親が亡くなると、相続税の申告(10か月以内)のほかに、もう1つ別の申告期限があります。亡くなった人のその年の所得税について、相続人が申告する「準確定申告」です。期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内で、相続税より先にやってきます。
この記事では、準確定申告の期限の数え方、申告が必要な人と不要な人の判定、控除の扱い、書類の出し方、そして納めた税金や還付金が相続税にどう影響するかを、条文と国税庁の資料で整理します。金額は、当事務所の無料の相続税シミュレーターと同じ計算で出した金額です。
この記事の要点
- 準確定申告は、1月1日から亡くなった日までの所得を、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納税する手続きです(所得税法125条1項)。
- 亡くなったのが1月1日から3月15日ごろまでだと、前年分と本年分の2年分を、どちらも4か月以内に申告する場合があります。
- 公的年金だけの人や、給与を1か所から受けるだけの人などは、申告が要らない場合があります。医療費控除などの還付は申告できます。
- 納めた所得税は、相続税の計算で債務として差し引けます。逆に、還付金は相続財産に加わります。
- 相続人が複数なら、全員の連署で1通を出すか、氏名を付記して別々に出します。
準確定申告とは|相続税の申告との違い
所得税は、1月1日から12月31日までの1年間の所得を、翌年の2月16日から3月15日までに申告するのが原則です。年の途中で亡くなった人の場合は、相続人(包括受遺者を含みます)が、1月1日から亡くなった日までの所得と税額を計算して申告します。これが準確定申告です(国税庁 No.2022)。
相続税の申告と名前が似ていますが、税目も期限も出す先も別の手続きです。
| 項目 | 準確定申告(所得税) | 相続税の申告 |
|---|---|---|
| 対象 | 亡くなった人が1月1日から亡くなる日までに得た所得 | 亡くなった人から引き継いだ財産 |
| 期限 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 出す先 | 亡くなった人の死亡当時の納税地の税務署 | 亡くなった人の死亡時の住所地の税務署 |
| 申告が要る人 | 所得税の申告義務があった人(下の「申告が要るかの判定」を参照) | 財産の合計が基礎控除を超える相続人 |
| 出す人 | 相続人全員の連署、または別々 | 財産を取得した人ごと |
相続税の全体の流れは相続税の申告|期限・流れ・必要書類の全体像で説明しています。亡くなってから期限順に何をするかは、親が亡くなったらすること一覧にまとめています。
期限|知った日の翌日から4か月以内
4か月の数え方
所得税法125条1項は、期限を「相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日」と定めています。知った日の翌日が起算日で、4か月後の応当日の前日が期限です。例:6月20日に亡くなり、同日に知った場合は、6月21日が起算日で、期限は10月20日です。
期限の日が土曜日・日曜日・祝日・12月29日から31日に当たるときは、その翌日が期限になります(国税通則法10条2項、同法施行令2条2項)。
例:2026年10月27日に亡くなり、同日に知った場合は、10月28日が起算日です。4か月後の応当日は2027年2月28日なので、その前日の2月27日が期限です。この日は土曜日なので、期限は3月1日(月曜日)になります。
亡くなった時期で変わる申告の年分
亡くなったのが年の前半か後半かで、申告する年分が変わります。
| 亡くなった時期 | 申告する年分 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1月1日から確定申告期限(原則3月15日)まで | 前年分(まだ申告していない場合)と、本年分(亡くなった日まで) | どちらも相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 所得税法124条1項・125条1項、国税庁 No.2022(注) |
| 3月16日から12月31日まで | 本年分(亡くなった日まで) | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 所得税法125条1項 |
例:2027年2月5日に亡くなり、同日に知った場合、2026年分(前年分)の申告がまだなら、2026年分も2027年分も期限は同じです。2月6日が起算日、4か月後の応当日は6月6日で、その前日の6月5日(土曜日)が期限のため、実際の期限は6月7日(月曜日)です。前年分も、通常の期限(3月15日)ではなく、この4か月の期限になります。
なお、期限前に相続人が「出国」をする場合は、その出国の時までが期限になります(所得税法124条1項・125条1項のかっこ書き)。ここでの「出国」は、納税管理人の届出をしないで国内に住所も居所も有しなくなることです(同法2条1項42号)。旅行などの一時的な海外渡航は、これに当たりません。
