家族が亡くなって生命保険金を受け取り、遺産とは別に税金がかかるのか気になっていませんか。亡くなった人が保険料を負担していた分は相続税の対象です。相続人が受け取った分には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
この記事では、非課税枠の計算と複数人で受け取った場合の分け方を、金額の例で確認します。相続放棄した人や孫が受け取る場合の違い、保険金以外の財産も含めて申告が必要か判断する流れまで分かります。
この記事の要点
- 被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税の対象です(相続税法3条1項1号)。遺産分割の対象にはなりません。
- 非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です(相続税法12条1項6号)。子2人なら1,000万円、配偶者と子2人なら1,500万円です。
- 枠は、相続人が受け取った保険金の合計に1つです。受取人が複数なら、受け取った額の割合で按分します。
- 相続放棄をした人や、相続人でない孫・内縁の妻などは、枠を使えません。ただし放棄した人も、人数には数えます。
- 子2人の家で預貯金1億円なら相続税は770万円、預貯金7,000万円と保険金3,000万円なら620万円です。
生命保険金に相続税がかかる仕組み|「みなし相続財産」とは
相続税は、亡くなった人から相続や遺贈で財産を取得した人にかかります。生命保険金は、亡くなった人の財産そのものではありません。受取人が保険会社から受け取るお金です。それでも相続税がかかるのは、相続税法3条1項1号が、一定の保険金を「相続または遺贈で取得したもの」とみなしているからです。
課税されるのは、亡くなった人が保険料を負担していた分です。式にすると次のとおりです。
課税される保険金=保険金の額×(被相続人が負担した保険料÷払い込まれた保険料の総額)
例:保険金3,000万円、払い込まれた保険料の総額1,000万円のうち、被相続人が負担したのが600万円だとします。みなし相続財産になるのは、3,000万円×600万円÷1,000万円=1,800万円です。
残りの部分は、保険料を負担した人が誰かによって、贈与税や所得税の問題になります(死亡保険金の税金は契約者で変わる|相続税・所得税・贈与税の3パターンで整理しています)。
根拠の条文(相続税法3条1項1号)は、課税される部分を次のように定めています。
「被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分」
相続人が受け取れば「相続」、それ以外なら「遺贈」
受取人が相続人であれば保険金を「相続により取得したもの」、相続人以外であれば「遺贈により取得したもの」とみなします(相続税法3条1項柱書)。この条文の「相続人」には、相続を放棄した人と相続権を失った人は含まれません。
ここが次の非課税枠と2割加算に直結します。相続放棄をした子が保険金を受け取ると、その保険金は「遺贈で取得したもの」として扱われ、非課税枠を使えません。
対象になる保険・ならない保険
- 生命保険(共済を含む)の死亡保険金:対象です。
- 損害保険の保険金:偶然な事故に基づく死亡に伴って支払われるものだけが対象です(相続税法3条1項1号)。たとえば、傷害保険の死亡保険金がこれにあたります。
- 年金で受け取る死亡保険金:一時金だけでなく、年金の方法で支払われる保険金も対象です(相続税法基本通達3-6)。国税庁は、年金を受け取る権利に対して相続税がかかると説明しています(タックスアンサーNo.1750)。
遺産分割の対象外|受取人が決まっている
国税庁のQ&Aは、被相続人が保険料を支払っていた生命保険金について、次のように説明しています。みなし相続財産であり本来の相続財産ではないため、遺産分割の対象とはならず、契約上の受取人が取得したものとして相続税の対象になります。
そのため、遺産分割協議で「保険金は兄弟で等分しよう」と話し合っても、税金の計算は契約上の受取人を基準に行われます。契約上の受取人以外の人が保険金を受け取った場合は、その人は契約上の受取人から贈与を受けたことになります。たとえば、受取人である子がいったん保険金を受け取り、話し合って母に渡した場合は、子から母への贈与となり、贈与税の対象です。
