税務調査の立会いを頼むなら、国税OBの税理士がよいのか迷っていませんか。調査で使える権限は他の税理士と同じで、経験の生き方は担当してきた税金の種類や分野で変わります。経歴だけで決めず、自社の調査に近い経験や、依頼できる範囲を確かめましょう。
この記事では、経験が役立ちやすい場面と限界、依頼前の確認点を整理します。内容はe-Gov法令検索『税理士法』と、国税庁『税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)』に基づきます。
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「国税OBの税理士」とは:資格の取り方の違い
「国税OB」は、国税局や税務署で働いたあとに税理士登録をした人を指す通称です。税理士法に「国税OB」という区分はありません。税理士法3条が定める税理士の資格は、税理士試験に合格した人、試験科目の全部を免除された人、弁護士、公認会計士の4つです。国税OBが税理士になる経路の1つが、2つ目の「試験科目の免除」です。
試験科目の免除は税理士法8条に定められていて、国税の事務に従事した年数と事務の種類で、免除される科目が決まります。
| 税理士法8条1項 | 従事した事務と年数 | 免除される科目 |
|---|---|---|
| 4号 | 所得税・法人税・相続税・贈与税・消費税・酒税の賦課、またはこれらの法律の立案の事務に通算10年以上 | 税法に属する科目のうち国税に関するもの |
| 5号 | 国税に関する事務のうち4号以外の事務に通算15年以上 | 税法に属する科目のうち国税に関するもの |
| 10号 | 管理・監督などの職に通算5年以上、かつ4号〜6号の事務に通算23年以上などの年数を満たし、国税審議会の指定した研修を修了 | 会計学に属する科目 |
試験合格や科目免除で資格を得た人は、さらに税務や会計の事務に通算2年以上従事していることが必要です(3条1項ただし書)。そのうえで日本税理士会連合会に備える税理士名簿に登録を受けて、はじめて税理士になります(18条・19条)。登録したあとは、試験に合格して税理士になった人と同じ税理士です。
この表から分かるのは、国税OBといっても経験の中身が一人ずつ違うということです。法人税の調査を長く担当した人もいれば、所得税や相続税の担当が長い人、4号に当たらない国税の事務が中心だった人もいます。
立会いで税理士ができること:経歴で変わらない部分
税理士法2条は、税務代理を「税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること」を含むものとして定めています。調査の場で会社の代わりに説明し、意見を述べるのは、この税務代理です。税理士または税理士法人でない人は、税理士業務を行えません(52条)。
税務代理をする税理士は、権限を証する書面(税務代理権限証書)を税務署に出します(30条)。この書面を出しているかどうかで、調査の手続の中で税理士が受け取るものが変わります。
| 場面 | 税理士が関われること | 根拠 |
|---|---|---|
| 事前通知 | 税務代理権限証書を出している税理士にも、調査の日時・場所が通知される。会社の同意があれば、通知は税理士だけにすることもできる | 税理士法34条、FAQ問14 |
| 税理士が複数いる場合 | 代表する税理士を定めれば、税理士への通知はその税理士だけにできる(会社への通知を省くには、問14の同意が別に要る) | 税理士法34条3項、FAQ問15 |
| 日程の調整 | 会社や税務代理人の都合・繁閑に配慮して調整される。事前通知のあとも、事情があれば変更を協議できる | FAQ問16 |
| 書面添付をした申告 | 事前通知の前に、税理士が添付書面の内容について意見を述べる機会が与えられる | 税理士法33条の2、35条 |
| 調査結果の説明 | 原則は会社に説明されるが、会社の同意があれば税理士だけに説明することもある。税理士の同席も可能 | FAQ問27 |
これらは、国税OBかどうかとは関係なく、税務代理権限証書を出した税理士なら誰でも同じです。逆に、税理士でない人は、日頃の記帳を手伝っている人であっても、調査で会社の代わりに主張や陳述をすることは原則としてできません(FAQ問33)。
