会社のカードがなく、自分の口座や個人カードで払った費用をどう精算すればよいか迷っていませんか。会社の仕事のために使った分は、内容を説明できる記録を残し、会社の帳簿に入れて精算できます。私的な買い物が混ざっている場合は、会社の分を選び分けることが大切です。
この記事では、法人の社長が立て替えた経費の記帳方法と、領収書や精算書の残し方を紹介します。消費税の書類の注意点や、精算の締め日・確認担当など社内ルールの決め方も整理します。
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最初に分ける:会社の経費か、社長個人の支出か
立替精算の出発点は、社長が払った支出のうち「会社の業務のための支出」だけを会社の帳簿に入れることです。個人のカード明細には私的な買い物も並ぶため、1件ずつ会社の分を選び出します。
会社の業務と関係のない社長の個人的な費用を会社が負担すると、税務では役員への給与と同じ扱いになり得ます。国税庁の法人税基本通達9-2-9は、法人税法34条(役員給与)にいう「経済的な利益」の例として、次のようなものを挙げています。
- 役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
- 役員等のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の額に相当する金額
法人税法34条4項は、役員給与には債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むと定めています。そして役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも当たらない部分が損金の額に算入されません(国税庁 タックスアンサー No.5211)。立替精算で「業務のための支出だと説明できる記録」を残すのは、この線を引くためでもあります。
判断に迷う支出の考え方
会食や移動のように、業務にも私用にも使われる支出は、誰と・何のために使ったかを記録しておきます。業務のためと説明できない支出は、会社の経費に入れず、社長個人の支出として扱います。どちらとも言い切れないものを会社の経費に入れるかどうかは、支出の中身で判断が分かれるため、決算を担当する人と個別に確認してください。
記帳のしかた:会社が社長に払うべきお金として計上する
社長が立て替えた時点で、会社には「社長に返すべきお金」ができます。帳簿では、経費の科目を借方に、社長への未払金(役員借入金として扱う会社もあります)を貸方に計上し、会社の口座から社長へ返したときにその残高を消します。返した日は、実際にお金を動かした日で記帳します。
| 場面 | 借方 | 貸方 | 計上する日 |
|---|---|---|---|
| 1. 社長が個人のカードで消耗品を買った | 消耗品費 | 未払金(社長) | 支出した日(カードの利用日) |
| 2. 社長が個人の現金で交通費を払った | 旅費交通費 | 未払金(社長) | 支出した日 |
| 3. 月末にまとめて会社の口座から社長へ振り込んだ | 未払金(社長) | 普通預金 | 実際に振り込んだ日 |
※説明のための架空の例です。科目名は一例で、会社の帳簿の科目体系に合わせてください。
この形にしておくと、未払金(社長)の残高が「まだ社長に返していない額」を表します。精算のたびに残高が0円に戻るか、残っている分が精算待ちの立替と一致するかを、月ごとに確かめると誤りに早く気づけます。
精算しないまま残っている場合
社長が精算を受けないまま残高が積み上がると、その残高は会社の負債(社長からの借入れ)として決算書に残ります。返す予定があるのか、いつ返すのかを決めておかないと、決算書を見た金融機関などに説明しにくくなります。逆に、会社のお金を社長が個人のために使った場合は、方向が反対の「役員貸付金」の問題になります(役員貸付金と利息のルールの記事)。
会社の設立前に立て替えた費用
会社の口座ができる前、設立の準備のために社長や発起人が払った費用も、同じく社長への未払金として会社の帳簿に入れ、後で精算します。国税庁の法人税基本通達2-6-2は、法人の設立期間中にその設立中の法人について生じた損益は、設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるとしています。ただし、設立期間が通常要する期間を超えて長期にわたる場合の損益と、個人事業を引き継いで設立された法人の場合のその個人事業から生じた損益は、この取扱いから外れます。設立のための費用は「創立費」、設立後から事業開始までの準備の費用は「開業費」として扱うものがあり、区分と費用にする時期は別に確かめます。
残す書類:領収書・カード明細・立替金精算書
法人は、帳簿と、取引等に関して作成または受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間)保存します。国税庁は、保存する「書類」の例として、注文書、契約書、領収書などを挙げています(国税庁 タックスアンサー No.5930)。社長が立て替えた分の領収書も、会社の書類として同じように保存します。
立替精算では、次の3つをそろえておくと、帳簿と証拠が1対1で対応します。
- 領収書・レシート:支払先、日付、金額、内容がわかるもの