ただし、契約上の受取人以外の人が現実に保険金を取得していることがあります。受取人の変更手続きがされていなかったことにやむを得ない事情があるなど、取得に相当な理由があるときは、その人を保険金受取人として扱う取扱いもあります(相続税法基本通達3-12)。迷う場合は、事実関係を整理して専門家に確認してください。
相続税になるかは4つの立場で決まる|契約者の名義だけで判断しない
死亡保険金に関わる立場は、契約者・被保険者(保険の対象になっている人)・保険料の負担者・受取人の4つです。国税庁は、被保険者・保険料の負担者・受取人が誰かによって、所得税・相続税・贈与税のいずれかの対象になると説明しています(タックスアンサーNo.1750)。
| 被保険者 | 保険料の負担者 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| 亡くなった人 | 亡くなった人 | 相続人 | 相続税(この記事の対象) |
| 亡くなった人 | 受取人と同じ人(自分で負担) | 保険料の負担者と同じ人 | 所得税(一時所得など) |
| 亡くなった人 | 受取人でも被保険者でもない第三者 | 負担者とは別の人 | 贈与税 |
注意したいのは、条文が「契約者」ではなく「保険料を負担した人」で書かれていることです(相続税法3条1項1号・5条1項)。契約者の名義が子や配偶者になっていても、実際に保険料を出していたのが亡くなった人であれば、相続税の対象になる部分が出てきます。逆に、契約者が亡くなった人でも、保険料を実際に負担していたのが別の人であれば、その部分は相続税の対象にならないことがあります。
保険料を誰が負担していたかは、保険料の引き落とし口座の名義と、その口座に入ったお金の出どころで確かめます。名義だけでは決まらないため、証券と通帳をそろえて確認することが出発点になります。
非課税枠「500万円×法定相続人の数」の計算
相続人が受け取った死亡保険金には、非課税枠があります。非課税限度額は次の式で決まります(相続税法12条1項6号)。
保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数
法定相続人の数は、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)と同じ数え方です。人数別の非課税限度額は次のとおりです。
| 法定相続人の数 | 非課税限度額 | 家族の例 |
|---|---|---|
| 1人 | 500万円 | 子1人/配偶者だけ |
| 2人 | 1,000万円 | 子2人/配偶者と子1人 |
| 3人 | 1,500万円 | 子3人/配偶者と子2人 |
| 4人 | 2,000万円 | 子4人/配偶者と子3人 |
| 5人 | 2,500万円 | 子5人/配偶者と子4人 |
| 6人 | 3,000万円 | 子6人/配偶者と子5人 |
条文は、この限度額を「五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額」と書いています。
人数の数え方で気をつける3点
- 相続放棄した人も数える:放棄があった場合は、放棄がなかったものとした場合の相続人の数で計算します(相続税法15条2項)。
- 養子の数には上限がある:実子がいるときは1人、いないときは2人までです。特別養子や配偶者の連れ子の養子などは、実子とみなして全員数えます(相続税法15条2項・3項)。
- 孫は、代襲相続人か養子のときに数える:亡くなった子に代わって相続人になった孫(代襲相続人)は数えます。孫が被相続人の養子なら、養子の上限の範囲で数えます。
子が健在で、孫が養子にもなっていない場合は、保険金の受取人になっただけでは数えません(国税庁No.4170)。
数え方の詳しい判定は、相続税の基礎控除|3,000万円+600万円×法定相続人の数え方と人数別の早見と相続税の法定相続人|範囲・順位と、養子・相続放棄・代襲相続の数え方にまとめています。
枠は「相続人が受け取った保険金の合計」に1つ
非課税枠は、受取人1人ずつに500万円×人数が付くわけではありません。亡くなった人の全ての相続人が受け取った保険金を合計し、その合計と非課税限度額を比べます。
- 合計が非課税限度額以下なら、受け取った保険金は全額が非課税です。
- 合計が非課税限度額を超えるなら、「非課税限度額×(その人が受け取った保険金÷全員の保険金の合計)」が、その人の非課税額です。