申告が要るかの判定|要らない場合と、出したほうがよい場合
申告の要否は通常の確定申告と同じ考え方
準確定申告の義務があるのは、亡くなった人が生きていれば確定申告をしなければならなかった場合です(所得税法125条1項は、同法120条1項の申告書を出す場合に当たるとき、と定めています)。120条1項は、所得から所得控除を引いた課税所得に税率を掛けた税額が、配当控除の額を超えるときに申告を求めています。所得が少なく、所得控除で課税される所得がなくなる人は、申告義務がありません。
さらに、次の場合は申告を省略できます。
| 亡くなった人の収入 | 申告が要らない条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 給与だけ | 給与の収入が2,000万円以下で、1か所から受け、全額に源泉徴収または年末調整があり、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円以下 | 所得税法121条1項1号 |
| 公的年金等が中心 | その年の公的年金等の収入金額が400万円以下で、源泉徴収をされており、公的年金等に係る雑所得以外の所得の合計が20万円以下 | 所得税法121条3項、国税庁 No.1600 |
| 家賃収入・事業収入・株の売却益などがある | 省略の特例では判定できず、通常の所得・税額の計算で判定 | 所得税法120条1項 |
20万円の判定は、収入ではなく所得で行います。不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算します(国税庁 No.1370)。
例:亡くなった人が公的年金等を280万円受け取り、ほかに家賃収入120万円・必要経費90万円があったとします。不動産所得は120万円−90万円=30万円で、20万円を超えます。この場合は年金の申告不要の特例が使えず、申告が必要かどうかを通常の計算で確かめることになります。家賃収入が60万円・必要経費が45万円なら、所得は15万円で20万円以下です。
No.1600に準確定申告へ使えると直接書いた記載はありませんが、121条3項は「その年において…公的年金等に係る雑所得を有する居住者」と定めていて、亡くなった年にも当てはめて考えます。迷う場合は、税務署か税理士に確認してください。
申告が要らなくても、出したほうがよい場合
申告義務がなくても、源泉徴収された所得税や予定納税した税額が多すぎるときは、相続人が還付を受けるための申告書を出せます(所得税法125条2項・122条)。国税庁は、公的年金等の確定申告不要制度を使える人でも、医療費控除や社会保険料控除で還付を受けるために確定申告をすることができる、と案内しています(No.1600 注1)。
還付申告は、確定申告期間と関係なく、翌年1月1日から5年間出せるとされています(No.2030)。ただし、亡くなった年分の還付申告にこの5年が使えるかは、125条2項に4か月の定めがない点も含めて、税務署で確認してください。
3つのケースで見る|所得の種類・集める資料・相続税への影響
亡くなった人の収入の種類によって、準備する資料と、納付・還付が相続税に及ぼす影響が変わります。次の表は、典型的な3つのケースを並べたものです。
| ケース | 主な所得の種類 | 集める資料 | 相続税への影響 |
|---|---|---|---|
| A 公的年金だけ | 雑所得(公的年金等) | 公的年金等の源泉徴収票、医療費の領収書や通知、社会保険料・生命保険料の支払額が分かる書類 | 申告不要の条件を満たせば申告は要りません。医療費などで還付になる場合、還付金は相続財産に加わります。 |
| B 年金に加えて賃貸収入あり | 不動産所得と雑所得 | 賃貸借契約書、家賃の入金記録、固定資産税・修繕費・損害保険料などの経費の資料、年金の源泉徴収票 | 所得控除などを引いた課税所得に税率を掛けた税額から、源泉徴収された所得税を引いて、なお税額が残れば納付です。源泉徴収のほうが多ければ還付になります。納めた所得税は、相続税の債務控除で差し引けます。 |
| C 個人事業を営んでいた | 事業所得(必要なら消費税も) | 売上・経費の帳簿、請求書・領収書、青色申告の場合は決算書 | 所得税のほか消費税の申告も必要になる場合があります。納付額は債務控除の対象です。 |
不動産所得・事業所得があり、青色申告でない場合は、その年の総収入金額と必要経費の内容を記載した書類を申告書に添付します(所得税法120条6項)。賃貸物件を相続した後の相続人側の申告は、相続した賃貸物件の確定申告で説明しています。
控除の扱い|医療費・保険料・扶養の判定はいつの時点か
準確定申告でも、通常の確定申告と同じ所得控除を受けられます。ただし、亡くなった人の申告に特有の扱いが3つあります(国税庁 No.2022)。
| 控除 | 対象になる範囲 | よくある誤り |
|---|---|---|