経験が生きやすい場面:手続の見通しと論点の整理
権限が同じでも、立会いの質は税理士ごとに差が出ます。調査の実務に携わった経験は、主に次の2つの場面で役に立ちやすいと考えられます。ただし、同じ経験は国税出身でない税理士が立会いの場数で身につけていることもあり、経歴だけで決まるものではありません。
手続の各段階で何が起きるかの見通し
税務調査には、法律で決まっている手続と、運用で決まっている手続があります。国税庁のFAQは、たとえば次のような点を説明しています。
- 税務署からの電話が「調査」なのか、自発的な見直しを求める「行政指導」なのかで、修正申告をしたときの加算税の扱いが変わる(問2)
- 通知された年度の申告を確かめるために、それより前の年度の帳簿の提示を求められることがある(問9)
- 帳簿書類の預かり(留置き)は、会社の承諾を得て行われる(問10)
- 通知された税目・期間以外に調査が広がることがあり、その理由は説明されない(問32)
- 修正申告の勧奨に応じるかどうかは会社の任意の判断で、修正申告をすると不服申立てはできず、更正の請求で争うことになる(問25・問26)
どの段階で何を求められ、何を断れて何を断れないのかを先に知っていれば、会社側の準備も落ち着いて進められます。調査をする側にいた経験は、この見通しを持ちやすい経験の1つです。
指摘された論点を法令と通達に沿って整理する
調査で指摘を受けたとき、会社としては「どの法令・通達のどの部分に当たるのか」「事実関係のどこが争点なのか」を整理する必要があります。在籍時に担当していた税目と調査の税目が一致していれば、その税目でよく問題になる取引や、確認される書類の見当が付きやすいことがあります。
反対に、担当していた税目が違えば、この強みは小さくなります。前の章の表のとおり、国税の事務は税目や事務の種類で分かれているからです。
経歴では変わらないこと:限界と注意点
国税OBの税理士に頼むときに、誤解しやすい点を4つ挙げます。
離職後1年間は担当できない事件がある
税理士法42条は、国税や地方税の行政事務に従事していた公務員で税理士になった人について、「離職後一年間は、その離職前一年内に占めていた職の所掌に属すべき事件について税理士業務を行つてはならない」と定めています。国税庁長官の承認を受けた場合は例外です。退職して間もない税理士に頼むときは、退職の時期と、退職前1年以内の所属・担当が自社の事件に当たらないかを確かめておく必要があります。
調査の結果は事実と証拠で決まる
税理士法1条は、税理士の使命を「独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」と定めています。国税OBであっても、調査担当者との関係で結論が変わるものではありません。結論を左右するのは、帳簿・請求書・契約書などの証拠と、その取引の事実です。
立会いは日頃の帳簿の代わりにならない
調査担当者は、調査に必要があれば帳簿書類の提示・提出を求めることができ、法人税の調査で代表者個人名義の預金通帳の提示を求めることも、事業との関連が疑われる場合には質問検査の範囲に含まれるとされています(FAQ問7)。立会いの税理士ができるのは、残っている証拠をもとに説明することです。証拠が残っていない取引を、立会いの場で補うことはできません。
最後に決めるのは会社自身
修正申告の勧奨に応じるか、応じずに更正を受けて不服申立てで争うかは、会社の判断です(FAQ問25)。税理士は判断の材料(応じた場合と応じない場合の違い)を示しますが、決めるのは会社です。
依頼する前に確かめておきたいこと
国税OBかどうかよりも、次の点の方が立会いの中身を左右します。依頼前の面談で確かめておくと、あとで食い違いが起きにくくなります。
| 確かめること | なぜ必要か |
|---|---|
| 税理士名簿に登録されているか | 税務代理ができるのは、原則として登録を受けた税理士(税理士法人を含む)だけ。国税局長に通知した弁護士などの例外がある |
| 退職の時期と、退職前1年以内の所属・担当 | 離職後1年間は担当できない事件がある(42条) |