条文は、後者を「当該保険金の非課税限度額に当該合計額のうちに当該相続人の取得した保険金の合計額の占める割合を乗じて算出した金額」と書いています(相続税法12条1項6号ロ)。非課税額を超えた部分は、その人の課税価格に加わり、他の財産と合わせて基礎控除と比べます。
受取人が複数・相続放棄・相続人以外の場合の計算
複数の相続人が受け取った場合の按分
例:配偶者と子2人(長男・次男)が相続人です。保険金は合計3,000万円で、配偶者が2,000万円、長男が1,000万円を受け取りました(次男は受け取っていません)。法定相続人は3人なので、非課税限度額は1,500万円です。受取額の合計3,000万円が限度額を超えるため、按分します。
| 受取人 | 受け取った保険金 | 非課税額 | 課税価格に入る額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 2,000万円 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 長男 | 1,000万円 | 500万円 | 500万円 |
| 合計 | 3,000万円 | 1,500万円 | 1,500万円 |
配偶者の非課税額は1,500万円×2,000万円÷3,000万円で1,000万円、長男は1,500万円×1,000万円÷3,000万円で500万円です。受け取っていない次男が、自分の枠として500万円を使うことはできません。
相続放棄した人が受取人の場合
相続放棄をした人は、民法上は初めから相続人でなかったものとして扱われます。そのため、放棄した人が保険金を受け取ると、その保険金は「遺贈により取得したもの」とみなされ、非課税枠を使えません(相続税法3条1項柱書・12条1項6号)。一方で、基礎控除や非課税限度額の人数には、放棄がなかったものとして数えます。
数字で見てみます。例:配偶者と子2人(長男・次男)が相続人で、他の財産6,000万円は配偶者が全部取得します。保険金1,000万円の受取人は次男です。次男が相続を放棄した場合と、放棄しなかった場合を比べます。
| 項目 | 次男が放棄した | 次男が放棄しなかった |
|---|---|---|
| 法定相続人の数(基礎控除の人数) | 3人 | 3人 |
| 保険金の非課税額 | 0円 | 1,000万円 |
| 課税価格の合計 | 7,000万円 | 6,000万円 |
| 基礎控除 | 4,800万円 | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 2,200万円 | 1,200万円 |
| 相続税の総額 | 225万円 | 120万円 |
| 次男の納付税額 | 32万1,400円 | 0円 |
| 配偶者の納付税額 | 0円(配偶者の税額軽減) | 0円(配偶者の税額軽減) |
放棄をした場合、保険金1,000万円がそのまま課税価格に入り、次男に税金が生じました。次男は被相続人の子(一親等の血族)なので、2割加算はありません。
相続放棄をするかどうかは、相続税だけでは決められません。借金の有無など、放棄の判断に必要なことは別にあります。相続放棄と保険金の関係は、相続放棄と相続税|放棄しても死亡保険金は受け取れる?基礎控除の人数は?で整理しています。
孫など相続人以外が受取人の場合
受取人が相続人以外の場合も、非課税枠は使えません。さらに、被相続人の一親等の血族と配偶者以外の人が取得した場合は、相続税額が2割増しになります(相続税法18条)。孫は一親等の血族ではないため、孫が受け取った保険金には、原則として2割加算がかかります。亡くなった子に代わって相続人になった「代襲相続人」である孫は例外で、2割加算の対象外です。
孫が被相続人の養子になっている場合は、相続人なので非課税枠は使えますが、代襲相続人でなければ2割加算の対象です。
例:子2人(配偶者はなし)が相続人です。他の財産5,000万円は子が2,500万円ずつ取得し、保険金1,000万円の受取人は孫(子は健在)です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 課税価格の合計(子2,500万円×2+孫1,000万円) | 6,000万円 |
