帳簿をつけていない期間があると、税務調査で税金をどう計算されるのか不安になりますよね。実際の所得が確認できないと、税務署が事業の規模などから所得を推し量る「推計課税」を行うことがあります。まずは通帳や請求書など、取引を裏付ける資料を集めることが出発点です。
この記事では、推計課税の仕組みと青色申告との関係、帳簿がない場合の影響を整理します。残っている明細や書類から、帳簿を作り直す手順も紹介します。
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推計課税とは:条文に書かれていること
推計課税は、税務署長が更正や決定をする場面で使える方法です。納税者が自分で申告する方法ではありません。個人と法人で根拠の条文が分かれていますが、推計の手がかりとして挙げられているものは共通です。
| 項目 | 個人(所得税) | 法人(法人税) |
|---|---|---|
| 根拠 | 所得税法156条 | 法人税法131条 |
| 使う場面 | 税務署長が更正または決定をする場合 | 税務署長が更正または決定をする場合 |
| 推計の手がかり | 財産・債務の増減の状況、収入・支出の状況、生産量・販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模 | 同じ |
| 推計できないもの | 本人が出した青色申告書に係る年分の不動産所得・事業所得・山林所得(その損失を含む) | 青色申告書に係る法人税の課税標準・欠損金額の更正 |
条文が挙げる手がかりを言い換えると、次のような見方になります。財産と債務の増減からは、1年の間に預金や資産がどれだけ増え、借入れがどれだけ減ったかを見て、そこから所得を逆算します。収入と支出の状況からは、口座の入出金や生活費の支出から収入の規模を見ます。取扱量や従業員数からは、仕入れた材料の量や働いている人の数から、売上の規模を見積もります。
いずれも、本来の帳簿と証拠書類で所得を計算できないときの代わりの方法です。推計された所得が実際より大きいか小さいかは、事業の実態によって変わります。実際より大きく推計されたと考える場合に、それを覆すのは取引の記録です。帳簿がない状態のままでは、反論の材料も残っていないことになります。
青色申告の場合:推計の対象外だが、承認が取り消されると変わる
青色申告をしている場合、推計課税の扱いが変わります。個人では、所得税法156条の括弧書きで、本人が出した青色申告書に係る年分の不動産所得・事業所得・山林所得は推計の対象から除かれています。法人では、法人税法131条で、青色申告書に係る法人税の課税標準や欠損金額の更正をする場合が除かれています。
ただし、これは青色申告の承認が続いている場合の話です。青色申告の承認は、次のような事実があると、その年(法人はその事業年度)まで遡って取り消されることがあります。取り消されると、その年分以後に出した青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされます。
| 取消しの事由 | 個人(所得税法150条1項) | 法人(法人税法127条1項) |
|---|---|---|
| 帳簿書類の備付け・記録・保存が財務省令のとおりに行われていない | 1号 | 1号 |
| 帳簿書類について税務署長の指示に従わなかった | 2号 | 2号 |
| 帳簿書類に取引を隠蔽・仮装して記載した、または記載全体の真実性を疑う相当の理由がある | 3号 | 3号 |
| 確定申告書を提出期限までに提出しなかった | 規定なし | 4号 |
つまり、青色申告の承認を受けていても、帳簿を備え付けていない・保存していない状態は、承認の取消しの事由になり得ます。取消しの判断は税務署長が個別に行うため、帳簿がなければ必ず取り消されるとまでは言えませんが、「青色申告だから推計はされない」と考えるのは危険です。
帳簿がないことで起きる不利益
帳簿や証拠書類がない場合の不利益は、所得の計算だけにとどまりません。法人も個人事業主も、主に次の4つが重なります。
| 不利益 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 推計課税 | 税務署長が更正・決定をするとき、事業の規模などから所得を推計する | 所得税法156条・法人税法131条 |
| 消費税の仕入税額控除 | 一般課税の場合、帳簿と請求書等の両方を保存していない課税仕入れの消費税額は控除できない(災害その他やむを得ない事情で保存できなかったことを証明した場合を除く) | 消費税法30条7項 |
| 加算税の加重 | 調査で売上に関する帳簿を示さない、または売上の記載が本来の金額の2分の1未満なら10%、3分の2未満なら5%、過少申告加算税・無申告加算税が加重される | 国税通則法65条4項・66条5項 |
| 青色申告の承認取消し | 帳簿書類の備付け・記録・保存が定めのとおりでないと取り消されることがある | 所得税法150条・法人税法127条 |
一般課税(原則課税)で仕入れや経費にかかった消費税を差し引くには、帳簿と請求書等の両方の保存が要ります(国税庁タックスアンサーNo.6496)。簡易課税や2割特例で計算する課税期間は、売上の消費税額から仕入れ分を計算するため、この保存要件で控除額が左右されることはありません。一般課税で帳簿がなければ、所得の計算では経費として説明できたとしても、消費税の計算では控除できない部分が出ます。
加算税の加重は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する申告所得税・法人税・消費税に適用されています。加重されるのは加算税の割合で、本税の割合が上がるわけではありません。帳簿を示せなかったことや記載が不十分だったことが、災害その他やむを得ない事情によるもので、納税者の責めに帰すべき事由がない場合は加重されません。
国税庁が「帳簿」として扱う範囲
「帳簿がない」と言っても、何も記録がないとは限りません。ノートに売上を書いている、請求書の控えは残っている、通帳に入金がまとまっている、という状態もあります。国税庁の「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置に関するQ&A」は、加重措置の判定で何を「売上げに関する調査に必要な帳簿」として扱うかを例で示しています。