| 担当経験のある税目・分野 | 法人税・消費税・源泉所得税など、調査の税目と経験が重なるか |
| 申告書を作った税理士と同じ人か | 別の税理士なら、申告の根拠資料や前提を引き継ぐ時間が要る |
| 税務代理権限証書の同意欄 | 事前通知や調査結果の説明を税理士だけにするかどうかを決めておく(FAQ問14・問27) |
| 立会いの範囲と回数 | 調査に要する時間や日数は、事前通知の時点では知らされない(FAQ問19)。臨場が増えたときの対応を事前に決めておく |
顧問税理士がいる会社が、調査だけ別の税理士に加わってもらうこともできます。税務代理人が複数いるときは代表する税理士を決めておけば、税理士への事前通知はその税理士だけに来ます(FAQ問15)。会社への通知も省くには、問14の同意の記載が別に要ります。役割分担(誰が説明し、誰が資料を出すか)を先に決めておくと、調査の場で説明が食い違うのを防げます。
調査の流れ全体は「税務調査の流れ」の記事で、立会いを税理士に頼むかどうかの考え方は「税務調査の立会いは税理士に依頼すべき?」の記事で扱っています。
まとめ:経歴よりも「何を担当してきたか」と「自社の帳簿」
- 国税OBが税理士になる経路の1つは、国税の事務に従事した年数による試験科目の免除。名簿に登録したあとの権限は他の税理士と同じ
- 事前通知の受け取り、日程の調整、調査結果の説明の受け方などは、税務代理権限証書を出した税理士なら誰でも関われる
- 経験が生きやすいのは、手続の見通しと、担当していた税目の論点整理。担当していた税目が違えば強みは小さい
- 離職後1年間は、離職前1年以内の職の所掌に属する事件を担当できない(国税庁長官の承認がある場合を除く)
- 調査の結論は証拠と事実で決まり、立会いは日頃の帳簿の代わりにならない
立会いを頼む税理士を選ぶときは、経歴の肩書きよりも、担当してきた税目と、自社の帳簿・申告をどこまで把握してもらえるかで比べるのが確実です。
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よくある質問
Q. 国税OBの税理士に頼むと、指摘される金額は少なくなりますか?
税理士法に、経歴によって調査の扱いが変わる定めはありません。税理士は独立した公正な立場で納税義務の適正な実現を図ることが使命とされており(1条)、調査の結論は帳簿や証拠と取引の事実で決まります。税理士の働きで変わり得るのは、事実の説明の仕方と、法令・通達の当てはめの整理です。
Q. 退職したばかりの国税OBの税理士にも頼めますか?
頼むこと自体はできますが、離職後1年間は、離職前1年以内に就いていた職の所掌に属すべき事件について税理士業務ができません(税理士法42条・国税庁長官の承認がある場合を除く)。依頼前に、退職の時期と退職前の所属・担当が自社の事件に当たらないかを確かめてください。
Q. 顧問税理士がいますが、調査の立会いだけ別の税理士に頼めますか?
頼めます。税務代理人が複数いる場合は、代表する税理士を税務代理権限証書で定めておけば、税理士への事前通知は代表の税理士だけに来ます(FAQ問15)。会社への通知も省くには、問14の同意の記載が別に要ります。定めない場合は、委任を受けている全員に事前通知が行われます。
Q. 経理を手伝ってもらっている人に立ち会ってもらうことはできますか?
会社の代わりに主張や陳述をするのは税務代理に当たるため、原則として税務代理人しかできません(FAQ問33)。ただ、日頃の記帳事務を担当している人は、調査担当者が必要と認めた範囲で同席できることがあります。
Q. 調査の連絡は税理士だけにしてもらえますか?
税務代理権限証書に会社の同意を記載しておけば、事前通知は税務代理人だけに行われます(FAQ問14)。同意の記載がなければ、会社と税理士の両方に通知されます。調査結果の説明を税理士だけにする場合も、会社の同意が必要です(FAQ問27)。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月24日
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