| 基礎控除(法定相続人2人) | 4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 1,800万円 |
| 相続税の総額 | 180万円 |
| 子1人の納付税額 | 75万円 |
| 孫の算出税額(総額180万円×1,000万円÷6,000万円) | 30万円 |
| 孫の2割加算額 | 6万円 |
| 孫の納付税額 | 36万円 |
場面別の早見表|受取人の立場で何が変わるか
受取人の立場ごとに、非課税枠・人数・2割加算がどう扱われるかを並べました。
| 受取人 | 非課税枠 | 基礎控除などの人数 | 2割加算 |
|---|---|---|---|
| 配偶者・子(相続人) | 使える | 数える | なし |
| 相続放棄をした子 | 使えない(遺贈とみなされる) | 数える | なし(一親等の血族) |
| 代襲相続人の孫 | 使える | 数える | なし |
| 子が健在の孫(養子ではなく、相続人でない) | 使えない | 数えない | あり |
| 孫養子(代襲相続人でない) | 使える | 養子の上限の範囲で数える | あり |
| 兄弟姉妹(相続人の場合) | 使える | 数える | あり |
| 内縁の妻・友人 | 使えない | 数えない | あり |
内縁関係の人は、民法上の相続人に含まれません(国税庁No.4132)。内縁の妻を受取人にできるかどうかは保険会社の取扱いによりますが、受取人として保険金を受け取った場合、税の面では相続人以外の人として扱われます。受取人が相続人以外の場合は、遺贈の相続税|相続人以外(孫・内縁の妻・友人・法人)が財産を受け取る時の税金も参照してください。
保険金があるときとないときの相続税を比べる
非課税枠が効くと、相続税の計算の出発点(課税価格の合計)が小さくなります。同じ1億円の財産でも、預貯金1億円のままの家と、預貯金7,000万円と保険金3,000万円に分かれている家とでは、相続税が変わります。
以下の金額は、当事務所の無料の相続税シミュレーターと同じ計算で出したものです。保険金も他の財産も、法定相続分どおりに取得したと仮定しています。債務・葬式費用・特例はなしです。
配偶者と子2人の場合(基礎控除4,800万円・非課税限度額1,500万円)
| 項目 | 預貯金のみ1億円 | 預貯金7,000万円+保険金3,000万円 |
|---|---|---|
| 保険金の非課税額 | 0円 | 1,500万円 |
| 課税価格の合計 | 1億円 | 8,500万円 |
| 課税遺産総額 | 5,200万円 | 3,700万円 |
| 相続税の総額 | 630万円 | 412万5,000円 |
| 納付税額の合計(配偶者の税額軽減後) | 315万円 | 206万2,400円 |
子2人の場合(基礎控除4,200万円・非課税限度額1,000万円)
| 項目 | 預貯金のみ1億円 | 預貯金7,000万円+保険金3,000万円 |
|---|---|---|
| 保険金の非課税額 | 0円 | 1,000万円 |
| 課税価格の合計 | 1億円 | 9,000万円 |
| 課税遺産総額 | 5,800万円 | 4,800万円 |
| 相続税の総額 | 770万円 | 620万円 |
| 納付税額の合計 | 770万円 | 620万円 |
保険金の額を500万円・1,000万円・3,000万円の3段階に変え、家族構成と他の財産も変えた表は、死亡保険金の税金シミュレーション|500万・1,000万・3,000万円の場合にあります。
預貯金を一時払いの終身保険に替えた場合の見方は、一時払い終身保険の相続対策|非課税枠を使う効果と注意点で扱います。
保険金3,000万円のうち、非課税枠を超えた部分(配偶者と子2人で1,500万円、子2人で2,000万円)は課税価格に入ります。枠に収まる範囲では、保険金は課税価格を増やしません。この表は、保険に入ることや預貯金を保険に替えることを勧めるものではありません。ほかの財産の評価、保険料の負担、解約返戻金の有無など、条件が変われば結果も変わります。
保険金だけで相続税がかかるかが変わる境目
子2人(基礎控除4,200万円・非課税限度額1,000万円)の家で、保険金3,000万円を受け取ったとします。
- 他の財産が2,000万円なら、課税価格の合計は2,000万円+(3,000万円−1,000万円)=4,000万円です。基礎控除4,200万円以下なので、相続税はかからず、申告も要りません。