| 医療費控除 | 亡くなった日までに、亡くなった人が実際に支払った医療費 | 亡くなった後に相続人が支払った入院費を、亡くなった人の控除に含めてしまう |
| 社会保険料・生命保険料・地震保険料・小規模企業共済等掛金・寄附金 | 亡くなった日までに、亡くなった人が支払った分 | 1年分の保険料を前提に計算してしまう |
| 配偶者控除・扶養控除など | 亡くなった日の現況で判定する。月割りの計算はしない | 亡くなった月までの月割りにして減らしてしまう |
亡くなった後に支払われた医療費は、たとえ相続財産から支払っても、亡くなった人の準確定申告では医療費控除の対象になりません。治療を受けた時に、支払った相続人が亡くなった人と生計を一にしていれば、その相続人自身の医療費控除の対象になります(国税庁 質疑応答事例「死亡した父親の医療費」)。
医療費控除を受ける場合は、医療費の明細書などを申告書に添付します(所得税法120条4項)。生命保険料控除・地震保険料控除・寄附金控除などは、控除額の計算の基礎となる書類の添付または提示が求められます(同条3項)。
やり方|提出先・付表・連署と別々の提出
- 期限と申告の要否を確かめる。相続の開始を知った日、亡くなった時期、収入の種類を確認します。
- 収入と控除の資料を集める。源泉徴収票、医療費、保険料、賃貸・事業の収支の資料です。
- 所得と税額を計算する。1月1日から亡くなった日までの分です。
- 申告書と付表を作る。各相続人の氏名・住所・続柄などを書いた「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」を添付します。様式は国税庁の様式・手引きのページにあります。
- 亡くなった人の死亡当時の納税地の税務署に出し、納める。相続人が複数なら、次の2つの方法のどちらかです。
| 提出の仕方 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 連署で1通を出す | 各相続人が連署した1つの書面で提出する | 所得税法施行令263条2項本文 |
| 別々に出す | 他の相続人の氏名を付記して各別に提出できる。出した相続人は、遅滞なく、他の相続人に記載した事項の要領を通知する | 所得税法施行令263条2項ただし書・3項 |
還付金がある場合に、受け取りを相続人のうちの1人に任せるときは、付表とは別に「委任状(準確定申告書用)」を出します(国税庁 No.2022)。納める税額は、各相続人が相続分に応じて按分した額を納める義務を引き継ぎます(国税通則法5条2項)。
納めた税金・還付金は相続税でどう扱うか
納めた所得税は債務として差し引ける
準確定申告で納める所得税は、亡くなった時点では確定していなくても、相続税の計算で債務として遺産総額から差し引けます。国税庁は、相続人などの責任に基づいて納付する延滞税や加算税は差し引けない、と案内しています(No.4126)。債務控除の全体は債務控除で説明しています。
例:遺産1億円・相続人は子2人で、準確定申告で納める所得税が30万円だったとします。債務控除をすると課税価格の合計は9,970万円で、相続税の総額は770万円から765万5,000円に下がります。差は4万5,000円です(子1人あたりの税額は385万円から382万7,500円)。
還付金は相続財産、還付加算金は相続人の雑所得
準確定申告で還付金が出たときは、その請求権が亡くなった人に帰属していたと考えるため、相続財産として相続税の課税対象になります。還付加算金は、相続人が申告書の提出で新たに取得するものとして、相続税ではなく、相続人の所得税(雑所得)の課税対象です(国税庁 質疑応答事例「被相続人の準確定申告に係る還付金等」)。
例:同じ前提(遺産1億円・子2人)で、30万円の還付金があった場合は、課税価格の合計が1億30万円になり、相続税の総額は770万円から774万5,000円に上がります。差は4万5,000円です。
これらの金額は、納付や還付の額だけを遺産の額に足し引きした単純な例です。実際の相続では、ほかの特例や控除が加わります。自分の場合の目安は、相続税シミュレーターで確認できます。
個人事業・賃貸を営んでいた場合の追加の手続き
- 消費税:個人事業者が課税期間の途中で亡くなったときは、消費税の申告が必要な場合に、相続人が相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告します(消費税法45条3項)。所得税と同じ4か月です。
- 事業の廃止の届出:不動産所得・事業所得を生ずべき事業を廃止したときは、届出書を税務署長に出すと定められています(所得税法229条)。事業を相続人が引き継ぐ場合の扱いは、税務署に確認してください。
亡くなった人の預貯金の引き出しや口座の手続きは、亡くなった人の銀行口座が参考になります。
よくある誤り|準確定申告
| 思い込み | 実際 |
|---|---|
| 相続税の申告と同じ10か月以内でよい | 準確定申告は4か月以内です。相続税より先に期限が来ます。 |