| 手元にあるもの | 加重措置での扱い(国税庁Q&A) |
|---|---|
| 日々の売上の合計だけを書いたノート | 原則として帳簿と認められない。請求書の控えなども保存され、個々の取引の相手方・金額が分かる場合は帳簿として扱う |
| 売上・仕入れ・経費の毎月の合計を整理したメモ | 原則として帳簿と認められない |
| 袋や箱にまとめて入れただけの請求書・領収書の控え | 帳簿と認められない |
| 年月日・相手方・金額が分かる請求書の控えを日付順に整理したもの | 帳簿に相当する規則性があれば帳簿として扱う |
| 家賃収入だけが振り込まれる事業専用の口座の通帳 | 摘要などから賃貸期間・賃借人が分かる場合は売上帳に相当するものとして扱う |
この扱いは加算税の加重措置についてのものです。国税庁Q&Aも、帳簿として扱われた場合でも、記載すべき事項の一部が欠けているため各種の特典が受けられないことがあると注意しています。青色申告の帳簿の要件や消費税の帳簿の記載事項を満たしていることとは別の話です。
帳簿を作り直す手順:通帳・カード明細・請求書から
帳簿がない期間について申告をやり直す、または調査に備える場合は、残っている記録から取引を1件ずつ起こし直します。帳簿書類の保存期間は、法人は確定申告書の提出期限の翌日から7年間(青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度などは10年間。国税庁タックスアンサーNo.5930)、個人の白色申告者は書類が5年間・記帳制度に基づいて作成した帳簿が7年間です。この期間の分は、作り直した帳簿と元の資料をそろえて保存します。
- 事業で使った口座とクレジットカードをすべて書き出す。個人の口座で事業の入出金をしていた場合も含める。
- 各口座の取引明細とカードの利用明細を、対象の期間の分そろえる。手元にない期間は金融機関やカード会社に依頼する。
- 入金を、売上とそれ以外(口座間の移動、借入れ、個人的な入金)に分ける。売上は請求書の控えや取引先の支払明細と突き合わせる。
- 出金を、経費、仕入れ、借入れの返済、設備などの購入、個人的な支出に分ける。
- 通帳に出てこない現金の売上と現金の支払いを、請求書の控え、レシート、予約表や日報などで補う。
- 相手方が分からない入出金を一覧にし、取引先への問い合わせで埋める。
- すべての取引を日付順に、年月日・相手方・金額・内容が分かる形で帳簿(会計ソフトなど)に入力し、元の資料と一緒に保存する。
作り直した帳簿は、元の資料と結び付いていることで意味を持ちます。通帳の入金1件ごとに請求書の控えがある、カード明細の1行ごとに領収書や利用目的のメモがある、という対応関係を残しておくと、後から説明ができます。領収書の一部をなくした場合の扱いは「領収書をなくしたら経費にならない?」で扱っています。
後から作った帳簿や記録がどこまで認められるかは、裏付けとなる資料の量と質で変わります。調査がすでに始まっている場合は、作り直しの範囲と順番を、調査の進み方に合わせて決める必要があります。税務調査で税務署に対して納税者の代わりに主張や説明をすることは税務代理として税理士の業務なので、その段階では税理士に相談するのが通常の進め方です。
まとめ:帳簿がない状態は推計だけでなく複数の不利益を招く
- 推計課税は、税務署長が更正・決定をするときに、財産・債務の増減、収入・支出、取扱量、事業の規模から所得を推計する方法(所得税法156条・法人税法131条)。
- 青色申告書に係る事業所得など(個人)や青色申告書に係る法人税の更正(法人)は推計の対象外。ただし帳簿の不備は青色申告の承認取消しの事由になる。
- 帳簿がないと、消費税の仕入税額控除が受けられない(一般課税の場合)、加算税が5%または10%加重されるといった不利益が重なる。
- 加重措置では、整理された請求書の控えや事業専用口座の通帳が帳簿として扱われる場合がある。
- 作り直すときは、口座・カードの明細と請求書の控えから取引を日付順に起こし、元の資料と対応させて保存する。
どの資料から何年分を作り直せるかは、残っている記録しだいなので、まず口座とカードの一覧を作るところから始めてください。
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よくある質問
Q. 推計課税で決められた税額に納得できないときはどうしますか?
税務署長の更正や決定は国税に関する処分なので、不服がある場合は、その税務署長への再調査の請求か、国税不服審判所長への審査請求を選んで申し立てることができます(国税通則法75条)。期間は原則として処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内です(同法77条)。その際も、推計が実態と違うことを示すのは取引の記録です。
Q. 白色申告でも帳簿をつける必要はありますか?
あります。不動産所得・事業所得・山林所得のある人は、白色申告でも記帳と帳簿書類の保存が必要で、確定申告書には収支内訳書などを添付します(国税庁タックスアンサーNo.2080)。日々の合計金額をまとめて記載するなどの簡易な方法も認められていますが、加算税の加重措置では、合計だけのノートは請求書の控えなどで個々の取引の相手方と金額が分かる場合に限って帳簿として扱われます。
Q. 災害で帳簿や領収書をなくした場合も不利になりますか?
加算税の加重は、災害その他やむを得ない事情で帳簿を示せなかった場合など、納税者の責めに帰すべき事由がない場合は適用されません。消費税の仕入税額控除も、災害その他やむを得ない事情で保存できなかったことを証明した場合は保存要件の例外になります。いずれも罹災証明書などで事情を示すことが前提です。
Q. 法人で帳簿がない場合も、個人と同じ扱いですか?
推計課税の手がかりは同じですが、根拠は法人税法131条です。法人は確定申告書の提出期限の翌日から7年間、帳簿と書類の保存が必要で、青色申告の承認取消しの事由には、確定申告書を提出期限までに出さなかったことも含まれます。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月28日
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