- 他の財産が3,000万円なら、課税価格の合計は5,000万円で、基礎控除を800万円超えます。相続税の総額は80万円です。
保険金の額が同じでも、他の財産が1,000万円違うだけで、相続税がかかるかどうかが分かれます。保険金から非課税額を引いた残りを、他の財産に足して基礎控除と比べる、という順番を覚えておくと迷いません。
相続税の申告・納付の中での保険金の位置づけ
申告が必要かは「非課税後の保険金+他の財産」で判定する
相続税の申告が必要なのは、課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合です(相続税法27条1項)。保険金は、非課税枠を差し引いた後の金額を課税価格に入れて判定します。保険金が全額非課税に収まっても、他の財産が基礎控除を超えていれば、申告は必要です。
申告書では、保険金の明細を第9表「生命保険金などの明細書」に書きます(国税庁No.4114)。保険会社から届く支払通知書や保険証券の写しを手元に置いておくと、記入がスムーズです。
配偶者が受け取った保険金と税額軽減
配偶者が受け取った保険金も、配偶者が取得した財産として課税価格に入ります。配偶者の税額軽減は、「1億6千万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い額までの取得なら、納付税額が生じない仕組みです(相続税法19条の2)。ただし、軽減を受けるには、申告書に適用を受ける旨と計算の明細を書き、必要な書類を添付する必要があります(同条3項)。軽減の詳細は配偶者の税額軽減|1億6千万円まで相続税がかからない仕組みと注意点で解説しています。
2割加算
被相続人の一親等の血族(子・父母)と配偶者以外が保険金を受け取ると、その人の相続税額に2割が加算されます(相続税法18条)。兄弟姉妹、孫(代襲相続人を除く。孫養子も代襲相続人でなければ対象)、内縁の妻、友人などが対象です。詳しくは相続税の2割加算|対象になる人(兄弟姉妹・甥姪・孫養子・遺贈を受けた人)と計算例にあります。
納付は申告期限までに
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。納付も、申告書の提出期限までに行います(相続税法33条)。保険金は受取人が現金で受け取るため、相続税の納付に充てることもできます。ただし、保険金を受け取った人と、税額の大きい人が同じとは限りません。税額は人ごとに計算されるので、各人の納税額と手元の資金を見比べておくと安心です。
自分の家に当てはめる5つの手順|保険金を含めた計算の流れ
ここまでの内容を、1つの家族の数字で最後まで通します。例:配偶者と子2人(長男・次男)が相続人です。預貯金などの他の財産が4,500万円、死亡保険金が2,000万円で、保険料は全額を亡くなった人が負担していました。受取人は相続人です。
| 手順 | やること | この例の結果 |
|---|---|---|
| 1 | 保険料の負担者から、みなし相続財産になる保険金を出す | 全額負担のため2,000万円 |
| 2 | 法定相続人の数から、非課税限度額を出す | 3人×500万円=1,500万円 |
| 3 | 保険金から非課税額を引き、課税価格に入る額を出す(受取人が複数なら按分) | 2,000万円−1,500万円=500万円 |
| 4 | 他の財産に足して、課税価格の合計を出す | 4,500万円+500万円=5,000万円 |
| 5 | 基礎控除を引いて、課税遺産総額と相続税の総額を出す | 基礎控除4,800万円、課税遺産総額200万円、相続税の総額20万円 |
この例では、課税価格の合計5,000万円が基礎控除4,800万円を超えるため、申告が必要です。法定相続分どおりに取得した場合、配偶者の税額軽減を使うと、納付税額の合計は10万円です。保険金が1,500万円以下なら、保険金は全額非課税で、課税価格の合計は4,500万円となり、基礎控除以下に収まります。
手順3で受取人ごとに按分する場合は、先ほどの「複数の相続人が受け取った場合の按分」の式を使います。手順1で保険料の負担者が複数いる場合は、被相続人の負担割合を掛けた後の額が、手順2以降の対象です。
契約者が亡くなった場合と、年金で受け取る場合
被保険者が別の人で、保険契約が続く場合