| 3月15日までに出せばよい | 通常の確定申告の期限ではなく、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。亡くなった時期によっては前年分も同じ期限になります。 |
| 相続人の誰か1人が出せばそれで足りる | 連署で1通を出すか、各人が他の相続人の氏名を付記して出します。別々に出した人は、他の相続人へ申告した内容を通知する必要があります。 |
| 亡くなった後に払った医療費も控除に入れられる | 入れられるのは、亡くなった日までに本人が支払った分です。 |
| 年金だけなら、何も出さなくてよい | 申告は不要でも、医療費控除などで税金が戻る場合は、還付の申告ができます。 |
| 還付金は相続税と関係ない | 還付金は相続財産として相続税の課税対象です。還付加算金は相続人の雑所得です。 |
よくある質問
申告の期限を過ぎてしまった場合はどうなりますか。
申告義務があった人が期限を過ぎて出すと、期限後申告になります。無申告加算税や延滞税がかかることがあります(国税通則法66条・60条)。気づいた時点で、できるだけ早く出してください。相続税の期限後申告は相続税の申告期限を過ぎたらで説明しています。
相続人の1人と連絡が取れません。準確定申告は出せますか。
他の相続人の氏名を付記して、各別に提出することができます(所得税法施行令263条2項ただし書)。出した相続人は、遅滞なく、他の相続人に記載した事項の要領を通知する必要があります(同条3項)。連絡先が分からない場合の通知の方法は、税務署に確認してください。
準確定申告をしないと、相続税の申告はできませんか。
相続税の申告そのものは、準確定申告の有無に関係なく期限があります。ただし、準確定申告で納める所得税や受け取る還付金の額は、相続税の計算に影響します(債務控除や相続財産への算入)。準確定申告の金額が確定してから、相続税の最終の金額を決める流れが自然です。
亡くなった人が確定申告をしたことがない場合も出す必要がありますか。
収入の種類と額によります。給与や年金だけで申告不要の条件を満たしていれば、申告は要りません。家賃収入や事業収入、株の売却益などがあれば、申告義務に当たる可能性があるので、所得を計算して確かめます。
還付が出る場合、誰が受け取りますか。
相続人が受け取ります。複数の相続人がいて、1人に受け取りを任せるときは、委任状(準確定申告書用)を付表とは別に出します。受け取った還付金は、相続税の計算では相続財産に加わります。
まとめ
- 準確定申告は、亡くなった日までの所得について、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納税する手続きです。相続税の10か月より先に期限が来ます。
- 1月1日から3月15日ごろに亡くなった場合は、前年分と本年分が同じ期限になることがあります。
- 給与だけ・公的年金だけで条件を満たす人は申告が要りません。20万円の判定は、収入ではなく所得で行います。還付を受けるための申告はできます。
- 医療費は亡くなった日までに本人が支払った分だけが控除の対象です。扶養の判定は亡くなった日の現況で、月割りはしません。
- 納めた所得税は債務控除の対象、還付金は相続財産です。例では、30万円の納付で相続税が4万5,000円下がり、30万円の還付で4万5,000円上がります。
相続税の申告と準確定申告の両方で迷う場合は、期限が近いほうから整理するのが安全です。相続税の申告の相談ページに、当事務所の対応内容と料金を掲載しています。
監修
本記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
参考にした法令・資料
- 所得税法2条・120条・121条・122条・124条・125条・229条(e-Gov法令検索)
- 所得税法施行令263条(e-Gov法令検索)
- 消費税法45条(e-Gov法令検索)
- 国税通則法5条・10条・60条・66条(e-Gov法令検索)、同法施行令2条(e-Gov法令検索)
- 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 No.1920 海外勤務と所得税額の精算(「出国」の意味)
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
- 国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁 No.2030 還付申告
- 国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国税庁 質疑応答事例 被相続人の準確定申告に係る還付金等
- 国税庁 質疑応答事例 死亡した父親の医療費
- 国税庁 確定申告書等の様式・手引き等(付表の様式)
この記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいて書いています。
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