予定納税
開業1年目の申告で納める所得税の額によっては、2年目に予定納税の対象になります。予定納税は、その年の5月15日現在で確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上となる人が対象です。2年目の資金繰りに関わるため、1年目の申告の段階で見込んでおくと慌てずに済みます。
まとめ:開業1年目は「初めて決めること」を先に確認する
- 開業前の支出は、開業費(繰延資産)と資産の取得代金に分ける。開業費は経費にする年と金額を選べる。
- 1月16日以後に開業した場合、青色申告承認申請書の期限は開業日から2か月以内。開業届の期限とは別。
- 年の途中から使った資産の減価償却は月割り。私用から転用した資産は未償却残高から計算する。
- 開業した年に退職していれば、源泉徴収票をそろえて給与所得も合わせて申告する。
- インボイス登録をしていれば1年目から消費税の申告が必要。1年目の数字は2年目の消費税や予定納税の判定にも使われる。
開業費をどの年に経費にするかのように選べる項目は、1年目と2年目以降の所得を数字で並べてから決めます。
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よくある質問
Q. 開業届を出していなくても、開業1年目の確定申告は必要ですか?
確定申告が必要かどうかは、所得の金額などで決まり、開業届を出したかどうかでは決まりません。開業届は所得税法で、事業を開始した日の属する年分の確定申告期限までに提出することとされています。青色申告をしたい場合は、開業届とは別に青色申告承認申請書の期限を守る必要があります。
Q. 開業前に買ったパソコンは開業費になりますか?
資産の取得に要した金額は開業費から除かれているため、パソコンは減価償却資産として扱います。取得価額が10万円未満であれば、事業に使い始めた年に全額を必要経費にします。10万円以上の場合は、表の区分に沿って扱いを確認します。
Q. 青色申告承認申請書を出し忘れていたら、どうなりますか?
期限内に申請していなければ、その年分は白色申告になり、青色申告特別控除などの特典は受けられません。翌年分から青色申告をする場合は、原則として青色申告をしようとする年の3月15日までに申請書を提出します。
Q. 1年目が赤字なら、確定申告はしなくてもよいですか?
納める税金がない場合でも、申告書を出すかどうかで2年目以降が変わります。所得税法では、純損失の繰越控除は、損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出している場合に限り適用するとされています。退職した年で源泉徴収された所得税が納め過ぎになっていれば、申告で還付を受けられる場合もあります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月29日
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