亡くなったのが契約者であって、被保険者(保険の対象となっている人)はまだ生きている場合は、保険金はまだ下りていません。この場合は、保険契約に関する権利そのものが相続の対象になります。
- 被相続人が契約者の場合:契約に関する権利は、相続開始の時に解約したとした場合の解約返戻金の額などで評価します(財産評価基本通達214)。
- 被相続人が保険料を負担し、契約者が別の人の場合:保険事故がまだ発生していない契約が対象です。被相続人が負担した保険料の割合に応じた部分を、契約者が相続または遺贈で取得したものとみなします(相続税法3条1項3号)。
どちらも死亡保険金とは別の計算になり、保険金の非課税枠は使えません。保険証券で「契約者」と「被保険者」が誰かを確認してください。
死亡退職金は別の枠
会社から遺族に支払われる死亡退職金にも、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(相続税法12条1項7号)。保険金の枠とは別に使えます。3年の数え方や弔慰金の扱いは、死亡退職金の相続税|非課税枠と弔慰金、亡くなってから3年を過ぎて支給された時で説明しています。
墓地・仏壇など、ほかに相続税がかからない財産は、相続税がかからない財産|墓地・仏壇・生命保険金・死亡退職金・弔慰金の非課税にまとめています。
年金形式で受け取る場合
死亡保険金を年金で受け取る契約の場合、年金を受け取る権利に相続税がかかります(相続税法基本通達3-6、国税庁No.1750)。毎年の年金にかかる所得税は、年金の収入金額を非課税部分と課税部分に分けて計算する別のルールがあり、受け取り方によって取扱いが変わります。年金で受け取る契約は、保険会社と税務署に確認してから手続きを進めてください。
よくある誤りとチェックリスト
よくある誤り
| 思い込み | 実際 |
|---|---|
| 契約者の名義が子なら、子のお金だから課税されない | 課税されるのは「被相続人が負担した保険料」の部分です。名義ではなく、実際の負担で決まります(相続税法3条1項1号)。 |
| 非課税枠は、受取人1人ずつに500万円×人数が付く | 枠は、相続人が受け取った保険金の合計に対して1つです(相続税法12条1項6号)。 |
| 相続放棄をしても枠は使える | 放棄した人は相続人に含まれず、枠は使えません。人数には数えます(相続税法3条1項・15条2項)。 |
| 枠に収まるなら、相続税の申告は不要 | 保険金が全額非課税でも、他の財産が基礎控除を超えていれば申告は必要です(相続税法27条1項)。 |
| 保険金は遺産分割協議で分け方を決める | 受取人は契約で決まっています。いったん受け取った後に渡すと、贈与になります(国税庁No.4114)。 |
| 孫を受取人にすれば、枠を使える | 相続人でない孫は枠を使えず、2割加算の対象です。孫が養子になっていれば枠は使えますが、代襲相続人でなければ2割加算の対象です(相続税法12条・18条、国税庁No.4157)。 |
保険証券・通知書で確認する項目
- 契約者・被保険者・受取人は誰か(保険証券)。
- 保険料を実際に負担していたのは誰か(引き落とし口座の名義と、その口座の資金の出どころ)。
- 払い込まれた保険料の総額と、そのうち被相続人が負担した額(保険会社の証明書など)。
- 受け取る保険金の額と、一時金か年金か(支払通知書)。
- 法定相続人の数(放棄・養子・代襲を反映した人数)。
- 受取人が相続人か、放棄した人か、相続人以外か。
この6点がそろうと、相続税がかかるか、非課税額がいくらか、2割加算があるかを、上の表に当てはめて確認できます。
令和9年度の税制改正要望|死亡保険金の非課税枠(要望の段階)
要望の段階であり、決まったものではありません。金融庁は、令和9年度の税制改正要望で、死亡保険金の相続税非課税限度額について、現行の「法定相続人数×500万円」に「配偶者及び未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを求めています。この記事の計算は、2026年10月時点の現行の法律に基づいています。
要望が実現するかどうか、実現した場合の適用開始日や経過措置は、現時点では分かりません。税制改正大綱や成立した法律が出たときは、その内容で確認し直す必要があります。
よくある質問
Q1. 生命保険金を受け取ったら、相続税の申告が必要ですか?