- カードの利用明細:個人カードで払った場合の支払の事実の裏付け(私的な利用が並ぶので、会社の分に印を付けて保存)
- 立替金精算書:社長が「いつ・どこに・何のために・いくら」立て替えたかを一覧にし、精算した日と金額を書いたもの
領収書をメールやダウンロードで受け取った場合は、電子帳簿保存法の「電子取引」に当たり、取引情報を電磁的記録(データ)のまま保存することが求められます。紙に印刷しただけで済ませないよう注意します。
領収書をなくした場合も、すぐに経費として認められなくなるとは限りません。支払の事実と業務との関係を示せる記録(カード明細、取引内容のメモなど)を残しておきます。詳しくは領収書をなくしたときの記事で整理しています。
消費税:宛名が社長個人になっているインボイスの扱い
会社が消費税の課税事業者で、立て替えた経費について仕入税額控除を受ける場合は、インボイス(適格請求書・適格簡易請求書)の保存が問題になります。社長が個人として買い物をすると、宛名が会社でなく社長個人の名前になることがあります。
国税庁のインボイスQ&Aには、立替払について次の2つの問があります。
- 問94(立替金):取引先が立替払をした場合、その取引先宛ての適格請求書をそのまま受け取っても、自社に交付された適格請求書とすることはできない。ただし、立替金精算書等により経費の支払先から行った課税仕入れが自社のものであることが明らかにされていれば、適格請求書と立替金精算書等の保存で請求書等の保存要件を満たす。
- 問94-2(従業員の立替払):宛名に従業員名が書かれた適格簡易請求書は、原則としてそのまま保存しても仕入税額控除はできない。ただし、従業員が会社に所属していることが明らかになる名簿等も保存していれば、要件を満たすこととして差し支えない。名簿等が無く立替払をした者を特定できない場合は、従業員が作成した立替金精算書の交付を受けて保存する。
問94-2は従業員を例にした問で、社長(役員)の立替を名指ししたものではありません。いずれの問も「誰が立て替えたか」と「その仕入れが会社のものであること」を書類で示す考え方なので、社長の立替でも、領収書と立替金精算書を合わせて保存しておくと説明がしやすくなります。原文は国税庁『インボイスQ&A』で確認できます。
社内の精算ルールを決めておく
立替精算は、毎回のやり方がばらばらだと、決算のときに「この支出は会社の分か」「もう精算したか」が追えなくなります。社長1人の会社でも、次の項目を決めて書き残しておくと運用が安定します。
- 対象:会社の経費として精算する支出の範囲(業務で使ったものに限る、など)
- 締め日と精算日:月末締め・翌月何日に振込、など。未精算の残高を月ごとに確かめる
- 必要な書類:領収書、カード明細の該当部分、立替金精算書
- 確認する人:社長自身の立替は、経理担当者や会計を見てもらう人が中身を確認する
- 精算の方法:会社の口座から社長の口座へ振り込む(現金で渡すより記録が残る)
個人のカードを使う回数が多い場合は、会社名義のカードや口座での支払に切り替えると、立替そのものが減り、明細から私的な利用を選び出す手間もなくなります。
まとめ:分ける・計上する・書類で裏付ける
- 社長が払った支出のうち、会社の業務のための支出だけを会社の帳簿に入れます。個人的な費用を会社が負担すると、役員給与と同じ扱いになり得ます(法人税基本通達9-2-9)。
- 立て替えた時点で経費と「社長への未払金」を計上し、会社の口座から返した日に残高を消します。
- 領収書・カード明細・立替金精算書をそろえ、会社の書類として7年間(欠損金が生じた事業年度などは10年間)保存します。
- 宛名が社長個人のインボイスは、立替金精算書などで会社の仕入れであることを示します(インボイスQ&A 問94・問94-2)。
- 対象・締め日・書類・確認する人・精算方法を社内で決めておきます。
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よくある質問
Q. 社長のカード明細のうち、会社の分だけを経費にできますか?
A. できます。会社の業務のための支出だけを選んで会社の帳簿に計上し、私的な利用は入れません。明細には会社の分に印を付け、領収書と立替金精算書を合わせて保存しておきます。
Q. 立て替えた分を、何か月分かまとめて精算してもよいですか?
A. 精算の間隔は社内のルールで決めることになります。ただ、未精算の残高が大きくなるほど「どれが精算済みか」が追いにくくなります。支出した日に経費と未払金を計上しておき、締め日を決めて定期的に精算すると、残高と立替の明細を照らし合わせやすくなります。
Q. 社長が立て替えた分を返してもらわなくてもよいですか?
A. 返さない場合、その分は会社の負債(社長への未払金・役員借入金)として決算書に残り続けます。返すかどうか、いつ返すかを決めておき、決算書の残高と実際の未精算額が一致しているかを確かめてください。
Q. 社長が会社のカードで個人の買い物をしてしまいました。
A. 会社が社長の個人的な費用を負担したままにすると、法人税基本通達9-2-9が挙げる経済的な利益に当たり得ます。社長が会社へ返すのか、どう処理するのかを早めに決め、帳簿に記録を残してください。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月29日
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