保険金の非課税額を差し引いた後の金額に他の財産を足した課税価格の合計が、基礎控除を超えるかどうかで決まります。合計が基礎控除以内であれば、申告も納税も要りません(相続税法27条1項)。ただし、特例を使う前の合計が基礎控除を超えていて、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額が0円になる場合は、申告自体が特例の要件になっています。
Q2. 非課税枠は、基礎控除とは別に使えますか?
別です。基礎控除は、課税価格の合計額から引く金額で、遺産全体にかかります。保険金の非課税枠は、相続人が受け取った保険金だけから引く金額です。保険金の非課税枠を引いた後の金額を課税価格に入れ、そこから基礎控除を引く、という順番になります。
Q3. 受取人を変えると、税金は変わりますか?
変わることがあります。受取人が相続人であれば非課税枠を使え、相続人以外なら使えず、さらに2割加算がかかる場合があります。ただし、受取人の変更は、税金だけでなく、家族の生活設計や契約上の手続きにも関わります。どの受取人が有利かは、財産の総額と家族構成で変わるため、試算して比べることが必要です。
Q4. 相続放棄をしても、保険金の非課税枠は使えますか?
使えません。放棄した人が受け取った保険金は、遺贈により取得したものとみなされるためです。ただし、基礎控除や非課税限度額の人数には、放棄がなかったものとして数えます。
保険金そのものを受け取れるか、どう手続きするかは別の論点です。相続放棄と相続税|放棄しても死亡保険金は受け取れる?基礎控除の人数は?で扱っています。
Q5. 保険料を夫婦で出し合っていた場合はどうなりますか?
被相続人が負担した割合に応じた部分だけが、みなし相続財産になります(相続税法3条1項1号)。残りの部分は、保険料を負担した人と受取人の関係によって、所得税または贈与税の対象です。払込総額と負担者ごとの金額が分かる資料をそろえて、部分ごとに確認します。
まとめ
- 死亡保険金は、被相続人が保険料を負担していた部分が「みなし相続財産」として相続税の対象になります。遺産分割の対象ではなく、受取人が受け取ります。
- 非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で、相続人が受け取った保険金の合計に1つです。複数人で受け取ったら、受取額の割合で按分します。
- 相続放棄をした人・孫・内縁の妻などの相続人以外には、枠を使えません。放棄した人も、人数には数えます。
- 枠を使った後の保険金に他の財産を足して基礎控除と比べます。同じ財産額でも、枠の分だけ課税価格が小さくなります。
- 契約者の名義だけでは判断できません。保険証券と通帳を並べて、保険料の負担者・受取人・人数を確認することが、計算の出発点です。
保険金の非課税枠は、保険金の受取人をどう決めるかで使い方が変わります。無料の相続税シミュレーターでは、保険金を含めた遺産の分け方ごとの税額と二次相続を比べられます。
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監修
本記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
参考にした法令・資料
- 相続税法:3条1項(みなし相続財産・1号保険金・3号生命保険契約に関する権利)、5条1項(贈与により取得したものとみなす場合)、12条1項6号(保険金の非課税)
- 相続税法(続き):15条(基礎控除・相続人の数)、18条(2割加算)、19条の2(配偶者の税額軽減)、27条1項(申告書)、33条(納付)
- 相続税法基本通達3-6(年金で受け取る保険金)・3-11・3-12(保険金受取人)・3-13(被相続人が負担した保険料)・3-16(保険料の負担者が被相続人以外の者である場合)
- 財産評価基本通達214(生命保険契約に関する権利の評価)
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金(契約上の受取人以外の人が受け取った場合)
- 国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
- 国税庁 No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
- 国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき
- 国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 金融庁 令和9年度税制改正要望事項「死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ」
この記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいて書いています。
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